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スタートから60kmにも渡って、激しいアタック合戦が続いた。地形もタイミングも、逃げ切りにはおあつらえ向きだったから。
なにしろ前夜の白熱した頂上バトルを終えて、少々疲れた総合本命たちは、典型的な「移動ステージ=休養」を望んでいた。「山頂からの長距離移動で、ホテルに到着するのはひどく遅かった。だから、ゆっくりした1日が必要だったんだ」と、ヴィンチェンツォ・ニーバリもゴール後に告白したように。しかも大会はようやく折り返し地点に来たばかりだというのに、残すステージは平地か難関山頂フィニッシュばかり。この日を逃したら、ロングエスケープを成功させられる機会は、もはや多くはないのだ!
だから多くの選手たちが、前への飛び出しを挑んだ。時速53.5kmの高速追いかけっこの末に、20人が、まんまと先頭集団を作り上げた。
ダニーロ・ディルーカやステファノ・ピラッジィのように、すでに何度もレースを活気付けてきた選手がいた。ジャクソン・ロドリゲスやヤロスラフ・ポポヴィッチのように、2日連続の逃げに挑む選手もいた。マリア・ローザ経験者(サルヴァトーレ・プッチォ)もいたし、この第11ステージの朝に大会から立ち去ったシルヴァン・ジョルジュのチームメート(ギヨーム・ボナフォン)もいた。
……今ジロ第4ステージでは長い逃げに乗ったジョルジュだが、第7ステージ後の尿サンプルA検体から、ヘプタミノール陽性反応が検出された。チームは即刻レースから当該選手を除外。その際に選手本人から「脚が重かったから、無害だと思っていた薬を飲んだ」と説明されたそうだ。レース直前だったこともあり、チームのほかの選手たちには、ジョルジュ帰宅の理由は伏せられていた。つまりボナフォンはチームの名誉を守るため……というわけではなく、何も知らされぬまま戦いへと飛び込んでいた。
沈みがちだったチームのために、奮闘していた選手もいた。ガーミン・シャープの一員として、ディフェンディングチャンピオンのライダー・ヘシェダルをここまで守ってきた、ラムナス・ナヴァルダスカスだ。前夜第10ステージで、チームリーダーの総合争いは完全に終わった。ちなみにこの第11ステージも、グルペットで1日を終えている。
「この数日、ボクらは本当にチャンスがなかった。だから今日の目標は、前に飛び出して、結果を上げること。ボクらの真価を見せつけることだった」(ナヴァルダスカス)
はるか背後では、20人を見送った後は、静かな時が流れていた。ピンク色のニーバリ率いる空色のアスタナは、常に5分〜6分のタイム差を保ちつつ、ひたすら淡々とコントロールに務めた。一方のエスケープ集団は、青色ジャージのピラッジィが山岳ポイント収集のための加速を仕掛けた頃から、徐々に騒がしくなっていく。ゴール前64kmに待ち構えた2級峠の山頂では、ロドリゲスがピラッジィを出し抜いた。さらに下りでは、パトリック・グレッチュが矢のように飛び出して行ってしまった!
上りゴールに向かって、タイムトライアル得意の強健ルーラーは、先手を打つことにした。先頭集団には上り巧者が多く、山道での直接対決では敵いっこなかったからだった。しかし、どうやら、少々仕掛けるのが早すぎた。ライバル19人を一時は1分半ほど引き離したものの、ゴールまで20kmを切った頃、別のルーラー2人が猛スピードで追いかけてきた。ディルーカの加速と、ボナフォンの攻撃に、強烈なカウンターアタックで応えたナヴァルダスカスとダニエル・オスだった。
1年前にチームタイムトライアル制覇で2日間マリア・ローザを着たリトアニア人と、トラックの団体追抜でジュニア・U23、エリートの全世代で国内チャンピオンに輝いてきたイタリア人は、まるでタンデムのように走り続けた。過去いくつものプロローグを制してきたドイツ人グレッチュは、なんとか2人に張り付いたが、最終峠の始まりと共に先頭から姿を消していった。またルーラー勢に先を越されたヒルクライマーたちは、山に入ると急ぎ後を追い始めたが、2人はすでにはるか彼方へと行ってしまった後だった。
その2人も、最終的には袂を分かつことになる。頂上まで5km。それはほんの軽いジョブから始まった。1度、2度、そして3度。ナヴァルダスカスはついに大きな一撃を下した。
「オスがいい選手だとは分かっていた。でも、山で彼がどれくらい行けるのかは、分からなかったんだ。だから彼が前を引いている時には、彼の調子を読み取ろうと観察した。相手がどんな風に応酬してくるのかを探るために、何度か加速もしてみた。そして、自分の調子の方が上だ、と判断したんだ。だから1度アタックをかけて、それからもう少し強めのアタックを仕掛けて、ついに、ボクは1人になった。あとは自分のペースを保つことだけを努力したよ」(ナヴァルダスカス)
50年前の1963年、大量の水が多くの命を奪った悲劇の山で、2013年、ナヴァルダスカスはゴール前に大きな十字を切った。それから個人としては生まれて初めての、グランツール勝利を手に入れた。優しい笑顔で「きっとヘシェダルも、ボクの勝利を祝ってくれるに違いない。彼は本物のチャンピオンだから」と語った直後に、遅れてゴールしたヘシェダルから大きな祝福を受けた。
ナヴァルダスカスほどの成功は収められなかったが、ピラッジィは3位にゴールして、大切な山岳ジャージをさらに確かなものにした。また26人にまで小さくなったマリア・ローザ集団は、極めて静かにレースを終えた。最終盤に飛び出したベナト・インサウスティだけが例外で、総合ライバルたちから18秒稼ぎ、総合11位から1つ順位を上げた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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