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【ジロ・デ・イタリア2021 レースレポート:第10ステージ】ペーター・サガンが見事な走りで区間勝利!マリア・チクラミーノに袖を通し「この勝利には本当に満足している」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマリア・チクラミーノのサガン
お手際お見事。自らの得意な地形で、おなじみの強硬手段に訴えたペーター・サガンが、パワフルに今ジロ1勝目をもぎ取った。総合争いはほぼ「1日早い休息日」ながら、一瞬だけバトルが激しく燃え上がった。中間ポイントでボーナスタイム争いが巻き起こり、総合首位エガン・ベルナルと2位レムコ・エヴェネプールのタイム差は、ほんの1秒だけ縮まった。
「チームメート全員に感謝しなきゃならない。すごい仕事を成し遂げてくれたし、終盤2峠は全力を尽くしてくれた。そして最後には僕が勝った。ありがとう、チームメートたちよ」(サガン)
難関山岳と休息日に挟まれた、いわゆる移動日。いつもより1日長い大会1週目の締めくくりは、スタート直後にあっさり逃げが出来上がった。
飛び出した5人は、いわゆる逃げの常連ばかり。第3ステージで大逃げ勝利を決めたタコ・ファンデルホールンに、今大会2度目の逃げに乗ったサムエーレ・リーヴィとコービー・ホーセンス、さらには4度目の逃げというシモン・ペローとウンベルト・マレンゴ!
全長139kmという短距離走のせいか、後方メインプロトンはそれほどのんびりはしなかった。わずか5kmほど走った時点で、複数のスプリンターチームが早々に集団制御に乗り出した。ユンボ・ヴィスマ、アルペシン・フェニックス、コフィディス、クベカ・アソスというスプリンターチームが1人ずつ牽引役を提供し、少し先でUAEチームエミレーツも作業分担を買って出た。熱心に仕事をしすぎて予想以上に差を詰めてしまったこともあったが、大抵は2分〜2分半程度に抑え続けた。
逃げ切りの可能性はほぼなかった。ただ逃げ常連にとって、前を走る理由は1つではない。たとえばジロには異なる賞が用意されている。つまり「中間スプリント賞」であり、この日1つ目のポイントでは、3つの招待チーム所属選手が激しく競り合った。リーヴィが1位通過で総合5位に浮上し、一方で2位マレンゴは総合2位の座を、3位ペローは総合1位の座を死守した。
だからこそ中間ポイントから1kmほど先の踏切で、遮断器が下り、1分近く足止めを食らったのは痛かった。UCI国際自転車競技連合のルール(2.3.035)では、「30秒以上のリードをつけている逃げ選手/集団が踏切で停止し、遮断器がいまだ閉まっている時点で他のグループに合流された場合、同じタイム差を保持したままレース再開されなければならない」と定められている。その時点で5人は2分45秒差をつけていたが、遮断器が閉まっている間には追いつかれなかったから……つまりメインプロトンは停止する必要はなかった。踏切が開いた後、まるでなにもなかったかのようにレースは再開された。プロトンとの差は1分半に縮まっていたというのに!
その後、再び、タイム差は最大2分15秒にまで広がる。ただこの事件さえなければ、5人の逃げ距離はあと数キロ延びていたかもしれない。「フーガ賞」だって大切な賞だ。最終的な逃げ距離はペロー96km、マレンゴ86kmに留まった。それぞれが総合1位408km、2位388kmにつけている。
ただし逃げる5人にとどめを刺したのは、ボーラ・ハンスグローエだ。そこまで姿を潜めていたサガン親衛隊が残り60km、突如としてプロトン最前列に詰めかけると、猛烈なスピードアップへと転じた。4級峠を含む軽い起伏を利用して、「ピュア」スプリンターたちを吹き飛ばす作戦だ!
「道がハードな方が、僕の勝機は高まる。最初のスプリントステージはひどく平坦で、その次はリズムがかなり遅かった。ユアンが2勝目を上げた日は、僕も調子が最高に良かったけれど、フェンスに接近しすぎた。落車しなくて幸運だったよ。そして今日は、本当に、僕の脚質に向いていたんだ」(サガン)
小さな丘で真っ先にディラン・フルーネウェーヘンが千切れた。4級山岳の途中で逃げ集団を回収しつつ、数日前から体調不良にあえぐ第2区間覇者ティム・メルリールを後方へと突き離した。同じ山道でフェルナンド・ガビリアの発射台マキシミリアーノ・リケーゼが落ち、ついには今大会2位x2回のジャッコモ・ニッツォーロが遅れ……。
この欧州チャンピオンは、勇敢にも集団復帰を試みた。長く緩やかな下りを利用して、チームメートのTT巧者ヴィクトール・カンペナールツと共に必死の追い上げを試みた。しかしプロトンは近づくどころか、どんどん遠ざかっていく。今大会ここまで5位、3位、4位のサガンが指揮するボーラに、区間2位×2回のダヴィデ・チモライ擁するイスラエル・スタートアップネーションが協力し始めたせいだ。残り25km、とうとうニッツォーロは追走の足を緩めた。
「全員を振り落とすには十分じゃなかった」と勝利後にサガンは振り返ったが、いやいや、ボーラの強いるスピードがあまりに恐ろしいものだから、前日未舗装ゾーンまで逃げたジョフレ・ブシャールさえ4級峠で脱落した。つまり山岳ポイントを重ねるどころではなかった。青ジャージ保持者にとって幸いなことに、集団内にも、前に飛び出せるライバルはいなかった。ただ先頭を牽引するボーラ隊列が、山頂アーチの下を、機械的に通り過ぎていっただけだった。
代わりに残り17.8kmの中間ポイントが、大いに盛り上がった。15秒差で総合2位につけるエヴェネプールが、第2ステージでも企てたように……ボーナスタイム収集へと走り出たからだ!
マリア・ローザ親衛隊も黙ってはいない。フィリッポ・ガンナがベルナルを連れて前進し、敵を引き離しにかかった。神童が自らの脚で穴を埋め、そのままスプリントに転じると、今度はジョナタン・ナルバエスがもがき、ライバルの先頭通過を阻止した。エヴェネプールは2位通過で2秒を手に入れ、ベルナルは3位通過で1秒獲得。スプリント直後には、若き2人は、さわやかに互いの奮闘を称え合った。
「もしかしたら僕自身でスプリントする必要はなかったのかもしれない。だってジロは1秒で決まるものじゃない。難関山岳に行けば、分単位の差がつくはずだからね」(ベルナル)
もちろんステージは本物のスプリントで締めくくられた。残り1.5kmに折り畳まれた4つのカーブを上手く抜け出そうと、最前線にスプリンターを残すチームが、熾烈な位置争いを繰り広げた。もしもの事態を避けるために、ルイスレオン・サンチェスが総合3位アレクサンドル・ウラソフを連れ、前に駆け上がる場面さえ見られた。
残り1kmの左直角カーブで、恐れていた落車が発生する。地面に落ちたのは幸いにも1人だったが、集団は割れた。難を逃れ、前方で勝負を続けられたのは、たったの14人だけ!
すべてのカーブを先頭でこなしたボーラは、いまだサガンのそばに2人のアシストが控えていた。やはりアシストを残していたのは、エリア・ヴィヴィアーニとガビリアだけ。そのヴィヴィアーニ発射台シモーネ・コンソーニが500mから先頭牽引を試みると、ガビリア発射台フアン・モラノは、むしろ400mから不意打ちロングアタックへと転じた。
昨大会第10ステージに続くジロ区間2勝目をあげたサガン
距離を埋めに突進したのはサガンだった。しかもモラノを自らの発射台代わりに一気にトップスピードへ乗ると、そのままラスト150mの右カーブから、勢い良く最終ストレートへと飛び出した。後輪に張り付くガビリアに抜け出す隙間を一切与えず、残り50mで自ら加速に転じたチモライの追い上げも許さず、フィニッシュラインを一番で駆け抜けた。
サガンにとっては初出場の昨大会第10ステージに続く、ジロ区間2勝目。ただし昨秋は独走勝利だったから……グランツールでの集団スプリント勝利は、2019年ツール第5ステージ以来と久しぶり。またツールでマイヨ・ヴェールを7度持ち帰ったポイント収集スペシャリストは、マリア・チクラミーノにも袖を通した。昨大会はわずか3日間で脱ぎ、最終的にポイント賞2位で終えたが、今年こそミラノまで守れるだろうか?
「この勝利には本当に満足している。しかも勝利と一緒にマリア・チクラミーノがやってきたんだから、最高だよね。守っていきたいけど、もちろん簡単ではないだろう。まだジロは半分終えたばかり。水曜日からはもっと厳しい半分がやってくる。ジャージのライバル?すべてのスプリンターさ」(サガン)
総合上位勢としては唯一、ウラソフだけが前方集団で1日を終えた。分断で影響を被ったその他大多数の選手たちは、ストップウォッチ上では少なくとも21秒以上失った。幸いにも平坦ステージのラスト3km圏内は、メカトラや落車分断によるタイム損失は救済対象。マリア・ローザのベルナルを筆頭に、総合上位勢は全てサガンと同じフィニッシュタイムが記録された。
マリア・ローザのベルナル
つまりボーナスタイムを手にした総合上位2人の関係が1秒縮まったことと(15秒→14秒)、総合首位と3位以下とのタイムが1秒ずつ開いたこと以外、総合上位勢の関係に変化はなかった。
ようやく大会10日目を終え、翌日は待ちに待った大会1回目の休息日。今区間わざわざ自転車で139km移動したおかげで、ステージ後も休息日もほぼ移動はなし。おかげで今まで7日間のステージレースが人生最長……だったエヴェネプールも、人生14度目のグランツールを走る新城幸也も、ゆっくり激戦の疲れを癒やすことができそうだ。
ただし休息日明けは、今ジロ目玉の「ストラーデ・ビアンケ」ステージ。「休息日はなにをするつもり?」と問われたマリア・ローザは、こう即答している。
「トレーニング。僕らは高い集中力を保ち続けねばならない。明後日は最も重要なステージの1つ。だから明日はしっかり練習して、それに備えなきゃ」(ベルナル)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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