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サイクル ロードレース コラム 2013年5月10日

ジロ・デ・イタリア2013 第6ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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勝者はあくまでも予想通りだった。大集団スプリントを、専用列車に乗ったマーク・カヴェンディッシュが制した。前日は上り坂で引き離されたが、この種のフラットな行程なら、向かうところ敵なしであることを改めて世界中に証明した。ただし、短く平坦なステージは、全ての選手にとって単調に進んだわけではなかった。

午後にゆっくりとスタートを切ったプロトンから、キャメロン・ウルフとジャック・ボブリッジが飛び出した。あっさり6分ほどのリードを奪うも、すぐに集団前方ではオメガファルマ・クイックステップとエフデジが緩やかな集団制御を開始した。特にフランスチームは、いつになく力を入れていた。というのも、ナセル・ブアニを、どうしても「最後のチャンス」で勝たせたかったからなのだ。実は大会開幕前からチーム側は、「ブアニを1週間ほどでリタイアさせる」と公言していた。22歳のスプリンターをイタリアの難峠で燃え尽きさせないためであり、その山ではチーム全体でアルノー・ジャネソンの総合上位入りをサポートしていくためでもある。そして次のスプリント機会は、ちょうど1週間後=第12ステージ。……つまり、予定通りなら、ブアニが帰宅した後なのだ!

2回の中間ポイントでは、キャノンデールがエリア・ヴィヴィアーニを連れてスプリントを挑み、2度ともカヴを退ける場面も見られた。それ以外の時間は、あくまでもオメガファルマとエフデジが黙々と仕事を引き受けた。逃げ切りを許さぬよう、一方ではそれほど速く吸収してしまわぬよう、タイム差を2分半程度に保つ努力を続けた。キリスト昇天祭のこの日は、たくさんの観客が沿道に詰めかけ、色とりどりの選手たちに応援の声を上げた。

ゴールまで残り65kmを切った頃から、本格的な追い上げが始まった。プロトン内にもじわじわと緊張感が満ち始めた。小さな落車も2回ほど発生した。ウルフとボブリッジの2人旅は終わりを告げ、そのまま16kmの周回コース×2に突入する……ほんの直前だった。

優勝大本命ブラドレー・ウィギンスに、メカトラが発生する。自転車を交換する必要にも迫られた。もちろん、2012年ツール覇者を支えるために、スカイのチームメートほぼ全員がリーダーを待った。幸いにもそれほど手間取らずに、ウィギンスは再び走り出すことができた。集団にもいち早く復帰を果たした。しかし、新たなアクシデントが襲い掛かる。1度目のフィニッシュライン通過直前に、大きな集団落車が選手たちをなぎ倒したのだ。プロトンは真っ二つに割れ、多くの選手が足止めを喰らった。後方から追いついてきたばかりのウィギンスも、当然のように、長時間立ち往生させられた。ようやく走り出した時には、前方集団に1分近い遅れを喫していた。

総合ライバルのヴィンチェンツォ・ニーバリやライダー・ヘシェダル、マリア・ローザのルーカ・パオリーニは、みんな問題なく前にいた。プロトンの前でトレインを引いていたオメガファルマやエフデジは、ほぼ無傷のまま元気良く牽引を続けていた。ただウィギンスにとって幸いだったのは、前方集団に、アシスト役のクリスティアン・クネースが滑り込んでいたこと。

「あまりにも集団内がうるさかったものだから、ボクは無線が聞こえなかったんだ。自分の後ろで何が起こったのかを知った時には、もう遅すぎた。だから集団前方に行って、エフデジやオメガファルマの選手たちに加速を辞めてくれるよう頼んだ。彼らは了解してくれて、少しスピードを緩めた。でも、それでも、スピードはかなり速かったけどね。チームメートたちは、ブラドレーを連れ戻すために、相当ハードに走らなきゃならなかったはずだよ」(クネース)

さらに幸いだったのは、2012年ブエルタで集団落車を無視して猛加速を続けたようなチームが(大議論を巻き起こしたが、いまだ真相は不明だ)、今年のジロには存在しなかったこと!ウィギンス&スカイボーイズたちは、さながらチームTTのように前を追い、ゴール前22kmで無事に集団へと合流を果たした。しかも、すぐさまプロトンの前方に陣取ると、「もう2度と問題には巻き込まれたくない」とばかりにチーム一丸となって延々と集団牽引を始めた。ウィギンス本人に至っては、ゴール前2.5kmまで最前列から離れないほどの、念の入れようだった。

「誰もがナーバスになっていた。しかも総合ライダーたち揃いも揃って、ゴール前3kmを切ってもなお、スプリンターチームのように前にいたんだからね。まるでカオスだった」(カヴェンディッシュ)

それでも、最後はスプリントチームに主導権が戻ってきた。36歳の誕生日を迎えたスヴェイン・タフトが引っ張るオリカ・グリーンエッジや、前日の覇者ジョン・デゲンコルブ擁するチームアルゴス・シマノも健闘した。エフデジも最後の仕上げに念を入れた。ただこの日は、オメガファルマが完璧なる仕事を成し遂げた。特に最終発射台ヘルト・ステーグマンは、背中にカヴを隠して、猛スピードで他を蹴散らした。かつてロビー・マキュアンに「ボク専用のTGV(フランスの新幹線)」と大絶賛され、さらには2007年にはトム・ボーネンのツールポイント賞獲得を見事に支えた大男の陰から、カヴェンディッシュはただ飛び出すだけでよかった。

「全てがパーフェクトに進んだ。チームは完璧な仕事をしてくれたし、なにより全力を尽くしてくれた。ボクはひたすらステーグマンの後ろについていくことだけを心がけた。今日みたいにフィニッシュに向かい風が吹いている場合、どうしても速く仕掛けようとしてしまうチームがあるものなんだ。でもボクのアシストたちは、辛抱強く待って、待って、まさに正しいタイミングで加速を切った。どんどんスピードを上げていき、そしてボクを完璧に送り出してくれた。ステーグマンは、ベストの状態なら、史上トップクラスのリードアウトマンだということを証明したね」(カヴェンディッシュ)

ヴィヴィアーニに次いで3番目にフィニッシュラインを越えたブアニは、ハンドルを叩いて悔しがるしかなかった。チームメートたちと十分に喜びを分け合った後、表彰台に上ったカヴェンディッシュは、「108」のゼッケンを高々と天に掲げた。ちょうど2年前の5月9日、この数字を背中につけていたワウテル・ウェイラントは、ジロ第3ステージで命を落とした。当時の所属チームはレオパード・トレックだったけれど、2005年から6年間、ウェイラントはクイックステップの一員だった。

「ボクらのチームにとって、今日は特別な日だったんだ。最高の方法で、哀悼の意を表することができた。この勝利を、天のワウテルに捧げたい」(カヴェンディッシュ)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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