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雲ひとつない真っ青な空が、ブエルタ一行の頭上に広がった。この2日間とは打って変わって気持のよいお天気だ!しかも、前日の225km超の地獄の行軍に比べて、休養日前の今ステージは全長147.5kmと極めて短い。ただ、コンディションが改善されたからといって、レースが必ずしも簡単になるとは限らないのだ。いや、むしろスタート直後から、とてつもない「アタック祭り」が繰り広げられた!
スタート直後に10人ほどが飛び出すと、すかさずプロトンが吸収した。続いて8人がトライすると、モヴィスターがリセットに走った。次に11人が前に行き、続いて7人が行くと、今度はヴィンチェンツォ・ニーバリ擁するアスタナが強制終了。なぜなら、総合3位アレハンドロ・バルベルデを支えるモヴィスターが4人、総合4位ホアキン・ロドリゲス率いるカチューシャが2人も逃げに紛れ込んでいたから。
さらに20人、30人と、大きな塊が前方へ突き進んでは、そのたびにアスタナが回収に向かった。混乱に乗じて、1つ目の中間ポイント(53km地点)では、バルベルデがまんまとボーナスタイム3秒をさらい取ったことも。
63km地点で、9人が逃げだした。前日はリーダーのニコラ・ロッシュのために献身的に牽引したクリスアンケル・セレンセン、さらには総合争いの望みを早めに断たれていたリゴベルト・ウランを含むエスケープ集団は、補給地点にさしかかったこともあり、かろうじて1分半ほどのリードを許される。
補給を終え、2つ目の峠に入ると、再びアタック祭は勢いを増していった。モヴィスターが猛烈に前方に駆け上がり、3選手を次々と突進させた。カチューシャも負けじと、2人を送りだした。すでにクリスアンケルが逃げ集団内で待っていたサクソ・ティンコフは、ニキ・セレンセンを合流させた(残念ながらベテランは、後々オートバイに接触して落車、最下位でゴールしている)。
強豪チームの「アシスト役をあらかじめ先行させ、最終盤でリーダーを待って猛牽引……」という戦術に、「ステージ優勝が欲しい」と個人的意欲を燃やす選手たちが進んで相乗りしたことも、祭りを加熱させた。すでに第13ステージで人生初の区間勝利を手に入れたワレン・バルギルさえ、弾かれたように駆け出していった。もちろんアスタナにとっては、好ましくない状況だった。マイヨ・ロホを含む8人で隊列を組み、激しくスピードを上げ続けた。
しかしゴール前30km、カザフチームはどうやら追走を放棄した。これ以上アシストたちを疲れさせるわけには、いかなかったからだ。
「この3日間で、チームはへとへとになるまで働いた。レースをコントロールし続けることで体力を大幅に消耗していたし、マイヨ・ロホの重みが両肩に食込んでる」(ニーバリ)
この流れは……例えばバルギルにとっては、幸運でしかなかった!まあ、後ろが追いかけてこようがこまいが、21歳の元気盛りは、まったく加速を止める気はなかったのだけれど。
「昨日も逃げにトライした。でも、調子が悪かった。だから『今日は思い切って休もう』と、静かに走ったんだ。今朝も、イージーに行こうと決めていた。監督から『初めてのグランツールなんだから、連日攻撃せずに、体を休ませろ』って言われていたしね。でも、走っている最中に、調子がどんどん上がっていったんだ。何か仕出かしたくて、脚がウズウズしちゃったよ!」(バルギル)
飛び出しては、吸収され、他人が飛び出しては、吸収に向かい、そしてまた自分で飛び出しては、吸収され……。目が回るような化かし合いは、ゴール前10kmでバルギルが単独アタックを決めても、まだ終わりではなかった。
「実のところ、エスケープが最後まで逃げ切れるかどうかさえ、確信できなかったから。だからアタックを打ったんだ。最後にはウランに追いつかれた。でもスプリントするための余力は残していたし、なにより、ウランならスプリントで倒すチャンスがあると知っていた」(バルギル)
だから、ゴールまで1kmを意味するアーチの手前で、あえてウランの合流を待った。そして今季ジロ総合2位の後輪に、ネオプロはピタリと張り付いた。先頭交替は一切拒否した。せめて区間勝利で名誉を回復したいウラン相手に、すでに今大会1勝を上げていた185cm・60kgのヒルクライマーは、強気で対応することができた。後ろからは、バルトス・フザルスキーやドミニク・ネルツが恐ろしい勢いで迫ってくる。つまり、スカイのコロンビア人は、合流を避けたいなら、ひたすら必死で「バルギルの牽引役」を務めるしかなかった。
ラスト150m、たまらずウランはスプリントを切った。フランス人は、余裕を持って、冷静かつ大胆に最後の瞬間を待ち、区間2勝目をライン上ギリギリでさらい取った。
「たとえ区間1勝をすでに懐に入れていたとしても、勝ちたいという気持はまるで変わらなかった。2勝目が欲しかった。最高だね!まだ信じられないよ。自宅に帰ってようやく、自分が成し遂げたことを理解するだろう。区間2勝がどれだけ凄いのかということを。いや、もしくは、もっとそれ以上の成績だって……」(バルギル)
メイン集団も、麓から強い風が吹き上げる最終峠を、大小織り交ぜたアタックで彩った。バルベルデの緑色のジャージが何度も空気を切り裂いた。なにより、逃げに乗ったチームメート2人と、忠実なる右腕ダニエレ・モレーノの協力を得て、ホアキン・ロドリゲスがパワフルに前へ突き進んだ。「ボク向きの上りじゃなかった」と本人も認めるように、勾配が緩やかすぎる峠(だって最大勾配が「たったの」9.5%)にも関わらず!
「今日のレースは最初から猛スピードで進んできた。選手たちの顔には、疲労の色が見えていた。ボクだってそうだ。自転車界においては、2+2は必ずしも4にはならない。ほんの無害そうに見えるステージが、大きなタイム差を生み出すことだってあり得るのさ」(ロドリゲス)
1年前に、アルベルト・コンタドールから、そんな事実を嫌というほど教えられた「プリト」は、つまりこの日はニーバリに厳しい教訓をたれたのだ。他のライバルたちも、次々とマイヨ・ロホを見捨てて先を急いだ。ニーバリは小さくひざを屈し、総合2〜9位までの選手全員から、タイムを失った。
「ボクにとっては難しいフィニッシュだった。向かい風に苦しめられた。ラスト2kmで大きく遅れ始めてしまった。もっと調子がいいかと思っていたんだけどね。今回のブエルタはハードだ。でも、前向きに行く。この先の山頂フィニッシュは、今日の山よりも、ボクの脚質に向いてる。もっと勾配がきついから」(ニーバリ)
プリトは総合首位までの距離を2分57秒→2分29秒と縮めたが、そうは言っても、まだまだ差は大きい。総合表彰台へだって、1分15秒も離れている。総合3位バルベルデも1分42秒→1分14秒差と、マイヨ・ロホまでいまだ遠い。一方で、総合2位クリストファー・ホーナーは、50秒差から一気に28秒差へと詰めた。
「いい1日だった。ニーバリから28秒も獲得した。総合1位の座に近づいた。ニーバリが一時的な体調不良だったのかどうかは分からない。でも、もしも本当に疲弊しきっているのだとしたら……。やる気が高まるね」(ホーナー)
そんなマイヨ・ロホにとっても、ライバルたちにとっても、休養日の存在はありがたい。マドリードまでは、あと3回、山頂フィニッシュが待っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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