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2013年ブエルタの第一幕は、めまぐるしいリーダージャージの交替劇で彩られた。北への大移動と、第1回目の休養日を控えるこの日も、例外ではなかった。42歳目前のクリストファー・ホーナーがまたしても笑い、ヴィンチェンツォ・ニーバリも確実な一歩を刻んだ。
本スタート手前のニュートラルゾーンで、集団落車が発生した。多くの選手が激しく地面に投げ出され、4選手が負傷でリアイアを余儀なくされた。マイヨ・ロホのダニエル・モレーノもまた、「誰かが後ろから落ちてきて、足首にぶつかった」せいで、脚止めを喰らった1人だった。
混乱を収拾するために、ニュートラルゾーンは19km延長された。そして、ようやく待望の本スタートが切られた途端に、猛烈なアタック合戦が巻き起こる。バウク・モレッマさえ逃げを試みた。もちろん、いまだ総合で3分半しか遅れていない実力者の、自由行動が許されるはずもない。危険人物を吸収するために、プロトンは加速を止めなかった。……あまりにもスピードが上がったせいだろうか。集団の後方では、トーマス・デヘントとアンドリュー・フェンが、チームカーに長時間しがみついてしまった。この違反行為は、時と場合によっては罰金だけで済むこともある。ただし今回は、2選手に厳正なる処分、つまりレース除外が通告された。
肝心のレースのほうは、40kmほど走って、ようやく19選手がエスケープの切符をもぎ取った。さらに20kmほど進むと、逃げは10人に絞り込まれた。前述の落車に巻き込まれ、流血しながらも必死に逃げるフアンアントニオ・フレチャの姿もそこにあった。リードは最大6分ほど奪った。
しかし、この日も、プロトンは非情だった。レディオシャック・レオパードは(特にファビアン・カンチェッラーラは)、本スタート前の落車でチームの3人が負傷したのも構わず、週末にマイヨ・ロホ奪還を失敗したホーナーを猛烈に引っ張った。前夜とうとう表彰台の足元(総合4位)まで浮上したアレハンドロ・バルベルデも、アシストたちに前を牽引させた。
ゴール前35km、1級モナチル峠の登坂口では、タイム差は1分45秒にまで詰まっていた。後方では、モビスターの山岳巧者シルヴェスタ・シュミットが、いよいよ恐ろしいスピードを強いていた。前方では最後のチャンスとばかりに、トマシュ・マルチンスキーとディエゴ・ウリッシが、代わる代わる奮闘した。とりわけマルチンスキーは、長くテクニカルな下りで先頭ポジションをさらい取ると、最終峠のとてつもなく急な坂道に真っ先に突っ込んで行った。
そんな頑張りもすべて、いつしかメイン集団の勝負の波に飲み込まれていくことになる。中でも最初にアタックを試みたのは、イゴール・アントンだ。なにしろ、この朝、オレンジ軍団に嬉しいニュースが舞い込んできた。今季限りの解散がほぼ決定し、ブエルタ開幕直前には全選手に「来季の所属先を探すように」と通達したバスクチームに……救世主が現れたのだ!
「エウスカルテルとフェルナンド・アロンソは合意に達した。これは、現行のエウスカルテル・エウスカディチームが、2014年以降もエリートレベルの国際自転車レースに参戦し続けることを、保証するものである」
プレスリリースに登場する名前は、間違いなく、フェラーリチームに所属するF1パイロットその人のものである。アルベルト・コンタドールとも親交が深く、すでに2010年にチーム設立構想を練ったこともあるアロンソは、チーム存続のために600万ユーロ(約7億8000万)を出資するという。チーム本拠地こそ、チャンピオンの地元であり、サムエル・サンチェスの地元でもあるアストゥリアス州に移転されるそうだが、チームスタッフ全員の雇用が守られることになった。
こんな新オーナーの信頼に応えるかのように、2010年スペイン一周で大暴れしたアントンは、踏ん張った。残念ながら連日の試みは、またしても実を結ばなかったのだが……、間違いなくこの加速がモレーノを苦しめた。山頂まで6kmを残して、赤ジャージが遅れ始めた。
「集団落車が、ボクのパフォーマンスに影響したわけじゃない。単に調子の悪い1日だったんだ。暑さのせいでもないよ。だって暑いのは大好きだから。山の麓から、体に力が入らなかったんだ」(モレーノ)
すかさず、ヴィンチェンツォ・ニーバリを守るヤコブ・フグルサングが、高速リズムを刻んだ。1kmに渡って猛烈にペダルを漕ぎ、ゴール前5kmのアーチの下で、リーダーにバトンを渡した。おかげでニーバリの周りには、もはや5人のライバルしか残っていなかった。
その、直後だった。チームメートに1日中仕事をさせてきたバルベルデが、一瞬、ライバルたちから遅れを取った。
「あ、今こそ、前に突っ走るべき時だ。そう思ったんだ」(ホーナー)
第3ステージにグランツール最高齢区間勝者記録を更新したばかりの男は、ラスト4.6km地点で、思いっきり加速を切った。すぐに距離は開いた。そして、読み通り、誰も追いかけては来なかった。
「もしも小さなギャップを作り出せたら……、他の選手たちは、ボクの後ろで、戦術的な走りをするに違いないと考えたんだ。ハードに仕事をしたい人間なんて、きっと1人もいないはずだ、って。ボクは爆発的な加速力はないけれど、一旦スピードを上げたら、それをキープすることができる。だから小さなギャップさえ作り出せたら、フィニッシュラインまで高速で走り続けられることは分かっていた」(ホーナー)
戦術的な走り。つまり、ニーバリは休養日明けの個人TTで取り戻せるだろうタイムを計算しながら、走っていたのだろうか。自分でアタックを仕掛けるのは、ラスト2.5kmまであえて待ったのだと言う。しかも元チームメート(むしろ、リーダーとアシストという立場だった)イヴァン・バッソが、幾度も加速するのを利用して、ニーバリはカウンターアタックを決めた。
「自分のリズムで上るようこころがけた。飛び出して1人になってからは、ホーナーからタイムを失うこともなかった。全てをいっぺんにやるのは不可能なんだ。まだブエルタは先が長い。難関ステージもたくさん残っている。まずは水曜日に、タイムトライアルがあるからね」(ニーバリ)
山の上では、41歳と314日のホーナーが区間勝利とマイヨ・ロホをいっぺんに手に入れ、自らの持つ2つの最年長記録を塗り替えた。その48秒後には、ニーバリが単独でフィニッシュラインに駆け込んだ。総合では43秒差の2位につけた。「ボクはタイムトライアルで、ニーバリにレッドジャージを奪われるだろうね」とホーナーは少々悲観的だが、アスタナ首脳陣は「まだジャージは取り戻せないんじゃないかな。15秒以内に近づけたら、御の字だね」とのこと。
ところで、おそらくティボー・ピノは、まるで戦術など考えずに走っていた。期待されていたツールを失意のリタイアで終えた23歳は、失われた自信や名声を取り戻すために、ひたすら前を精力的に追いかけた。ホーナーを見送り、5月のマリア・ローザに置き去りにされた老獪なバルベルデとホアキン・ロドリゲス、バッソは、おかげでただ若きフレンチライダーの背中についていくだけでよかった。
「ちょっと力を尽くしすぎたかもしれない。でも後悔はしていない。スペイン人たちは互いに警戒し合っているし、イタリア人たちは互いに助け合っている。ボクはボクで、自分の場所を見つけたさ」(ピノ)
区間勝者から1分02秒遅れでゴールした4人の中では、またしてもバルベルデが、ちゃっかり区間3位のボーナスタイム4秒を手に入れた。極限まで力を尽くしたニコラス・ロッシュは、1分10秒遅れで1日を終え、なんとか53秒差の総合3位に踏みとどまった。バルベルデは相変わらず4位のまま。マイヨ・ロホを失い、集団落車のせいで忠実なるアルベルト・ロサダも失ったカチューシャ勢は、5位ロドリゲス、6位モレーノと続く。
ちなみに総合上位6人は、順番は前日から入れ替わったが、顔ぶれは変わらない。ただ前ステージ終了後はトップ6が1分差以内にひしめいていたのに対して、休養日前夜のこの日、トップ3だけがかろうじて1分以内で並ぶ。
また前夜の総合7〜10位はことごとくタイムを失い(リゴベルト・ウランもこの日だけで4分以上遅れた)、トップ10圏外へと転がり落ちた。代わりにバッソが2分20秒差の7位、ピノが3分11秒差の総合8位に浮上した。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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