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【Cycle*2021 イル・ロンバルディア:プレビュー】豪華なメンバー集結!優勝大本命はプリモシュ・ログリッチ。名高いクライマーたちが今季最後の大一番へ挑む!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか前回大会を制したヤコブ・フルサン
朝夕の気温が下がり、北イタリアに枯れ葉が舞い散りだす頃、名高いクライマーたちが今季最後の大一番へ挑む。ワンデークラシックの中でも、伝統と格式の高い5大モニュメントの1つ、イル・ロンバルディアの栄光を手に入れるために。自転車乗りを守るマドンナ・デル・ギザッロ教会の鐘の音を聞きながら、長かった2021年ワールドツアーシーズンを、美しく締めくくるために。
豊かな水をたたえるコモ湖のほとりから、中世の城壁都市ベルガモへ。115回目を迎える「落ち葉のクラシック」は、5年ぶりにスタート地とフィニッシュ地が入れ替わった。レースの本質は今も昔も変わらない。起伏は長く、厳しく、全長239kmのコースの累計獲得標高差は4400mを超える。
もちろん通過する上りの顔ぶれや順番は違う。過去4年間は、ギザッロへの上りはレース後半で、鐘の音はつまり本格勝負の始まりを告げる合図でもあった。今年はスタートから40km弱で、真っ先によじ登る。
しかも普段ならギザッロの次に組み込まれてきたムロ・ディ・ソルマノを、今年は迂回する。最大勾配25%を超えるこの「壁」は、むしろ目眩がするほど危険な下りが、数々の落車を引き起こしてきた。2012年には現役世界王者フィリップ・ジルベールが地面に叩きつけられた。2017年にはヤン・バークランツとローレンス・デプラスが崖下に転落した。なにより新型コロナ禍下で行われた真夏の昨大会で、当時20歳のレムコ・エヴェネプールが、橋の下へ10m近くも落下……。2021年大会は、幸いにも、ソルマノの犠牲になる選手はいない。
道が険しさを増すのは、残り137.6kmのロンコーラから。登坂距離が9.4kmと長い上に、途中1.5kmに渡る勾配10%ゾーン、さらに6.5kmに渡る8%超ゾーン、最大17%というひどく厳しい山道で、本格的なふるい分けが行われるだろう。残り109.5kmではベルベンノ(6.8km、4.6%、8%)を、さらに残り77.9kmからはドッセーナ(11km、6.2%、11%)とザンブラ(残り63.7km、9.5km、3.5%、10%)の連続登坂をこなす。
前回大会、橋下へ落下したレムコ・エヴェネプール
残り31.8kmのパッソ・ディ・ガンダが(9.2km、7.3%)、間違いなく、この日の勝負を左右する。特に山頂手前は約3kmにも渡って、9.8%の難勾配ゾーンが続く。アタックを決めるなら、山頂まで約1km手前の、最大15%スポットが狙い目だろうか。下りは要警戒。16kmもの長い長いダウンヒルの序盤には、ラルプデュエズにも似た、規則正しい19のヘアピンカーブが待ち構えている。
残り5kmを切った直後に待ち構えるちっちゃな出っ張りも、決して侮ってはならない。2kmに満たない上りではあるけれど、平均勾配は7.9%、最大は12%に達する。しかもベルガモの旧市街の道は細く、石畳や城門という障害物が待ち受ける上に、伝統的に沢山の人で埋め尽くされる!
最終盤にほぼ同じ道が使用された5年前は、ガンダで生き残った4人のうちの1人(ロマン・バルデ)が、この小さな上りで脱落した。ほんの一瞬脚が止まっただけなのだ。しかし、フィニッシュまで続くスピードの出る下りをどれほど果敢に攻めようとも、2度と前に追いつくことは出来なかった。
一方で2014年にやはりベルガモで今大会が締めくくられた時は、この旧市街の上りに30人ほどが塊で突入し、9人が抜け出した。フィニッシュ直前の作りは少々異なる。あの年は残り150mに直角カーブがあり、追走集団が大クラッシュ。やはり無用な落車を避けるために、今年は800mの直線フィニッシュが用意されている。
その2014年に、ラスト500mでロングアタックを決めたのは、ダニエル・マーティンだった。そんなモニュメント2勝のクラシックハンターにとって、2021大会が、人生最後のイル・ロンバルディアとなる。好調マイケル・ウッズとクリス・フルームと共に力を合わせ、最高の形でキャリアに別れを告げたい。
秋は別れの季節と言うけれど、2017年ブエルタで区間2勝の大活躍を見せたトーマス・マルチンスキーもまた、現役最後のモニュメントを走る。ただひとつ安心して良いのは、41歳アレハンドロ・バルベルデにとって、人生10回目のイル・ロンバルディアは単なる通過点に過ぎないこと。2位表彰台なら3回経験しているが、あくまで狙うは優勝だ。
ワールドツアー最終戦だからこそ、UCI年間ランキングの行方も気になるところ。たとえば現在チームランキングは1位ドゥクーニンク・クイックステップと2位イネオス・グレナディアーズがかなりの僅差で競り合っている。世界チャンピオンのジュリアン・アラフィリップに、絶好調ジョアン・アルメイダ、昨夏のリベンジを誓うエヴェネプールと、豪華トリオで挑むウルフパックに対して、イネオスはアダム・イェーツをリーダーに擁する。
ちなみにバイクエクスチェンジのサイモンとは、2カ月ぶりの競演だ。今年とにかく強いバーレーン・ヴィクトリアスからも目が離せない。
肝心の個人ランキングはタデイ・ポガチャルが、初の年間首位に王手をかける。直前のミラノ〜トリノでも証明した通り、チームも本人も絶好調。もしも今大会で優勝すると、同一シーズンにツールと2つのモニュメントをを持ち帰ることになる。成功すればエディ・メルクス以来の快挙!
2018年大会でバトルした二バリとピノ
同一年ではないけれど、ヴィンチェンツォ・ニバリは現役では唯一、3大ツール+モニュメント2種類の栄光を誇る。来季6年ぶりに古巣アスタナへ帰還する前に、3度目のロンバルディアを取りに行くのも悪くない。もちろん今年トレック・セガフレードのチームメートにして、2年前の覇者バウケ・モレマも、揃ってスタートラインに並ぶ。
また3年前の覇者ティボー・ピノは、昨ツールでの負傷からの長く苦しいトンネルを抜け出したばかり。大好きなイタリアで、完全復活を印象づける走りがしたい。同じフランス人のバルデに関しては、所属チームが「ロマンに最高の成績を取らせるための布陣を組む」と宣言する。
つまりシーズンの終わりにとてつもなく豪華なメンバーが揃うが、やはり優勝大本命ナンバーワンは、プリモシュ・ログリッチなのだ。1週間前にジロ・デッレミーリャを、3日前にはミラノ〜トリノを勝ち取ったキレッキレの脚で、イル・ロンバルディアに乗り込んでくる。ただし本人が言う通り、あくまで「毎回ゼロからのスタート」。勝負のシナリオは、あらかじめ書かれているわけではない。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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