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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第17ステージ】史上102番目の偉業!全3大ツールで区間勝利を成し遂げたダニエル・マーティン「今だって信じられない」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか表彰式に臨むダニエル・マーティン
この山を下見した時からなんだかスペシャルな気持ちを感じていた..というダニエル・マーティンが、激しい追い上げを交わし、見事な逃げ切り優勝をつかみとった。後方ではサイモン・イェーツとジョアン・アルメイダが大胆な攻撃に転じた。山の地形を正確に把握していなかったマリア・ローザのエガン・ベルナルは、今大会初めて、小さな苦しみを味わった。
「フィニッシュラインを越えるまで、自分が本当に勝てるのかどうか分からなかった。勝った瞬間に頭を振ったのは、ただただ信じられなかったからなんだ。今だって信じられない」(マーティン)
2度目の休息日が終わり、大会に生き残る151人が、2021年ジロ・デ・イタリア3週目へと走り出していった。悪天続きで身も心も疲弊したプロトンにとって、嬉しいことに、空には太陽が顔を出した。スタートと同時に多くの選手が全速力で走り出した。
なにしろミラノ到着まであと5日。つまり最終日の個人タイムトライアルを除けば、「逃げのチャンス」はあと4回しか残っていないのだ。いまだ区間勝利を探し求める12チームも、すでに勝利を手にした11チームも、猛スピードで前方へと突進した。序盤1時間の時速は52km超!
スタートから50km。ようやく19人の飛び出しが許された。複数チームが複数人(アンテルマルシェ・ワンティゴベール・マテリオ3人、ドゥクーニンク・クイックステップ2人、モビスター2人、UAEチームエミレーツ2人)を送り込んだ。総合12位・15分10秒差のダニエル・マーティンや、山岳ポイント収集に燃えるジョフリー・ブシャール、さらに地元っ子で「道の隅々を知っている」というジャンニ・モスコンも飛び乗った。メイン集団には最大5分半のリードをつけた。
もちろん、日々の逃げを盛り上げた「副賞争いのチャンス」も、あと4回だけ。だから途中2ヶ所登場する中間ポイントでは、逃げ4度目のドリース・デボントがきっちり先頭通過。中間ポイント賞で逆転首位に立った。しかもステージ前半の3級峠では、青ジャージのブシャールを差し置いて、山頂さえかすめ取る。これは山岳賞のためではなく、敢闘賞のためで、2区間前から首位を独走中だ。
そして翌日が平坦ステージであることを考えると、クライマーにとって、「勝利のチャンス」はあと3回。だから残り110km、メインプロトンを淡々と制御していたイネオス・グレナディアーズから、突如としてバイクエクスチェンジが主導権をむしりとった。3選手が最前列に駆け上がると、牽引を開始した。
「理由は逃げに乗り遅れたから。僕らステージ優勝が欲しかったんだ。後半1つ目の山岳に入る60km前から、仕事を開始した。必ずしも前を牽引したくはなかったけれど、区間を狙うためには、そうするしかなかった」(イェーツ)
その後半1つ目の山岳に入ると、長く、勾配の厳しい山道で、逃げ集団もメイン集団も着実に小さくなっていく。特に前方では、マーティンがとてつもなく厳しいテンポを強いた。駆け引きも、協力要請もせず、ひたすら毅然と突進を続けた。山の脚のない者は次々と後退し、モスコンとアントニオ・ペドレロだけが共闘を続けた。
また一旦は脱落したブシャールも、マリア・アッズーラのために、粘り強い追走を実らせた。山頂の手前で先頭に追い付くと、1級峠1位通過で40ptを回収。5度目の逃げのミッションを成功させた。2019年ブエルタ山岳賞は、何事もなければ、第19ステージのフィニッシュ地までは青いジャージを着て走ることができる。
フィニッシュ手前38.6kmの同山頂では、総合6位ジュリオ・チッコーネが、手痛いメカトラの犠牲となる。ただ素早いバイク交換と、トレック・セガフレードの仲間2人(しかもうち1人はヴィンチェンツォ・ニバリ)が待っていてくれたおかげで、下りを利用して素早く集団へ復帰する。
しかし、その直後、残り30kmを示すアーチの手前だった。すでに30人程度に小さくなっていたマリア・ローザ集団の後方で、ダウンヒル中に落車が発生。多くの選手が巻き込まれ、レムコ・エヴェネプールもガードレールに衝突した。追い付いたばかりのトレック3人組は、不運にも、全員地面に投げ出された。腰と左腕を強打しながらも、チッコーネはすぐに歪んだ自転車に飛び乗った。一時は45秒近い遅れを喫したが、15kmもの長い追走の果てに、再度の自転車交換と2度目のメイン集団復帰を成功させた。
チッコーネが合流する頃には、メイン集団の牽引役は入れ替わっていた。逃げ集団から脱落してきたドゥクーニンクの2人が、総合10位ジョアン・アルメイダのために猛然と働いていたのだ。フィニッシュ手前11.25km。最終峠の入り口で、ウルフパックは逃げ集団を約1分半にまで追い詰めた。
「1日中向かい風が強かった。特に谷間では、風のせいで逃げ集団の勢いが削がれてしまった。エネルギーを大いに消耗した。だから麓にたどり着いた時点では、飛び出してフィニッシュを目指すことに、それほど希望は持っていなかったんだ。でもすごく調子が良かったから、勾配のきついゾーンで高速を強いて、逃げの仲間を振り離した」(マーティン)
手前の山頂を4人でこなし、下りで6人にまで膨らんだ先頭グループだったが、最終登坂が始まるとすぐに、こうしてマーティンは1人になった。加速を切ったのは麓から1km程度の勾配15%超ゾーン。第16ステージで最後まで粘ったペドレロが、この日も最後までしがみついたが..ついには振り払われた。背後からメインプロトンが大急ぎで接近してくるのを覚悟しつつ、残り10km、マーティンは単独で山道を上り始めた。
4月中旬ツアー・オブ・ジ・アルプス出場の機会に、この山を下見に訪れていたマーティンは、そこから延々とひどい急勾配が続くこと、そして最終盤で突如として勾配が緩むことを知っていた。つまりジロ初登場のこの山を、どう走るべきなのかはっきりと理解していた。
苦しい表情を浮かべるダニエル・マーティン
「だから勾配の厳しいゾーンは自分のペースで登った。ただただ良いリズムを保ち続けた。それから、残り2.5kmから、本気の全力疾走に切り替えた」(マーティン)
厳しい勾配は、背後のメイン集団に壊滅的な被害を及ぼした。すでに1つ目の山で苦しんでいた総合4位アレクサンドル・ウラソフは、残り9kmで集団についていくのを止めた。「タイム損失を最小限に留めるために」、自分のペースで走ることを決意したからだ。同じ頃、ここまで2度の勇敢なる追走を成功させたチッコーネも、ついに千切れた。
勾配11〜12%台が延々と続く残り6kmほどになると、休息日前夜にジャンプアップを成功させた総合3位ヒュー・カーシー、7位ロマン・バルデ、9位トビアス・フォスがついていけなくなった。
ただ山の麓からイネオスが仕事を再開し、ラスト5kmのアーチの下では、前にいたモスコンが合流して牽引に加わったが、登坂速度自体はそれほど早くはなかったはずだ。なにしろ残り4kmに迫っても、ひとり先頭を突き進むマーティンとのタイム差は、ほとんど縮まっていなかった。
メイン集団でいち早く攻撃に転じたのは、レムコから解き放たれたアルメイダだった。昨大会はこの第17ステージまでマリア・ローザを守った22歳は、残り4.5kmで先行を始めた。続いて残り4kmでは、総合5位イェーツが動いた。3日前のゾンコランでもそうだったように、激坂で最も警戒すべき男の加速に、素早くベルナルは反応した。チームメートのダニエル・マルティネスもすぐに後を追った。
「イェーツについていこうと思ったんだ。でも、おそらく、僕はここで少しミスを犯した。ラスト2kmがそれほど厳しくないことをあらかじめ知っていたら、そこまで待ったかもしれない。エネルギーをもっと残せていただろうし、もっと速く走れたかもしれなかった」(ベルナル)
仲間に激励されながら走るベルナル
熱狂したファンが道の両脇を埋め尽くす山道で、突如それは起こった。マルティネスはしばらく何も気が付かぬまま突き進み、ライバルのイェーツは、「気がつくのが遅すぎたかもしれない」とちょっと後悔する。残り3.5km、勾配は18%。後ろを振り返ると、なんと..マリア・ローザが遅れていた!
イェーツとアルメイダは、前方へと大急ぎで走り去っていった。さらにイエーツは猛烈に何度も畳み掛けた。前に追いつくためであり、同時に後ろを引き離すためでもあった。もちろんベルナルより1つ年上のマルティネスは、「友人」の合流を待ち、減速し、前を引き、そして叱咤激励し続けた。
後方での出来事を監督から逐一無線で聞かされていたというマーティンは、目安にしていたラスト2.5kmに先頭でたどり着いた。下見時の計算では、ここで必要なリードは20〜30秒。そしてイエーツ&アルメイダに対する実際のリードは30秒。あとは作戦を最後まで遂行するだけだ。
フィニッシュ直後、安堵の表情を浮かべるダニエル・マーティン
「あらん限りの力を出して走る。そうすることで後ろから追い上げてくる選手のやる気を削ぐことができるからね。それに後方の選手が緩いゾーンで体力を回復して、再加速を切る可能性があることも分かっていたから」(マーティン)
冷静な頭と、それを実行できる強い脚とで、マーティンは山の上で勝利をつかみとった。今大会9人目の大逃げ勝者となり、12人目のジロ・デ・イタリア区間初優勝。もちろんすでにツールで区間2勝、ブエルタで区間2勝を上げているマーティンは、「全3大ツールで区間勝利」という偉業を成し遂げた史上102番目の選手となった!
ベルナルを振り払い先を急いだイェーツとアルメイダは、結局はマーティンには追いつけなかった。またイエーツは加速を繰り返しすぎたせいで、残り1kmでアルメイダに振り切られた。アルメイダは勝者から13秒遅れで、イェーツは30秒遅れで区間を終えた。
マルティネスに励まされながら走るベルナルは、しばらく先で、「自分のテンポで走る以外の選択肢はあり得なかった」総合2位ダミアーノ・カルーゾに追いつかれた。マリア・ローザにとって幸いだったのは、合流されたのが、ほぼ勾配が緩くなるタイミングだったこと。
「カルーゾの後輪に張り付いて、とにかく彼からも振り落とされないよう努力し続けた。だって彼は総合2位で、僕にとっては最も警戒すべき選手だったから」(ベルナル)
最後にクライマーでもオールラウンダーでもない、「パンチャー」ディエゴ・ウリッシが総合1位・2位に追い付いてくる衝撃もあったが..ウリッシとカルーゾが一緒にフィニッシュラインを越えた3秒後に、ベルナルとマルティネスも揃って1日を締めくくった。アルメイダからの遅れは1分10秒(+ボーナスタイム6秒)、イェーツからは53秒(+4秒)だった。
「満足しているよ。だって今日はそもそもイェーツ向きのステージだったし、それほど大きなタイムを失わなかったから。総合2位のカルーゾからは、ほんの数メートルしか遅れなかったし。もちろんイェーツは1分近く戻してきた。それでもリードはまだ残っている。僕らはただ地に足をつけ、ミラノまで集中し続けるだけ」(イェーツ)
休息日明けのとびきりハードな1日の終わりに、総合首位ベルナルと総合2位カルーゾとのタイム差は2分24秒→2分21秒に、3位にジャンプアップしたイエーツとの差は4分20→3分23秒に縮まった。ただ4位以下とのタイム差は、前日までの4分18秒から、6分03秒に大きく拡大。つまり数日前までは「まだまだ注意すべき選手はたくさんいる」と語っていたマリア・ローザだが、警戒範囲は大幅に絞り込まれた。
アルメイダが順位を2つ上げ、総合8位へと浮上したこの日、同僚エヴェネプールはグルペットで帰ってきた。たくさんの切り傷と打撲を負い、21歳の神童は、チームドクターからの助言に従い今区間限りでの帰宅を決めた。ベルナルから1時間03分12秒遅れの総合27位で、初めてのグランツールを去る。また第15ステージ勝者ヴィクトル・カンペナールツは出走せず、レミ・ロシャスが途中リタイアしている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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