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サイクル ロードレース コラム 2021年7月3日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第7ステージ】モホリッチが最長区間で涙の独走勝利!型破りな走りでマイヨ・ジョーヌを守ったファンデル・プール「結果には最高に満足してる」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第7ステージ|Cycle*2021

マイヨ・ジョーヌが逃げた!ロードレースにおいては極めて型破りなやり方で、マチュー・ファンデルプールは首位の座を守りに行った。249.1kmの全力疾走。まるで生き急ぐかのように、とてつもなくアグレッシブに。

マイヨ・ジョーヌ

型破りな走りでマイヨ・ジョーヌを守ったファンデルプール

「これが僕にとって初めてのグランツールだけど、今までテレビではたくさんグランツールを見てきたよ。……うん、こんなの、ほとんど見たことないよね(笑)」(ファンデルプール)

マチューが牛耳る大きな逃げ集団内の、黄色いジャージを巡る激しい争いを上手くすり抜けて、マテイ・モホリッチは独走勝利へと持ち込んだ。同じスロベニア人のタデイ・ポガチャルは後方で作業に奔走させられ、プリモシュ・ログリッチは、大会3日目の落車が響いたか、4分近くタイムを失った。

「残り1kmで勝利を確信した途端に、感激の涙があふれてきた。キャリア最大の勝利だよ。ツールは世界最高のレースであり、今日の逃げにもトップ級選手ばかりが揃っていた。とても自分を誇りに思う」(モホリッチ)

開幕時の寒さがまるで幻だったかのように、気温は急激に上がった。沿道のひまわり畑はいまだ2部咲きながら、フランスとツールに、いよいよ本格的な夏がやって来た。この週末からバカンス客がどっと道に繰り出すだろうと、カーラジオは何度も繰り返している。

21世紀のツールで2番目に長いステージは、退屈とは程遠かった。折り返し地点までの長い平坦区間でさえ、とてつもなく刺激的。なにしろスタート直後から熾烈なアタック合戦が巻き起こった。総合首位ファンデルプールと、永遠の宿敵ワウト・ファンアールトが、競い合うように飛び出しを試みたせいでもあった。そして45km地点。大量29選手が前方へと遠ざかっていく。当然のように、マイヨ・ジョーヌとベルギーチャンピオンジャージも含まれていた!

唖然とするほど豪華な顔ぶれが揃った。単なるマチューvsワウトの構図だけには決して収まらなかった。ツール区間勝利経験者は10人いたし、グランツール区間勝利まで含めると15人にも上った。グランツール総合覇者さえ2人(ヴィンチェンツォ・ニバリ、サイモン・イェーツ)。最長クラシック300km弱のミラノ~サンレモ覇者4人(ニバリ、マーク・カヴェンディッシュ、ファンアールト、ヤスパー・ストゥイヴェン)や、そのサンレモ以外の4つのモニュメントを制したフィリップ・ジルベールが滑り込んでいたのも、おそらく偶然ではあるまい。

全23チーム中18チームが、少なくとも1つずつ逃げに送り込んだ。つまりメイン集団でコントロールに興味を示すチームなど、皆無に近かった。総合8秒差のタデイ・ポガチャルとUAEチームエミレーツに、すべての責任が押し付けられた。ただし前の29人は、スタートからの2時間で100kmを駆け抜けたほどの超高速で突進し続けたから、タイム差はただ広がっていくばかり。最大7分程度にまで開いた。

「僕らはミスを犯してしまったと思う。それでも僕のチームを誇りに思うよ。プロトン内では誰もが、仕事をすべきは僕らチームだ、と口にした。理由は一番強いのは僕だから……。でも僕はいつも最強だというわけじゃないのに。とにかくタイム差を最小限に留めなければならなかった。それは成功させられたと思う。ファンアールトやファンデルプールに、10分差を与えてはならなかった。だって危険すぎるからね」(ポガチャル)

133.7km地点の中間ポイントは、当然のように、グリーンジャージ姿のカヴェンディッシュが1位通過を果たした。5年ぶりのツール区間勝利、しかもすでに2勝を上げ、第2の全盛期に突入した36歳大ベテランは、どうやら10年ぶりのマイヨ・ヴェールさえ本気で狙っている。第4ステージ勝利後に「去年から中間ポイントが山の『前』に設置されるようになった。ピュアスプリンターにとってジャージ獲りの難度が下がった」と分析したように、こつこつポイント貯金も厭わない。着実に20ptを手に入れ、ポイント賞2位以下との差を、望み通り46ptから65ptへと広げた。

共に逃げた同僚カスパー・アスグリーンのためにカヴェンディッシュが最後の力を尽くし、後方へと下がっていく頃、マテイ・モホリッチはすでに山岳ジャージのためのポイント収集を始めていた。走行距離が160kmを超えてからの最終盤に、山岳は5つ組み込まれていた。

さっそく1つ目の3級峠で、モホリッチは赤玉ジャージ用ポイント収集スプリントを切る。すると思いがけず……ブレント・ファンムールと2人きりになった。たしかに4日前にフィニッシュ手前200mまで逃げ続けた「デヘントの後継者」は、逃げの友としては最高に違いない。だからフィニッシュまではいまだ88km近く残っていたけれど、モホリッチは脚を緩めず、そのまま突っ走ることに決めた。2つ目の山も、悠々とモホリッチは先頭通過をさらう。

「最初の山岳ポイントの後に飛び出すつもりなんてなかったんだよ。だって単に山岳ジャージのためにスプリントしたんだから。でも、そしたら、距離が開いたから、思い直したんだ。行かない理由なんてある?ってね」(モホリッチ)

モホリッチとファンムールの背後では、マチューとワウトの対立がますます過熱した。年齢的にはわずか4カ月違いで、子供の頃からシクロクロスの世界でライバル争いを繰り広げてきた2人。近頃のクラシックでは壮大なライバル争いを繰り広げてきたものが、ついにグランツールでも周囲すべてを巻き込んだ激突を始めてしまった。互いのチームメート、つまりクサンドロ・ムーリッセとマイク・テウニッセンも、逃げ集団先頭で監視と牽引に勤しんだ。

「目標は逃げに乗り、ステージ勝利を追い求め、総合タイムを稼ぐこと。逃げ集団内でマチューの最大のライバルは僕だった。だから、もちろん、僕を先に行かせてはくれなかった」(ファンアールト)

ファンデルプールにとって、総合30秒差のファンアールトに加えて、1分49秒差のカスパー・アスグリーンも警戒すべき人物だった。モホリッチが飛び出して行った後は、「あらゆる飛び出しに反応できるわけない」と、区間争いは完全放棄。攻撃的で、それでいて守備的な戦いを繰り広げた。

「ミュール・ド・ブルターニュで区間を勝てたのは本当に最高だった。でも、今日は、異なるアプローチでレースを戦ったんだ。とにかくイエロージャージをキープしたかった。だから総合で近い選手……ワウトとアスグリーンの動きだけに反応した」(ファンデルプール)

2人+1の睨み合いから抜け出そうと、周囲は繰り返しアタックやカウンターを試みた。ただし上手く抜け出せたのは、3月のサンレモを制したストゥイヴェンと、5月のジロで逃げ切り勝利を決めたばかりのヴィクトール・カンペナールツだけ。それに、せっかく抜け出しても、前方ではモホリッチの厳しいテンポが待ち受けていた。こうしてカンペナールツは、3つ目の山に差し掛かると、あえなく脱落していった。

走行距離が230kmに達すると、いよいよ本日最大の目玉がやってきた。これぞツール初出場の激坂、シニアル・デュション。このまるで壁のような坂道で……懐かしい時代を思わせる鈴なりの観客の前で、モホリッチは残る2人も毅然と振り払う。 残り約18km。完全な独走態勢へと持ち込んだ。

ちなみに5つの山すべてで先頭通過を果たし、山岳ジャージを手に入れたモホリッチは、自慢のダウンヒルテクニックでも大いに魅せた。2013年U23世界選手権で披露した「モホリッチ乗り」はもとより、スーパータックポジションさえ今季UCIにより禁止されたが、プロトン屈指の下り巧者にとっては、特にハンデとはならなかったとのこと。むしろハンドルに腕を置くエアロポジションが出来ないせいで……長いステージの終わりに「背中がとてつもなく痛い!」そうだ。

フィニッシュラインを越える瞬間、瞳には涙が浮かんでいた。待ち構えていたチームスタッフに抱きとめられると、ついには我慢できずに声を上げて泣いた。26歳のモホリッチが、ブエルタ、ジロに続き、ツール・ド・フランスでも区間勝利を手に入れた。その3つの勝利は、とてつもないタフガイの証明でもあった。すなわち2017年ブエルタ第7ステージ、大会最長207km。2018年ジロ第10ステージ、大会最長244km。そして2021年ツール第7ステージ、大会最長249.1km!

モホリッチ

涙を拭いながらフィニッシュしたモホリッチ

「自転車には長いステージも時には必要だ。短いステージの方が時にエキサイティングではあるけれど、今日のステージはマイヨ・ジョーヌ争いのおかげですごく激しく面白い戦いになったと思う。最初から最後まで全力疾走で、僕も時間がたつのを忘れたほど」(モホリッチ)

モホリッチは5時間28分20秒の長くて短い1日を終え、その1分20秒後、ストゥイヴェンが2位でラインを越えた。さらに20秒後には、マイヨ・ジョーヌ集団が雪崩れ込んだ。区間3位のボーナスタイムはマグナス・コルトがさらい取り、自ずとマチューvsワウト+アスグリーンの3人の関係は、249.1km走った果てに一切変化はなかった。ただし総合ではワウトが1つ、アスグリーンが8つ順位を上げ、総合の上から3つの位置を3人が独占した。

「結果には最高に満足してる。また1日ジャージを守ることができたのだから。ただ僕は今大会に総合を争いに来たわけではない。それははっきりしてる。でも明日はあと1日、ジャージを守るために戦うつもりだ」(ファンデルプール)

本気で総合を争いに来た選手の中で、最上位5位につけるポガチャルとの差は、前日の8秒から3分43秒に広がった。「10分差」を与えなくなかったディフェンディングチャンピオンにとっては、上々の締めくくりだ。

後方集団内でも、ポガチャルはライバルたちの反撃を完全に封じ込めた。シニアル・デュションでピエール・ラトゥールが飛び出しを試み、なにより頂上間際でリチャル・カラパスが突撃に転じた。一昨春のジロ王者は、持ち前の力強い突進で、一時はライバルたちに30秒近い差をつける。しかしポガチャルを筆頭に総合勢が肩を並べる30人ほどの集団は、抜け駆けを許さなかった。フィニッシュ手前できっちりカラパスを回収した。

力なくフィニッシュしたログリッチ

力なくフィニッシュしたログリッチ

むしろ総合ライバルが1人、思いもかけない形で脱落してしまった。シニアル・デュションの坂道で、プリモシュ・ログリッチが集団からずるずると後退して行ったのだ!

しかもファンアールトは前線で戦いの真っ最中で、同集団にいたステフェン・クライスヴァイクとヨナス・ヴィンゲゴーは、それぞれに自らの立場を守るために奮闘中。つまりログリッチには、最後まで牽引してくれるアシストも、並走してくれる仲間もいなかった。大会3日目の落車で、「ミイラ男」と呼ばれるほど全身傷ついた昨大会総合2位は、最終的にはモホリッチから9分03秒、メイン集団から3分48秒遅れで苦難のステージを走り終えた。総合ではファンデルプールから9分11秒遅れ、ポガチャルから6分10秒遅れ。ログリッチが2年越しで抱く総合優勝の夢は、大きく遠ざかった。

そして翌日からいよいよツール一行はアルプスへと分け入る。せっかく夏らしくなったフランスの空は、残念ながら、再び雨雲に襲われるとの予報だ。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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