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サイクル ロードレース コラム 2013年7月21日

ツール・ド・フランス2013 第20ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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「ラスト2kmで、ようやく実感したんだ。『ああ、これだ!とうとうやったんだ!』ってね。そして、ちょっとだけ集中力を失っちゃった」(クリス・フルーム)

アフリカで生まれた史上初めてのマイヨ・ジョーヌは、真夏のまばゆい光のように、キラキラとした笑顔をふりまいた。セムノス峠の山頂では、走り終わった選手たちを、360度に広がる壮大なアルプスのパノラマが迎え入れた。記念すべきツール・ド・フランス100回大会も、ほぼ終わり。ラストチャンスに懸ける挑戦や、ドラマチックな逆転劇を経て、総合表彰台や各賞ジャージを巡る争いは全て決着を迎えた。

125kmの極めて短いステージは、ゼロkm地点のピエール・ローランのアタックから始まった。赤玉に身を包んではいるものの、本物の山岳ジャージには1pt足りない。「ほぼチャンスはないと思うけれど……、それでも、わずかながらにチャンスはある。正直に言うと、ジャージが欲しい」と、前夜に漏らしていた誇り高きフレンチクライマーは、3日連続の攻撃に打って出た。

9人の選手が、最後の山岳エスケープの企てに乗った。腹の中に異なる思惑を秘めながらも(山岳賞やチーム総合、後方のリーダー支援、もちろん単純なる区間勝利も……)、10人は同じゴールを目指した。各山頂ではローランが山岳ポイントを回収し、時には5pt差で後を追うミケル・ニエベのチームメート、イゴール・アントンに邪魔されながらも……、「暫定」ではあるものの山岳賞トップにも躍り出た。

「今日はシリル(・ゴチエ)が一緒に前に来てくれたから、2人で全力を尽くした。でも昨日の逃げの疲れが、脚に重くのしかかっていたんだ。それでも強く信じて戦い続けた」(ローラン)

ところがゴール前60km、1級モン・ラヴァールの麓で、イェンス・フォイクトが前集団から飛び出した。約2ヵ月後に42歳を迎える大ベテランも、やはり2日前のラルプ・デュエズに続く逃げへの挑戦だった。そして、たった1人で、山道につめかけた観客の間を、大声援を受けながら走り抜けて行く。ローランはBMCレーシングチーム勢(逃げのマークス・ブルグハートに、プロトンから飛び出してきたフィリップ・ジルベール&ティージェイ・ヴァンガーデレン)と共に追走を試みるが、年を重ねてもなお衰えぬ強脚ルーラーを、いつまでたっても捕らえることができなかった。それどころか、後方から猛スピードでメイン集団が迫ってくる。結局は最終峠に突入する前に、ローランは「自らの判断で、ペダルを漕ぐ脚を緩めた」。

「もはやクリス・フルームやナイロ・クインターナと渡り合うだけの体力は残っていなかったんだ。山頂フィニッシュのポイント2倍システムは、今年のボクには不利に働いた。大逃げ選手よりも、むしろ総合上位選手やピュアクライマー向きのシステムだよね。でも、しょうがない。それがルールなんだから」(ローラン)

それでも、ローランやチーム ユーロップカーのチームメートは、胸を張って、2013年ツールを締めくくる。「確かに、結果は出ませんでした。でも、ボクたちは、何もしなかったわけじゃない。少なくとも挑戦はした」と、新城幸也が山の上で語ったように。

さて、そのフォイクトも、最終峠の上り開始直後に、集団に先頭の座を譲った。ツール参加16回、区間勝利2回(+チームTT1勝)、マイヨ・ジョーヌ着用2回。この日は敢闘賞として表彰台に上がり、パリでは赤ゼッケンをつけて走る。ファンやツール・ド・フランスへの、ちょっと粋な「アデュー(永遠のサヨナラ)」となりそうだ。

「間違いなく、いや確実に、これがボクにとって最後のツール・ド・フランスだ。ボクのキャリアのページを閉じるために、最後の最後に何かしたかったんだ……。それは成功したと思うよ」(フォイクト)

メイン集団内では、スタート直後から、モヴィスター チームが主導権を握った。出走前には選手全員でローラー台を回し、10人の逃げが出来上がると高速トレインを走らせた。ひとえに23歳の若きクインターナに、山頂フィニッシュ勝利をもたらすためだった。

「チームはボクに勝算があると踏んでいたし、ボク自身だって勝ちたいと思っていた。ただ監督やチームメート全員は強く勝利を確信していたけれど、ボク自身はそこまで自信がなくて。でもチームがとてつもない仕事を成し遂げてくれた」(クインターナ)

ゴールまで15kmに迫っても、いまだスペイン軍団のアシスト6人が、白い新人賞ジャージの周りをしっかり固めていた。最終峠突入と同時に、第16ステージで区間勝利を挙げ、「沈みかかっていたチームの雰囲気を上げ、選手の士気を高めてくれた」(GMウンスエ)のはもちろん、前夜に2勝目をもたらした絶好調ルイアルベルト・ファリアダコスタが、猛烈なリズムを押し付けた。これで一気にメイン集団を8人にまで絞り込んだ。すぐさま畳み掛けるようにアレハンドロ・バルベルデが加速を切った。

決定的な選別を行ったのは、しかしロシアチームのスペイン人、ホアキン・ロドリゲス。3週目に入ってからグングン調子を上げてきた34歳が、ゴール前8.5kmで得意の爆発力を見せ付けると……、パリの総合表彰台に上る3人が抜け出した!

それは第15ステージのモン・ヴァントゥー終了後のフルーム+バウク・モレッマ+アルベルト・コンタドールとも、第17ステージ山岳TT後のフルーム+コンタドール+ロマン・クロイツィゲルとも、さらには第18ステージのラルプ・デュエズ終了後のフルーム+コンタドール+クインターナとも違う。もちろんフルームの絶対的優位だけは常に変わらなかったが、黄色いジャージと共にツール初登場の山へ登っていったのは、クインターナとロドリゲスの2人だった。

「ボクは自分の目標が何なのかはっきり分かっていたし、その目標を常に考えながら走ってきた。今度こそ、歴史がボクに味方してくれた。3大ツールの表彰台全てに上るというのは、それほど多くの選手にチャンスがあることではないからね」(ロドリゲス)

モン・ヴァントゥー前日まで総合10位で、ほんの前夜までは総合5位だった。しかし2012年ジロでは最終日に首位→2位と泣き、2012年ブエルタでは第17ステージに首位→3位と逆転負けを喰らった「プリト」は、2013年ツールでは1つ順位が上のクロイツィゲル、さらには2つ上のコンタドールに苦い思いを味わわせた。「区間だって勝てたはずだけど、とにかく総合のために全力を注ぐべきだと分かっていた」から、クインターナやフルームの無協力などお構いなく、昨秋のブエルタで自分からリーダージャージをむしり取ったデンマークチームのスペイン人を、冷静に表彰台から蹴落とした。

「本当に疲れた。肉体的にも、精神的にも。ここ数日はリスクを冒したし、転んで、ヒザを痛めていた。それにボクの本来の目標はマイヨ・ジョーヌを獲ることであって、表彰台ではない。2位を守ることや、トップ10入りすることじゃなかったんだ。もちろん、4位よりも2位の方がいいに決まってるけど」(コンタドール)

落ちたチャンピオンは、7分10秒遅れの総合4位として1日を終えた。個人的な栄光は逃したけれど、幸いにもチーム総合首位の座だけは、総合5位クロイツィゲルと共に守りきった。記念大会でシャンゼリゼの表彰台に登る権利は、かろうじて手に入れた。

フルームがラスト2kmから感動に溺れ、ロドリゲスが表彰台の3番目の位置を確保し、若きクインターナが有終の美を飾った。開催委員長クリスティアン・プリュドムが「過去を振り返り、未来へと続くツール」にしたいと願ったこの100回大会で、23歳のコロンビア人が、新しい時代の扉を大きく開いた。力強いペダリングで山頂フィニッシュをものにし、総合2位の座と、新人賞と山岳賞の2つのジャージを手に入れた。「もはや未来のスターではない、現在形のスターなのだ」とチームのゼネラルマネージャー、ウンスエ氏も高らかに宣言する。

「言葉にならないよ。こんな日が来ることをずっと夢見てきたけれど、こんなに早くやってくるとは思わなかった。泣いてしまった。最も大きい収穫は総合2位の座だ。でも、チームがすごい仕事を成し遂げてくれたおかげで、こうして区間と山岳賞さえも勝ち取ることができた。マイヨ・ジョーヌ?この先は、それに向けてトレーニングを積んでいく。もしかしたら来年、もっと確実に言えば2015年には、ジャージ獲りにトライしたい」(クインターナ)

その黄色いジャージは、第8ステージから12日間、フルームが頑なに守り続けてきた。第9ステージでは孤独な戦いを強いられ、第13ステージでは強風にさらされ、第18ステージでは「最悪の思い出」低血糖状態に苦しめられても……。スカイ列車は破壊されても、決してフルーム本人が打ち崩されることはなかった。そしてこの先も、王座を簡単に手放すつもりはないようだ。

「ボクは28歳。あとどれだけツールを勝てるのか分からないけれど、自転車選手というのは、30代序盤に最高レベルに達するもの。だからこの先も成長を続けていきたいし、自分が望む限り、総合優勝を争いたいと思っている」(フルーム)

ちょうど3週間前にコルシカ島から走り出した198人は、170人になって最終ステージ地パリへ凱旋する。そうそう、ポイント賞ジャージも、この日の中間ポイントでペーター・サガンが2年連続受賞を確定させている。すると残すお楽しみは……史上初ナイトステージの豪華絢爛な演出と、シャンゼリゼ区間優勝の行方である!

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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