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2度目の休養日を終え、全てが決まる最終週が始まった。2週間前に207人で走り出したプロトンは、すでに173人にまで小さくなった。総合首位の証マリア・ローザはヴィンチェンツォ・ニーバリが9日前からしっかりと着込み、この日も堅固なチームと共に頼もしい存在感を見せ付けた。山岳賞マリア・アッズーラは、ステファノ・ピラッジィがまたしても逃げに乗り、大切なリードをさらに開いた(23pt差→37pt差)。新人賞マリア・ビアンカは、カルロスアルベルト・べタンクールとラファル・マイカが白熱の奪い合いを演じたけれど、両者の関係は変わらぬまま。現時点では5秒リードでベタンクールが白色に収まっている。ところでポイント賞マリア・ロッソは……、この日晴れて28歳の誕生日を迎えたマーク・カヴェンディッシュは、翌第17ステージを制して、自分へのプレゼントにしたいと意気込んでいるんだとか。
238kmの長距離ステージでは、スタートから20km地点で22人の超大型エスケープができ上がった。前方集団に滑り込んだのは23チーム中16チーム。人数の多さや、休養日明けということを考慮すれば、もしかしたら最後まで逃げ切れるかもしれない。そんな企みだった。しかし2013年ジロには、結局のところ、「移動ステージ」と呼べる静かなステージなど存在しないのだ。
残念なことに、1人の邪魔者が紛れ込んでいた。総合で9分57秒遅れのダミアーノ・カルーゾだ。マリア・ローザ擁するアスタナは、それほど厳しすぎない程度に集団コントロールを行っていた。しかしタイム差が5分15秒にまで開くと、状況は一変する。ゴール前70km、逃げ集団に選手を入れ損ねたカチューシャとレディオシャック・レオパードが、突如として追走モードへとスイッチを切り替えた。両チームはそれぞれ総合12位と11位の選手を擁しており、カルーゾに余計なリードを与えるわけには行かなかった。
急激にタイム差が縮んで行く。ゴール前55kmでは、貯金はついに2分15秒にまで減った。最初からまとまりのなかった前方の22人は、ますます互いをリスペクトしなくなった。自分だけでも逃げ切りたい、そんなアタック合戦を繰り広げた。壮絶な足の引っ張り合いは15km近くも続いた。ようやくエマヌエーレ・セッラ、ウィルコ・ケルデルマン、ダニー・ペイトが抜け出すも、また15kmほどするとステファノ・ピラッジィやらラムナス・ナヴァルダスカスの5人に合流された。つまりゴール前25kmで、エスケープの残党はわずか8人になっていた。
ただし、その頃には、メイン集団がほんの50秒ほどの背後に迫っていた。しかもちょうど差し掛かった3級峠は、最大勾配13%という超難題。そこで総合5位ミケーレ・スカルポーニがアタックを仕掛けてしまったものだから、当然のようにマリア・ローザ軍団は真剣勝負へと雪崩れ込んでいく。
「非常に調子が良かった。だからライバルたちの脚を試したかった。『ボクはまだ目標のために戦い続けるぞ』ということを、見せ付けたかった。サンタンブロジオが遅れていたのは、知らなかったんだ」(スカルポーニ)
2011年ジロ総合覇者スカルポーニの積極策は、ニーバリ自らが潰した。一気にメイン集団も絞り込まれた。あれだけ働いてきたカチューシャとレディオシャックは、誰も王者たちの加速には付いていけなかった。なにより集団の中には、総合表彰台までわずか1秒差の、マウロ・サンタンブロジオの姿がなかった。
そして200km近く逃げてきたエスケープ集団には、後ろからの圧力を押し戻す余裕など残っていなかった。……ただ幸いにもピラッジィは何とか山頂を2位で通過し貴重なポイントを収集できたし、第11ステージを制したナヴァルダスカスは、総合の強豪たちに混ざって区間4位に入っている。
あとはゴール間際まで、終わりのないだまし合いが繰り広げられた。その全てをアスタナが、いやむしろニーバリ本人が完璧にコントロールした。山頂直前で2位3回のベタンクールが飛び出し、下り巧者のサムエル・サンチェスが特攻を仕掛け、スカルポーニも追随すると、ニーバリが蓋を閉める。平地に入ってスカルポーニが先に行こうと試みると、マリア・ローザが背中にピタリ張り付く。さらにはアシストのタネル・カンゲルトに、ゴール前7.5kmでアタックさえ打たせた。
「彼にアタックするよういったんだ。ステージを勝って、ボーナスタイムを潰すように、って。チームはステージ勝利を追い求めていたし、カンゲルトの調子も非常に良かったからね」(ニーバリ)
総合3位リゴベルト・ウランが加速したため、一旦計画は中止された。それでもシチリアっ子がコロンビア人をしっかり捕獲すると、再びエストニア人を前に送り出した。そして一緒に出て行ったロベルト・ヘーシンクとベナト・インサウスティ、プリジミスラウ・ニエミエツの監視に当たらせておいた。後ろに残ったニーバリには、頼もしい22歳のファビオ・アールが付いていた。相変わらずアタックの波は収まらなかったが、12人に小さくなった集団を、2人は最後まで無事に制御し切った。
「簡単なステージになるかなと思っていたけれど、そうは状況が許さなかったね。休養日があけて、多くの選手たちが体力を回復してきたようだ。最後の下りでは、タイム差を開こうとは考えなかった。ただコントロールだけを心がけた。よい1日となった。満足している」(ニーバリ)
そんなニーバリやアスタナが、ほんのちょっとだけ失望したのだとしたら、やはりカンゲルトが区間勝利を上げられなかったことだろう。ヘーシンクがメカトラで脱落し、インサウスティとニエミエツと3人になった後、忠実なアシストは「総合争いで危険な方」を警戒することに決めた。つまりゴールスプリントでも、総合6位につけていたニエミエツのホイールにひたすら付いて行ったのだ。
その隙を総合10位だったスペイン人は見逃さなかった。道の反対側へ勢い良く滑り出すと、そのままフィニッシュラインを鮮やかにさらいとった。昨ブエルタでチームタイムトライアル優勝の経験を持つ27歳にとっては、生まれて初めてのグランツール「個人」区間勝利。またチームにとってはアレックス・ダウセット、ジョヴァンニ・ヴィスコンティに続く今大会3つ目の勝利だった!
「ステキな勝利だよ。たった1日だけしか着られなかったマリア・ローザとは、まるで違う。個人的な第一目標は、ゴールで両腕を上げることだった。マリア・ローザはチームにとっては非常に大切だけど、タイムトライアルでジャージを失って、いまだになんだか後味が悪いんだ。でも今日は、自分で勝利を勝ち取った。この勝利をチームに捧げたい。2日後がトンドの命日なのも、なんだかすごく特別な気がする」(インサウスティ)
2011年5月23日、一緒にトレーニングに出かける予定だったシャビエル・トンドが、インサウスティの目の前で事故死を遂げた。1年前にはやはりトンドの友だったホアキン・ロドリゲスが、命日に区間勝利を上げ、記者会見で泣き崩れる一場面もあった。
ほとんどの総合上位選手たちは、インサウスティから14秒遅れで、長くスリリングな1日を終えた。上位3人のタイム差は変わらなかった。必死の追走を続けたサンタンブロジオは2分24秒遅れでゴールし、つまりライバルたちからは2分10秒を失った。ヴィーニファンティーニのリーダーは総合4位から6位に脱落し、代わりに最終盤に積極的に動いたランプレ・メリダの2人組、スカルポーニとニエミエツが1つずつ総合順位を上げることに成功した(4位と5位)。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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