人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2021年7月17日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第19ステージ】優れた戦術眼と脚で周囲の雑音に訴える区間勝利!モホリッチ「僕らがどれほど大きな犠牲を払っているのか」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

無料動画

【ハイライト】ツール・ド・フランス 第19ステージ|Cycle*2021

シャラップ。チーム周辺に渦巻く好ましくない雑音を、まるで叩き切るかのように、マテイ・モホリッチはフィニッシュへと突き進んだ。感激のツール区間初優勝からちょうど2週間後。その巧みな戦術眼と優れた脚とを、世界中の視線の中で再証明し、新たな勝利を積み上げた。マイヨ・ジョーヌが支配するプロトンは、時速48km弱で疾走した勝者から20分50秒遅れで、ゆっくりと1日を終えた。

マテイ・モホリッチ

マテイ・モホリッチ

「進行中の捜査では僕らの『誠実さ』が問題視されているようだけど、おかげで僕らの結束はより固まった。僕らにはなにも隠すものなどないことをと見せようと決意したし、勝ちへの意欲が高まった」(モホリッチ)

史上最強の自転車選手エディ・メルクスが、1969年に、マイヨ・ジョーヌ姿で140kmの独走勝利を成功させた土地ムランクス。この伝説の町で、伝説の男が見守る中、プロトンは200kmを超える長い長い移動ステージへと走り出した。翌日に「最終審判」個人タイムトライアルを控えるこの日、早くも「新メルクス」と呼ばれ始めたタデイ・ポガチャルではなく、メルクスとツール区間勝利数で肩を並べるマーク・カヴェンディッシュのはずだった。

ピレネーを抜け出し、平地に戻って来たツール一行は、クラシカルな筋書きは選ばなかった。誰もが前へと行きたがった。スタート直後の加速攻勢で、ジュリアン・ベルナール、フランク・ボナムール、サイモン・クラーク、ゲオルク・ツィマーマン、ヨナス・ルッチが抜け出した。さらに数キロ先でモホリッチが単独でブリッジを仕掛けると、すぐに合流を成功させる。まずは6人の逃げが出来上がった。

「スプリントステージになるだろうと信じていたし、ドゥクーニンク・クイックステップやアルペシン・フェニックスがコントロールを試みるはずだと思ってた。だけど、大会3週目には、どのチームも疲れていることも分かっていた。だから8人以上の逃げが出来た場合は、滑り込むよう指示されていた。でも最初の逃げ集団が遠ざかっていくのを見て、飛び乗ろうと決めたんだ。特にチーム総合首位の座がかかっていたからね」(モホリッチ)

まさに同じ頃、プロトン内で、大きな集団落車が発生する。幸いにも目立つ怪我人はいなかったが、たくさんの選手が足止めを喰らった。このちょっとした混乱に紛れて、ミハウ・クフィアトコフスキーとトムス・スクインシュが前進を試みると……なんと瞬時にマイヨ・ジョーヌが背中に飛び乗った!

美しい街並みを走る

美しい街並みを走る

ポガチャル曰く「こんな状況でステージを始めるなんて理想的じゃない」からであり、おそらくUAEチームエミレーツの仲間が数人巻き込まれていたせいでもあった。22歳のボスの一声で、2人は逃げの動きを止め、ほんのわずかな間だけ、プロトン内にも秩序が訪れる。すでに逃げ出していた6人だけは大急ぎで前進を続け、アルペシン・フェニックスが制御するメイン集団に、4分前後の差を保ち続けた。

緊迫した雰囲気は抑えきれなかった。38km地点で再び集団落車が発生する。しかもカヴェンディッシュが巻き込まれ、ちょっとした追走を余儀なくされたものだから、プロトン内のざわつきは徐々に大きくなっていく。

54.3km地点の中間スプリントは、さらなる加速のきっかけとなった。マイケル・マシューズとコルブレッリが、今大会何度目かの熾烈なバトル行った。7位と8位(つまり集団内1位と2位)の座に滑り込んだ2人に対して、上り基調の道で、肝心のカヴの脚は少々止まり気味(10位通過)。そのせいか、この日のウルフパックは、集団コントロールの任務を完全に放棄した。

ついにアタッカーたちの心に再び火がついた。第2の飛び出し合戦が巻き起こった。1度目はマイヨ・ジョーヌに妨げられたクフィアトコフスキーも、改めて前方へ突進した。スピードは恐ろしいほどに上昇し、市街地を通過中にプロトンはいくつかに割れ……ついに大きな塊が前方に出来上がった。スタートから70km。20人が追走集団を作り上げた。

人数が大量だった上に、今大会すでに「独走勝利」をもぎ取っているニルス・ポリッツや、第4ステージであわや逃げ切りの衝撃を作り出したブレント・ファンムールという強脚たちが揃っていた。アルペシン(シルヴァン・ディリエ)とドゥクーニンク(ダヴィデ・バッレリーニ)もそれぞれ人員を送り込んだし、クベカ・ネクストハッシュからはマキシミリアン・ヴァルシャイドというスプリンター本人が飛び乗った。

これに慌てたのがイスラエル・スタートアップネイションだった。アンドレ・グライペルやリック・ツァベルのため、どうしてもスプリント勝負に持ち込みたい同チームは、必死の追走を試みた。当然ながらスプリンターチームの後押しは一切なかった。幸いにも今大会いまだゼロ勝のイネオス・グレナディアーズや、第1集団ボナムールの勝利確率を上げるため、第2集団が邪魔なBBホテルズが、時には協力体制を組んだ。しばらくは延々30秒ほどの綱引きが続いた。

6人が自主的にプロトンへと後退し、14人に人数を減らしても、第2集団の威力はちっとも衰えなかった。それどころか残り100kmで朝からの逃げ6人と合流し、先頭集団は20人に膨らみ、スピードはますます増すばかり。ついに均衡が崩れた。じわり、じわり、とタイム差は開いていく。約50kmも続いた壮絶な追いかけっこを、とうとうプロトンは放棄した。残り82km。最前線には蓋が閉まり、マイヨ・ジョーヌを含む大きな集団は、静けさを取り戻した。

最終的にメインプロトンが20分50秒というとてつもない大差でフィニッシュラインを越えたのは、なにもUAEチームエミレーツの制御リズムがのんびりしすぎていたわけでもない。むしろ逃げの20人がひたすらハイスピードで走り続けたせいだ。しかも残り47km、モホリッチの加速をきっかけに、前方は改めてアタック合戦へと突っ込んでいく。

代わる代わる、我こそは、と名乗りを上げた。1人が前方へと飛び出しては、顔を見合わせ、数人がすかさず回収に向かう。決して飽きることなく、入れ替わり立ち替わり、異なる選手が加速へと打って出た。第12ステージで12kmの独走を成功させたポリッツもその1人。残り26km、今ステージ最後の級坂を利用して、大きな加速に転じた。

「僕にとって残念だったのは、追いついてきた大きな集団にチームメートがいなかったこと。だから出来る限り脚を温存するよう心掛けた。おかげで最後の勝負が始まった時には、OK、行けるぞ、と思えたんだ。でもポリッツが『大・大・大・大・大』アタックを打った時、僕は限界に達していた。自分にはこう言い聞かせた。『あの坂のてっぺんをフィニッシュだと思え。マテイ、スプリントのつもりで行け。目を閉じて、決して後ろを振り向くな』ってね」(モホリッチ)

一瞬で穴が開いた。背後のライバルたちは互いに警戒し合うばかりで、すぐに追いかけられなかった。腹をくくってマイク・テウニッセンが追走を始めるも、すでに遅すぎた。重たいギアを回すモホリッチとの距離は、ただ無情にも開いていくだけ。

マテイ・モホリッチ

マテイ・モホリッチ

「ずっと秘密にしてきたのに、ばれちゃったな。実は今ツールではいつも55x42を使ってるんだ。ダウンヒルや微妙な上り基調の道では、アドバンテージになる。タイムトライアルでは58を回している選手もいるのに、なんで普通のステージではいまだに53や54をつける必要があるんだろう?プロトン内で走る時は、TTよりもハイスピードが出る場合も多いのに」(モホリッチ)

後方の喧騒を離れ、まさに翌日のTTの予行練習であるかのように、モホリッチは滑らかにペダルを回し続けた。今大会最長249.1kmの第7ステージでは、18kmの独走を成功させたが、3番目に長い207kmの今区間は、26kmをひとりで突き進んだ。逃げの共たちに58秒先んじて、フィニッシュラインを越えた。口に人差し指を当て、さらには口にチャックを閉めるようなジェスチャーと共に。

第17ステージ終了後の夜に、バーレーン・ヴィクトリアスの宿泊先とチームバスに、フランス憲兵隊の捜索が入った。組織的ドーピングの疑いがあるとして、今回の捜査を基に、マルセイユ裁判所にて予審が行われる予定だ。途端にファンやメディアの間では、あることないこと色々と囁かれるようになった。モホリッチ自身は「僕らはスーパークリーン。ただ警察の捜査には全面的に協力する」と宣言しつつ、同時に我々第三者への理解を求める。

「あのジェスチャーは、僕らのパフォーマンスに疑念を抱く人々に、分かって欲しかったからなんだ。仕事、食事、トレーニング計画やレース計画、自宅から常に遠く離れて過ごすすべての時間……こんなあらゆる物事に関して、僕らがどれほど大きな犠牲を払っているのかということを」(モホリッチ)

モホリッチが強いメッセージを発し、逃げの残り選手たちが次々と走り終え、さらに長い待ち時間の果てに……プロトンは静かにフィニッシュエリアへと滑り込んだ。総合勢にとっては、翌個人タイムタイムトライアルに向けて、体力温存の最高の機会となったに違いない。

タデイ・ポガチャル

タデイ・ポガチャル

「明日のTTコースはすでに下見済みだけど、スピードの出るコースだ。技術的にはそれほど難解ではない。好きなタイプだし、自信はある。もちろん今夜どれだけよく眠れるか、目覚めはどうか……で色々と状況は変わってくるけどね。ただ僕自身は、ノーストレス、ノープレッシャーで臨むさ」(ポガチャル)

タイムトライアルの終わりに、2021年ツールのマイヨ・ジョーヌの戦いも終わる。一方でカヴェンディッシュの前人未踏ステージ35勝への挑戦は、2位に35pt差をつけるマイヨ・ヴェール獲りと共に、日曜日のシャンゼリゼまで持ち越しだ。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ