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【Cycle*2021 パリ~トゥール:プレビュー】新たな属性を得てから4年目。ぶどう畑を縫うように走る土の小道が、秋のプロトンを待ち構える!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか土の小道を走るプロトン
全長2800mという自慢の長い直線フィニッシュが、都市計画のせいで800mに短縮されたその時から、パリ〜トゥールの運命は大きく変わった。100年以上も守り続けてきたスプリンターズクラシックの称号を捨て、新たな属性を得てから4年目。ぶどう畑を縫うように走る土の小道が、秋のプロトンを待ち構えている。
パリ南部のシャルトルから、トゥール中心部までの212.3km。序盤の約160kmは、ほぼ平坦な舗装路を、ただひたすら南下する。
ただしコースが描かれたロワール渓谷には、たいてい強い北風が吹き下ろしている。つまりは追い風だ。1936年に誕生した「黄色いリボン賞」……200km超のレースにおける史上最高走行時速記録を、全13回中9回もパリ〜トゥールが更新してきたのはこのせいである(賞自体は当該レースの覇者に与えられる)。ちなみに現在は2019年ブエルタ第17ステージの時速50.628kmが最速なのだが、その前は2015年パリ〜トゥールの49.641km/hだった。
そんな強風のせいで、たとえ平地でも、決して単純なレースにはならない。もしも大きな集団を逃してしまった場合、捕らえるのは至難の業だ。スタートから30km前後や残り80kmには、90度の方向変換も待ち受ける。分断を恐れて誰もが前に詰めかけ、緊迫感は否応なしに上がる。集団落車が発生することもしょっちゅう。
ロワール川のほとりの古城をいくつも巡り、フランソワ1世が過ごしたアンボワーズ城を眺めたら、いよいよお楽しみの時間がやって来る。フィニッシュまで51km。ここから7つの短坂と、全9ヶ所・計9.5kmの土の道が、次々と選手たちの脚に襲いかかる。
細やかな泡が美しい、そんなAOCヴヴレーの生産地を駆け巡る道は、決してストラーデ・ビアンケのような美しい道ではない。ツール開催委員長は「白い道」と呼びたいようだけれど、もっと荒っぽい雰囲気だ。車の轍を避けるように雑草が伸び、ごろごろとした小石がいたるところに散らばる。
一方で坂道は、地形だけ見れば、いずれも100m前後とごくごく短い。あくまでもスプリンターズクラシックの域は越えない。ただし上りの前後には、必ずと言っていいほど、未舗装路が現れる。なにより1番目の上りは、1番目のぶどう畑の小道の入り口でもあるのだ!
その第9セクター、ラ・グロス・ピエールは、しかも1500mと長い。途中にはうねるようなカーブが潜む。一気に集団は小さくなるに違いない。過去3度のグラベル大戦のうち、2019年大会を勝ち取ったイエール・ワライスは、いきなりここで独走態勢に持ち込んでいる。
昨大会で一騎打ちを演じたカスパー・ピーダスンとブノワ・コスヌフロワ
第6ノワゼー以降は、未舗装路が細かい間隔で登場する。雨に見舞われた昨大会は、立て続けに襲いかかる泥と坂が、優勝争いをカスパー・ピーダスンとブノワ・コスヌフロワの2人に絞り込んだ。また第3ラ・ソリダリテは1500mの直線で、抜け出すとすぐに第2プー・モルリエ1600mへと突っ込まねばならない。
そして残り13kmで最後の未舗装路、第1ロシュコルボン800mを抜け出し、残り10kmで最後の登坂を終えたら、残すは平坦なアスファルト路。2018年のグラベル初登場時は、セーアン・クラーウアナスンが、ラスト11kmを単独で駆け抜けた。
かつて数々の集団スプリントを受け入れてきた伝統のグラモン通りは、つまりこの3年間で、独走2回、一騎打ち1回を見届けてきたことになる。そのうち2回、勝者を輩出したのがチームDSMで、2021年もクラーウアナスンとピーダスンを擁して勝利を狙う。
新旧コースをいずれも勝ち取った唯一の選手であるワライスは、残念ながら今回は欠席。体調不良、さらには2年前の落車事故で痛めた歯の治療等で、ツールを最後にレースから遠ざかっている。代わりにコフィディスはクリストフ・ラポルトがエースを張る。泥のルーベで、メカトラに襲われながらも6位入賞と、脚の調子はすこぶる良い。
旧パリ〜トゥールを制したグレッグ・ファンアーヴェルマートとフィリップ・ジルベールは、新コースを攻略するために乗り込む。もはやピュアスプリンター向きではないとは言え……アルノー・デマールやディラン・フルーネウェーヘン、ヤスパー・フィリプセンやパスカル・アッカーマン、さらにはナセル・ブアニと、俊足たちもやって来る。
1週間前のルーベで大逃げ2位に輝いたフロリアン・フェルメールスも、2週間前の世界選手権で4位に泣いたヤスパー・ストゥイヴェンも、改めて悪路と格闘だ。
そう、石畳が散りばめられたフランドルの世界選に、泥と石畳のルーベに、土の道パリ〜トゥール。2021年の秋は、未舗装路の戦いがひときわ多かった。
そもそもグラベル流行りの今日この頃。荒れた道の激戦は、この先もっともっと増えていく。ブルターニュのグラベル競争トロ・レオ・ブロンを、このほどツール開催委員会が傘下に入れた。「プチ・パリ〜ルーベ」とか「西の地獄」と呼ばれる5月の大会は、そのうち日本のお茶の間にも登場するかもしれない。
また10月半ばには、イタリアで、「史上初」と謳われるプログラベルレースが誕生する。古くて、新しい、そんな未舗装路の風はもはや止まらないのだ。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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