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サイクル ロードレース コラム 2013年5月5日

ジロ・デ・イタリア2013 第1ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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お日様に恵まれたナポリ湾に、23チーム・207選手が詰め掛けた。いつもよりも1チーム・9人多いプロトンの中には、グランツール総合優勝経験者が8人。中でも2012年ツール覇者ブラッドレー・ウィギンスと2010年ブエルタ王者ヴィンチェンツォ・ニーバリの一騎打ちが、いや、初日マリア・ローザを身にまとってスタートラインに並んだライダー・ヘシェダルを巻き込んでの三つ巴の戦いが、大会前から大いに話題をさらってきた。もちろん、総合争いの行方は3週間後のブレシアを楽しみに待ちつつ……、2013年ジロ・デ・イタリアは平地の周回ステージで幕を開けた。

ゼロkm地点、キャメロン・ウルフのアタックから、初日ステージは始まった。スプリンターチームの厳しい監視の目をかいくぐって、すぐさまギヨーム・ボナフォン、リカルド・メストレ、ブリアン・ブルギャク、マルコ・キャノーラ、ジョヴァンニ・ヴィスコンティ、マルティン・ケイゼルが行動を共にした。ただしメイン集団にどうしても2分15秒以上の差を付けられなかったエスケープ集団から、さらに、ウルフは単独で飛び出すことになる。2度目の山岳ポイント(39.6km地点)直前の、英断だった。

なにしろほんの2日前、所属チームの総合リーダーであるイヴァン・バッソが急遽体調を崩し、欠場を決めた。キャノンデールは当然ながら、目標転換を余儀なくさせられてしまった。最も現実な解決策は、スプリンターのエリア・ヴィヴィアーニと共に区間勝利を目指すこと。前方でウルフが逃げ続けていれば、幸いなことに、後方のチームメートたちは「追走」の仕事から解放されるのだ。

しかも、グランツール初日というのは、逃げ選手にとって拾い集めるべきご褒美がたくさんある。たとえばこの日は、130kmときわめて短いコース上に、初めての山岳ポイントや初めての中間ポイントが散りばめられていた。フーガ賞というジロ特有の大逃げ賞もあるし、上手く行けば山岳ジャージを身にまとうチャンスもある。

……最終的に、ゴール前18kmまで1人で逃げ続けたウルフは、中間ポイント賞とフーガ賞103kmを手に入れた。山岳ジャージは、1度目の4級峠を先頭通過したヴィスコンティに譲るしかなかった。同ポイントで2選手が並んだ場合は、総合順位が上の選手にジャージの権利が与えられる。ゴール前70kmであっさり集団吸収されたヴィスコンティが35位でゴールした一方で、ギリギリまで孤軍奮闘したウルフは193位に沈んでしまったのだ。そして敢闘賞は――ツールのように審査委員の「主観」で決められるのではなく、中間・山岳・ゴールの通過順によって与えられるポイント総計で決まる――、区間勝者に奪い取られた。

ウルフの背後で、1日中レースをコントロールしてきたのは、マーク・カヴェンディッシュ擁するオメガファルマ・クイックステップだった。ところがステージ後半、カーブや石畳がところどころ顔を出す全長8.1kmの市街地周回コースに突入すると、落車による「もしも」を避けようと、ウィギンスのスカイ親衛隊が前に陣取った。グランツール序盤のマスドスタート=全員一斉スタート区間にありがちなピリピリした雰囲気が漂い、小さな落車はあちこちで多発していた。さらには「打倒カヴ」を掲げる各種チームも、周回が進むに連れて前に競りあがってきた。

ラスト1周を知らせる鐘が鳴らされると、オリカ・グリーンエッジが強烈な牽引を見せた。ウルフのおかげで体力を温存してきたキャノンデールも、いよいよ前方で存在感を示し始めた。誰もがオメガファルマ列車を上手く脇に押しのけて、猛スピードで先手を取ろうとした。

その時だ。ゴールまで2kmを切ったところで、集団落車が発生。前から15人程度は何とか難を逃れたが、他の全員が大きな分断の犠牲となってしまった。勝負の場へと駒を進められたのはオリカ・グリーンエッジが3人、キャノンデールが3人、レディオシャックが2人、オメガファルマもカヴを含む2人。これ以外はアシストもなく、1人で取り残されたスプリンターばかりだった。

カヴでさえ孤立させられた。ゴール1kmのアーチをくぐり抜けた直後のことだ。

「チームは1日中素晴らしい仕事をしてくれた。でもラストは、パーフェクトに物事が運んだわけではないんだ。前を引いてくれていたステーグマンスが、メカトラに襲われてしまったからね。でも、そこからボクは、自分のベストを尽くした。まずはグリーンエッジ列車に飛び乗らなきゃならなかった。ものすごいエネルギーを要したよ」

さらにはジャコモ・ニッツォロが割り込んできたが、百戦錬磨の現役最速スプリンターにとってはまるで無問題だった。そして2年前まで自らの最終発射台を務めていたマシュー・ゴスが、ゴール前250mで真っ先にスプリントを仕掛けると、カヴェンディッシュも弾かれたように飛び出した。

「スプリンターってのは、限界の中でもスプリントできるようなヤツのことを指すんだよ。そして今日のボクは、まさしくレッドゾーンに足を突っ込んでいた。でも、頭がおかしくなるくらい、どうしても今日の勝利が欲しかった。だってチームがすごい仕事をしてくれたから。ラスト1kmで列車を作ってもらえなかったからといって、それがすなわち、チームがボクのために全力を尽くしてくれなかったという意味にはならないんだから」

大外右側から攻めあがったカヴェンディッシュは、ゴスをあっという間に抜き去り、瞬時に加速を始めたヴィヴィアーニや、フレンチチャンピオンのナセル・ブアニをあざ笑うかのように払いのけた。今年のデ・パンヌ3日間でプロ入り100勝目を飾った27歳にとっては11回目の、オメガファルマ・クイックステップのジャージを身にまとってからは初めての、ジロ・デ・イタリア区間勝利。チームタイムトライアル優勝で2009年と2011年の過去2回、初日マリア・ローザに輝いた経験があったが、今年は生まれて初めて個人的な勝利でピンク色のジャージに袖を通した。

「2週間前、ポール・スミスの事務所で話しをしたんだ。そこで彼に言われた。『ナポリに行くからね。だからボクのためにジャージを取ってくれると、約束してくれよ』とね。だからボクは『ベストは尽くします』と答えていたんだけど、最高だね。すごく嬉しいよ」

イギリスを代表する服飾デザイナー、ポール・スミスが描き上げたマリア・ローザを着て、そのデザイナー本人と表彰台に並ぶことができたのだから、カヴはなんたる果報者だろう!スミス卿が最終日に自らのジャージを着ていて欲しいと願うウィギンスや、その他の総合有力選手には、「ゴール前3km以内に落車・メカトラブルに見舞われた場合、アクシデントが起こった時点に所属していた集団の他選手と同じゴールタイムが与えられる」というルールにのっとって、みなカヴェンディッシュと同タイムが与えられた。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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