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サイクル ロードレース コラム 2009年9月13日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2009】第13ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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モナチル峠への登坂口が近づいた頃、ラジオ・ブエルタが叫んだ。「プロトン前方が急加速!リクイガスが引いています」。難関山頂フィニッシュ3連戦の2日目。1級モナチルと超級ゴールのシエラ・ネバダは、2峠の間の谷間がほぼ存在しない。つまりモナチルの登坂口からは26km連続、標高1565m差を一気に駆け上がる長い登り坂。だからこそマイヨ・オロのアレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)は「第13ステージの最終峠は大きなタイム差がつくだろう」と前日ゴール前に予言していた。そしてモナチルの登坂口からすさまじい総合バトルが繰り広げられ、総合トップ10は大きく動いた。予言どおりに大きなタイム差もついた。

ステージと山岳賞争いの2つを成功させたのはダヴィ・モンクティエ(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)だった。スタートから5km地点でチームメイトのレイン・タラマエを引き連れて飛び出すと、山岳ポイント争いに執念深くしがみついてきたダビ・デラフエンテ(フジ・セルヴェット)を第1の峠であっさり打ち負かした。しかも当初は29人と大人数だったエスケープ集団を、この日2番目の峠の登りで9人に、さらに下りで3人に絞り込む。そのままコース・ムーレンハウト(ラボバンク)と、そしてタラマエと共に、モンクティエは勝利への長い逃げを続けた。

コフィディスの2人には悔しい思い出がある。モンクティエは第8ステージに大逃げを打ち、単独で山頂フィニッシュを目指しながらも、ゴール前わずか800mでダミアーノ・クネゴ(ランプレ・N.G.C)に追い抜かれてしまったのだ。山岳賞ジャージは手に入れたが、区間は2位だった。一方のタラマエは第9ステージ、やはり大逃げでひとり首位に立ちながらも、残り3.5kmで優勝の夢を断たれていた。だからこそ、絶対にこのステージは失敗したくなかった。タラマエはアンダルシアの風を全身に受け、モンクティエのためにあらん限りの力を尽くす。そして22歳の若きエストニアチャンピオンの意志を受け継いで、34歳の大ベテランは単独でモナチルの登りへと立ち向かっていった。

「クネゴに追い抜かれたこと?当然考えたよ」とゴール後に語ったモンクティエ。背後では総合選手たちの大バトルが勃発し、タイム差は急速に縮んでいったが……。この日は残り5kmで2分25秒差。第8ステージは残53kmで1分44秒だったから、ほんの少しだけ余裕があったようだ。それにしても今ツールでは全く思い通りの走りが出来ず、「もうツールはいい。ボクのツール参加はこれが最後になるだろう」と実質的な引退宣言さえも飛び出していた。2年連続のブエルタ山頂制覇で、自転車と自転車レースへの愛は取り戻せただろうか。シエラ・ネバダの山頂にたったひとりで姿を現したモンクティエは、満面の笑顔だった。

プロトン内ではリクイガスが最初に強烈なテンポを強いた。前ステージ終了後の時点で53秒遅れの総合5位につけていたイヴァン・バッソが、この日のチャンスを逃せば総合表彰台争いは実質終了、と背水の陣でこの第13ステージに臨んでいたからだ。モナチル峠の序盤はなんとスプリンターのダニエーレ・ベンナーティが集団を引っ張り、さらに山岳アシストのシルヴェスタ・シュミットが勾配10%超ゾーンで強烈な加速。今ツール総合9位の実力者ながら今ブエルタには世界選手権への調整目的で入ったロマン・クルイジガーも、最後の牽引を行った。まさに全員攻撃とも言えるリクイガスの加速で集団はズタズタに切り裂かれ、早くもモナチル峠の中盤で、総合4位のトム・ダニエルソン(ガーミン・スリップストリーム)と6位のサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)が遅れ始めてしまう。

最終峠シエラ・ネバダを登り始めた頃、カデル・エヴァンスを悲劇が襲った。まさかのパンク……。総合2位選手のメカトラブルに、しかしライバルたちは容赦なく加速を続ける。なにしろバルベルデにとってはわずか7秒差で張り付く強豪を振り落とす、そして3位以下の選手にとっては順位をアップする絶好のチャンスなのだから!不運なエヴァンスは必死にペダルを漕ぎ続けるも、バルベルデ、総合3位ロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)、5位バッソ、8位エセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)との距離はどんどん開いていくばかり。結局バルベルデとの総合タイム差は7秒差から1分23秒差へと一気に開き、総合順位も4位へと転落した。

ついに4人になったマイヨ・オロ集団では、バッソが何度となくテンポを強める。ただし「要注意人物はエヴァンスとバッソ」とあくまでも繰り返してきたバルベルデが、2006年ジロ総合王者を絶対に逃がそうとはしない。同時にわずか18秒差のヘーシンクに対しても厳重警戒を続けている。その隙を縫って、残り2kmのアーチ直前でモスケーラがアタックを成功させた。前日のアタックで脚の好調さを確認し、「明日もあさっても再トライする」と断言していたヒルクライマーは、3人を置いて飛び出した。そして第12ステージではライバルたちをわずか10秒しか突き放すことが出来なかったが、今ステージでは24秒以上+ボーナスタイム12秒という大きなリードを奪った。

ところで24秒「以上」というのは、バルベルデには24秒、バッソとヘーシンクには25秒差をつけたから。モスケラの出発後はますますヘーシンクから目を離さなかったバルベルデは、ゴール直前に自らがスプリントを切った。登りスプリントではプロトン屈指の爆発力を持つマイヨ・オロは、いとも簡単にライバルを1秒突き放して区間3位でゴール。もちろんボーナスタイム8秒を手に入れたことも忘れてはならない。

肌寒い空気に包まれたシエラ・ネバダ山頂で、バルベルデが今大会5回目のマイヨ・オロ表彰式に臨んだ。総合2位に浮上したヘーシンクとのタイム差は27秒。つまり総合2位との差7秒、3位との差18秒だった前日よりは、ほんの少し快適な立場に立ったことになる。またチーム全体の仕事が実って、そしてエヴァンスの脱落にも助けられて、バッソは目標通りに総合3位へと上昇した。ただしバルベルデとの差は、53秒から1分02秒へと開いてしまったが。やはり総合首位とのタイム差は開いたものの、総合順位はアップしたのがサンチェス。一旦は大きく遅れたものの、ひとり渾身の力を振り絞って遅れを最小限に止めた、その努力が報われたか。2日連続アタックのモスケーラは総合8位から6位。夢の表彰台までは未だ1分04秒差。

山岳3連戦のゴール地ラ・パンデラは、2006年ブエルタで、バルベルデが総合争い敗北宣言を出した山。あの時の山頂は濃い霧に包まれていた。2009年9月13日の天気予報は、雨となっている。


●ダヴィ・モンクティエ(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)
ステージ優勝、山岳ジャージ

今日の戦術は山岳ポイント獲得のためにエスケープに乗ることだった。そしてチームメイトのタラマエと逃げに乗ることに成功したんだ。彼はボクのために本当に素晴らしい仕事をしてくれたね。今日ボクが勝てたのは、彼のおかげだよ。最初のエスケープ集団にはホアキン・ロドリゲスも入っていたね。後々、彼が危険な要因になることは分かっていたから、だから集団からさらに前に飛び出すことに決めたんだ。タラマエはモナチル峠の麓までボクを連れて行ってくれた。峠の最終盤では、もちろん、この前クネゴに追いつかれたときのことを考えたよ。最終盤はタイム差がかなり縮まったから、とにかくのタイム差キープに努力したんだ。最後の2キロでようやく勝ちを確信できたよ。

ブエルタはボクにとってぴったりのコース。どうして今年のツールでいい走りが出来なかったのかはわからない。でも2回も落車していたからね。とにかくツールでよくなかった分、このブエルタにはモチベーション高く臨んだんだ。時々、朝起きたとき、この山岳ジャージでボクのキャリアを締めくくることが出来たら最高なんじゃないか、って考える。でもボクは自転車が本当に大好き。だから現時点では今年で引退するのか、来年も続けるのか、まだ分からない。とにかく今は山岳ジャージでマドリードにたどり着くことだけを考える。この目標を達成したあと、もしも、まだレースに対する情熱が残っていたら、来年もまた走るつもりさ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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