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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第13ステージ】5年前の悔しさを晴らす待望のグランツール区間初勝利!ニッツォーロ「自分に勝てるポテンシャルがあることは、ずっと分かっていた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかフィニッシュ後のジャッコモ・ニッツォーロ
起伏もなく、風もなく、危険なカーブもなく。2日連続で激しいバトルを繰り広げた選手たちにとっては、絶好の骨休めとなった。スタート直後にサムエーレ・リーヴィ、ウンベルト・マレンゴ、そしてシモン・ペローのいわゆる「常連」3人の飛び出しを見送ると、メイン集団内ではのんびりとした時が流れた。
しかもプロトン前線では、序盤20km以上にも渡って、ベルギー3人衆..つまりドリース・デボントとトーマス・デヘント、ヴィクトール・カンペナールツがおしゃべりに花を咲かせた。2つ目の中間ポイントでの出来事を考えると、もしかしたら、ちょっとした悪巧みの相談だったのだろうか。
スタートから30km近く走り、タイム差が7分に開いてから、ようやくスプリンターチームが牽引作業に乗り出した。真っ先に集団先頭へ人員を送り出したのはコフィディス。なにしろエーススプリンターのエリア・ヴィヴィアーニは、前日、東京五輪開会式でのイタリア選手団旗手に指名されたばかり。しかも2016年五輪オムニアム金メダリストにとって、この日のフィニッシュ地ヴェローナはまさに地元。つまり五輪旗手、地元、そしてど平坦という3つの条件が重なった「夢のような1日」を、絶対に勝利で締めくくりたかった。
しばらく先でユンボ・ヴィスマとUAEチームエミレーツ、さらにはクベカ・アソスも1人ずつ牽引要員を提供した。ただ、あくまでも、淡々と制御に務めた。逃げ集団には、最大8分近いリードを許した。
おかげで前を行く3人は、思う存分、副賞バトルを繰り広げた。特に5度目の逃げとなるペローとマレンゴは、中間スプリント賞とフーガ賞でそれぞれ1位と2位につけている。3度目のリーヴィだって、順調に得点を積み重ねていた。
こうして1度目の中間ポイントでは、スプリント苦手なペローがとてつもなく遠くから仕掛けた。しかし他の2人に追いつかれ、あえなくマレンゴに1位通過をさらわれた。するとペローは、入れ替わるように、独走へと打って出た。逃げ距離を稼ぐ作戦だ。最終的には17km先でライバル2人に捕らえられるが、フーガ賞ランキングには、望み通りこの数字が反映された。
リーヴィは大胆に一石二鳥を獲りに行った。マレンゴとペローに対する中間賞&フーガ賞の遅れを取り戻そうと、第2中間ポイントの少し前で、独走体制に持ち込んだのだ!たしかに狙い通り、中間ポイントは首位で通過した。ただし単独走行は3.5kmで打ち止め。規則により5km以下の逃げはフーガ賞の対象とはみなされないため、残念ながら、努力の半分は水の泡に。
最終的には、2度目の中間ポイントでもペローに先んじて2位に滑り込んだマレンゴが、総得点54ptで中間ポイント賞首位に躍り出た。ペローは2位47pt、リーヴィは5位29pt。またフーガ賞は、今区間191km逃げたペローが、総距離695kmとダントツ1位を突き進む。174kmを加えるに留まったマレンゴは2位648km、同じくリーヴィは3位414km。ペローとマレンゴは敢闘賞でも総合1位と2位につける。
メイン集団も、2つの中間ポイント前後はだけは活気づいた。1つ目を盛り上げたのはもちろん、スプリンターたち。マリア・チクラミーノランキング上位4人が、残されたわずかなポイントを分け合った。2つ目は少々趣向が異なった。休日明けから2日連続で逃げ、あっさり中間ポイント賞3位につけていたデボントが、プロトン首位=4位でラインを通過する。
と、そのタイミングで、今ステージ序盤の「談笑仲間」デヘントが突如として猛烈な加速に転じた。しかもここにレミ・カヴァニャやらトニー・ガロパン、アレクシー・グジャールといった強脚が共鳴してしまったものだから、集団は軽いカオスに包まれた。プロトンは一列棒状に長く長く伸び、あちこちで小さな亀裂も生まれた。
大部分の選手にとって幸いなことに、ほんの3kmほどで試みに終止符は打たれた。予定通りに集団スプリントに持ち込みたい数チームが、中でもユンボが積極的に立ち回り、再びプロトンは秩序を取り戻した。この時点で残り50km。もう少しだけ、静かな時間は続く。
おかげでジロ初出場のダヴィデ・ガッブロは、フィニッシュ手前21kmに迫っていたというのに、地元通過を思う存分楽しむことができた。第10ステージで激しく落車しいまだ全身傷だらけの28歳は、集団前方で沿道の声援にたっぷりと応えた。
残り8.5m、クベカが集団最前列で隊列を組み上げ、猛烈にスピードを上げる。集団はついに勝負モードへと切り替わった。残り7kmで朝からの逃げ3人を回収しつつ、2021年ジロ・デ・イタリア5度目の、そして(もしかしたら)最後の集団スプリントへと、全速力で突き進んだ。
「先頭を奪ったのは、ロータリーが多かったせいなんだ。かなり早い動きだったけど、最終盤を問題なく、安全に切り抜けたかった。それが上手く行った」(ニッツォーロ)
そう、ラスト3kmにはひとつもカーブがない代わりに、いくつか大きなロータリーが待ち受けていた。緩やかな出入りを繰り返すうちに、結束力が乱れたチームも多かった。その筆頭がユンボ・ヴィスマ。残り1km地点までは3人でしっかり連結していたにも関わらず、残り700m、最後のロータリー突入時にライバルたちに次々と割って入られ、抜け出す頃には..ディラン・フルーネウェーヘンは10番手ほどに沈んでいた。一方の発射台エドアルド・アッフィニは、最前列を突っ走っていた。しかも全速力で!
アッフィニとニッツォーロに一騎討ち
「猛スピードの中、どこも先頭に出ようと競り合っていた。そしてラスト700mで、僕は抜け出すスポットを見つけたんだ。だから前に出た。ディランのために。でも気が付いたら後ろには誰もいなかった!どうしたらいいのか一瞬分からなくなった」(アッフィニ)
「そのまま行けーー」との無線の声で我に返ったアッフィニは、フルスピードで前進を続けた。ただ一瞬もためらうことなく、はるか後方から、ニッツォーロが猛烈に追いかけてきた。残り400mで、全身に風を受けるのも構わずに。フィニッシュラインではなく、少し先を突き進むライバルを「照準」に定めて。
「今日は負けるリスクをあえて冒した。遠くから飛び出した。それこそが僕を勝ちへと導いた。それに、誰かを追いかける、という動きが僕には良かったんだと思う」(ニッツォーロ)
残り300mで道路左端の塊の中から、フェルナンド・ガビリアが加速したのを察知するや、ニッツォーロはすぐに軌道変更して背後に入り込んだ。それから残り150mで、今度は、右端を突き進むアッフィニの背中へと向けてジャンプした。
「できる限りぎりぎりの距離でアッフィニをとらえるよう心がけた」(ニッツォーロ)
50mまで後輪に留まり、残り20mで横に並び、そしてとうとう追い抜いた。今ステージ出走全164選手中、正真正銘1番目で、ニッツォーロがフィニッシュラインを越えた。
今ステージが初めてのグランツール区間勝利だが、実はフィニッシュラインを先頭で駆け抜けたことなら、1度だけある。2016年ジロ最終ステージの、12人による小さな集団スプリント。「斜行」で他の選手の進路を妨害したとして、1位から12位へと降格処分が下された。あの日のニッツォーロは「今日は自分こそが最速だったことを知りながら、家に帰るんだ」と、悔しさをにじませたままポイント賞表彰式に臨んだものだ..。
フィニッシュ後に右手を掲げるジャッコモ・ニッツォーロ
「あの日の勝利は、僕のものだと思っていた。でも審判の判断は異なった。あの後だって何度も、勝てる、という状況はあったさ。でもいつもミスを犯してしまった。それでも、自分に勝てるポテンシャルがあることは、ずっと分かっていた」(ニッツォーロ)
所属チームのクベカ・アソスにとっては、第11ステージに次ぐ嬉しい2勝目。また初々しい喜びが多く見られる2021年ジロで、なんと9人目のグランツール初勝利選手となった。
「喜ぶべきなのかがっかりすべきなのか分からない」 と戸惑うアッフィニは、第1ステージの個人TTに次ぐ、今大会2度目の区間2位。発射台を見失い、10位で終えたエースのフルーネウェーヘンは、自身のSNSにて今区間限りのジロ離脱を発表した。きっちり3位に食い込んだサガンは、ポイント賞首位を堅守。結果的にニッツォーロの発射台となったガビリアは5位。ラスト1kmは「サドルなし」の状態で走っていた。そしてヴィヴィアーニは9位で、夢の1日を終えた。
総合勢は集団内で問題なくステージを走りきり、エガン・ベルナルは5回目のマリア・ローザ表彰式に臨んだ。
「ここ2日のステージから回復するために、ベッドで過ごしたいほどだったよ。でも今日の静かなステージのおかげで、少しリカバリーすることができた。こんな1日を誰もが欲していたんだと思う」(ベルナル)
フレッシュな肉体を取り戻したベルナルが、24時間後に挑むはゾンコラン。最大勾配27%の激坂バトルの終わりに、総合2位以下とのタイム差45秒は、どう変動しているだろうか。ちなみに2019年ツール総合覇者は、下見でも、実戦でも、この山に上ったことはない。
「ジロではどんなことでも起こり得る。僕自身も注意深く走らねばならない。地に足をつけていく。タイム差を開くチャンスがあるなら、逃すつもりはない」(ベルナル)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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