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30kmの距離で32秒差。区間2位デーヴィット・ミラー(ガーミン・スリップストリーム)に圧倒的なタイムリードを奪って、ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)がこの日の個人タイムトライアルを制した。1週間前のミラーは「土砂降り」という正当な言い訳があって21秒カンチェッラーラから遅れたが、ヴァレンシアでの悪コンディションは同じだった。……つまりは、今時点のカンチェッラーラのタイムトライアル能力が抜きん出ていることが証明されたというわけだ。
ただしミラーの計測ポイントでのタイムを、五輪TT金メダリストが全て塗り替えたわけではない。スタートから11.3kmの第1ポイントでは、カンチェッラーラは4秒遅れで通過した。ポイント直前に濡れたヘアピンカーブが登場するため、ここではリスクを恐れて慎重にコース取りを行ったからだ。その代わりに第1ポイントでは、最後から3番目にスタートした「スプリンター」ダニエーレ・ベンナーティ(リクイガス)がミラーを4秒も上回ってトップ通過!残念ながら終盤パンクに見舞われてしまい、最終的には首位から1分12秒もの遅れをとることになる。ただしメカアクシデントがなかったとしても、今日のカンチェッラーには勝てなかったに違いない。なにしろステージ後半こそ、カンチェッラーラの恐るべき本領が発揮されたのから。
第2計測地点で、カンチェッラーラはミラーを19秒上回りトップに躍り出た。前半飛ばしすぎた選手はそろそろ疲れを感じ始めた頃、しかもコースに吹き付ける「向かい風」のせいで他選手が思うように前進できない中で、カンチェッラーラだけがパワフルに走り続けた。時速のデータを見てみると、第1ポイントまで時速51.3kmで飛ばしていたミラーだが、第1ポイントから第2ポイントまでは時速47km、さらに第2ポイントからゴールまでは時速46.5kmとかなり減速していることが分かる。一方のカンチェッラーラは序盤こそは時速51kmと謙虚に始めつつも、その後の時速は48.7km、47.3kmとスピードダウンの幅が少ない。最初から最後まで安定して強い。これが世界選手権で個人タイムトライアルを2回制した経験と実力だろうか。ちなみにマイヨ・オロを取り戻したカンチェッラーラは、母国開催の世界選手権でTTとロードのダブル制覇を狙うつもりなんだとか!
世界選手権の個人TTに関しては2位ミラー、そして現役チャンピオンでこの日は36秒差で3位に入ったベアト・グラブシュ(チーム コロンビア・HTC)も、本番へ向けて上々の仕上がりのようだ。ならばロード種目でアルカンシェルを狙う選手に関してはどうだろうか?世界選調整のためにブエルタを走っている選手たちは、おそらく、雨のTTであえて危険をおかさなかったはずだ。イタリア代表リーダー予定のダミアーノ・クネゴ(ランプレ・N.G.C)が慎重に走って2分40秒も失ったことに、何の不思議もない。TTを比較的得意とするロマン・クルイジガー(リクイガス)が2分31秒も遅れたのは、チェコ代表として本腰を入れて世界選へ臨むと断言しているからなのだろうか。少し気になるのはシュレク兄弟(チーム サクソバンク)の動向だ。アンディ2分02秒遅れ、フランク2分22秒遅れというのは、TT苦手の両者にとって決して絶望的な数字ではない。ただし開幕時、大会に訪れたルクセンブルク関係者が「今年わが国は世界選に最大限に集中する。状況によってルクセンブルク勢はブエルタ1週目でのリタイアもありえるよ」と語っており、実際、代表チームで兄弟と共に重責を担う予定のキム・キルシェン(チーム コロンビア・HTC)がすでに大会を去っている。もちろん「状況によってはブエルタの優勝狙いに切り替える」とのことだが……、果たして兄弟にとって、今ステージの数字はブエルタ続行に値する成績だったのだろうか。
純粋にマドリードでマイヨ・オロを勝ち取ることを最大目標に掲げている選手たちのなかでは、サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)が47秒差(ミラーからはわずか15秒差!)と好タイムを叩き出した。アレハンドロ・バルベルデも満足の行く結果を出し(1分05秒遅れ)、一方のイヴァン・バッソ(リクイガス)は少々苦しんだ(1分43秒遅れ)。
また区間1分02秒遅れだったカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)は、表彰台を狙える選手のなかで総合トップの位置につけた(総合6位)。その後をわずか2秒差でバルベルデが、さらに8秒差でサンチェスが追う。ヴィノクロフはエヴァンスから36秒遅れ、バッソは40秒遅れ、ロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)は45秒遅れ。さらに昨大会4位エセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)は1分40秒、アンディ・シュレクは1分58秒、フランク・シュレクは2分03秒とかなりのタイム差がついてしまった。ただしバルベルデによれば「この程度のタイム差なんか山であっという間に縮まってしまう。今現在の数字をあまり重要視してはならない」とのこと。確かに第8ステージ「最難関ステージ」には、7つの難関峠+超級山頂フィニッシュが待ち構えている。
●ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)
ステージ優勝、総合リーダー
悪天候には最高に苦労させられたね。道は濡れてひどく滑りやすくなっていたから、あらゆる注意を怠らなかった。だって第4ステージのリエージュで落車したし、昨日も落車していたから、3度目の落車だけは絶対に避けたかった。最初のコーナーはとにかく用心深く曲がった。そしてコース後半、道が広くなってからスピードを上げた。向かい風だったから、そこでうまくライバルたちとのタイム差を開いたんだ。
リーダージャージを取り戻すことが出来て本当にいい気分だよ。でも明日はどうなるか分からない。難しいステージになるだろうね。ボクはクライマーじゃないし、今大会にはチームメイトを助けつつ、世界選に向けて調整をつむために来たんだ。だから明日はもしかしたらボクがマイヨ・オロで走る最後のステージになるかもしれない。守り切れたら嬉しいんだけどなぁ。
とにかく今日のレースは、来るべきレースに向けて大いに希望が持てる結果が出せた。日に日に調子が上がっていたのは実感していたし、これで自分がどのレベルに達しているのか把握できた。メンドリジオ大会での第1目標はロードのほうなんだ。地元開催だから、母国のファンで勝ちたい。タイムトライアルの方は出場しなくてもいいとさえ考えていたよ。でもこんな風に調子が上がってきているから、今は両種目のタイトル取りに意欲を燃やしている。ボクには両方勝てる力があると思うし、それを成し遂げる精神力もある。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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