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サイクル ロードレース コラム 2021年9月3日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第18ステージ】激坂スペシャリストのミゲルアンヘル・ロペスがガモニテイルを制圧!「この勝利は僕らにとって大きな意味を持つ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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濃霧の中でフィニッシュしたミヘルアンヘル・ロペス

濃霧の中でトップでフィニッシュしたミゲルアンヘル・ロペス

その恐ろしき勾配は、走る者たちを震え上がらせ、その地獄のような風景は、見る者を魅了した。ブエルタ屈指の魔の山アングリルの、隣人ガモニテイルが、凄まじい戦いを演出した。新しき伝説の誕生。深い霧の中で、激坂巧者のミゲルアンヘル・ロペスが同山の初代王者となり、プリモシュ・ログリッチはマイヨ・ロホ姿で、2021年ブエルタ最後の難峠を抜け出した。

「クイーンステージでの勝利が、僕をひどく幸福にしてくれる。多くの献身と、野心、そして家族への愛と共に、僕はこの快挙を成し遂げた」(ロペス)

未知の激坂に向かって、ステージは素早く幕を上げた。前日はハイスピードの追いかけっこを延々80kmも繰り返したプロトンだが、この日はわずか10kmほどであっさり逃げを作り上げた。

そうは言っても、32人の巨大な逃げ集団だった!9チームが複数を送り込んだ先頭集団に、しかし、全参加23チームの中でバーレーン・ヴィクトリアスの姿だけがなかった。チーム総合首位の証、赤ゼッケンをつけて走るバーレーンにとって、決して理想的な展開ではない。特に同賞を争う2大ライバル、ユンボ・ヴィスマとイネオス・グレナディアーズから、1人ずつ逃げに乗ってしまったのはまずかった。すぐさまタイム差制御に乗り出した。

真っ先に新城幸也が作業を請け負った。もちろん協力するチームは皆無で、つまり1人vs32人。それでもメイン集団の先頭で、黙々とペダルを回した。新城の牽引は、この日最初の山岳、1級峠の山道の序盤まで約35kmも続けられた。タイム差を5分に食い止め、一旦チームメートへと牽引のバトンを渡す。

その後の上りはマーク・パデュンが担当し、ヤン・トラトニクが十字架を切って猛烈な下りを披露した。しかし、その次は……またしても新城が働く番だった!なんと下りを利用してメイン集団に復帰すると、残る力を惜しみなくチームのために使ったのだ。今度は15kmに渡り、逃げ集団の4分背後でハイペースを刻んだ。

そして2つ目の1級峠の途中で、新城は作業を終えた。幸いにも奮闘は無駄にはならなかった。1日の終わりに、バーレーンは、チーム総合首位の座を守り切った。

この無謀にも見えるバーレーンの追走は、間違いなく、逃げ集団の結束を打ち崩した。とてつもない大人数の上に、前方には、山の実力者が揃っていたはずだった。なにしろ今大会区間2勝マイケル・ストーラーに、区間1勝のラファウ・マイカ、同じく区間1勝でマイヨ・ロホさえ2日間着たレイン・タラマエが滑り込んだ。元ブエルタ総合覇者ファビオ・アルは、引退を3日後に控えて、おそらく人生最後の難関山岳ステージで逃げた。

山岳賞2位ストーラーは、当然ながら、まずは山岳ポイント収集にこだわった。チームメートにして山岳賞首位ロマン・バルデが「一番大切なのはチーム内に山岳賞を留め置くこと」と宣言した通り、1つ目の山頂では、ストーラーがきっちり首位通過。共に逃げた同僚テイメン・アレンスマンが山頂スプリントで2位通過を潰す念の入れようで、同賞5位マイカには3位通過しか許さなかった。

ただ2つ目の山で、ストーラーが早くもアタックを打ったのは、区間勝利を追い求めるため。ちょうど新城が2度目の仕事を終えた直後のことだ。いまだフィニッシュまで70kmも残っていた。それでも勇敢に加速を切った。

マイケル・ストーラー

マイケル・ストーラー

「リードはたったの4分しかなかった。本気でペースを上げる必要を悟った。僕といっしょに何人か来てくれることを願っていた。でも僕が加速した時、誰も反応しなかった。残念ながら僕は1人だった」(ストーラー)

当然2つ目の山頂では、孤独に首位通過を果たした。加速を切ったおかげで、メイン集団との距離は最大5分45秒にまで開いた。山道を雨が濡らし、長くテクニカルな下りを、多くの選手が慎重にこなしたせいでもあった。

しかし下りきった直後に、再びタイム差は縮まり始める。残り52km。バーレーンに混ざって、モビスターが、いよいよ牽引作業に乗り出した。少し前までストーラーと共に逃げていたイマノル・エルビティも、メイン集団の合流を待ち、先頭を引き始めた。3つ目の山で逃げの大半が回収されると、UAEチームエミレーツも仲間に加わった。やはり、少し前にストーラーと山岳ポイントを争ったマイカが、総合13位ダビ・デラクルスのために熱心に引き始めた。

それでもストーラーは粘り続けた。3つ目の山頂も、単独で首位通過を果たした。ちなみに2分10秒後方のメイン集団内からは、青玉姿バルデが飛び出し、2位通過を成功させている。山岳ジャージはバルデからストーラーの肩へと移ったが、つまりチームDSMとしては、山岳賞1位・2位の座をきっちり守った。

「チーム内で山岳ジャージを守ることが出来て嬉しい。僕がポイント収集に励んだのは、チームみんなでこのジャージが欲しいから。それが誰かは問題じゃない。ただブエルタの終わりに、このジャージを、チームとして保持していたいだけ」(ストーラー)

来季のグルパマ・FDJ入りが決まっているストーラーは、いまだ約2分のリードを有して、全長14.6kmの最終峠ガモニテイルへ上り始めた。しかし3度目の区間勝利の野望は、残り5.5kmで断ち切られた。平均勾配9.8%の山道は、すでに60km近くも孤独な努力を続けてきた脚には、あまりに厳しすぎた。

約2分後に山を上り始めたバルデなどは、独走が懸命ではないと判断したのか、すぐに自ら集団へと舞い戻ったほどだった。勾配11%台が延々と続くゾーンでは、代わって今ジロ山岳賞ジョフリー・ブシャールが先行を試みたが、無駄な抵抗は長続きしなかった。さらに残り11kmでは、デラクルスが、待ちに待ったアタックに転じた。ブシャールに追いつき、振り払い、そのままストーラーをもとらえた。山頂まで5.5km、単独先頭に立った。

3週間の戦いも残り少なくなり、総決算の時が近づいていた。区間勝利や個人総合表彰台だけでなく、チーム総合、山岳賞……とそれぞれの現実目標を果たそうと、誰もが残る力を振り絞った。そして、この総合13位デラクルスの攻撃が、総合トップ10争いを大いに刺激した。デラクルスとマイヨ・ロホ集団のタイム差が1分に開くと、突如としてアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオがペースアップを敢行した。前日までオドクリスティアン・エイキングのマイヨ・ロホ保守に努めてきたヤン・ヒルトが、この日は総合12位ルイス・メインチェスのために前を引いた。

総合6位エガン・ベルナルも攻撃に出た。後悔を抱かぬように、「やれるべきことをすべてやったのだ」と自分自身に言い聞かせるために。前日は60kmの遠逃げを企んだ今ジロ総合覇者は、この日は残り5kmで加速に転じた。

総合首位プリモシュ・ログリッチは難なく張り付いた。補佐役セップ・クスもすぐに馳せ参じた。総合2位エンリク・マスと3位ロペスのモビスターコンビも、すばやく流れに乗った。

集団を牽引するベルナル

集団を牽引するベルナル

ベルナルが幾度加速を畳み掛けても、4人は常に後輪に留まった。メインチェスも粘りを見せた。総合7位アダム・イェーツは少し遅れ気味で付いてきた。前日と同じように、4位ジャック・ヘイグと10位ジーノ・マーダーは、あくまで一定ペースを心がけた。

そして残り4km。ライバルたちの脚を試そうと、クスが軽いジャブを打った直後だった。ロペスが力強いアタックを決めた。昨秋ツールのコル・ド・ラ・ロズを制した際にも、最終盤の勾配10%超ゾーンで、やはりログリッチとクス(とタデイ・ポガチャル)を振り払った。今やプロトン屈指の激坂スペシャリストに数えられるロペスの行く先には、この日は最大17%も待ち構えていた。

「ミゲルアンヘルのアタックは素晴らしかった。僕らあらかじめ予想していたんだ。もしもアタックしたのが僕だったら、おそらくプリモシュは後を追っただろう。でもミゲルアンヘルなら、区間を狙えるだけの、ある種のマージンを与えてもらえる可能性があった」(マス)

モビスターの読みは正しかった。総合4分29秒遅れのベルナルの動きは一瞬たりとも見逃さなかったログリッチだが、総合3分11秒遅れのロペスの後は、すぐには追わなかった。「スーパーマン」は岩山を大急ぎで遠ざかり、そのまま霧の中へと消えていった。残り3kmのアーチをくぐり抜けた直後には、デラクルスを先頭から引きずり下ろした。

決してログラは動かなかったわけではない。タイム差が40秒弱に開くと、残り2km、猛烈な加速に転じている。ただロペスの同僚マスが、常に後輪に張り付いていたし、逆に同胞ベルナルは、あくまで攻撃的態度を崩さなかった。「総合5位でも10位でも関係ない」と語っていたベルナルだが、この日は何度となく後ろを振り返っている。総合3位ロペスを追いかけつつ、おそらく背後の総合4位ヘイグを振り落とすためだった。

濃霧に紛れたロペスは、姿の見えない追撃を14秒差で交わし切った。アスタナ所属時代にグランツール区間3勝、新人賞3回、総合表彰台2回、ブエルタ総合敢闘賞1回、マイヨ・ロホ着用3日間と輝かしい成績を残してきた27歳は、今季合流したモビスターに、待ち望まれた区間1勝をもたらした。3人が戦いを去り、残る5人で奮闘し続けた地元スペインのチームにとっては、最高の成果だった。

ミゲルアンヘル・ロペスがラスト3.9kmを駆け上がり4年ぶりのステージ優勝

ミゲルアンヘル・ロペスがラスト3.9kmを駆け上がり4年ぶりのステージ優勝

「チームメートの仕事に大いに感謝してる。今大会に残る誰もが、リタイア選手の穴を埋めるために、たくさんの仕事をしてくれた。こうしてチームメートたちにお返しできるなんて、とても素敵なことだよ。この勝利は僕らにとって大きな意味を持つ」(ロペス)

区間勝利を喜ぶと同時に、ロペスとモビスターは総合でも大きなアドバンテージを引き寄せた。最終的にマスを6秒、ベルナルを8秒突き放して区間2位に飛び込み、ボーナスタイム6秒もさらい取ってしまったログリッチの、総合首位の座こそ「不動」だったが、モビスターの2人は総合4位ヘイグとの距離を開くことには成功した。最後まで共闘し続けたバーレーンのヘイグとマーダーは、メインチェス、デラクルスと揃って58秒遅れでフィニッシュ。つまりヘイグの総合表彰台までのタイム差は、前日の35秒から1分43秒へと広がった。

もちろん総合5位ベルナルも、総合4位ヘイグに対する遅れは7秒差に縮めたが、3位ロペス=表彰台までの距離は1分50秒と大きいまま。奮闘の甲斐あってメインチェスとデラクルスはそれぞれ2つ総合順位を上げ、10位と11位につける。

ただ一番の勝ち組は、ログリッチとユンボ・ヴィスマだった。前日マイヨ・ロホを奪還しながら、この日は他チームがせっせとレースを動かしたおかげで、最終峠以外は責任ある作業から解放された。ログリッチはこの日も相変わらず強く、クスは総合7位と、大会3週目に入って毎日1つずつ総合順位を上げている。

「昨日の努力の後だったから、僕にとってはとてつもなくハードだった。今日の山を上れるだけの力が残っていたことに、満足してる。難関山岳をすべて終えたことも嬉しい。まだハードなステージは残っている。最後までベストを尽くし続けて、しっかり終えたいものだね」(ログリッチ)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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