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真っ白な風景を、ピンク色の王者が切り開いていく。2013年ジロ・デ・イタリアの最後の難関ステージで、ヴィンチェンツォ・ニーバリが、我こそがマリア・ローザに最もふさわしい選手であることを改めて証明した。1968年に三岩峠を制した「カニバル(人食い)」エディ・メルクスのように、イタリア自転車界にとっての永遠の英雄「カンピオニッシモ(チャンピオン中のチャンピオン)」ファウスト・コッピのように、偉大なるチャンピオンの走りを見せた。
「タイムトライアルですでに勝っていたけれど……、正真正銘の、難関山頂フィニッシュでどうしても勝ちたかったんだ!」(ニーバリ)
5つの峠越えは、2つに減ってしまったけれど、間違いなく今大会のタッポーネ(最難関ステージ)だった。ゴール前の数キロには、標高・勾配・寒さ・強風・雪……がいっぺんに選手たちの前に立ちはだかってきた。しかも、すでに3週間、雨や雪に打たれてきた選手たちの肢体は、悲鳴をあげていたはずだ。たとえ前日のステージキャンセルで、思いがけない休養日を過ごしたとしても。
それでもスプリンター以外にとっては、このジロで輝く最後のチャンスだったのだ。だからステージ序盤から、アダム・ハンセン、パヴェル・ブラット、ジャイロ・エルメッティやヤロスラフ・ポポヴィッチの4選手は逃げを試みた。……ただもちろん、ハンセンは第7ステージですでに独走勝利をさらい取っていたし、ブラットの所属するカチューシャはマリア・ローザや区間勝利をたっぷり堪能済みだ。一方でポポヴィッチとエルメッティ、それぞれの所属チームであるレディオシャック・レオパードとアンドローニジョカットリ・ベネズエラは、これまでの19日間、なにひとつ収穫がなかった。谷間を満たしていく冷たい空気にも負けずに、ひたすら前を急いだ。後方とのタイム差は最大7分にまで開いた。
「1勝」を追い求めていたのは、なにも上記2チームだけではなかった。参加23チーム中、13チームが勝利の喜びを味わえずにいた。当然のようにプロトン内では、やはりラストチャンスにかけるチームたちが、追走の列車を走らせた。山岳巧者を抱えるエウスカルテル・エウスカディとコロンビアが、序盤の平地から隊列を組んだ。また山が近づいてくると、キャノンデール プロサイクリングも前方に競りあがってきた。
この日の栄光ではなく、「明日の」栄光を目指していたのが、マーク・カヴェンディッシュだった。第19ステージ中止のおかげで、幸運にも、赤いジャージを着続けていた。第20ステージのコース変更のおかげで、しかも逃げ集団が4人だったおかげで、やはり幸運にも、2つの中間スプリントポイントを争うことができた。だって本来ならば、スプリントは難関峠と難関峠の間だったから……。こうしてカヴは、それぞれの中間スプリントで5位通過=2pt×2を手に入れる。結果から言うと、今ステージの終わりにジャージは「一旦」失った。11pt差でニーバリに追い抜かれた。ただし最終日、例えばゴールスプリントで5位(12pt)に入れば、赤いジャージは戻ってくる(この場合は、ニーバリが4位以内に入らなければ、の条件付だけれど)。中間ポイントを重ねることができれば、もっと下位でも大丈夫。もちろん、カヴが狙っているのは1等賞しかないはずだけれど!
四賞ジャージほど威厳は高くないものの、小さな賞を狙っている選手だっていた。1回目の中間ポイントでスプリントを挑んできたラファエル・アンドリアートに対して、カヴはカンカンに怒った。しかしアンドリアートだって、実は、「中間スプリントポイント賞」の総合首位を守ろうと夢中だったのだ(20pt)。なにしろ、エスケープに滑り込んだハンセンには、2pt差にまで追い上げられた。ついでに「大逃げ賞」でもアンドリアートは365kmで総合首位に立っているが、これに関しても、エルメッティに348kmに迫られた。この2賞に関しては、ブレシアでの逃げグループ次第では、顔ぶれが変わるかもしれない。
1956年に冬季五輪の舞台となったコルチナ・ダンペッツォは、まるでスキーシーズン真っ盛りのように、深い雪に覆われていた。同じ年のジロでは、伝説的な大雪となったモンテ・ボンドーネを、シャルリー・ゴールが制した。もちろん総合優勝も果たしている。そして「ドロミテの宝石箱」と呼ばれるこの町から、道は本格的に上り始めた。ゴールまで残すは22.5km。先頭の4人は、2分30秒差で2級峠トレ・クローチ(3つの十字架)山へと飛び込んだ。後方プロトンでは、ピーター・ウェーニングがアタックを仕掛け、数選手が後を追っていた。
そのもっと後ろでは、雪のように白いジャージを2秒差で追いかけるカルロスアルベルト・べタンクールが、ひどく奮闘していた。登坂直前に運悪くパンクに襲われ、その後さらに自転車交換を余儀なくされたせいだった。しかも新人賞ライバルのラファル・マイカを擁するチーム サクソ・ティンコフが、ここぞとばかりに加速を見せた。ただしチームメートに引かれ、チームは違えど母国は同じウィルソンアレクサンデル・マレンテスから背中を押され、小柄なヒルクライマーは無事にメイン集団へと復帰を果たした。
ちなみに同じ頃、青いジャージの男さえ、飛び出しを試みていた。今大会幾度となく大逃げを打ち、第9ステージ終了後からマリア・アッズーラを肌身離さず着てきたステファノ・ピラッジィは、昨夜の時点ですでに山岳賞を確実にしたというのに……!エスケープの生き残りブルット、追走ウェーニングに続いて、2級峠で3位通過=3pt追加を達成する。そしてこのポイントが、ピラッジィにとって、今大会で手にした最後の山岳ポイントとなる。
「シーズン開幕時から、山岳ジャージを獲る、ってチームに断言していたんだ!もちろん区間勝利が欲しかったけれど、でも本当に、このジャージには満足さ!明日はちょっとした青ジャージのお披露目パレードだね」(ピラッジィ)
ウェーニングの後を追いつつ、遅れてやって来たジャンルーカ・ブランビッラやエロス・カペッキと共闘を組もうにも、ピラッジィはゴール前10kmほどで振り落とされてしまう。またブルットに追いつき追い越し、先頭に立ったウエーニング、ブランビッラ、カペッキの3人も、激しさを増していく雪の中で、少しずつ脚が鈍っていった。それでもカペッキだけは、なんとか最後まで粘り続けた。
しかし、雪よりも、あらゆるライバルたちよりも強く、ニーバリが見事なる攻撃を決めた。ゴール前3.5kmまで、アシスト3人に完璧に守られていたマリア・ローザは、何度か畳み掛けるように加速すると、単独で頂上を目指し始めた。全ライバルを振り払い、カペッキをあっさり追い抜いた。自らの総合優勝を、完璧なものにするために。いや、伝説にするために。
「雪が、この勝利を、とてつもない英雄譚に変えてくれたね。それに、昨日の出来事に関して(ディルーカのドーピング陽性)、なにかメッセージを送りたかった。本物の自転車レースとは果たしてどんなものであるのかを、全ての人に見せたかった。今日沿道に来てくれた人々に、感謝の言葉を捧げたい。最後の上りでは、ファンたちの熱気を感じられた。転ばされてしまうかもしれない、と怖くなったことも2度ほどあったけど。とにかく、こんな素晴らしい勝ち方をすることができて、本当に、嬉しい」(ニーバリ)
ニーバリには置き去りにされてしまったけれど、リゴベルト・ウランとベタンクールは一心不乱に加速を続けた。総合3位のウランは、10秒差で総合2位につけるカデル・エヴァンスをどうしても突き放したかった。新人賞2位のベタンクールは、2秒差のマイカを、やはり引き離す必要があった。いわば共通の利益がある2人に、さらにファビオアンドレス・ドゥアルテが加わった。今ジロに旋風を起こしたコロンビア勢は、チームの枠を超えて連帯し、雪山のてっぺんへと大急ぎでたどり着いた。一方のエヴァンスやマイカは、苦しい孤軍奮闘の果てに、コロンビア人と居場所を交換せざるをえなかった。36歳大ベテランはウランに総合2位の座を奪われ、23歳の若きポーランド人は白いジャージを譲り渡した。
「とにかく、マイカより先にゴールすることだけを考えて走った。こんな雪の中で、目標を達成できて本当に嬉しいよ。明日たとえ、何かのアクシデントでこのジャージを失ったとしても、ボクはもう悔しくはない。だって、今大会の一番厳しいステージで、ジャージを取り戻すことができたんだから。何があろうが、ボクの心の中では、このジャージはボクのものなんだ」(ベタンクール)
そして、2011年ジロ覇者のスカルポーニは、苦しみ、疲れ、表彰台の座を取り戻すことができなかった。「イタリア人最後のジロ覇者」の称号も、ニーバリに譲り渡した。
「ブエルタの総合優勝も本当に素晴らしいことだったけれど、このジロ優勝は、なにかもっと特別な感じだね。明日は最終ステージだ。集団スプリントで終わる。だから、すでに大喜びしてもいいよね。自分が何を成し遂しとげたのか理解するには、もうすこし時間がかかるだろう。でも、とにかく、明日の今頃は、ボクはジロとブエルタを両方制した覇者となっているんだ!すでにツールでも表彰台に上っているしね」(ニーバリ)
ところで、ツール・ド・フランス獲りは「2014年に」と考えているニーバリは、最終日は、ようやく全身ピンク色で登場するのだろうか!?ニーバリと共に3週間の長い道のりを走り終えた167選手が、寒かった5月最後の日曜日、ブレシアでのラストランへと向かう。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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