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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第20ステージ】誰かを支え続けてきた男の美しいグランツール初区間勝利!ダミアーノ・カルーゾ「今日は僕が世界で一番幸せな男だ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかグランツール区間初勝利のダミアーノ・カルーゾ
最後の山岳ステージまで、ジロは鮮やかな衝撃と感動に満ちていた。ベテランの総合2位は大胆な攻撃へと転じ、若き総合1位は冷静かつ堅実な走りを見せた。長年エースに尽くしてきたダミアーノ・カルーゾが、チームメートの献身で初めてのグランツール区間を勝ち取り、強力なアシストたちに守られたエガン・ベルナルは、優勝トロフィー「トロフェオ・センツァセンサフィーネ」まで残り30.3kmに迫った。
「僕は立派なプロフェッショナル選手だ。そう自負してきた。自分をチャンピオンだと思ったことなど一度もない。でも今日は、僕がチャンピオンになる日だった」(カルーゾ)
2021年ジロ・デ・イタリア最後のラインステージでもあった。すなわち3週間の戦いのいわゆる「決算日」。どうにか帳尻を合わせたい者たちが、それぞれに異なる分野で、果敢な攻めを繰り広げた。
まずはスプリンターたち。なにしろ、今大会ここまでどんなに早くても50km前後に設置されていた中間ポイントが、なんとこの日は16.9km地点に待ち構えていたのだ。しかも道はいまだ平坦なまま。たしかに第10ステージ以降、ペーター・サガンがしっかりとマリア・チクラミーノを着込んではいたが、この時点では、「計算上」はいまだ逆転も可能だった。
こうして平地巧者たちがスタート直後からかっ飛ばした。同賞3位フェルナンド・ガビリアは真っ先に飛び出し、2位ダヴィデ・チモライ擁するイスラエル・スタートアップネーションは逃げを積極的に潰して回った。
このスプリントが極めて重大なのは、中間ポイント賞首位ドリース・デボントと2位ウンベルト・マレンゴにとっても同じ。だからサガンが直接的ライバルを厳しく監視・牽制している隙に……まんまと両者がラインをかすめ取った!1位通過マレンゴ、2位デボント。ちなみに残り2.3km地点に組み込まれた2回目の中間ポイント、つまり今大会最後の中間ポイントを終え、そのまま6pt差でデボントが嬉しい中間ポイント賞を確定している。
ペーター・サガン
結局「ピュア」スプリンターたちは3位以下に追いやられた。サガンにとっては幸いだった。おかげでステージの終わりには、どんなに計算しても逆転は不可になった。2位以下との差は18ptで、最終日に発生するポイントは15pt。つまりミラノまで何事もなく完走を果たせば、サガンの7枚のマイヨ・ヴェールコレクションに、新たにシクラメン色のジャージが加わることになる。
今大会最後の逃げは、30kmほど走った後にできあがった。今大会の山岳ジャージ第1号ヴィンチェンツォ・アルバネーゼや3日目の勝者タコ・ファンデルホールンを筆頭に、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ、ルイス・フェルファーク、マッテオ・ヨルゲンソン、フェリックス・グロスシャートナー、ニコ・デンツが顔を並べた。デボントも滑り込んだ。
もちろんフーガ賞でダントツ1位を突き進むシモン・ペローも、母国スイス通過のこの日に逃げないわけには行かない。第3・5・7・10・13・18ステージに続く、なんと6度目のエスケープ。1年の半分は奥様の地元コロンビアで暮らす28歳が、最後の仕上げに88kmを付け加えて、堂々たる総逃げ距離783kmでミラノの表彰式に臨む。
残念ながら今大会11度目の逃げ切り勝利は、望めそうもなかった。わずか9人で逃げは締め切られた。後に続こうとトライした選手たちは、総合3位サイモン・イェーツ擁するバイクエクスチェンジや8位ジョアン・アルメイダ率いるドゥクーニンク・クイックステップに力づくで引きずり降ろされた。その後も両チームが厳しいタイム差コントロールを続け、逃げには最大5分20秒しか余裕を与えなかった。
この日最大の転機は、ステージ後半に待ち構える3つの難峠の、1つ目で訪れた。24kmかけて標高2000m超の山頂へと向かう長い山道で、逃げがあっさりと分裂し、DSMのデンツが後方へと下がっていった……その直後だ。残り65km。突如としてDSMがプロトン前方に集結した。5人で隊列を組み上げると、恐ろしい高速テンポを刻み始めた!
「僕らに失うものなんてなにもなかった。もはやマリア・ローザを脅かす位置にもいなかたし、それに今ジロの僕はあまり攻撃的に動けなかったから、前に行きたかった」(バルデ)
イェーツは「2つ目の山で動こうと思っていた」そうだが、総合6位ロマン・バルデは先手を打った。あっという間にメイン集団を小さく切り刻み、ライバルの「アシストたち」を後方へと吹き飛ばした。さらには逃げの残党5人から50秒遅れで山頂を越えると――山岳賞首位ジョフリー・ブシャールが、集団内でかろうじて6位通過を成功させる--、約20kmのダウンヒルへと全開で飛び込んだ。
細かく連なる九十九折の坂道を、DSM隊列は恐ろしい勢いで下り続けた。雪解け水のせいで、道路はところどころ濡れていた。まるで当然のように分断が発生する。クリス・ハミルトン、マイケル・ストーラー、そしてバルデのDSM3人の背後に、とてつもなく大きな穴が生まれた。
もちろんイネオス・グレナディアーズは、総合ですでに7分半以上離れているバルデを、慌てて追う必要はなかった。むしろ下り苦手な山岳最終補佐、ダニエル・マルティネスを絶対に失うわけにいかない。ベルナル曰く「リスクを冒したくなかった」。慎重に軌道を取り続け、穴は次第に大きくなっていく……。
と、この成り行きをチャンスと感じ取ったのが、総合2位カルーゾだ。ペリョ・ビルバオに引かれて、素早くイネオス隊列を追い越すと、そのまま猛然と前方へ突っ走った。フィニッシュまでいまだ52kmも残っていたというのに!
「予定なんかしてなかったよ。時に『幸運』にもこんなことが起こる。それをつかむためには、ほんの少しの『狂気』と、『インテリジェンス』が必要だ。DSMの攻撃を見て思ったんだ。こんな日には、なにが起こるか分からない。彼らについて行こう、って。そしてペリョと共に飛び出した」(カルーゾ)
DSMの3人と、バーレーン・ヴィクトリアスの2人は、すぐに逃げの5人に追い付いた。両チームのアシストは猛烈に牽引を続けた。イタリア代表チームで時にカルーゾと共闘してきたヴィスコンティや、サンウェブ所属時代にハミルトンやストーラーと同僚だったフェルファークさえ、積極的に作業に加わってくれた。
2つ目の山を上り終える頃には、すでにカルーゾとバルデの側にいるのは、ビルバオとストーラーだけになっていた。ただ山頂でもちょっとした幸運が待っていた。バルデの元所属チームAG2R・シトロエンのスタッフが、DSMのエースにボトルを手渡ししたのだ。ちなみに前方の4人が山岳ポイントを回収したのは、AG2Rブシャールにとっては大歓迎。山岳賞2位ベルナルに1ptも渡らなかったおかげで、この時点で最終マリア・アッズーラを確定させている。
上りで後続とのタイム差を50秒にまで開いたバーレーン&DSMのタッグにとって、小雨降る下りもまた、幸運でしかなかった。またしてもマリア・ローザは減速を余儀なくされた。もはや2人しか残っていないアシストの1人、マルティネスが遅れたせいだ。おかげでフィニッシュ手前7.3km、2021年最後の山に上り始める時点でも、いまだカルーゾとバルデは40秒の余裕を有していた。
「正直に言うと、今ジロで一番難解な状況だった。バーレーンが飛び出していったときも、僕らは上手くコントロール出来ていると考えていた。でも彼らは逃げを捕まえて、どんどんタイム差を開いていってしまった。どう制御するべきなのか、悩まされた」(ベルナル)
山の麓まで全力を尽くしたストーラーは、静かに後退していき、そこからはビルバオが最後の力を振り絞った。後方ではいよいよ2020年ドーフィネ総合覇者マルティネスが、ベルナルのための仕事に取り掛かっていたが、昨ジロ総合5位ビルバオも負けてはいなかった。残り6.5kmで力尽きるまで、後方とのタイム差はまったく縮まらなかった。
両手を上げてフィニッシュするダミアーノ・カルーゾ
「ペリョは本当によくやってくれた。僕の勝利の70%は、彼のおかげだ」(カルーゾ)
背中を軽くぽんぽんっと叩き、ビルバオに感謝の意を告げた後、カルーゾは毅然と山を上り始めた。かつては自らもヴィンチェンツォ・ニバリやリッチー・ポートのために働いてきた。アシストの苦労は痛いほど知っている。このジロだってそもそもミケル・ランダのアシストとして乗り込んだ。ただ大会5日目のランダ途中棄権で、突如リーダー役に押し上げられ、「結果を出さねばならぬプレッシャー」も理解した。だからプロ2年目からずっとツール・ド・フランスで総合エースを任されてきたバルデが、一切前を引かないことなど構わずに、自分のリズムを刻み続けた。
カルーゾは最後まで力強くありつづけた。なにやら開催委員の意図を感じさせるような、フィニッシュ手前2.3kmの中間ボーナスポイントを首位3秒で通過し(後方ではベルナルが3位通過1秒収集)、残り2kmではバルデを振り落とした。同じ頃メイン集団に留まっていたのは、もはやマルティネス、ベルナル、アルメイダ、イェーツだけ。前日の区間勝者イェーツは次第に遅れだし、3週目の山岳を多いに盛り上げたアルメイダも、残り1.5kmで千切れていった。
残り1km。マルティネスが驚異的な仕事を終え、背後の追走者はベルナルただ1人となり、この時点でもカルーゾはいまだ24秒のリードを保っていた。プロ人生たった3度目の……そして生まれて初めてのグランツール区間勝利を、ついに確信した。落車で3選手が次々とリタイアし、後半90日間をたった5人で戦い続けてきたチームに、今大会区間2勝目をもたらした。
「僕はこれまで一度も華やかな栄光を手にしたことはないし、いつだって他の選手のために働いてきた。ラスト1200mは、自分がこれまでの長い年月で積み重ねてきた努力をしみじみ思い返した。今日は僕が世界で一番幸せな男だ」(カルーゾ)
カルーゾの24秒後にベルナルは走り終え、マリア・ローザの3週目を支えたマルティネスは、35秒後にすべてのアシスト作業を終えた。同タイム4位でフィニッシュしたバルデは、「今日は本当に勝ちたかったから自分に腹がたつ」と吐き捨てた。アルメイダは41秒差、イェーツは51秒差だった。
マリア・ローザのベルナル
チームメイトと手を取り合って戦ってきた3週間は終わった。エガン・ベルナルは12日連続マリア・ローザを着用中で、攻撃的な走りを成功させた総合2位カルーゾは、首位とのタイム差を2分29秒から1分59秒へと縮めた。同時に3位イェーツに対するリードは20秒から1分24秒に開いた。もちろんイェーツと総合4位は3分44秒以上も離れており、3人の表彰台乗りはほぼ確定したと考えて良さそうだ。むしろ4位から8位までが渋滞気味。4位ウラソフ、5位バルデ、6位マルティネスの3人は49秒内にひしめき、今区間2つ順位を下げた総合7位のヒュー・カーシー、8位アルメイダまで含めても1分43秒差でしかない。
あとはたった1人で30.3kmを戦うだけ。すべては5月最後の日曜日、ミラノで決する。
「タイムトライアルは僕の専門分野ではない。上手くコントロールしていく必要がある。とにかく2分差で勝とうが、1秒差で勝とうが関係ない。大切なことはトロフィーに名前を刻むこと」(ベルナル)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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