人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
1回目の休養日を終えたプロトンは、体を休めて、気持ちを切り替えて、今大会初めての頂上フィニッシュへと挑みかかった。残念ながら休養日でリズムを崩したり、休養日前の不調を完全に払拭できない選手も多かった。第1週目から小さな疑問符を点灯させていたスカイ プロサイクリングは、歓喜を味わった一方で、混迷の度合いをさらに深めた。
スロベニアとオーストリアの国境付近まで一気に北上したジロ一行は、ようやく、頭上のしつこい雨雲を振り払った。代わりに足の下には、難しい山道が延びていた。ステージ序盤の、いまだ道が平坦な隙を狙って、大量の14人がエスケープへと飛び出した。中でもガーミン・シャープが、トーマス・デッケルとデーヴィッド・ミラーの2人を、前方集団に滑り込ませた。休養日前夜に「調子は悪くなかった、単なるタイミングが悪かった」せいで、総合ライバルたちから1分近いタイムを失ったライダー・ヘシェダルの、「もしも」の場合に備えたのかもしれない。ただしメインプロトンに最大8分ほどのリードを奪った先頭集団から、(おそらく)後方のリーダーのために一肌脱ごうと真っ先に動いたのは、アンドローニジョカットリ・ベネズエラのジャクソン・ロドリゲスだった。
ゴールまで53km地点、1級峠の登坂中に、ロドリゲスは1人で飛び出した。ほぼ同じ頃、約5分ほど後ろを走っていたメイン集団からは、ディエゴ・ローザに連れられてフランコ・ペッリツォッティがアタックをかけた。緑白赤のジャージを身にまとうイタリアチャンピオンは、4年ぶりのイタリア一周を走っていた。2009年ジロを総合3位で終え、同じ年のツールでは山岳賞を手にしながらも、スポーツ仲裁裁判所の決定で成績を剥奪されたヒルクライマーは、名誉回復の一撃を虎視眈々と狙っていた。しばらくローザを風除けに走った後は、自力で、一番前で待つチームメートの元へと急いだ。
スカイが制御を始めていたプロトンは、ペッリツォッティを追いかけたわけではなかった。しかし、確実なる加速を始めていた。加速を急ぐ理由があった。なにしろ、この上りで、ディフェンディングチャンピオンのヘシェダルが、遅れ始めたのだ。
本日最大の使命が「ライバルチームのリーダーたちを限界まで押しやること」(カンスタンティン・シウトソウ)だったアシスト軍団は、積極的にリズムを上げていく。1週目には体調不良のせいで、食事が思うように取れなかったというダリオ・カタルドも、頼もしい山岳アシストの脚を取り戻していた。一方でセルジオルイス・エナオモントーヤには、いつもの元気はなかった。またマリア・ローザのヴィンチェンツォ・ニーバリ擁するアスタナ プロチームは、ステージ前半は9人全員で前を引いていたが、峠に入ると一歩前線から引いた。山岳アシストのパオロ・ティラロンゴが病気から回復途中だったし、ファビオ・アールは逆に体調を崩してしまった。だから「あまり危険は冒さず、スカイの仕事に警戒しながら走る」(ニーバリ)ほうを選んだ。
果敢なる奮闘を続けたペッリツォッティは、着々とスピードを上げていくメイン集団に、結局はゴール前25kmで飲み込まれることになった。先頭を走るロドリゲスには――2度の自転車交換で大幅にタイムを失ったというのに――、最後まで合流できぬままだった。代わりに逃げ集団にいたセルジュ・パウエルスが、ベネズエラ人に追いついたが、彼らもまたゴール前10km、最後の上りで強制的に前から引きずりおろされた。
スカイのアシスト勢は、見事な山岳列車を走らせていた。やはりゴールまで10kmを残す頃には、シャビエル・ザンディオやシウトソウは任務を終え後ろに下がったけれど、カタルドとリゴベルト・ウランが元気に前方を引いていた。エナオもブラドレー・ウィギンスの側についていた。ニーバリの脇にはヴァレリオ・アニョーリしか残っておらず、総合2位カデル・エヴァンスが一人ぼっちだったのとは対照的に!しかもゴール前8kmでは、ウランが加速を仕掛けた。
「トンネルがあるのが見えたから、先へ飛び出して、ちょっとリードを奪った。そこから勾配がひどくきつくなるのが分かっていたから、危険を冒さないために、先手を打ったんだ」(ウラン)
黒軍団に変わって空色ジャージのアニョーリがメイン集団を引いたが、ニーバリは特に慌てたりもしなかった。
「ウランのアタックは予測してた。それに総合では十分な差(第9ステージ終了時点で2分49秒)を付けていたから、それほど追走には力を使わないことにした」(ニーバリ)
こんなニーバリが加速を切ったのは、ゴール前4.5kmに待ち受ける中間スプリントポイントの手前。つまりは単純に2位通過のボーナスタイム4秒を取るため……のはずだった。ところが加速の直後に、この日最大の勾配20%ゾーンに突入すると、意外にもライバルたちが苦しみ始めた。1分15秒遅れのロバート・ヘーシンクが真っ先に千切れ、1分16秒遅れのウィギンスがそれに倣い、さらには1分24秒遅れのミケーレ・スカルポーニさえもずるずると後退して行く。途端にニーバリは予定を変更し、攻撃的な本能をむき出しにした。
驀進するマリア・ローザの側では、ドメニコ・ポッツォヴィーボやカルロスアルベルト・べタンクールのアージェードゥゼール・ラ・モンディアル2人組が幾度もアタックを繰り出し、ラファル・マイカやロベルト・キセロフスキー、マウロ・サンタンブロジオもしがみ付いた。この日ばかりは、29秒差の総合2位につけるカデル・エヴァンスも、「他の選手を退けるためには、ニーバリに協力したほうがいいと思ったんだ」とライバルの片棒を持った。「残念ながら、そのニーバリから、ほんのちょっとタイムを失ってしまうことになるんだけど」
ベタンクールがまたしても遅すぎる最終アタックを決めて――ただ今回は、同胞コロンビア人のウランの区間勝利の可能性を奪ってしまいたくなかったから、あえて追いかけなかったのだが――、しかしゴールジェスチャーは見せずに、区間2位に滑り込んだ。その後ろではニーバリがこの日3度目のメカトラにもめげず、スプリントを仕掛け、区間3位=ボーナスタイム8秒をモノにした。
そう、エヴァンスは総合首位と同タイムゴールながら、ボーナスタイムだけで12秒の遅れを喫してしまった。総合でのタイム差は、41秒にまで引き離された。それでもウィギンス(首位から1分08秒遅れ、ニーバリから37秒遅れのゴール、ボーナスタイムを含めると49秒の損失)やスカルポーニ(同様に1分10秒、39秒、51秒)、ヘーシンク(1分16秒、45秒、57秒)の被害に比べたら、満足のいく出来だったと言える。……さらにヘシェダルはこの日20分近いタイムを失い、完全に総合争いからは脱落している。
「今日から早くも、ボクに対しての攻撃が始まると思っていたんだ。でもウィギンスがタイムを失うとは予想していなかった。スカルポーニだって、本人はむしろタイムを稼ごうと狙っていたはずだよ。やはりタイムを失った。一方でエヴァンスは非常に調子がよさそうだ。この先は彼こそが最大のライバルだね。ただ、今日の出来が各選手の本当の実力とは限らない。だって休養日の翌日だったから。ジロはまだ長いし、まだそれほど大差はついていない。危険な選手は、まだまだたくさん存在する。目をしっかり開いて、対応していかなくてはならない」(ニーバリ)
チームリーダーが遅れていることも、マリア・ローザが爆走を続けていることも、一切を構わずに山頂まで独走を続けたウランは、グランツールで初めての区間勝利をもぎ取った。しかもウィギンスを総合で1秒上回って、2分04秒遅れの総合3位に浮上した。……第7ステージの「サー」の落車で、チームがウランに後ろに戻るよう命じなければ、果たしてどうなっていたのだろう。ともかく、コロンビアの26歳も、この先ニーバリにとっては大きな危険となる。全てはスカイのチーム戦術次第だ。
「今朝から、ボクかエナオが、アタックをかける予定だった。ゴール前8kmで飛び出してからは、規則正しいリズムで上るよう心がけた。この勝利に本当に満足している。ただチームのヒエラルキーは、これで変わったりしない。だってブラドレーは調子がいいからね。むしろチーム内で総合のカードが2枚になったんだから、喜ばしいことなんじゃないかな。ボクはただ、スカイの選手が総合優勝することだけを願っているよ」(ウラン)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle* UCIシクロクロス ワールドカップ 2024/25 第1戦 アントウェルペン(ベルギー)
11月24日 午後11:00〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!