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総合2位カデル・エヴァンスとの差をできれば2分に開きたい……と願っていたヴィンチェンツォ・ニーバリは、望みの2倍もの差を手に入れた。欲しくて欲しくてたまらなかった区間勝利も、見事にポケットにしまい込んだ。日曜日、ブレシアでのマリア・ローザが、ぐっと近づいた。
「今日の勝利で、さらに一歩前進できた。大会が3週目に入ってから、脚が非常に良く動いている。朝の下見の時から、調子が良いと感じていた。落ち着いて、自信を持ってレースに臨むことができた」(ニーバリ)
気持ちを引き締めるためにも、普段はピンクの上着にアスタナカラーのパンツを合わせているニーバリだが、この日は当然、上下ピンク色のスーツでタイムトライアルへと走り出した。172番目、つまり最後にスタートを切った暫定総合首位にとって、山道も、ルーラーもヒルクライマーも、最終盤に降り注いだ雨も、まるで敵ではなかった。9.5km地点の中間計測ポイントでは、サムエル・サンチェスが記録していたトップタイムを38秒も上回った(20分29秒)。20.6kmの上りを終えた後には、2位サンチェスとのリードは58秒にまで広がっていた。優勝タイムは44分29秒が記録された。
3週目に入ってぐんぐん調子を上げてきているサンチェスを、つまりはがっかりさせてしまった。ただ、心底失望しているのは、エヴァンスのほうに違いない。36歳の大ベテランは、出走前には今ステージの「本命」とさえ噂されていた。そして持ち前のダンシングスタイルで、リズム良く飛び出して行ったが……。
「エヴァンスは数日間プロトンの中に上手く隠れていたから、状態がどうなのかまるでつかめなかった。今日も、彼がいい走りを見せるんじゃないかと、恐れていた。でも今日のステージの最終盤に、エヴァンスがすぐ前を走っている姿が見えた。それがボクのモチベーションをいっそうかきたててくれたんだ」(ニーバリ)
3分前にスタートしたはずのエヴァンスが、ラスト1kmでは、ニーバリのほんの数百メートル前でもがいていた。そしてエヴァンスがゴールしたわずか24秒後に、ニーバリはガッツポーズしながらフィニッシュラインへと飛び込んだ。2011年ツール覇者は、この日だけで2分36秒を失った。総合ではいまだ2位の座にしがみ付いているが、首位との距離はとてつもなく広がった(4分02秒遅れ)。
「ボクが望んでいたものとはかけ離れた結果となってしまった。でもボクは、ジロに向けて最高の調整をしてきたわけではないんだ。むしろこのジロを、ツール・ド・フランスへ向けた調整にしたいと考えていた。ニーバリがチャンピオンだ。頭一つ抜け出している。総合優勝にふさわしい選手だよ」(エヴァンス)
なにやら早くも敗北宣言を出してしまったエヴァンスだが、この思わぬ不出来に、喜んだり、救われたりした選手も多い。たとえば総合3位リゴベルト・ウラン(区間6位、1分26秒差)は、2位までの距離が一気に10秒へと縮まった。また後半は少々バテてしまったが、前半の快走で、総合4位ミケーレ・スカルポーニ(区間4位、1分21秒差)は自らの実力とやる気とを見せ付けた。表彰台まで1分02秒差に詰め、残り2日で、エヴァンスを蹴落とせるかもしれない……と望みをつないだ。
8分05秒遅れでステージを終えていたマーク・カヴェンディッシュも、まさか赤いポイント賞ジャージが、自分のところに戻ってくるとは予想さえしていなかったという。
「今夜はジャージを着られないと思っていたのに、またこうして再び手に入れられるなんてね。山岳タイムトライアルはきつかったけれど、幸いにもポイント賞トップを守ることができた。目標は最終日までジャージを守ること。そして日曜日にスプリント勝利を手に入れること。もちろんジャージの行方は、明日の難関ステージの展開にもよるけれど……」(カヴェンディッシュ)
その第19ステージだが、予定されていたガヴィア峠とステルヴィオ峠の通過は、残念ながら中止された。雪が降り続いていること、なにより標高2758mのチーマ・コッピ(大会最高標高地点)は日中の最高気温がマイナス10度程度と予報されていることで、迂回は必至となった。ジロ一行は代わりに、トナーレ峠(2級、標高1883m、登坂距離8.3km、平均勾配7.5%、最大勾配10%)とカストリン峠(1級、標高1706m、登坂距離8.4km、平均勾配9.5%、最大勾配13%)へ上り、予定通りにヴァル・マルテッロの山頂フィニッシュで締めくくられる。同時にステージ距離は138km→160kmに延長された。
この一報を聞いて、カヴを筆頭とするグルペット候補たちは、ほっと胸をなでおろしていることだろう。青い山岳ジャージを守りたいステファノ・ピラッジィ――この日は5分もスタート時間に遅れてしまったそうだが!――にとっても、実に幸いだった。超難関2峠の入れ替えで、ライバルたちに横取りされるかもしれないポイントが、大幅に減ったのだから(ガヴィア+ステルヴィオの1位通過は36pt→トナーレ+カストリンの1位通過は24pt)。何より山の難度が下がったことで、またしても……自らポイント収集に走り出せるかもしれない!
一方で、わずか2秒差で、カルロスアルベルト・ベタンクールから念願の新人賞マリア・ビアンカを奪い取ったラファル・マイカは、ちょっとがっかりしているかもしれない。「金曜日は長い上りばかりだから、ボクの方に有利だと思うんだ」と語っていたけれど……。1年前にトーマス・デヘントが逆転表彰台のきっかけをつかんだ、ステルヴィオ山頂へと続く全長21kmの長い長い上りは、今年は白い雪に埋もれたまま。ばら色の勇者たちの挑戦を受け入れることはない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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