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世界チャンピオンたちによる異種格闘技戦が、2日連続で楽しめた。前夜はトラックのマディソン覇者に軍配が上がり、今宵はシクロクロスキングが際どい接戦をもぎ取った。タイムトライアル現役世界王者が奮闘むなしく敗れ去った翌日には、ロードのアルカンシェルが悔しさに歯軋りした。
現役個人&チームTT世界チャンピオン、トニー・マルティンの驚異的な1人逃げから一夜明けて。この日はマルコ・ピノッティが、来る世界選へ向けての練習……という名のエスケープに乗り出した。前日は同伴を断られたけれど、イタリア個人TTチャンピオンに過去6度も君臨してきた強脚ルーラーは、どうしても長距離トレーニングを積みたかったようだ。幸か不幸か、クリスティアン・クネースとハビエル・アラメンディアが、飛び出しに付き合ってくれた。南スペインの太陽の下でほどよく汗をかきながら、逃げ集団は、最高7分半ほどのリードを奪った。
前日は思うような追走ができず、混乱のままステージを終えた後悔の残るスプリンターチームは、序盤から精力的に仕事を行った。2日連続2位マキシミリアーノ・リチェーゼを擁するランプレ・メリダを筆頭に、アルゴス・シマノやオリカ・グリーンエッジ、さらにはガーミン・シャープが追走作業に携わった。前日はマルティンのための「ブレーキ役」を務めたオメガファルマ・クイックステップも、ジャンニ・メールスマンやアンドリュー・フェンの可能性に賭けるために、この日は協力を買って出た。
ただし、またしても、コースレイアウトはスプリンター泣かせ。市街地に引かれた最終周回コースは、細かいカーブやロータリーが、ぎっしりと詰め込まれていた。しかもゴール前10kmには、軽めの上りが待っていた!
不測の事態に備えて、当然のように、総合争いのチームたちが前方へと競りあがってきた。3秒差の総合2位クリス・ホーナーを抱えるレイディオシャック・レオパードも、過去4回個人TT世界チャンピオンに輝いているカンチェッラーラに牽引役を委ねた。そして前夜、フィニッシュラインギリギリでマルティンの望みを叩き切った張本人が、この日は別のライバルを後方へと引きずりおろした。ゴール前17kmでクネースとアラメンディアが吸収された後、それでもピノッティは2kmはひとりで粘ったのだけれど。
「昨日は、追走作業はしていないんだよ。だって逃げていたのは、トニー・マルティンだったから。ボクはいつだって、勝つためにレースをする。他のことを楽しむために走っているわけじゃない。そして調子が良いと感じたら、スプリントのために突っ走る。別にブエルタのタイムトライアルを制するために、今大会に来たわけじゃない。今大会を走っているのは、むしろ、世界選手権のタイムトライアルの準備を積むためさ」(カンチェッラーラ)
北京五輪個人TT金メダリストは、上り坂などおかまいなく猛烈な加速を強いた。ところが上り最終盤、フィリップ・ジルベールが、カンチェッラーラの目を盗んで飛び出した。すかさずゼネック・スティバールも同調した。つまりは現役ロード世界チャンピオンと、2010・2011年シクロクロスの世界王者が、最強タッグを組んだのだ!
「スプリントに向けてチームは働いていた。でも、ボクは監督にお願いしていたんだ。もしも最後の上りでアタックがかかった場合は、ボクに行かせて欲しい、って。自分にとっては大きなチャンスになると思っていたし、同時に、チームにとっても快適な状況を作り出せるはずだった。だってスプリントに向けた追走作業に加わる必要がなくなるから。そもそも、アタックがかかるはずだと、確信していた。飛び出す準備はできていた。もっと大勢の選手が逃げ出すと思ったんだけど、結局は、ジルベールとボクだけだったね」(スティバール)
2012年9月末、栄光の世界チャンピオンジャージを身にまとって以来、ジルベールは1度も勝利の喜びを味わえずにきた。エネコツアーの落車でヒザを痛めてはいたけれど、どうしてもアルカンシェル姿で両手を天に上げたい。それにフィレンツェでの世界選手権へ向けて、調子を上げて行く必要もある。一方のスティバールは、そのエネコツアーで区間2勝+総合を力強く勝ち取り、絶好調の時を過ごしていた。それぞれの思惑を胸に秘めて、2人は協力体制を組んだ。
カンチェッラーラはしばらくして、牽引をあっさり中止した。慌ててオリカ・グリーンエッジが総動員で追走隊列を組んだ。アルゴスも加速に手を貸したし、しまいには2人のベルギー関係者に刺激されたか、ロット・ベリソルも猛然と前を引き始めた。ただガーミンだけは、作業に加われなかった。タイラー・ファラーがメカトラに襲われ、上り坂でダニエル・マーティンが落車するという、二重の災難に見舞われたのだ。全てのスプリンターチームにとっての不運だった。
「ラスト10kmは、ひどくテクニカルな道が続くことを知っていた。まさにボク向きだった。集団が逃げをつかまえるのは難しいだろうと予測していた。カンチェッラーラも努力したけど、ギャップを埋められなかったしね」(スティバール)
トニー・マルティンの奮闘に大いに刺激されたというベルギーチームのチェコ人は、アメリカチームのベルギー人と共に、ゴール前5kmでの6秒差を、残り3kmでは12秒へ、2kmでは17秒へと広げて行った。ラスト1kmのアーチは、後方プロトンから12秒リードで潜り抜けた。
「最終1kmは、冷静でいるよう心がけた。プロトンが背後に迫っていることを感じていた。一か八かの賭けだと分かっていた」と語るスティバールが、真っ先にスプリントを切った。後方からは待ちきれない選手たちが思い思いに加速を仕掛け、恐ろしいカオスとなって2人に襲い掛かりつつあった。「ゴール前ギリギリで、ようやく彼の背中から飛び出した」とジルベール。フィニッシュライン25m手前で、突如スプリントに加わった。そして2人は、思い切りハンドルを投げた――。
「1センチ差だろうが、1ミリ差だろうが、そんなのどうでもいい。だってボクが勝ったんだから!」(スティバール)
ロードに完全転向してから3シーズン目。「シクロクロススペシャリスト」の称号をいつまでたっても脱ぎ捨てられずにいた27歳は、2度目のグランツール参戦で、ついに待望の初区間勝利を手に入れた。ほんのタイヤ半分ほどの差で負けたジルベールも「調子の良さが確認できた。この先に希望がつなげるさ」と、前を向いた。
またしてもチャンスを逃したスプリンターたちは、1秒遅れの集団でフィニッシュラインに雪崩れ込んだ。総合争いの選手たちにタイム変動はなく、「勝つこと」以外には興味のないカンチェッラーラは、3分27秒遅れでゆっくりと1日を終えた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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