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フランスを斜めに突っ切って3日目。地図だけ見れば単なる「移動ステージ」。エスケープ勝利を狙う選手にとっては、今大会最後の中級アップダウンステージだった。いまだ凱歌をあげられていないフランス勢にとっては、「キャトーズ・ジュイエ(7月14日=革命記念日)」前夜に母国に熱狂をもたらす絶好のチャンスだった。総合争いの選手にとっては……勝負のモン・ヴァントゥーを前に、静かに体力を温存したい1日だった。
肌にじっとりと纏わりつくような暑さが、あいかわらずツール一行を苦しめていた。ゼロkm地点で最初のアタックがかかり、そこから攻撃の乱れ打ちは続く。「ゴムのように伸びたり縮んだり……(デーヴィッド・ミラー)」を繰り返した果てに、18人のエスケープ集団が出来上がったのは、ようやく45kmほど走った後だった。
ただし、すぐに逃げを許されたわけではない。大きな塊には、22チーム中13チームが滑り込んでいた。当然、前に行けなかった9チームにとっては面白くない。乗り遅れた中でも、特にエウスカルテル・エウスカディやランプレ・メリダ、ヴァカンソレイユ・DCMが必死に追走を仕掛けた。なかなかタイム差は開かず、1分前後で一進一退を繰り返す。それでも次第にヴァカンソレイユが諦め、ランプレが放棄し、エウスカルテルが足を緩め……ステージ折り返し地点の補給地点(スタートから94km、残り97km)をきっかけとして、18人にステージ勝利を争う権利が完全に譲渡された。そしてこれが、2013年ツール・ド・フランスも14日目にして初めての、「勝利に結びつくエスケープ」だった。
……そうは言っても、どうしても諦めきれない人間もいた。ランプレのダミアーノ・クネゴとヴァカンソレイユのジョニー・フーガーランドが、残り77km地点でひどく不毛な追走に打って出たのだ。しかし先を急ぐ18人は、すでにはるか遠くへ行ってしまったあとだった。長いシャス・パタット(芋ほり=逃げとプロトンの間に挟まれていること)の果てに、ただ疲労だけを残して、2人はスカイが淡々と制御するメイン集団へと飲み込まれていくのだった。
前方ではガーミン・シャープ(アンドリュー・タランスキーとデーヴィッド・ミラー)、モヴィスター チーム(ホセホアキン・ロハスとイマノル・エルビーティ)、BMCレーシングチーム(ティージェイ・ヴァンガーデレンとマークス・ブルグハート)、レディオシャック・レオパード(ヤン・バークランツとイェンス・フォイクト)が、それぞれに2人ずつ送り込み、わずかな数的優位を誇っていた。一方で今大会初優勝を追い求めるフランス勢が4人。シリル・ゴチエにビエル・カドリ、ジュリアン・シモンに……フレンチトリコロールジャージを着込んだアルテュール・ヴィショ!また1日だけ特別休暇を与えられたスプリンター親衛隊が3人(ラルスイティング・バク、シモン・ゲシェケ、マッテオ・トレンティン)に、パヴェル・ブラットにエゴイツ・ガルシアエチェギベル、ミハエル・アルバジーニ。また総合で13分11秒差につけるタランスキーと38分08秒遅れのヴァンガーデレンのアメリカコンビは、「新人賞獲り」の失敗をなんとか穴埋めしたかったはずだ。
7つの小さなアップダウンを乗り越えて突き進む18人の、協力体制が崩れたのは、ゴールまで30km前後に近づいてから。そして最も危険な男と集団内で恐れられていたアルバジーニの下りアタックをきっかけに、ステージ勝利へ向けた壮大ないがみ合いへと突入する。2人体制を利用して、ベテランルーラーのミラーやフォイクトが、強烈な牽引を繰り返す。アルバジーニは全てに噛み付き続け、すでに区間勝利&マイヨ・ジョーヌの味を知っているバークランツも欲望を剥き出しにした。最後から2番目の上りでは、昨大会総合5位ヴァンガーデレンが、軽やかなリズムでライバルを引きちぎりにかかった。41歳フォイクトと36歳ミラーは、次第に燃え尽き、引き離されていった。
山の上(ゴール前15km)で、切り裂くような飛び出しを決めたのが、シモンだった。2012年カタルーニャ一周で、第1&第2ステージと総合を制したのがアルバジーニなら、第5&第7ステージでスプリント勝利を奪い取ったのが「ジュジュ」だ!
「たしかにボクにはトップスピードがある。だからスプリントに全てをかけるという選択肢もあった。でも、フィーリングに任せて飛び出した。後ろがお見合い状態を続けていると分かったから、そのまま突き進んだ。後悔はないよ」(シモン)
フランス人の初勝利を待ち望む沿道の人々は、熱狂的すぎるほどの声援をシモンに送った。数キロしてカドリも飛び出すと、「トリコロールたちがフランスの栄光に向かって突き進んでいます!」とレースコメンテーターは叫び続けた。
「フランス連合が組めたら良かったのに。だってシモンに追い付けていたら、フランス人2人で、協力し合って最後まで行けたに違いないんだ(カドリ)」
しかしシモンは、たった1人で、ゴール前9.5kmに位置する最終峠を駆け上った。カドリを飲み込み、波状攻撃を続けてくる敵たちを尻目に、必死に逃げ続けた。ローヌ河岸のいつまでも続く長い直線道路に入ってからは、個人タイムトライアルのようなつもりで一心不乱にペダルをまわした。
「でも、最後の3kmは長かった。カーブがあったら、もしかしたら、状況は違っていたかもしれない。でも直線が長すぎた……。それでも、最終ロングストレートに入ったときも、アルバジーニが追いついてきたときも、まだいけると信じてた。アルバジーニもまた、疲弊しきっているのを感じたから」(シモン)
ゴール前1kmでアルバジーニに囚われたシモンは、最後まで望みを捨てていなかった。ただしゲシェケが、残党を全て引き連れて追いついてきたときに、「もうダメだ」と観念したと言う。シモンと共に、フランス全土がため息をついた。
最終的には12人のスプリントで、華やかにステージは締めくくられた。もがくアルバジーニや、追い上げるロハスを、後方から驚異的な伸びで刺したのは、「マーク・カヴェンディッシュのアシスト役」トレンティンだった。
「マークとはいつも、スプリント計画を立てるんだ。いつも正確に計画を立てた上で、定点からボクは仕事をスタートし、定点で終える。そこからはヘルトが仕事を始めて、200mか250mでマークにバトンを受け渡す。いつもボクらが言っているのは、『落ち着いて、その時を待つ』ということ。今日は、ボクはただその時を待った。だって風があるのが分かっていたから、みんながボクより先にスプリントを仕掛けたけれど、追い抜けると確信していた。ただボクは待った。自分の得意な距離は200m以内だと分かっていたから」(トレンティン)
23歳のトレンティンは、初めてのビッグ勝利に「こういう表彰台や記者会見っていうのは初めて!」と顔をほころばせた。自転車大国イタリアにとっては、今大会初勝利であると同時に、2010年第4ステージのアレッサンドロ・ペタッキ以来3年ぶりの貴重な白星だった!ドイツ(5勝)や新旧イギリス連邦(イギリス3勝、オーストラリア2勝、アイルランド1勝)に支配されてきた2013年ツールで、他の旧大国、フランスやスイス、スペインはいまだ苦しんでいる。
スカイ プロサイクリングが静かにコントロールしたメイン集団は、トレンティンから7分17秒遅れで美食の町リヨンへとたどり着いた。つまり先頭集団でスプリントに加わったタランスキーは、総合での立場を大きくアップすることに成功。13分10秒差から、一気に5分54秒差の総合12位へと食い込んだ。
モン・ヴァントゥーへの長い旅(242.5kmの今大会最長ステージ!)へ向けて、翌朝のプロトンはいつもよりも早起きを強いられる。連日マイヨ・ジョーヌ記者会見に丁寧に受け答えしていたクリス・フルームも、手短に囲みインタビューを終えると、足早にホテルへと去っていった。
「みんな忘れてはいけないよ。モン・ヴァントゥーは240kmのステージの果てに来るんだ。歴史に語り継がれるような1日になるだろう。勝ちたいかって?もちろん、もしもモン・ヴァントゥーで勝つことができたら、夢のようだね。ただとにかく、タフな上り勝負になることは間違いない」(フルーム)
パリ祭の前夜、美しき花火があちこちの町で打ち上げられた。選手たちにそれを堪能している余裕などない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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