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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第14ステージ】バッソとコンタドールに導かれたフォルトゥナートがゾンコランを制圧!「この2人は、それこそ全てを勝ち取ってきた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかロレンツォ・フォルトゥナート
プロ初勝利がゾンコランとは、なんたる幸運の星の下で生まれたのだろう。イヴァン・バッソとアルベルト・コンタドールという大チャンピオンに導かれ、ロレンツォ・フォルトゥナートは自転車界屈指の激勾配を征服した。逃げ切りを見送った背後では、エガン・ベルナルが再び最強の証明を行った。総合2位以下とのタイム差を1分半以上に開き、マリア・ローザの座をさらに固めた。
「朝、チームバスで、イヴァンに言われた。今日は逃げに乗れ。そしてゾンコランでアタックし、優勝しろ、と。だからその通りにやった。彼は僕以上に僕を信じてくれたんだ!」(フォルトゥナート)
予想以上にあっさり逃げは決まった。真っ先に試みたヴィクトル・カンペナールツやトーマス・デヘントは、すぐに引きずり降ろされたが、スタートから10kmほどで11人が飛び出した。これが本日の逃げ切り集団となった。
後を追いたい選手たちはまだまだたくさんいた。激しい抵抗が繰り返された。前も後ろも高速で走り続けた。しかし35km地点前後で、マリア・ローザ擁するイネオス・グレナディアーズとマリア・チクラミーノのペーター・サガンが集団先頭に整列。アタック合戦を強制的に終了した。
かといってのんびりムードに包まれたわけではない。10kmほど先でタイム差が5分に広がると、総合2位アレクサンドル・ウラソフ擁するアスタナ・プレミアテックが隊列を組み上げた。恐ろしく厳しいテンポを刻んだ。
「アスタナは区間勝利を狙っていたんだ。しかも彼らは、僕たちも区間勝利を狙うつもりがあるかどうか聞いてきた。だから、僕らとしては逃げが前にいてくれたほうがありがたいんだけど、って答えたんだ」(ベルナル)
そのせいで逃げ出したアンドリー・ポノマル、ヤン・トラトニク、レミ・ロシャス、ヴィンチェンツォ・アルバネーゼ、ロレンツォ・フォルトゥナート、ジョージ・ベネット、エドアルド・アッフィニ、ネルソン・オリヴェイラ、バウケ・モレマ、ジャコポ・モスカ、アレッサンドロ・コーヴィの11人は、決して気が休まらなかった。とにかく猛スピードで先頭交代を続けた。幸いだったのは、ユンボ・ヴィスマ、トレック・セガフレード、エオーロ・コメタが2人ずつ前に送り込んでいたこと。当然、山に強い一方(ベネット、モレマ、フォルドゥナート)のために、チームメート(アッフィニ、モスカ、アルバネーゼ)が献身的な牽引作業に携わった。おかげで最大9分もの大差をつけた。
残り約55km。2級峠を越えた直後のテクニカルな下りを利用して、アスタナが集団を切れ切れに引き裂いたこともあった。前に踏みとどまったのはウラソフを含むアスタナの4人に..ペリョ・ビルバオ、ジョナタン・カストロビエホ、そしてピンクジャージのエガン・ベルナルだけ!
総合1位と2位に先行を許してしまったのだから、総合ライバルたちは、必死の追走を余儀なくされた。しかも大部分の総合上位勢が15秒ほど後ろの大集団にいたのだとしたら、2020年8月の下り大落車が記憶に新しいレムコ・エヴェネプールは、一時は40秒近い遅れを食らってしまう。ただ幸いにも道はまだまだ長かった。当然ながら、イネオスの2人が、アスタナに手を貸すこともなかった。ほんの10kmほどの追走だけで、全ての総合上位勢はひとつの集団にまとまった。
この小さな分断劇の影響で、タイム差は一気に5分以内に縮まってしまう。しかし逃げ切りたいなら、モレマの計算によると、「麓で少なくとも5分」必要だった。だからこそアッフィニとモスカは、最後まで、持てる力を全てエースに捧げた。おかげで全長14.1kmの最終登坂に突入した時点で、逃げ集団はいまだ約6分半のリードを保っていた。
ただ2人が後方へ静かに脱落していった後..、集団内で最も実力者であるはずのベネットもモレマも、残念ながらなにもできなかった。ただ互いに顔を見合わせるばかり。どうやら壮絶な警戒合戦をしていたわけでもなかったらしい。前者は「山の麓でもはや体力がなくなっていた」し、エアロバイクから山用軽量バイクに乗り換え準備万端のはずだった後者は、「勝てるだけの脚がなかった」と告白している。
そんな強豪たちを横目に、残り11kmから、マイペースで上り始めたのがトラトニクだ。本来は「カルーゾにもしものことがあった時のため」の前待ち要員だったが、少しずつ、着実に、逃げの仲間を引き離していく。残り10km、タイム差が20秒ほどに開いたところで、フォルトゥナートも動いた。単独で前を追いかけ、ラスト7kmで、望み通りに合流を果たした。
翌日に母国スロベニア通過を控えるトラトニクと、第5ステージで地元通過を満喫したフォルトゥナート。体型も脚質もまるで違う2人は、対照的なペダリングで、黙々と山を上り続けた。そして山頂まで残り3km、勾配が一気に平均13%台に跳ね上がると、ついに両者の歩調に差が生まれた。昨ジロで逃げ切り勝利を手にしたトラトニクは、決して折れてしまったわけではない。TT巧者はあくまでマイペースで、勾配27%ゾーンはジグザグ走行で凌ぎながら、つかず離れず上を目指し続けたのだ。
「人生最長の3kmだった。まさにネバーエンディングストーリー。ひどくきつかった。ライバルは目の前にずっと見えていた」(トラトニク)
しかし幸運は..フォルトゥナート(=幸運な)に訪れた。生まれて初めてのグランツールで、生まれて初めての逃げを成功させようと、ひたすらペダルを力の限り踏み続けた。
「最終3kmが最もきついことは、よく理解していたんだ。だからギリギリまで加速を待った。あとはフィニッシュまで全力を尽くした。勝利を確信したのは、ラスト150m。監督から無線で『よし、あとはスプリントだ!』と声をかけられ、その後ろではイヴァンが叫ぶ声が聞こえた」(フォルトゥナート)
ゼネラルマネージャーを務めるイヴァン・バッソが、チームカーの中で叫んでいたのだとしたら、創設者アルベルト・コンタドールはTVの前で叫んでいた。2013年に育成チームとして誕生し、2018年にコンチネンタル登録、そして今年からプロチームに昇格したばかりのエオーロ・コメタは、プロ初年度に初めてのグランツール出場招待状を手にした。さらにはチームにとって初のグランツールステージ優勝さえも、早々とつかみ取った。
「チームなしでは、決してこの素晴らしい成績を手にすることはできなかった。チームに関わる全ての人に感謝したい。もちろんイヴァンとアルベルトにも。僕はゾンコランを勝ったけど、この2人は、それこそ全てを勝ち取ってきた」(フォルトナート)
そう、バッソは、2010年にゾンコランを制している。一方のコンタドールは2011年、マリア・ローザ姿で、ここで直接的ライバルを振り払った。そして2021年のマリア・ローザは、残り10kmを切ると、ついにアスタナから制御権をむしり取った。序盤からせっせと働いてきたせいか、すでにアシストを2人しか残していないウラソフに対して、ベルナルにはいまだ4人の頼もしい味方がついていた。イネオス精鋭軍はいつも通りに厳しい勾配で厳しいテンポを刻み、徐々に集団を削っていく。
残り約1.5km。昨ドーフィネ総合覇者ダニエル・マルティネスが、先頭集団を15人ほどにまで絞り込んだあとだった。勾配20%ゾーンで、サイモン・イェーツが鋭いアタックを打つ。ベルナルは苦もなく後輪に飛び乗った。
イェーツの後輪に乗ったベルナル
「ライバルの中で、一番アタックを打ってくる可能性が高いのは、イェーツだろうと予想していた。ゾンコランは彼向きの上りだからね」(ベルナル)
大会序盤は調子が上がらず、最初の10日間を総合9位で折り返したイエーツだったが、今日は「1週目よりも脚の調子が良かった」。ここまでに失ったタイムをできる限り取り戻すため、2018年ブエルタ総合覇者は、とにかく大急ぎで前進を続けた。一方のベルナルはただ背後に潜んでいた。
「僕は上手くやったと思うよ。すごい高速ステージだったけれど、1日の大半を、上りの大部分を、後輪で過ごすことが出来たんだからね。イェーツがアタックした時に、ついていけたのも幸いだった」(ベルナル)
しかしベルナルは、最終的には後輪から飛び出していくのだ。フィニッシュまで約300m。おそらく勾配が最も厳しいゾーンでイェーツを素早く振り払うと、迷わず山頂へと駆け上がった。逃げた11人のうち、8人を回収し、フォルトゥナートから1分43秒遅れの区間4位でフィニッシュ。総合勢の中では、もちろん1等賞だった。
イェーツは11秒差に甘んじたが、それ以外の総合ライバルからのタイム回収は成功した。またカルーゾとジュリオ・チッコーネは両者とも「ひたすら自分のペースで走った」ことが功を奏し、ベルナルから39秒遅れで被害を最小限に食い止めた。ダニエル・マーティンは44秒差、エマヌエル・ブッフマンは46秒差。昨秋スペインの魔の山アングリルを勝ち取ったヒュー・カーシーは、イタリアの魔の山では54秒もの遅れを喫した。
またチームの働きに応えられず、ウラソフは、ベルナルから1分12秒ものタイムを失った。イェーツのアタック時に「追いかけようとして、少し力を振り絞りすぎたのかもしれない」と反省する。総合トップ10内で真っ先に脱落したエヴェネプールは、マリア・ローザのちょうど1分半後に苦しい1日を終えた。
総合ではイェーツが5位から2位へと一気にジャンプアップ。ただしマリア・ローザまでの距離は1分22秒から1分33秒へ遠ざかった。ベルナルにとっては、前日まで2位との差は45秒だったから、リードは約2倍に広がったことになる。
苦悶の表情を浮かべてフィニッシュしたベルナル
「僕はとにかく冷静に走ろうと心がけた。だって総合で好ポジションにつける僕には、あらゆる山岳ステージでアタックする必要なんてない。ただ冷静に、辛抱強く過ごす必要があるだけ」(ベルナル)
もしかしたらマリア・ローザ争いは、すでに終わってしまったのかもしれない。ならば表彰台争いは、これからが本番。本来は激坂苦手なカルーゾが総合3位(1分51秒)を守った一方で、ウラソフは2位→4位、カーシーは4位→5位と順位を落とした。カーシーはすでにマリア・ローザとは2分11秒差がついたが、表彰台まではいまだ20秒差と、それほど遠くはない。
この日の朝、昨大会2位のジャイ・ヒンドレーが「サドル痛」を理由に大会を離れ、レース中の落車で2013年ブエルタ山岳賞ニコラ・エデが途中棄権。またドロミテ山塊への突入をきっかけに、3人のスプリンター&発射台役が帰宅した。ロット・スーダルは5人目が大会を去り、とうとう3人になった。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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