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【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第15ステージ】亡き父に捧げる勝利!ラファウ・マイカが88kmの独走劇で4年ぶり歓喜「今日は誰も待つつもりはなかった」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか単独で走るラファウ・マイカ
88kmの独走。飽きることなく繰り返された駆け引きを尻目に、ラファウ・マイカは毅然と勝利へ突き進んだ。4つの山を乗り越えた果てに、総合争いは、ほんの小突きあい程度で切り上げられた。おかげで1回目の休息日翌日に総合首位へ駆け上がったオドクリスティアン・エイキングが、2回目の休息日を、マイヨ・ロホと共に過ごす権利を手に入れた。
「今日は誰も待つつもりはなかった。ただステージを勝ちたかった」(マイカ)
休息日の前日だからこそ、ありったけの力を振り絞った。フィニッシュ後に4時間のバス移動が待っているからこそ、大急ぎで走り続けた。今大会すでに逃げ切り3勝を射止めたチームDSMが、スタートと同時に前方へ突進すると、プロトンは一気にフルスピードの戦いへと引きずり込まれた。
最初の企ては、アタックと言うより、まるで分断だった。スタートからわずか8km、25人の大きな塊が、前方にでき上がった。
17チームが揃った集団には、山岳賞首位ロマン・バルデと2位ダミアーノ・カルーゾが滑り込んだ。なにより総合9位でわずか4分59秒遅れのセップ・クスと総合15位7分11秒差のダビ・デラクルスが潜んでいた。当然のように、アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオとモビスターが追走に乗り出した。30秒ほどの綱引きは延々20kmも続けられた。
実はモビスターから、イマノル・エルビティも逃げていた。だから後ろから延々と突き上げられ、協力体制がガタガタになったタイミングで、そのエルビティが急加速。先頭集団は一気に崩壊した。総合を脅かす恐れのない10選手だけが、逃げを続けた。
クスとデラクルスが後退したのはいいけれど、巻き添えを食らって弾き飛ばされたバーレーン・ヴィクトリアスとDSMは、もちろん納得できるわけもなかった。当初の25人集団には3人が飛び乗ったが、3人全員が退却させられたUAEチームエミレーツも同じ。とてつもない特攻が再開された。我らが新城幸也も全力疾走で、カルーゾを何度も発射させた。
序盤50kmの平地を、たった1時間で駆け抜けた。いつまでたっても30秒以上開けない前方集団から、パヴェル・シヴァコフとマグナス・コルトが、さらに前へと飛び出したことさえあった。しかし奮闘虚しく、スタートから68km、すべての選手が前から引きずり降ろされた。
アルと走るマイカ
逃げがすべて回収された直後に、プロトンは1つ目の山岳へとたどり着いた。その山道を上手く利用して、マイカとファビオ・アルがあっさり先行を成功させた。2人のベテランピュアクライマーに、21歳ネオプロのマキシム・ファンヒルスも同伴したが、しばらく先で後退していった。
メインプロトンはようやく歩みを緩めた。マイヨ・ロホ擁するアンテルマルシェの制御の下で、静かな時間を取り戻した。タイム差も最大6分半にまで開いた。……ただし、蓋が閉まる前に逃げ出した20人だけは、飽きもせず追走を続けていたのだけれど。
マイカにとって幸いだったのは、20人が決して「集団」ではなかったこと。引っ付いては離れ、追い付いては突き放す。ひたすら虚しい攻防が繰り広げられた。区間2勝マイケル・ストーラーを含むDSM4人が、多くの選手にとって邪魔者だった。2年前のツール総合3位ステフェン・クライスヴァイクや、グランツール7勝クリス・フルームの山岳アシストとして活躍したワウト・プールスを、誰も前に連れて行きたくはなかった。いつまでたっても共闘体制が築かれることはなく、前方との距離は次第に開いていく。
2015年ブエルタでは共に表彰台に立った2人ーーアルは最上段に、マイカは3段目に人ーーは、1つ目の山頂にたどり着く頃には、すでに追走集団に1分半もの差を押し付けていた。2つ目の登坂口でリードは2分に開いた。
しかし、2人の並走は、長くは続かなかった。1年前の初秋にタデイ・ポガチャルのツール初優勝を見届けることなくフランス一周を離脱し、今季チームを代わり、そしてこのブエルタを最後に現役を立ち去る31歳アルは、2つ目の山道で静かに振り落とされた。逆にこの夏ポガチャルのツール2勝目を見事に支えたマイカは、残り88km、ついに独走態勢へと持ち込んだ。
「まずは逃げに乗るためにできる限りの力を尽くした。脚が好調だと確認できた時、ならば1人で行こうと考えた。僕はスプリントが速くない。だから僕にとって唯一の勝機は、独走だと分かっていたんだ」(マイカ)
黙々と先を急ぐ1人と、相変わらずまとまりのない後方の面々。2つ目の山からの長いダウンヒルを終え、3つ目の1級峠へと上り始める時点で、タイム差は2分半に拡大した。
ここでクライスヴァイクがついに動いた。「必要とあらばプリモシュ(ログリッチ)のために戻って働くつもりだった」そうだが、エースから自由に動く許可が下りた。だからまずは1度加速し、集団をひと回り小さくした。2度目の加速では、追いすがるライバルたちを1人ずつ振り払った。残り57km。単独でマイカを追いかけ始めた。
凄まじい山の脚を披露したクライスヴァイクは、残り50km地点で、マイカを早くも1分半差へと追い上げた。つまり、たった7km走っただけで、タイムを1分縮めたことになる。手に汗握る一騎打ちが期待された。
ところが、ここから先、2人の関係はまったくと言っていいほど変わらなかった。タイム差はひたすら延々と1分半前後で移行した。おかげでマイカは、落ち着いてゆっくり確実なダウンヒルを行うことができたし、最終登坂中でさえ、並走するチームカーやテレビカメラに笑顔をふりまく余裕があった。最終的な差は1分27秒だった。
「スペシャルだ。この勝利を父に、子供たちに、家族に捧げたい。今季序盤は難しい時を過ごした。特に父が亡くなったから……。だから今日は勝ちたかった。父のために」(マイカ)
両人差し指を天に突き上げ、マイカはひとりフィニッシュへとたどり着いた。ブエルタでは2つ目の、グランツールでは5つ目の勝利た。もちろんこれまでの4勝もすべて独走の賜物だったし、2015年ツール第11ステージは50km弱をひとりで逃げ切ったけれど、この日は88kmもの逃げを成功させた。
また今区間に登場した4つの山岳を、マイカはすべて先頭で乗り越えた。山岳ポイントを28pt収集し、合計を29ptにのばした。ツール・ド・フランスで赤玉ジャージを2度持ち帰った経験を持つ一流のクライマーは、バルデ50pt、カルーゾ31ptに次ぐ山岳賞3位につける。
ラファウ・マイカが4年ぶりのブエルタ区間優勝
マイカが4年ぶりに勝利の喜びを味わった1分27秒後に、クライスヴァイクが自由な1日を終えた。連日通り攻撃的に攻めたDSMから、クリス・ハミルトンが3位に滑り込んだ。うんざりするほどドンパチを続けた前方集団内だったが、この3人以外に逃げ切れた選手はいなかった。
後方メイン集団では、アンテルマルシェ隊列が、堅実な作業を続けていた。やはりマイヨ・ロホを2日間着用したレイン・タラマエや、本来の総合エース格であるルイス・メインチェスやヤン・ヒルトが、エイキングのために惜しみなく力を尽くした。長らく逃げていたシモーネ・ペティッリも、最終盤には牽引役に加わった。最終峠の上りで総合15位デラクルスがアタックを仕掛けた時には、メインチェスがきっちり後輪へと飛びついた。
その背後で総合8位アダム・イェーツ加速すると、むしろ1週間後のマイヨ・ロホを争う本命たちが対応に回った。5位ミゲルアンヘル・ロペスが張り付き、3位ログリッチ自らが穴を埋めた。4位エンリク・マスや6位ジャック・ヘイグも当然のように追い付いてきた。
山頂へ向けて、イェーツが再びアタックを打った時には、もはや誰も急がなかった。なにしろ山の向こう側の、残り5.4kmは、極めて緩やかな下り坂。クライスヴァイクがいなくても大丈夫、と判断したユンボ・ヴィスマからサム・オーメンが牽引役に従事した。おかげでエイキングは問題なく流れについて行けたし、あとはイェーツから15秒遅れの集団で、フィニッシュラインを確実に越えるだけでよかった。
「最後の最後にようやくほっとすることができた。ひどくハードで、長い1日だった。でもチームが本当に良い仕事をしてくれた。彼らなしではマイヨ・ロホを守ることはできなかっただろう。最後は下りフィニッシュだったから、山頂を一旦越えてしまえば、安全だと分かっていたんだ」(エイキング)
2回目の休息日をマイヨ・ロホで迎えたエイキング
大会2週目の初日、第10ステージに大逃げを成功させ、マイヨ・ロホを手にしてから6日目。逆転首位を虎視眈々と狙い続けた総合2位ギヨーム・マルタンとの差は、いまだ54秒保っている。あえて首位復帰を避け続けた3位ログリッチに対しても、1分36秒の余裕を残す。休息日明けは、予定通りならばスプリントステージだから……エイキングは少なくとも水曜日までは、赤いジャージでプロトン先頭を走ることができそうだ。
「1週目はトリッキー、2週目はコントロール可能、3週目はビッグなステージばかり」。こう開幕前にログリッチは語っていたが、その通り、コントロール下に置かれた2週目がこうして幕を閉じた。
たしかに第11ステージでそのログリッチが区間勝利をもぎ取った。ただ同日イェーツとクスが8位と9位の総合順位を入れ替えて以降、総合トップ15の順位は一切変動しなかった。今区間でイェーツはライバルたちから15秒を収集するも、前日に22秒を失っていたことを忘れてはならない。11日には11秒失ったエガン・ベルナルは、13日目の平坦ステージで5秒を回収した。つまり2周目を通して、タイム差はほんの数秒変動したに過ぎなかった。
ログリッチの予言通りならば、ビッグなステージでのビッグな戦いは、3週目にやって来る。マイヨ・ロホ争いが、本格的に動き出す。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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