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サイクル ロードレース コラム 2013年5月27日

ジロ・デ・イタリア2013 第21ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ナポリを走り出した207選手は、168人になってブレシアへと帰ってきた。3週間前の市街地周回コースは少々窮屈だったけれど、この日はスペースにもほんの少し余裕ができていた。雨と雪の激闘を潜り抜けてきたヴィンチェンツォ・ニーバリは、ようやく全身をほんのりピンク色に染めて、アスタナ プロチームのチームメートやスタッフたちと「凱旋」パレードを楽しんだ。ステファノ・ピラッジィもカルロスアルベルト・べタンクールも、自らにふさわしい色合いの一張羅を着込んだ。晴れた日曜日には、誰もが笑顔を見せた。ただ……ニーバリの代わりに赤いジャージを着て走ったマーク・カヴェンディッシュだけは、スタートの記念撮影でも口角を上手く上げられないほど、気持ちに余裕がなかった。

なにしろ「代理」マリア・ロッソなんかで、カヴが満足できるはずもないのだ。1年前も同じように、第20ステージで、この大切な赤ジャージを失った。やはり代理ジャージで最終日に挑んだが、ただ今年とは違って、種目はタイムトライアルだった。当然ながら挽回叶わず、わずか1pt差で涙を呑んだ。それに比べて2013年大会は、なんと幸いだろう!だって最終日は、大得意な真っ平のスプリントステージだったのだから。だって不足分の11ptなど、世界最速スプリンターの脚さえあれば、至極簡単に取り戻せるはずだったから!そう頭では分かってはいても、カヴはピリピリした神経をなだめることができなかったようだ。

最終日のプロトンは、いわゆる「伝統」に則って、ブレシア入場前の約170kmをゆっくりと一団になって走った。2005年にシャンゼリゼ突入のはるか前にアタックを打って、マイヨ・ジョーヌチームにお小言を喰らった若き日のフィリップ・ジルベールのような、そんな血気盛んなチャレンジャーは存在しなかった。おかげでカヴェンディッシュとオメガファルマ・クイックステップの作業も楽になった。第1回目の中間ポイントなどは、ほんの直前に、いそいそとプロトン前方に出てくるだけで十分だった。もちろん、前日に戦いを挑んできた(カヴにとっては予想外だったライバル)ラファエル・アンドリアートの例もある。後ろを振り向きながら、慎重に、慎重にスプリントは行われた。これにて8pt獲得。ニーバリとの差はあと3pt!

別に赤ジャージに興味のなかったニーバリは、アスタナ親衛隊にしっかりと守られて、最後の周回コースへ静かに滑り込んで行った。1回目のゴールラインの先頭通過にさえニーバリはこだわらなかった。自分より13年も前にばら色の栄光を勝ち取った大先輩、ステファノ・ガルゼッリに、快く先を譲ったのだ。2000年ジロのマリア・ローザは、プロトンから少しだけ前に進み出ると、沿道に詰め掛けたファンに手を振って、ジロと自転車界に別れを告げた。若き日はマルコ・パンターニの山岳アシストを務めていた。こんな本物のヒルクライマーは、この7月で、40歳になる。

しんみりとしたアッディーオ(永遠のサヨナラ)もそこそこに、カヴとオメガファルマはすぐさま仕事に取り掛かった。なにしろ全部で7周のサーキットコース中に、2つ目の中間ポイントが待っている。でも……果たして何周目?? ロードブックには「3回目のフィニッシュライン」と記されてある。しかし開催委員会は急遽ステージ距離を延長(9km)しただけでなく、ポイント周回も「4回目」に変更していた。だから選手や監督の中に、ちょっとした混乱が起こったとしてもおかしくはない。しかも、神経が過剰なまでに苛立っていたら、もう数えてなんかいられない!

というわけで、カヴェンディッシュは周回を間違えた。2回目の通過直前(ゴール前26km前後)にジャイロ・エルメッティが飛び出すと、自らが後を追って、ゴールラインを先頭突破。しかもそのまま逃げ始めたエルメティを、オメガファルマ列車を走らせて、わずか半周程度で飲み込んでしまった。このベテランイタリア人は、単にエスケープを狙っていただけなのに。ほんのあと18km逃げれば、大逃げ総合首位に手が届くはずだったのに……。他人の最後のチャンスを踏み潰しながら、カヴは3回目さえも頭をひねりながら一応先頭通過した。そして正真正銘の4回目では本気のスプリントを切って、1位8ptを懐に入れた。ニーバリを逆転し、これにて、待望の赤いジャージが自分のものとなった。

「本当に嬉しいよ。ボクが中間スプリントに行くことを、誰もが理解してくれた。幸いなことに、プロトン全体が紳士的だった。ボクがジャージのためのポイントを獲りに行くことを許してくれたんだ。でも、その後もモチベーションを保ち続けた。ただ、勝ちたかったから」(カヴェンディッシュ)

そんな訳で、貪欲なカヴェンディッシュは、気を緩めるどころではなかった。むしろ落ち着きを取り戻し、さらなる自信を持ってゴール勝負へと突進して行った。その一方では、カヴが両手を突き上げる後ろで2→2→16→5位と悔しさを味わってきたエリア・ヴィヴィアーニや、4→8→4→2位と歯軋りしてきたジャコモ・ニッツォロのチームメートたち、つまりキャノンデール プロサイクリングやレディオシャック・レオパードも、オメガファルマ列車に対抗心を燃やしてきた。3→4→2位と続けたナセル・ブアニはイタリアからとっくに立ち去っていたけれど、チームカー隊列にピッツァを大盤振る舞いしたバルディアーニヴァルヴォーレ・CSFイノックスのサチャ・モドロが、代わりにカヴの後輪に張り付いた。

しかしまあ、今のカヴに対抗しようというのは、そもそも無茶な挑戦だったようだ。わが世の春を謳歌する英国人のトップスピードには、誰もが恐れ、ひれ伏すしかなかった。必死に仕掛けたイタリア勢はモドロが2位、ヴィヴィアーニ3位、ニッツォロ4位に終わった。

「ボクはただ、いつだって勝ちたいと欲してる。勝利中毒なのさ。子供のころからずっと、どんな分野だって、自分のベストを尽くすだけじゃ満足できなかった。みんなの中でベストにならなきゃ嫌だったんだよ。それに、自分の周りにチームがついていて、自分のために働いてくれるんだから、100%を尽くさなきゃならない。ボクは勝つためにサラリーをもらっている。もしも誰かにやっつけられたら、家に帰って、もっとハードに練習して、もっと速くなって帰ってくるしかないんだ」(カヴェンディッシュ)

カヴェンディッシュにとっては、第1ステージに始まって、第6・12・13ステージに続く今大会5勝目。ジロには5度目の出場で、これにて通算15勝目を叩き出した。ツールの23勝とブエルタの3勝とをあわせると、グランツールでは通算41勝。つまりはベルナール・イノーの記録に並んだ!ちなみにグランツール最多区間勝利を誇るのは、「カニバル」エディ・メルクスの67勝だ。さらには2010年ブエルタのマイヨ・ヴェルデ→2011年ツールのマイヨ・ヴェール→2013年ジロのマリア・ロッソと、カヴェンディッシュは3大ツールのポイント賞も総なめ。先日引退を発表したばかりのアレッサンドロ・ペタッキに続く、史上5人目の快挙となる。

ついでに言うと、昨年に続いて敢闘賞とアッズーリ・イタリア賞も頂いた。また第20ステージでカヴにこっぴどく叱られたアンドリアートは、無事に中間スプリント賞と大逃げ賞を手に入れた。

先頭集団内で、ニーバリはガッツポーズをしながら、今大会最後のフィニッシュラインを越えた。3週間前には優勝争いの大ライバルと目されていた2012年ツール覇者ブラドレー・ウィギンスと2012年ジロ覇者ライダー・ヘシェダルは、悪天候の中で次々と力尽きていった。その傍らで、シチリアっ子は第8ステージに早くもマリア・ローザを身にまとい、最終日までまるで危なげなく総合首位の座を守り通した。タイムトライアルと難関山頂フィニッシュを1区間ずつ制し、誰からも称賛されるマリア・ローザとなった。熱い涙が、頬をぬらした。

2010年ブエルタに続く、自身2度目のグランツールタイトル。一段ずつ、確実に、大チャンピオンへの階段を上っている28歳ニーバリの次なる目標は、この秋フィレンツェで開催される世界選手権の優勝だ。ツール・ド・フランスのことを考えるのは、それから。

「今日はたくさんの感動に包まれた1日だった。200kmのステージの間中、沿道にはたくさんの観客が詰め掛けていた。言葉にはできないほどの、信じられないほどの、喜びだった。ボクにとってだけでなく、自転車レースにとってもね。ボクは自分らしさを決して失わなかった。いつだってボクはこんな風だった。選手として自分のベストを尽くしてきたし、性格は変わってない。人々に対してオープンでいたいし、礼儀正しくありたいと思っている。レースの毎日の中では、難しいときだってあるけどね」(ニーバリ)

その対極のように、徹底したメディアコントロールとプロトンコントロールが得意なスカイプロサイクリングからは、リゴベルト・ウランが総合2位の表彰台に上がった。来シーズンは某カヴェンディッシュのチームに移籍……との噂もあるが、今のところは「ツールに出るのか、ブエルタに出るのかは、チームの命令次第」とのこと。もちろん総合3位のカデル・エヴァンスは、チームリーダーとしての自信を取り戻して、意気揚々とツール・ド・フランス100回大会に乗り込む。

雪や雨の代わりに、ばら色の紙ふぶきが英雄たちに降り注ぎ、イタリア一周の旅は美しく締めくくられた。あと1ヶ月もすれば、フランスの真夏の戦いが幕をあける。コルシカ島が、プロトンの上陸を、いまかいまかと待ち受けている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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