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「平凡で簡単なステージのはずだったのに……、こんな危険が最後に待っているなんて!」ゴール直後にヴィンチェンツォ・ニーバリは、TVマイクに向かってイラついたように吐き捨てた。彼だけではない。多くの選手が、静かで、しかし奇妙な1日を、ちょっとした喧騒の中で締めくくった。
スタートと同時に6選手が飛び出すと、プロトンは落ち着いたリズムで走り始めた。エスケープ組の中でステファノ・ピラッジィだけが後ろに引き下がったが、トーマスアウレリオ・ジルマルチネス、アラン・マランゴーニ、リカルド・メストレ、ブリアン・ブルギャク、ラファエル・アンドリアートの5人は先を続けた。タイム差は最大10分ほどに開き、後方集団の前方にはスプリンターチームのチーム アルゴス・シマノが腰を落ち着けた。地面は乾いていたし、道は見渡す限り平坦だった。
ところが、ゴール地のマテーラでは、大量の雨が空から落ちてきていた。軽い傾斜のある最終ストレートは川のように水が流れ、場所によっては5cmほどの沼ができ上がった。マテーラの町が企画していた様々な市民イベントは中止に追い込まれ――同自治体は2019年の欧州文化都市に立候補しており、アピールのためのサイクリストイベントが催されるはずだった――、プロトンを本当に迎え入れられるのかどうかさえ懸念されたほどだった。
確かにこの春、雪のせいでミラノ〜サンレモでのコース中盤がカットされ、ヘント〜ウェヴェルヘムのスタート地が移動されている。昨春のカタルーニャ一周第3ステージでは悪天候でゴール地が手前に設定された。そうそう、2006年ジロのプラン・デ・コロネス初登頂も、やはり雪のせいで中止されたのだった。あの年のゴールラインは、未舗装部分に入る手前に引き直されている。
ゴールまで80kmほどに近づいたところで、選手たちも通り雨に襲われた。試練に立ち向かうために、誰もが雨具を着込んだ。ただし幸いにも、空の神様は、それほど意地悪ではなかったようだ。黒雲はプロトンの頭上からも、ゴール地からもいつの間にか立ち去って行った。おかげで後方集団は予定通りに追走を開始することができたし、ジロ開催委員会はフィニッシュラインの整備に取りかかった。
ジョン・デゲンコルブ擁するアルゴス・シマノと、マシュー・ゴス支えるオリカ・グリーンエッジが、この日のエスケープ狩りを積極的に買って出た。あっという間に5人とのタイム差は縮まる。ゴール前25km=4級峠の麓では、タイム差はついに1分を切った。吸収はもはや時間の問題となった。
と、ここでモヴィスター チームやヴィーニファンティーニ・セッレイタリアも、積極的に前方での仕事を引き受け始めた。短いけれど、勾配の厳しい上りで、スピードは猛烈に上がった。もはや吸収のためだけではなかった。デゲンコルブやゴスと同じように、それぞれに「上れるスプリンター」フランシスコホセ・ベントソやオスカル・ガットを抱えるチームの狙いは、おそらく……マーク・カヴェンディッシュを引き千切ること!企みはまんまと成功する。カヴはひどく喘ぎ苦しみ、アシスト2人に支えられながらも、山頂ではメイン集団から55秒も遅れた。
上りの途中で逃げ集団は全滅し、代わりに序盤の逃げから早々と退去していたピラッジィが飛び出した。結局は山岳ポイント収集だけで終わることになるのだが(おかげで山岳ジャージ争いは2位浮上)、このアタックをきっかけに、たくさんの小さな試みが巻き起こる。特にアージェードゥゼール・ラ・モンディアルの2人、つまり山頂間際で飛び出したベン・ガスタウアーと、ゴール前5.5kmで運試しに出たユベール・デュポンが、強い意気込みを見せた。地元出身のチームリーダー、ドメニコ・ポッツォヴィーボに、勝利をプレゼントしたかったのかもしれない。
しかし、カヴのいないメイン集団は、勢い付いたライバルスプリンターが手綱を決して緩めなかった。前述チームはもちろん、複数のチームが前方へとなだれ込み、全てを飲み込んだ。そのまま、つい1時間前まで大雨が降っていたゴールへと、突進して行った。
ゴール前1km。左へと曲がる直角で、それは起こった。前から2番目でカーブに入ったデゲンコルブ先導役のルカ・メゲッツが、上手く曲がりきれずに地面に滑り落ちた。背後では、思わずブレーキをかけた数選手が、やはり濡れた路面へ次々とダイブする羽目になった。
つまり先頭を走っていたマルコ・キャノーラが、突如として、前にも後ろにも誰もいないたった1人……という立場に押し出された。昨年ツール・ド・ランカウイで大逃げの果てに優勝をつかんだ24歳は、ためらいながらゴールへと突き進む。しかし、1kmという距離は長すぎた。背後からデゲンコルブが、ものすごい勢いで追い上げてきたからだ。
「ものすごくプレッシャーを感じていたんだ。このステージはボク向きだと分かっていた。チームが1日中ボクのために仕事をしてくれた。だから、ボクの両肩には大きな責任がのしかかっていた。勝たなきゃならなかったんだ」
2012年通算12勝を上げながらも、今年に入ってからいまだ勝ち星のない(やはり)24歳は、必死に追い上げ、そしてゴール前200mでついにキャノーラを捕らえた。昨年のブエルタでは軽々区間5勝を達成したものだが、この日は全力を使い果たし、ゴール後に地面に倒れ込んだ。本人にとってもチームにとっても、初めて出場したジロで、初めての区間勝利を勝ち取った。
「ちょっと特殊な勝利だし、ほんの少し、幸運に恵まれた勝ち方だったね。ボクは落車のすぐ後ろにつけていた。路面はかなり滑りやすかった。ちょっとスピードを出しすぎていたのかもしれないね。ラッキーなことに、分断が起こって、後方との距離が開いた。ただしボクもペダルから足を踏み外してしまったから、足をペダルにかけなおして、加速する必要があったんだよ。前方にはバルディアーニの選手がいた。周りを見回して、気がついた。全てを手にするか、全てを失うか、どちらかしかない状況なのだと。全力のスプリントは1km続いたよ!すごくハードだった。本当に苦しかった」
前日のステージでは、「3km救済ルール」が大きく問題になった(結局、2km地点で落車した選手たちはタイムが救済された。ブラドレー・ウィギンスは3kmに入る前に遅れていたと判断され、17秒遅れのまま記録は処理された)。この日は、その点に関して不明瞭な点は一切なかった。落車発生時点までメイン集団にいた選手全員に、デゲンコルブと同タイムが与えられた。総合本命たちはヒヤリとさせながらも、タイムの面では問題なく1日を終えた。総合順位に大きな変化はなく、ルーカ・パオリーニが3回目のマリア・ローザ表彰式を祝った。小さな峠を越えられなかったカヴは、6分37秒遅れでゴールにたどり着いた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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