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開幕5日目にしてようやく、勝利の女神がスプリンターに微笑んだ。なにしろここ2日間は、「上れるスプリンター向き」と言われながらも、結局のところは山岳巧者にステージをさらわれてきた。2013年は、ジロもツールも、初日から華やかな大集団スプリントゴールが見られたというのに(確かにツールでは、大落車が発生したが)。しかも、いくらブエルタが山好きとは言っても、これほどまでにスプリンターが待たされた大会は、過去10年遡っても存在しない。
「オメガファルマ・クイックステップが追走を仕掛けないという噂があったものだから、逃げ切りに賭けてみた(監督ステファヌ・オジェ)」と、コフィディス・ソリュシオンクレディは前方に選手を送り込むことに決めた。「だってチームにはスプリンターがいないから(アルノー・クーテル)」と、フランスが誇る2大若手スプリンター(ブアニとデマール)を母国においてきたエフデジ・ポワン・エフエールにとっては、逃げしか解決策がなかった。こうしてスタート8km地点から、2日連続の冒険に乗り出したニコラ・エデにクーテル、ウィナー・アナコナ、アントニオ・ピエドラ、ユルゲン・ヴァンデワールの5人が飛び出した。
後方で、確かにオメガファルマは、すぐには仕事を始めなかった。その代わり、タイム差が10分半ほどに開くと、ガーミン・シャープとオリカ・グリーンエッジが積極的な追走作業に乗り出した。それぞれタイラー・ファラーとマイケル・マシューズを、どうしてもスプリントポジションまで送り込まねばならなかったからだ。特にオーストラリアの別名「ブリング(Bling、日本語ではいわゆる『キラキラ』)」は、前夜3位……、つまりスプリンターとしては最高順位で大健闘していた。このままの勢いで、どうにか初勝利を手に入れたい。
だから軽いアップダウンと、空からほんの少しだけ落ちてきた雨粒にも負けず、2チームの隊列は必死で前方を追いかけた。5人は予想以上の粘りを見せたが、幸いにも、ゴールまで35kmを切ると、ジャンニ・メールスマン率いるオメガファルマも追走作業へ加わった。ラスト10kmでクーテルが再アタックを仕掛け、ヴァンデワールと2人で最後の抵抗を試みたときなどは、タイムトライアル世界王者トニー・マルティンが強烈な牽引を行った。
「できる限り遠くまで逃げられるように、全力を尽くした。でもボクには、トニー・マルティンみたいな、平地を爆走できるような太ももはないからね!彼がプロトン先頭でとんでもなく重いギアを踏んでいるのが見えた」(クーテル)
ゴール前3.5km、ついに集団はひとつになった。エウスカルテル・エウスカディのパブロ・ウルタスンが軽く飛び出したり、世界チャンピオンジャージを着てから結局1度も勝てぬままの(しかも、あと1ヶ月で脱がねばならない)フィリップ・ジルベールが特攻を試みたりしようが、スプリンターチームは決然たる態度で、誰も逃がしはしなかった。
前日好調さをところどころで証明したエドヴァルド・ボアッソンハーゲン擁するスカイ プロサイクリングや、今季誕生したアルティック・レース@ノルウェーで鮮烈な勝利を決めたニキアス・アルントを支えるチーム アルゴス・シマノも、それぞれに列車を走らせた。待ちに待った集団スプリントへと、多くのチームが駆け込んで行った。
「チームメート全員が、プロトン前方にたって、エンジン全開で追走を行ってくれた。そしてボクを安全圏で守り続けてくれた。こんなチームメートのおかげで、素敵なことに、ボクはまるで追走について心配する必要がなかった。ひたすら前の車輪にくっついて、ただステージ終わりにやってくる自分の仕事に集中し続けるだけでよかったんだ」(マシューズ)
一切の雑念を持たずに「クリア」な気持で走ったというマシューズは、背後でメールスマン(区間3位)とマキシミリアーノ・リチェーゼ(2位)が軽いヒジの突きあいを行っている間に、極めてクリアに勝利をさらい取った。満面の笑みでフィニッシュラインを走りぬけた直後に、22歳と11ヶ月の若者は、自分が成し遂げたことの重大さに気がついた。思わず涙がこぼれたという。
「キャリアで最大の勝利だよ。ボクにとっては人生初めてのグランツール出場だったから、まさか勝てるとは予想もしていなかった。もちろん勝ちたいとは思っていたけれどね。好調なのと、勝利を引き寄せることは、まったく違うことだから」(マシューズ)
総合優勝を争う強豪たちは、この日は全員、マシューズと同タイムの先頭集団でフィニッシュラインを越えた。これまで日替わりで持ち主を替えてきたマイヨ・ロホも、ようやく2日連続でヴィンチェンツォ・ニーバリの肩に納まった。
ちなみに前夜は、小さな分断にはまったクリストファー・ホーナーがマイヨ・ロホを失い、ちょっとした議論を呼び起こした。「本当に差は1秒以上あったのか?」とVTRを見直して、検証を試みたテレビ局さえあった。そして実のところ、ニーバリ擁するアスタナ プロチームは、これほどまでに早い段階でジャージ保守作業を請け負いたくはないようだ。マルティネッリ監督は、「もしもレディオシャックがマイヨ・ロホが欲しいというなら、言ってくれれば、なんとか上手くアレンジするのに」なんて、冗談さえ飛ばしている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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