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サイクル ロードレース コラム 2021年8月17日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 レースレポート:第3ステージ】《未来の大物》と言われ続けたレイン・タラマエが涙の勝利「僕は自分自身を信じていた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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レイン・タラマエ

レイン・タラマエ

ベテランたちが存在感を示した。若き日に「タラマシーン」とあだ名された34歳レイン・タラマエが、ちょうど10年ぶりに、ブエルタで区間勝利を手に入れた。なによりプロ生活14年目にして、初めて、グランツールの総合リーダージャージを身にまとった。もっともっと年上の41歳アレハンドロ・バルベルデは、激坂の最終盤に、軽やかに集団を引き裂いた。かつての「エル・インバティド(無敵)」は、チームの後輩たちを好位置へと送り出すとともに、幾人かの若造を無残にも後方へと突き放した。

「僕は自分自身を信じていた。調子は良かった。やり遂げることができて本当に幸せだ。ファンタスティック。明日は思いっきり楽しむよ!」(タラマエ)

高速で走り始めたプロトンから、15km地点で、8人が逃げを作り上げた。総合わずか29秒差のアントニオ・ソトがすぐさま暫定マイヨ・ロホの座についた。その4秒差につけるトビアス・バイヤーの姿もあった。イェツセ・ボルとフレン・アメスケタは、招待チームとして勢力的に先頭交代に加わった。なによりグランツールで山頂フィニッシュ制覇経験のあるリリアン・カルメジャーヌ、ケニー・エリッソンド、ジョセフロイド・ドンブロウスキー、タラマエが先頭グループに飛び乗った。

逃げ切れる。それどころかマイヨ・ロホ譲渡劇さえ起こる。多くのチームがこう予測していた。たとえば勝者タラマエが「前夜、監督と話し合い、区間とリーダージャージを獲りに行くことに決めた」と優勝インタビューで明言したように。エリッソンドもまた「2日前、監督に、今ステージ逃げたいと訴えた。総合勢がマイヨ・ロホを手放す可能性があると考えたから」と打ち明けている。

たしかに今区間のスタート前、多くの総合本命は消極的な目標を掲げていた。それは「ライバルたちからタイムを失わないこと」。200km超という長いステージの終わりの、ひどい激勾配を、誰もが警戒していた。そもそも前日フィニッシュ後に、2連覇中のプリモシュ・ログリッチが、「マイヨ・ロホを取られても構わなかったんだけどな」と笑い飛ばしている。だからこそ、ログリッチ率いるユンボ・ヴィスマは、極めて淡々とプロトン制御に乗り出した。最大9分にまで広がったタイム差は、フィニッシュまで残り30kmを切っても、ほとんど減らなかった。

残り36.2km地点の中間ポイントは、逃げ選手たちをそれほど興奮させなかった。ボーナスタイムが組み込まれていた2日目とは違い、純粋に緑ジャージ用のポイントだけが配分されていたせいだ。肝心のボーナスタイムが仕掛けられていたのは、残り20kmの3級山岳の山頂。なんと2021年ブエルタでは、日により、地形により、ボーナスタイム収集ポイントが変化する。おかげで山のてっぺんへ向けて、熾烈なスプリントが巻き起こった。逃げ集団内で総合成績が最も上位の3人、つまり33秒遅れバイヤー、29秒差ソト、38秒差カルメジャーヌが、順に山岳ポイント&ボーナスタイムを3、2、1と積み重ねた。

そして3番目に山頂を駆け抜けたカルメジャーヌが、下りで、真っ先にアタックに転じる。最終峠の激勾配と、クライマーの多い逃げ集団の顔ぶれとを眺め、「早めに仕掛けるべきだ」という結論に至ったそうだ。後から「元チームメートのタラマエと共闘すれば良かった」と悔やむことになるのだが……その後さらに2度、カルメジャーヌは加速を切る。顔を見合わせてばかりの7人を振り払うと、約20秒差をつけて、全長7.6kmの1級峠ピコン・ブランコへと上り始めた。

マイヨ・ロホを着たタラマエ

マイヨ・ロホを着たタラマエ

「自分を信じていた。僕自身はすごく調子が良かった。ただ、今日は、すべてがプロトン次第だったんだ。果たして彼らが僕らを追いかけるか、否か」(タラマエ)

プロトンはすでに戦闘モードへと切り替えていたが、それでも最終峠の登坂口でいまだ余裕は4分残っていた。逃げ切れると確信を得たタラマエは、平均9.35%の最終峠に突入すると、猛然とテンポを刻み始めた。すぐにカルメジャーヌを回収した。ボルは真っ先に脱落し、バイヤーとソトも後方へと消えていった。

「気になったのはドンブロウスキーとエリッソンドがどれくらい好調なのかということ。どの選手もみんな強かったけれど、この2人が大きな能力を持っていることを知っていたからね。僕に彼らを倒せるだろうかと考えた。それでも僕は自分を信じた」(タラマエ)

特にドンブロウスキーには、苦杯をなめさせられた記憶がある。今ジロの第4ステージで、共に逃げながら、初めての総合リーダージャージのチャンスを握りつぶされたのだ。あの日のドンブロウスキーは、「他人のジャージ獲りを利用して守備的に走った」と明言しつつ、初めての区間を競り落とした。

この日だって総合3分28秒遅れのドンブロウスキーは、もはやマイヨ・ロホには興味はなかったはずだ。ただスペインでは、1分28秒遅れタラマエと1分11秒遅れエリッソンドの仕事を利用するつもりもなかった。残り6kmで自ら加速に転じた。続いて8年前にアングリルを制したエリッソンドが軽くジャブを繰り出すも、すぐに先頭を奪い返した。とうとうカルメジャーヌが息絶え、アメスケタが脱落していっても、ドンブロウスキーは毅然と前を走り続けた。タラマエがぴたりと後輪に張り付いているのも構わずに。

「もしかしたら僕は攻撃的すぎたのかもしれない。でも僕の狙いは、勾配の最も厳しいゾーンで差をつけることだった」(ドンブロウスキー)

勾配10%を超える山道で、ドンブロウスキーはハイペースを刻み続けた。しかし背後でじっとライバルの走りを見つめていたタラマエが、残り2.8km、ついに攻撃に転じる。必死に追いすがるドンブロウスキーとエリッソンドを、長い長い加速で振り払った。

自分自身を信じ続けた果てに、山頂でタラマエは2本の指を天に突き上げた。ブエルタでは10年ぶり2つ目の、グランツール全体では3つ目の勝利。フィニッシュ直後は涙に暮れた。伝染性単核球症に長らく苦しみ、「未来の大物」との周囲の期待に応えられぬまま複数チームを渡り歩いてきた。なにより5年ぶりに突き上げた拳だった。

今季加入したばかりのアンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオには、チーム史上2つ目のグランツール区間勝利と、初のグランツール総合リーダージャージをもたらした。かつてツール・ド・フランスで3日間だけ新人ジャージを着た経験のあるタラマエにとってもまた、初めてのマイヨ・ロホだった。初めての山岳ジャージさえついてきた。

「とてつもない快挙だよ。僕は34歳で、もはやトライできる機会はそれほど多くは残されていないからね。グランツールのリーダージャージをずっと夢見ていた。少なくとも数日間ジャージを楽しんで、どんなものなのかを味わってみたかったんだ」(タラマエ)

21秒後にドンブロウスキーが山頂にたどり着き、エリッソンドは36秒後、カルメジャーヌは1分16秒後にフィニッシュラインを越えた。フランスの2選手は、マイヨ・ロホには手が届かなかったものの、それぞれ総合2位・25秒差、総合4位・35秒差にジャンプアップ。そしてこの2人のちょうど真ん中、総合3位・30秒差にログリッチが滑り込むことになる。

延々とコントロールを続けてきたユンボ・ヴィスマから、ミケル・ランダ率いるバーレーン・ヴィクトリアスが直前の3級峠で主導権を奪い取った。最終峠に向けて複数チームが隊列を走らせたが、10%超の激坂に突入すると、バーレーンが再び最前列を独占。5人で隊列を組み、凄まじいリズムを集団に強いた。

あまりの激坂とスピードに、脚のないものはプロトン後方から次々と脱落していった。残り4kmに差し掛かると、早くもログリッチが完全に孤立させられた。イネオス・グレナディアーズでさえ、ただトリプルエースが、1人ずつ、集団内のあちこちに散らばっているだけ。

リチャル・カラパス

リチャル・カラパス

しかも直後にはリチャル・カラパスが喘ぎ始めた。前日の落車分断で1分以上のタイムを失ったダビ・デラクルスのアタックに、やはり31秒落としたアダム・イエーツが反応したのがきっかけだった。バーレーンのマーク・パデュンが穴を埋めに走り、自ずと集団全体の速度は上がった。東京五輪ロード金メダリストの、金色のバイクが、じわじわと後退していく。

残り2kmを切ると、デラクルスとイエーツが、今度はオスカル・カベドの攻撃に追随。またしてもパドゥンがきっちり穴を埋め、孤独なログラは問題なく流れに乗った。ついにカラパスはとどめを刺された。

しかし30人ほどが密集する塊を、最終的に破壊したのは、衰えを知らぬバルベルデだった。残り1km直前で鮮やかに加速すると、もはや10人程度しかついていけなかった。おかげで背後から飛び出した後輩エンリク・マスは、小さなメイン集団に先んじてフィニッシュラインを越えた。

「バルベルデはいまだに僕らを驚かせ続けてる。最終盤の彼がどれだけ強かったのか、誰もが目にしたはずだ。僕に関しては、ライバルたちから数秒奪うことができた。たしかに大した差ではないかもしれないけど、それでも悪くない」(マス)

その3秒後にやはりモビスターのミゲルアンヘル・ロペスが飛び込み、同タイムでログリッチ、イェーツ、ランダ、ジュリオ・チッコーネ、エガン・ベルナル、バルベルデが続く。さらに7秒後には今大会限りで引退予定のファビオ・アルが入った。

積極果敢な走りを披露したデラクルスはログラ集団から12秒遅れでフィニッシュ。すでに前日38秒失った昨大会3位ヒュー・カーシーは、この日は21秒落とした。ロマン・バルデやアレクサンドル・ウラソフは29秒遅れだった。

ログリッチがフィニッシュしたのが区間勝者タラマエから1分48秒後だったのだとしたら、カラパスは2分48秒後に山頂へたどり着いた。つまり大部分のライバルからペダルで1分遅れた上に、許可されていない場所で補給を行ったとして、20秒のペナルティも課された。この日だけで1分20秒を失ったことになる。

総合首位から3位に後退したログリッチを起点に、5位から7位までマス、ロペス、バルベルデとモビスター勢が続く。7位バルベルデから8位チッコーネ、9位ベルナルまでは首位タラマエから57秒差、ログラから27秒差の同タイム。史上最年少3大ツール全制覇を狙うベルナル24歳は、新人ジャージも身にまとった。

また終盤に凄まじいチーム力を誇示したランダは1分09秒差=39秒差の総合10位。ログリッチから1分圏内は総合16位・1分21秒差のイエーツまで。カーシーは総合24位に、カラパスは27位につける。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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