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サイクル ロードレース コラム 2021年5月29日

【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第19ステージ】復調のサイモン・イェーツが3年ぶり4度目のジロ区間勝利に歓喜「体調問題も解決したし、今は最高な気分だよ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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両手を上げてフィニッシュするサイモン・イェーツ

両手を上げてフィニッシュするサイモン・イェーツ

大会序盤2週間は不調に苦しんだサイモン・イェーツが、大会の終わりに、ついに区間優勝の歓喜を味わった。その大会序盤2週間で着実にリードを積み重ねたエガン・ベルナルは、苦しみつつも、ひたすら冷静にコントロールに徹した。ミラノ到着を2日後に控え、総合トップ10の順位に一切変更はなかった。ただ1位から3位までのタイム差は34秒縮まり、2分49秒差となった。

「とにかく今の自分のベストを尽くしているだけ。もしも明日も脚があれば、トライする。約束は出来ないけれど、自分に果たしてなにができるのか、見ていこうじゃないか」(イェーツ)

5日前のロープウェイ落下事故の影響で、コースには変更が加えられた。ステージ中盤に予定されていた登坂距離長め+15%ゾーンを含む1級峠登坂が、プロトンの行く手から姿を消し、代わりに小さな4級峠が組み込まれた。ステージ距離も10km短縮され、167kmの短距離争へ姿を変えた。

つまりほんの少し難度が下がり、当然、一部の選手たちを勇気づけた。スタートから猛スピードの逃げ合戦が始まった。一時は25人ほどの大集団が遠ざかりかけた。しかもTT巧者レミ・カヴァニャが、ドゥクーニンク・クイックステップ仲間2人を連れて前に飛び乗った。すぐにイネオス・グレナディアーズの個人TT世界王者フィリッポ・ガンナが、体を張って食い止めた。

道は真っ直ぐで、障害物もなく、平坦で、しかも追い風だった。序盤30分はなんと時速55km以上で追いかけっこを続けた。幸いにも高速チェイスは、1時間程度で終わりを告げる。45km地点でローレンス・ワーバス、ニコラ・ヴェンキアルッティ、ジョヴァンニ・アレオッティ、マーク・クリスティアン、そしてクイントン・ヘルマンスとアンドレア・パスクアロンが飛び出すと、これが本日の逃げとなった。

残念ながら6人は、メイン集団から最大4分程度のリードしか奪えなかった。今大会ここまでの18日間で、個人TT1日と集団スプリント5日間、さらにベルナルの区間2勝を除くと、その他10日間はすべて逃げ切り勝利が決まってきた。しかしこんな連日の大盤振る舞いを、この日のチーム バイクエクスチェンジは許すつもりはなかった。総合3位サイモン・イェーツ率いるオージー軍団は、逃げが飛び出していくと、すぐさま牽引作業に乗り出した。

「チームはファンタスティックな仕事をしてくれた。今朝みんなが僕を奮い立たせてくれたんだ。区間獲りのために働きたい、って言ってくれた。スタート直後から逃げのコントロール作業を引き受け、厳しいテンポで走り続けてくれた」(イェーツ)

2日前の激勾配フィニッシュで、やはりイェーツと共に好調な脚を見せつけたジョアン・アルメイダとウルフパックの仲間たちも、やはりステージを引っ掻き回そうと意気込んだ。逃げには飛び乗れなかった代わりに、残り83km、1つ目の山頂を集団先頭で越えると..とてつもない高速でダウンヒルへ取り掛かった!

あまりに猛烈に下ったものだから、集団の細く長い隊列は、あっという間にところどころで千切れた。しかもイネオスの山岳最終アシスト、ダニエル・マルティネスが後方に取り残されたのを察知するや、さらにドゥクーニンクは速度を上げた。

特に「クレルモンフェランのTGV」カヴァニャの高速列車ぶりに、脱落組は大いに苦しめられた。たった10秒ほどの差を、平地で、どうしても埋めることができない。もはや最後の手段に頼るしかない、とばかり「トップガンナ」があえて後方へ脱落。マルティネスを引き上げるため、世界最高の脚を惜しみなく発揮した。おかげで残り60km、無事に集団はひとつにまとまる。

だから残り38.6km地点、2つ目の山頂では、今度はイネオスが先頭へと集結した。つまり前山の反省を活かして、ダウンヒルの主導権を握ることにした。ただ、あまりに安全に、抑えめに走りすぎたせいで、結局はドゥクーニンクに前をむしり取られてしまうのだけれど。

あとはひたすらバイクエクスチェンジとドゥクーニンク・クイックステップが、追走の責任をきっちり分け合った。先頭を交互に引いた。全長9.7kmの最終登坂には、逃げ集団をわずか17秒差にまで追い詰めていた。エースを勝たせる準備は完了した。

山道に入ると、アルメイダのために、ジェームス・ノックスが最後の力を振り絞った。2017年「U23のツール」ツール・ド・ラヴニールの山頂フィニッシュ区間で、ベルナルに次ぐ2位に食い込んだ英国人クライマーは、逃げで最後まで粘った英国人クリスティアンを回収しつつ、高速でテンポを刻み続けた。

そして勾配が、平均6.7%から一気に9%台に上がるタイミングで、エース自らが動く。残り6.8km、2日前と同じく並み居る総合勢に先駆けて、昨大会4位・現8位のアルメイダが飛び出した。

「チームのみんなは信じられないほどだった。完璧な仕事をしてくれたよ。僕自身は調子が良かったし、自信はあった。だから何が起こるかを見定めるために、早めにアタックしたんだ」(アルメイダ)

やはり2日前と同じように、ほんの数百メートル先で加速に転じたのがイエーツだ。マリア・ローザのベルナルの側には、いまだ3人のアシストが控え、ジョナタン・ナルバエスが先頭で黙々とテンポを刻んでいるタイミングだった。

サイモン・イェーツ

アタックを開始するサイモン・イェーツ

「イネオスのアシストたちは、テンポを刻んでいるだけで満足しているように見えた。それにツイッターかなにかで、エガンがより保守的に走り、僕についていくよりもコントロールするよう努力する、と言っているのを読んだんだ。だから今日は僕を行かせてくれるに違いない、そう感じた。アタックしてすぐに、それが正しかったことを理解した」(イェーツ)

そう、第14ステージのゾンコランでも、第16ステージ最終峠でも、20018年ブエルタ総合覇者のアタックに瞬時に張り付いたマリア・ローザが、この日はぴくりとも反応しなかった。残り6.4kmのイェーツのアタックに、総合11位ジョージ・ベネット、4位アレクサンドル・ウラソフ、さらには2位ダミアーノ・カルーゾが次々とついていくのを横目に、ベルナルはチームメートと共にマイペースを貫いた。

「たしかにアタックされて、タイム差が簡単に開いていく状況は簡単ではない。でも僕だってのろのろ走っていたわけじゃない。それに前方の選手もいずれ脚に痛みを感じて、少し勢いを落とすはずだと分かっていた」(ベルナル)

残り5.5km、ベルナルとのタイム差が15秒前後に開いた頃、イェーツはさらなる加速を切る。アルメイダを含む5人の先頭集団から抜け出すと、ステージ優勝めがけてついに独走体制に持ち込んだ。

一方でイェーツに置き去りにされた4人は、ベルナルの読み通り、急勾配で速度を保ち続けることは出来なかった。ジョナタン・カストロビエホの刻む高速テンポに引かれて、マリア・ローザはイェーツ「以外」を次々と回収していく。残り4kmではマルティネスが牽引に乗り出した。ステージ半ばで下り分断から救出されたクライマーは、総合3位の英国人にあまりにもタイムを与えてしまわぬよう、速度を一段階上げた。最大15%を含む最難関ゾーンで、同国の友を背負い、弱者を次々と蹴落としていった。

「大会の早い段階で積み重ねてきたリードを、今は、コントロールしていくべき段階なんだ。マリア・ローザは、僕だけのものではない。このジャージの背後には、チーム全体の仕事がある。だから僕のミスで、それを失いたくはない」(ベルナル)

だから残り2.5km、ついに1人になったベルナルは、ただ「マイヨ・ジョーヌ保守」のことだけを考えた。まずはウラソフとカルーゾを振り払いつつ、アルメイダと2人で先を急いだ。一時は30秒まで開いたイェーツとのタイム差を、17秒に縮めた。それから、区間勝利が欲しくてまだまだ先を急ぎたいアルメイダの後輪を外れると、残り500m、ひとり自分のペースを貫いた。

「もしかしたら5秒か10秒は早くフィニッシュできたのかもしれない。でもラスト数百メートルで全力を絞り出し、レッドゾーンに達することだけは避けたかった。そもそもそんなことをする必要はなかった。僕はまだ十分なリードを有しているし、明日の山と、明後日のTTのために、十分なエネルギーを残しておきたかったんだ」(ベルナル)

奇しくも3年前の第19ステージに大失速し、13日間守ってきたピンクジャージを剥ぎ取られたイェーツが、2021年大会の第19ステージに、3年ぶり4度目のジロ区間勝利をつかみ取った。1週目は大腿筋の痛みで、2週目は寒さと雨で思うような走りが見せられなかったが、3年前の「忘れ物」の一部は取り戻せたのかもしれない。

「ようやく、心から、ほっとしてる。体調問題も解決したし、今は最高な気分だよ」(イェーツ)

昨大会で15日間マリア・ローザを着たアルメイダは、11秒後にフィニッシュ。2日前に続く区間2位を本人は大いに悔しがるが、昨ジロの快進撃が決して偶然ではなかったことを改めて証明した。

ベルナルは区間3位で1日を終えた。明らかに調子が悪かった2日前にはイェーツから一気に57秒(53秒+ボーナスタイム4秒)縮められたが、この日は34秒(28秒+イェーツのボーナス10秒ーベルナルのボーナス4秒)と、被害を最小限に食い止めた。しかも総合2位カルーゾにはペダルで4秒+ボーナスタイム4秒を押しつけることも成功した。

レース後に笑顔を見せたベルナル

レース後に笑顔を見せたベルナル

「調子は良かったし、実際にいい走りをしたと思っている。自分の出来に満足しているんだ。明日は標高の高い山を越えるから、今日と同じような調子を保てるよう願ってる。とにかく2人に対するタイム差を、ただコントロールしていきたい」(ベルナル)

ベルナルはマリア・ローザ着用日数を11日にのばし、第3週目を総合5位4分20秒差で走り出したイェーツは、3位2分49秒差にまで順位もタイムも追い上げた。総合4位ウラソフ以下との差は3分22秒に開き、一方で総合2位カルーゾとの差はわずか20秒に縮まった。そして2021年ジロ・デ・イタリアの山の戦いも、いよいよ残すは1日。

「今一番大切なのは、このジャージを、ミラノのフィニッシュラインまでつれていくこと」(ベルナル)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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