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長いレースの果てに、選手たちの肢体に雨が降り注いだ。前夜めくるめく戦闘を繰り広げたマリア・ローザ候補たちは、落車やアクシデントを避けるために、慎重な走りを心がけた。それでもいくつかのチームは、確かな意図を持って、隊列を組んだ。ただし、空模様と同じように、レースとはなかなか計画通りには行かないものである。
前夜のルーカ・パオリーニの勝利が「クラシック風」なら、この日は距離こそがクラシック顔負けだった。全長246km。さすがに298kmのミラノ〜サンレモとまではいかないけれど、フランドルやルーベにほんの少し足りない程度の距離である。勝者のゴールタイムは6時間14分19秒! こんな長い長いステージだけに、スタートから170kmほどは、プロトンはのんびりペダルを漕いだ。7人の逃げをあっさり許して、ピンク色のパオリーニを支えるカチューシャが淡々と集団を率いた。
ゴールまで70kmほどに近づくと、1つのチームが、猛烈な仕事に取り掛かり始めた。ヴィーニファンティーニ・セッレイタリアが、プロトン前方でトレインを組むと、ハイスピードな牽引を始めたのだ。少し前に勝手に分裂し、ミゲル・ミンゲス、ヨアン・ルポン、ピム・リヒハルト、ジュリアン・ベラールの4人に小さくなっていたエスケープ集団は、5分の貯金を急激に失っていくことになる。
5km進むたびに、タイム差は1分ずつ縮まって行く。ゴール前53km、いよいよタイム差が1分を切ると、またしても前方は分裂。ベラールとミンゲスの2人だけになった。さらにはプロトン内のチームメートに配ろうと背中にたくさんボトルを詰め込んでいたミンゲスが……全てを投げ捨てて、たった1人で渾身の飛び出しをかけた。灰色の雲が低くたちこめ、雨粒が、アスファルトを濡らし始めた頃だった。
雨脚は徐々に強く、視界はどんどん悪くなっていく。それでも遠目に良く映える蛍光イエローのジャージが、確実に前を追い詰めていく。ついにはミンゲスを飲み込み、いくつかのカウンターアタックを引きずり戻した。ゴールまで23km、2級峠の登坂口が近づくと、マルコ・マルカートが痺れを切らして前に飛び出した。再びピラッジィが企てに乗り、シルヴァン・ジョルジュも後に続く。すかさずヴィーニファンティーニは、昨季の山岳王マッテーオ・ラボッティーニを、ストッパー役として前に送り込んだ。なにしろ昨年のパリ〜トゥールを終盤のアタック→逃げで制したマルカトや、昨ツアー・オブ・カリフォルニアの山岳ステージを40kmの独走逃げ切りで制したジョルジュを、先に行かせてしまうのは危険すぎる。
そんなイタリアチームの思惑などお構いなく、ゴール前17.5km、ジョルジュがひとり先を行き始めた。と、ここでスカイプロサイクリングが山岳列車を引き始めた。2012年ツール総合覇者ブラドレー・ウィギンスの露払い役として、カンスタンティン・シウトソウ、セルジオルイス・エナオモントーヤ、リゴベルト・ウランの3人がメイン集団の前方を陣取った。前日と同じ危険――アシストが下がった途端に、ライバルたちが猛攻を仕掛けた――を繰り返さぬために。さらに雨による落車を避けるために。レースにしっかりと錠を下ろした。いわゆるイタリア語でいうところのカテナチオだろうか。
「最後の上りでは、トラブルを避けるために、前方ポジションを守った。チームは非常に良い走りをした。全てがうまく行っていた。チームのメンバーは、数日前から病気に苦しんでいるカタルド以外、みんな非常に調子がよかった」(スカイ監督リュンクヴィスト)
一定リズムで上る集団から、ゴール前10km、黄色い矢が放たれた。今度こそ本物の、ヴィーニファンティーニの最終兵器に違いなかった。ジョルジュをあっという間に追い越して、さらに加速を続けたのは、ダニーロ・ディルーカ、その人だった。
2007年ジロ総合覇者は、7ヶ月近いブランク(なにしろ現チーム入りしたのは、大会直前の4月27日だ)などまるで感じさせない、力強い走りを見せた。ただし残念ながら、一緒に飛び出してきたロビンソン・チャラプドが、「キラー」を手伝ってはくれなかった。ひたすら背中に張り付いていたかと思えば、さっと前に出て山岳ポイントを横取り。その後はまた、じっと後輪にしがみ付くだけ。
ゴール前3kmを示すアーチを潜り抜けると、スカイの束縛から解き放たれた後方集団が、雪崩のようにディルーカへと襲い掛かった。あわててチャラプドが前を引くのを手伝うも、ときすでに遅し。ディルーカは最後まで歯を食いしばったが、ゴール前300m、集団に飲み込まれていった。スプリントを制したのは、エンリコ・バッタリンだった。
「今日のステージが自分に向いていることは、分かっていた。特に雨が降れば、攻撃合戦が控え目になるからね。だからゴールまで、とにかく体力温存に務めた。勝因は、最後のカーブを上手く攻略できたこと。それから加速を切った。少し遠すぎるかな、とも思ったけど、どうしても先に仕掛けたかったんだ」(バッタリン)
雨に濡れそぼった23歳のバッタリンは、笑顔になることすることすら難しいほどに、体の芯から凍えていた。一方で37歳のディルーカは、がっかりしながらも、この先へと明るい希望をつないだ。
「コロンビアの選手がもう少し協力してくれたら、もしくは下りとゴールの距離がもっと近かったら、一撃を決められていたはずなのに。でも、調子がいいことが確認できた。また、トライするさ。もちろんね」(ディルーカ)
また区間2位と3位にはイタリア人が滑り込んだ。パオリーニがマリア・ローザを守ったのはもちろん、赤(ポイント)・青(山岳)・白(新人)ジャージも全てイタリア人が独占している。
ところで、自転車競技のルールによれば、ゴールから3km以内で落車やメカトラブルにより集団から脱落した場合、アクシデントが発生した時点で所属していた集団と同じゴールタイムが保障されることになっている(頂上フィニッシュやチームタイムトライアルは除く)。各方面からの証言によれば、この日も3km以内で小さな落車(ガラテ、サレルノ、ピション)が発生したという。さらには、すぐ後ろにいたウィギンスが脚止めを喰らったそうなのだ……。
ただし、ウィギンスのタイムは救済されなかった。先頭集団から17秒遅れのゴールが、正式に記録されてしまった。カデル・エヴァンスも、ライダー・ヘシェダルも、ヴィンチェンツォ・ニバリも、自らのアシスト役であるウランさえも、何事もなく無事に先頭集団で1日を終えたというのに!
不可抗力だったのか、本人やアシストたちのミスなのか、それともルール適応の不具合なのか、理由はどうあれ、ウィギンスはタイムを失った。総合2位から6位へと転がり落ち、4位ニバリに3秒リードを付けられた。TTTで上手く撒いたはずのヘシェダル(5位)にさえ、同タイムで並んでしまった。もちろんスカイ陣営が繰り返しているように、「この世の終わり」ではないのだろう。週末にはウィゴの得意な、長距離タイムトライアルが待っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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