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【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第14ステージ】43kmの独走劇!バウケ・モレマが4年ぶり2度目のツール区間勝利「すべての勝利がスペシャル」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか無料動画
【ハイライト】ツール・ド・フランス 第14ステージ|Cycle*2021
あらかじめチェックしていた自分向きのコースで、得意の勝ちパターンに持ち込んだ。下りで、独走。激しい飛び出し合戦をかいくぐり、バウケ・モレマが4年ぶり2度目のツール区間勝利を手に入れた。タデイ・ポガチャルのマイヨ・ジョーヌに何ら異変はなかったが、リスクを覚悟で逃げだしたギヨーム・マルタンが、総合2位に浮上した。
4年ぶり2度目のツール区間勝利を手に入れたモレマ
「2017年大会の勝利はスペシャルだった。だってツールで初めての区間勝利だったから。今日の勝利もまたスペシャルだった。だって距離の長い独走を成功させたから。僕は年間に10勝も15勝も挙げられる選手ではない。だからすべての勝利が、僕にとっては、スペシャルなんだ」(モレマ)
大逃げが決まる日。ピレネーの入り口の起伏コースで、アタッカーたちの脚はうずいた。南西フランスの焼け付くような太陽の下で、スタートと同時に、多くの選手が無我夢中で飛び出した。
もちろんプロトンがすぐには逃げを許さない。ようやく30kmほど走った先で5人が前方へと躍り出たはいいけれど、どんなに必死にペダルをこいでも、決して30秒以上を奪うことはできない。
理由のひとつが、スタート76.7km地点に待ち構える中間スプリント。たしかにエディ・メルクスの区間34勝に並んだマーク・カヴェンディッシュが、圧倒的な101pt差でマイヨ・ヴェール争い首位に君臨している。ただし「制限タイムアウトを救済された場合はマイヨ・ヴェール用ポイント全没収」という厳格な規則のせいで、ピレネーを乗り越えるまで、決してジャージの行方は分からないのだ。
だからこそカヴがあっという間にグルペットの定位置に収まった後、連日同様、ポイント賞2位マイケル・マシューズと4位ソンニ・コルブレッリは猛烈に攻め立てた。ところが2位ヤスパー・フィリプセン擁するアルペシン・フェニックスが、前方に2人を送り込んでいたものだから、追走はひどく難航した。
……結局は100mほどの差で吸収ならず。しかもカヴの同僚ドリス・デヴェナインスに単独ブリッジを成功されてしまうのだ。連日中間スプリントに突進し続けるマシューズとコロブレッリは、猛烈に奮闘した末に、ぎりぎりのところで上位6位までのポイントを逃した。マシューズは首位とのポイント差を101pt→92ptへとほんの少し縮めたに過ぎず、上位陣の順列に変化はなかった。
そして戦いは振出しに戻る。メイン集団はひとつになり、新たな逃げが飛び出した。直後に上り始めた2級峠で、ワウト・プールスとマティア・カッタネオが先行を始める。そこにマイケル・ウッズが加わって、ようやく逃げ集団の基盤ができ上った。スタートからすでに2時間以上がたっていた。
背後から追いかけてきたセルヒオ・イギータ、パトリック・コンラッド、オマール・フライレ、ルイス・メインチェス、エステバン・チャベス、ギヨーム・マルタン、そしてバウケ・モレマの7人は、残り70kmで前を行く3人に合流した。時間差で飛び出したカンタン・パシェ、ピエール・ローラン、ヴァランタン・マデュアス、エリー・ジェスベールのフランス人4人も、残り60kmで先頭をとらえた。最終的に14人に大きくなった逃げ集団は、マイヨ・ジョーヌ親衛隊UAEチームエミレーツが黙々と制御するプロトンとの差を着実に広げていく。
逃げ集団
ステージ後に複数選手が証言したように、しかし逃げ集団は協調に少々難があった。山岳賞争いが熾烈過ぎたせいかもしれない。なにしろ赤玉3位ウッズ、4位プールス、5位モレマが滑り込み、9位イギータや13位マルタンも得点的にはそれほど離れてはいない。疑心暗鬼の睨み合いが繰り返された。
そうは言っても積極的にポイント収集に走ったのは、9日目マイヨ・ア・ポワを1日だけ着用したプールスと、いまだグランツールで賞ジャージ着用未体験のウッズだけ。89km地点2級峠ではプールスが、続く110.3km地点の2級峠ではウッズが先頭をさらい取った。126.3kmの3級峠では、遠くから仕掛けたスプリントを制し、再びプールスが1位で頂を越えた。ただし2位通過のウッズが1ptを追加し、この時点で山岳賞首位へ躍り出た。
この山からの下りで、ところが、ウッズは地面に転がり落ちてしまう。残り約50km。すぐに立ち上がり、それほど苦労せずに逃げ集団にも返り咲いた。ただし山岳賞以上のなにか……ステージ勝利を追い求めることはできなかった。次の2級峠=最終峠で2位3ptを積み重ねるだけで精一杯だった。
「下りは危険だと分かっていたから前の方にいたのに、ホイールが滑ってしまったんだ。転がり落ちながら『ああ、ダメだ』と考えた。すぐに気持ちを切り替えて走り出した。ただ身体には傷はないけど、意欲が少し挫けてしまったんだ」(ウッズ)
ちょうど同じ頃、メイン集団とのタイム差は、すでに4分以上にまで拡大していた。この日の朝、9分29秒遅れの総合9位につけていたマルタンが、いつの間にやら「暫定」総合表彰台へと浮上してしまった。当然ながら総合2位・5分18秒遅れリゴベルト・ウランの同胞イギータや、6位・6分16秒遅れウィルコ・ケルデルマンのチームメイトのコンラッド、さらには7位・6分30秒遅れアレクセイ・ルツェンコの同僚フライレは、逃げ集団内の先頭交代に加わらなくなった。
「強者揃いの好グループに乗れたけれど、全員が良く働いたわけではなかった。数人は本気で前を回さなくなっていた。一方で僕自身の調子はとてつもなく良かった。自信もあった。だから『だったら遠くから飛び出そう!』って思い切ったんだ。加速して、後ろを振り返った時に、僕の後輪には誰もついていなかった。行けると分かった」(モレマ)
独走状態を作り出したモレマ
フィニッシュまで43km。下り基調の道で、モレマはアタックを打った。一瞬で全てを振り払うと、そのままフィニッシュまで単独先頭で駆け抜けてしまった!
2017年大会では、やはり中級山岳ステージの下りフィニッシュへ向けて、やはり約30kmの独走を成功させた。その前年のクラシカ・サンセバスチャンも、2019年イル・ロンバルディアも、やはり最後はダウンヒルで、同じく独走勝利だった。2度制したジャパンカップは小集団スプリント、もしくはこの日の終わりに赤玉ジャージを身にまとうウッズとの一騎打ちスプリントだったけれど……。
「上りフィニッシュじゃないレースの方が、おそらく僕向きなんだ。それに僕の大部分の勝利は、単独で手にしたもの。そのためには、ラッキーではなく、絶好のタイミングを見定める必要がある。今日は誰も自分の後輪にいないと察知したから、すぐさま差を突き放した。あそこでアタックするとは誰も予想もしていなかったんだと思う。そして一気に3、4秒の差をつけられたら、そこから僕をとらえるのは難しいのさ」(モレマ)
突き進むモレマの背後では、幾多の試みが繰り広げられた。イギータやチャベスは幾度となく加速し、カッタネオは強力な独走力で、コンラッドは大きなアタックを試みた。しかし、もう2度と、モレマの背中をとらえることはできなかった。プラタナスの美しい並木道で、モレマが幸福な勝者となった1分04秒後、コンラッドとイギータがフィニッシュラインを越えた。
同時にマルタンを完全に振り払うこともなかった。「ディーゼル」なフランス人クライマーはたとえ突き放されても、決して折れることなく、黙々とペダルを回し続けた。後方プロトンだって、残り30kmを切る頃から、総合2位ウラン擁するEFエデュケーション・NIPPOや総合3位ヨナス・ヴィンゲゴーのユンボ・ヴィスマはスピードアップに努めたのだ。しかし集団の制御権を握るマイヨ・ジョーヌ自体が、「マルタンのことは全然気にかけていなかった」。おかげでマルタンが区間勝者から1分28秒遅れでフィニッシュしたのに対し、プロトンはのんびり6分53秒遅れで1日を終えた。
つまり総合上位入り目指して走った例年とは違い、生まれて初めて「区間勝利と山岳賞」だけを狙ってツールに乗り込んできたマルタンが……そのいずれの目標をいまだ叶えられていないというのに、なんと総合2位へと浮上してしまった!
「今年はリスクを冒す走りを心掛けてきたんだ。それが今日、報われた。総合タイムが近すぎて、逃がしてもらえないんじゃないかとも悩んだんだ。でもUAEはあらゆる動きに反応することなどできないに違いないと考えた。運命の扉をこじ開けに行った。ただし総合2位といっても、単なる『暫定』に過ぎない。2回目の休息日の2日前に2位、ってだけさ。シャンゼリゼでの2位ではないんだよ」(マルタン)
たしかに第8ステージでポガチャルが総合首位の座に立って以来、総合2位の座はワウト・ファンアールト、ベン・オコーナー、リゴベルト・ウラン、そしてマルタンとほぼ日代わりで変動してきた。また2番手とは言えども、マルタンは首位から4分04秒差。ポガチャルまでの距離よりも、3位に後退したウラン(5分18秒差)から4位ヴィンゲゴー、5位リチャル・カラパス、6位オコーナー、7位ケルデルマン、8位アレクセイ・ルツェンコ、9位エンリク・マス(7分11秒差)までの距離のほうが3分07秒差とはるかに近いのだ!
マイヨ・ジョーヌ交代劇が、この先パリまでに見られるかどうかは定かではない。ただ2番手以降は、哲学者マルタンが指摘する通り、今後も入れ替わる可能性は極めて高い。
仲間とフィニッシュしたマイヨ・ジョーヌ
「誰が一番の危険人物なのか。難しい質問だね。正直言って分からない。モン・ヴァントゥではヴィンゲゴーがとてつもなく強かったけど、でも僕は総合トップ10の選手全員を危険人物とみなしている。5分から8分というのは、もしも僕がバッドデーに襲われたり、彼らが逃げに乗ったりすれば、それほど縮めるのは難しくないタイムだ。全員に注意してかからねばならない」(ポガチャル)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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