人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
ピレネーへと向かう道は、灼熱の太陽に焦がされていた。アスファルトは溶けだし、プロトン内のあらゆる選手たちが暑さに打ちのめされた。ツール開幕のほんの前週まで、西欧全土が記録的な寒さと悪天候に襲われていたというのに!
「ものすごく堪えた。年頭からずっと天気が悪かったから、突然の気温の変化に、体が上手くついていけない」(ピエール・ローラン)
スタート直後にジャンマルク・マリノとジョニー・フーガーランドが真っ先に仕掛けた。そこにクリストフ・リブロン、リュディ・モラールが相乗りして、長い苦行へと旅立った。その背後ではメイン集団が、来るべき山の戦いに備えて、熱中症を避けるために水分補給に精を出していた。
フランス自転車界は、「リブロン再び!」と浮き足立った。なにしろ2010年第14ステージは、この日のラスト110kmと寸分違わぬルートを通過している。その道を……そしてアクス・トロワ・ドメーヌの山頂を制したのは、紛れもないリブロンだったからだ!
「ボクは3年前にここで勝っているから、今日は自由に走る許可をもらってる。だから……どうにかして前に飛び出すつもり。同じ快挙が成し遂げられたら本当にステキな物語だけれど、とにかく、山の入り口までは全力で行きたい」(リブロン)
2013大会も開幕から1週間たち、ツール開催国は、今大会最初のトリコロール勝者を追い求めている。ほんの少しの攻撃にも、ファンたちは一喜一憂させられている。だからこそ超級峠コル・ド・パイエールの入り口(残り44.5km)で、リブロンが単独で捨て身の再アタックを打つと、フランス全土が期待を寄せた。3年前の5分と比べて、わずか1分15秒のリードしか有していなかったけれど。またメイン集団から、ラスト40.5kmでロベルト・ヘーシンクが飛び出して、それを追って39kmでトマ・ヴォクレールが特徴的なダンシングで加速したときも、やはりファンたちの胸はときめいた。
残念ながら全ての試みは、黒い高速列車に潰されてしまうことになる。なにしろプロトン屈指のピュアヒルクライマー、ナイロ・クインターナとピエール・ローランの誇り高きアタックさえも、無慈悲な加速の犠牲になるのだ。
「切り裂くようなクインターナの加速が、パイエール峠をさらに名高いものにしてくれたね!」と、1年前からやたらとクインターナびいきの大会開催委員長クリスティアン・プリュドムは、うっとりしながら語ったものだ。コロンビアの山男は、ゴール前35kmで見事な単独攻撃を仕掛けた。「今日は勝つためにアタックした。絶対に勝てると思った」という23歳は、スカイの山岳トレインを一旦は振り切って、力強く前へと突き進んだ。前日にマイヨ・ア・ポワ・ルージュを失ったばかりのローランも、まずは超級で大量ポイントを確保するために、ほんの数キロ後に飛び出した。
ただしスカイ陣営は、前の2人に気を使って減速したりはしなかった。なにしろ多くのライバルたちが、ひとり、またひとりと、メイン集団から滑り落ちて行ったのだから。パイエールの上りでは昨大会新人賞ティージェイ・ヴァンガーデレンが真っ先に振り落とされ、下りでは昨大会総合10位ティボー・ピノの脚が止まった。最終峠アクス・トロワ・ドメーヌの上りが始まるや否や、アンディ・シュレクが落ち、カデル・エヴァンスが落ち、アンドリュー・タランスキー&ダニエル・マーティンのガーミンコンビが落ち、さらにホアキン・ロドリゲスさえ遅れ始めて……。
今大会最初の難関ステージの、ゴール前6km、早くもメイン集団は5人に絞り込まれた。クリス・フルームとアシスト役リッチー・ポート、アルベルト・コンタドールとアシスト役ロマン・クロイツィゲル、そしてアレハンドロ・バルベルデ(のアシスト役クインターナは十数秒先をいまだ走っていた)。それでもなお、この春パリ〜ニース総合を制し、クリテリウム・アンテルナシオナルとクリテリウム・ドュ・ドーフィネではフルームに次いで総合2位で終えたポートは、加速の足を緩めようとはしなかった。
「すでにボクだって限界に近かったんだけどね。でもコンタドールが遅れ始めた。だからこそ、俄然やる気をかきたてられたんだ」(ポート)
そう、過去ツールを2回(+1回剥奪)、ジロを1回(+1回剥奪)、ブエルタを2回制してきた現役最強のグランツールレーサーは、ひどく苦しみ喘いでいた。ポートの刻む高速リズムについていけず、ずるずると後退していったどころか、サポート役クロイツィゲルの後輪に張り付くことさえ難しかった。果たして暑さのせいか?ドーフィネ時と同様にアレルギーのせい?空白の1日だったのか、それとも?
「上りスピードがすごく速かったし、実のところ、ボクはひどく調子が悪かったんだ。なんとか追いつこう、カウンターアタックを打とう、と考えたけれど無理だった。チームメイトの働きには、特にクロイツィゲルには感謝している。今のボクに大切なのは、できる限り体調回復に努めること。明日は別の日。この先に希望をつなげていく」(コンタドール)
そして全ての締めくくりに、フルームが飛び出した。1年前のツールでは自由に羽ばたくことを禁じられていた。この日は、ラスト5kmからフィニッシュラインまで、リミッターを外して、思いっきりあらゆる力をペダルに込めた。クインターナを追い越し、全てを置き去りにした。まさに自己解放の瞬間だった。
「これ以上の喜びはないね。今日は大会最初の総合争いの日で、こうして1位と2位を手にすることができたんだから。まさしく夢が叶ったよ」(フルーム)
タイムを少しでも稼ごうと、ラインぎりぎりまで加速を止めなかった。喜びを爆発させたのは、最後の、最後の瞬間だった。1年前も大会8日目(第7ステージ)に区間勝利を上げ、チームリーダーのブラドレー・ウィギンスのマイヨ・ジョーヌをお膳立てしたが、今年はフルーム自らが大切なジャージを着込んだ。南アフリカのインペイから、「白いケニア人」は黄色いリレーをしっかりと引き継いだ。そしてリーダーから遅れること51秒。2番目にはアシスト役であり良き友でもあるポートが入り、総合でも堂々と2番目の席に座った。
ところで、近年あまりにもゴタゴタ続きだった自転車界は、どうしても警戒心を解くことができずにいる。フルームの独走勝利が、失墜したランス・アームストロングのそれにどこか似ているのではないか……という意見が早くも聞こえてきたのも、残念ながら、真実だ。本人にも直接、辛辣な質問が向けられた。「あなたは完全にクリーンな状態だと、我々に保証できる?」と。
「うん、100%だ。びっくり仰天して、ボクらのパフォーマンスを疑問視する人間もいるだろうね。でも、実のところ、この競技の体質が変わっていなければ、このボクが今のような成績をあげることなんて絶対に不可能だったんだから。この競技が変わったことを見せること。これはボクにとって、ちょっとした使命なんだ。ボクの上げた成績が、20〜30年後に剥奪されてしまわないだろうことは、自分自身ではっきりと分かっている。そんなことは起こりえないから、みなさん、安心して欲しい」(フルーム)
後輩クインターナの頑張りに刺激されたか、バルベルデはベテランの意地を見せて、1分08秒遅れの区間3位に滑り込んだ。そのコロンビア人は、喘ぐ「エル・ピストレロ」と同時ゴール。つまりクロイツィゲルに助けられながらも、スピードがまるで上げられず数選手に追い抜かれていったコンタドールは、ライバルのフルーミーから1分45秒も遅れて長い1日を終えた。
ツール100回記念大会の総合優勝争いは、すでに決してしまったのだろうか。総合首位・2位(51秒差)をフルームとポートのスカイ組が独占し、3位バルベルデとの差はすでに1分25秒も開いている。ベルキン組が4位バウク・モレッマ(1分44秒差)、5位ローレンス・テンダム(1分50秒差)と大奮闘し、続いてサクソ・ティンコフ組の6位クロイツィゲル&7位コンタドール(両者とも1分51秒差)がつける。8位クインターナは、予想されていた赤玉ジャージではなく、純白の新人賞ジャージを身にまとった。
ほんの1週間前には総合候補の一角を占めていたロドリゲスは2分31秒遅れ、エヴァンスは4分36秒遅れと、もはや取り返しのつかない遅れを喫してしまったように見える。「ボクは優勝候補でもなんでもないからね」と皮肉っぽく笑うアンディ・シュレクは、2日前からの苦悩――出場停止処分明け直前の、兄フランクの突然のチーム解雇――にも関わらず、総合で4分遅れ。これまでの状態から考えると、むしろ上出来の方かもしれない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle* UCIシクロクロス ワールドカップ 2024/25 第1戦 アントウェルペン(ベルギー)
11月24日 午後11:00〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!