人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2009年9月14日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2009】第14ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

アンダルシアの青い空が広がる地上から、大粒の雨が降りしきる頂へと駆け上った157km。短距離ステージにはぎゅっと濃縮された戦いが詰まっていた。なにしろレース会場では「まるでアタック・フェスティバルだ!」なんて言葉が飛び交ったほど。その通り、文字通りスタートからゴールまで数多くのアタックが繰り広げられたのだ。そしてラ・パンデラの峠では、もしや……マイヨ・オロ入れ替わりか!?という緊急事態さえも発生した。

前日には10選手が大会を去った。さらにこの日の朝には区間2勝、マイヨ・オロ5日間で大会を盛り上げたファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)が、世界選手権への調整を十分に終えて自宅へと旅立った。もちろん大会3度目の日曜日をグラナダで迎えた157人の中にも、「そろそろ世界選手権に向けて最終調整に入ろうかな」と目論む選手は存在した。その最たる選手こそがダミアーノ・クネゴ(ランプレ・N.G.C)。今年のジロ直後に早くも世界選手権イタリア代表のリーダー格として指名され、調整としてブエルタに乗り込んだ。もちろん、ご存知の通り、第8ステージの山頂フィニッシュですでに素晴らしい勝利を挙げている。ただし現在3連勝中、世界最多55個の世界選手権メダルを誇るスクアードラ・アッズーラのリーダーの座を完璧な状態で引き受けるために、クネゴは今ステージの勝利を周到に用意していたのだ。

つまり前日、28分14秒遅れのグルペットでゴールラインを切ったのも、この朝にビッグエスケープに乗るためだった。確かに第12ステージ終了後の成績(2分13秒遅れの総合7位)では、ステージ序盤に逃げを打つことは不可能だっただろう。そして「あえて」総合圏外に飛び出したクネゴは、スタート直後から積極的に加速を繰り返す。いくつかの逃げに乗ったり、他選手の逃げを追いかけたりしながら、スタートから42kmでついにクネゴは最高の逃げ集団を作り上げた。それは9選手によるエスケープ集団だった。

後続プロトンから一時は10分近いリードを奪ったクネゴグループは、ゴール前約20km、最後から2番目の峠ロス・ヴィジャレスの登りで分裂を始めた。さらにはアドリアン・パロマレス(コンテントポリス・アンポ)がアタックを仕掛けては見たものの、クネゴは絶対に遠くへは逃がさない。それどころか山頂間際では満を持して強烈な一撃を加えると、クネゴは、そこからゴール地点まで、決して先頭を譲ることなく突っ走っていった。

クネゴのはるか背後では、熾烈な総合表彰台争いが勃発しつつあった。特に前日に続き、リクイガスが強烈なレース作りを行った。ロマン・クルイジガーが先頭集団を徹底的に小さくし、シルヴェスタ・シュミットが最終峠でメイン集団を徹底的に切り裂く。そしてゴール前4kmでシュミットがリーダーのイヴァン・バッソ(リクイガス)に先頭を譲ったころには、集団リズムは大きく上がっていた。異変が起こったのはその直後だった。なんとマイヨ・オロ姿のバルベルデが、バッソ、カデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)、エセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)、サムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)という並み居るライバルたちから、少しずつ遅れていってしまったのだ。

ハンガーノックか、疲労か、はたまた雨が苦手なバルベルデは雨にたたられたのか。こんな絶好機に、最初にアタックをかけたのは「雨が大好きな」モスケーラだった。スペインはときに太陽の国と呼ばれるが、実はモスケーラの出身地であり所属チームの本拠地ガリシア地方は非常に雨の多いところ。モスケーラは、第8・9ステージの山岳2連戦では「雨が降ったらボク向きだったのになぁ」と嘆いたほど。さらにお隣のアストゥリアス地方も雨風寒さが特徴的な地方。このアストゥリアスの星サンチェスも、一旦はメイン集団から離されながらも、雨に背中を押されてモスケーラの場所までたどり着いた。しかもそのままゴール間近までモスケーラと2人走り続けると、サンチェスは区間3位=ボーナスタイム8秒獲得へのスプリントさえも成功させる。

ヘーシンクも総合首位との「27秒差」を埋めようと、必死にペダルを回し続けた。チームメイトにして、この日の逃げ集団の残党ブラム・タンキンク(ラボバンク)も、リーダーの風除けとしてヘーシンクを引っ張りあげた。前日ゴール地で泣き叫んだエヴァンスも、不運なパンクで失ったタイムを取り戻すために、全力でバルベルデを引き離そうとした。バトル激発前までメイン集団を引っ張り続けたバッソだけが、少し走るパワーを失っているように見えた。そして「自分のリズムで上っていた」バルベルデが、突如として渾身の追走を開始すると……、あっという間にバッソを捕らえ、エヴァンスに追いつき、ヘーシンクの脇をすり抜けてしまった。

クネゴが自信に満ち溢れた瞳で今大会2度目の表彰台を楽しんだあと、マイヨ・オロ表彰式にバルベルデが臨んだ。「今ブエルタ最難関・山岳3連戦」を終えて、総合2位ヘーシンクとのタイム差は31秒に開いた。また昨日のメカトラブルで総合2位→5位に沈んでいたエヴァンスとは、前日よりもさらに18秒リードを広げ、1分51秒差に突き放した。バッソは前日つかんだばかりの表彰台3位の場所を、あっさりサンチェスに奪われた。また3連戦3アタックを成功させたモスケーラは、この3日間で第12ステージ10秒+第13ステージ24秒+ボーナスタイム12秒+第14ステージ12秒=57.2秒を手に入れた。成績は前日と変らず総合6位のままだが、目標である表彰台入りまでのタイム差は1分56秒→1分4秒→44秒と確実に縮まってきている。

前々日・前日とゴール後の総合首位記者会見を行わなかったバルベルデだが(記者たちに断りの挨拶は入れていた)、この日のゴール後にはすっきりとした表情でマイクの前に座った。山頂ゴールを全て終わらせ、2006年にマイヨ・オロを失った鬼門グラナダも上手く乗りこなして、ようやく総合優勝が現実的に見えてきたのだろうか。ただし「冷静に」「自分のリズムで」というキーワードを何度も繰り返したバルベルデは、この先も慎重な走りをつづけていくつもりだ。なにしろマドリードまでは、まだ1週間も残っている。


●ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・N.G.C)
ステージ優勝

2つ目の勝利が手に入って、本当に嬉しいね。今日は全てがパーフェクトに進んだんだ。そして本当に素晴らしい勝利を手に入れることができたよ。ボクが世界選手権に自信を持って向かうためには、必要な勝利だったんだ。

このステージは本気で勝利を狙って行った。だから前もってチーム監督たちと入念な計画を立てたんだよ。ボクはステージ序盤でアタックをかける必要があると考えた。だってトップクライマーたちと戦うのはそれほど簡単ではなかったはずだし、バルベルデの警戒を潜り抜けるのは至難の業だと思っていた。それにステージは短距離だったしね。ボクはもっと長い距離の方が得意だ。だから昨日はエネルギーを温存して、わざと総合上位を落としたんだ。そして今日の序盤は、絶好のエスケープに乗るために何度もトライしたよ。最後の登りでは、自分のベストを尽くすことだけを考えた。そして勝利が現実のものとなった。


●アレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)
総合リーダー

最終峠は登坂口からそれこそゴールラインまで、とんでもなくハードだった。厳しい戦いが続いたね。でもボクは決して焦らなかった。冷静に、自分のリズムで上るように努力した。とにかく足が止まってしまわないよう、それだけを考えた。だってラ・パンデラの上りは最初こそものすごい激坂なんだけど、その後は傾斜が落ち着くんだ。だからそのゾーンを待って、ボクは1人ずつ前の選手を捕らえていったんだ。でも今日のモスケーラとサンチェスは強すぎたよ。

もしかしたらマイヨ・オロを失うかもしれない……という考えも一瞬頭をよぎった。でも実際は他の選手にも、それほど力が残っていなかったんだろうね。ボクは上手く状況をコントロールしたよ。ただ観客の声援がものすごくて、無線がよく聞こえなかった。ホアキン・ロドリゲスがボクの近くを走っていて、サポートに来てくれると思っていたんだけどね。少し待っても状況が分からなかったから、だからひとりで追い上げることに決めたんだ。

ようやくブエルタが70%終わった。でもマドリードまではまだまだ遠い。これからも厳しいステージが待ち構えている。特に第18・19ステージは要注意だ。この先はますますチームの仕事が有効になってくるだろうね。ボク自身は総合トップ5の選手をしっかりマークしていくよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ