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天気は良いというのに、空気は飛び切り冷たかった。ブルゴス近郊の高原地帯には、巨大な風力発電用風車が立ち並び、ごうごうと風が吹き抜けていた。スペインに、秋が急速に近づきつつある。
2度目の休養日を終えて、スプリンターチームは必死だった。マドリード到着まであと5日。その前の17日間で、本当の意味でのスプリントチャンスは、結局のところたったの1回。だから、なにがなんでも、スプリントの「チャンス」が欲しかった。翌日からは難関山頂フィニッシュ3連戦だから、つまるところ、この日こそが、首都周回コースの前の最後の機会だったのだから。
だからスタート直後に、ハビエル・アラメンディアとアダム・ハンセンが飛び出すと、早急にスプリンターチームは集団制御に着手した。最大8分にまで開いたタイム差も、1つ目の3級峠に差し掛かる頃には、約半分にまで縮まった。
ブエルタとしては極めて珍しく、山岳ジャージを巡る争いさえ、密かに白熱した。ステージ後半には3級峠が2つ。その2回共に、淡々とテンポを刻んでいたメイン集団の中から、ニコ・セイメンスがアタックをしかけた。チームメート、ニコラ・エデの青玉を守るために。3級峠では上位通過3選手に山岳ポイントが与えられるから、つまり、その最後の席を確実におさえようというのだ。
1つ目の上りでは、6ポイント差で山岳賞2位につけるダニエーレ・ラットが、エデに激しく噛みついた。邪魔が入り、加速できなかったエデの代わりに、セイメンスが1ポイントを手に入れた。2つ目の上りでは、ようやく、コフィディスは作戦を成功させた。ラットの妨害工作もなく、まんまと3位通過=1ポイントを獲得した。それでも、エデがマドリードに青玉姿で凱旋できる可能性は、極めて低そうだ。フランス人がここまでの17日間で積み重ねたポイントは37点。残り3日間で回収できるポイントは、最大68点。2008年〜2011年に4年連続の山岳賞に輝いたダヴィド・モンクティエの、後継者への道は遠い。
それ以外の時間帯は、総合上位勢が「今日(の前半)は静かなステージだった」と振り返るほど、スプリンターチームが粛々と制御権を執行した。2つの山を終える頃には、タイム差も2分ほどにまで縮んだ。エスケープ吸収→集団スプリントの計画は、順調に進んでいたはずだった。
ゴール前30km前後に差し掛かった頃だ。集団の一列目が、徐々に斜め隊列の形に変わり始めた。アスタナやモヴィスターの選手たちが、何かを察知したように、慌てて前方へと駆け上がった。
「恐ろしい横風が吹いていた。カーブの直後に、危険が待ち構えていることは分かっていた。幸いにもボクの周りにエキスパートがいてくれたおかげで、罠にはまらずに済んだ」(ニーバリ)
危険……、それはサクソ・ティンコフの暴力的な行軍のことだった!プロトンは瞬く間に分断された。デジャヴを感じた関係者も多かったはずだ。ツール・ド・フランス100回大会の、第13ステージでも、風に乗ったサクソ・ティンコフが6人体制で特攻を見せている。そしてあの日、驚異的な献身を尽くしたマッテーオ・トザットが、この日は最前列で力を発揮した。フランスではアシスト役として積極的なリレー交替に加わったニコラス・ロッシュは、スペインではリーダーとして保護される側だった。
「まるで戦争だったね。強い横風が吹いていた。だからできる限りスピードを上げて突っ走った。プロトンをぶち壊すために。そう、まさにボクらはぶち壊したんだ」(ロッシュ)
そう、まさしく。そして、サクソの分断作戦は、予想以上の功を奏した。首位ヴィンチェンツォ・ニーバリ、2位クリストファー・ホーナー、3位アレハンドロ・バルベルデ、そして4位ホアキン・ロドリゲスに限っては、問題なく前方集団に居場所を見つけていたが……、総合5位ドメニコ・ポッツォヴィーボと、7位のティボー・ピノが後方に置き去りにされた。総合6位のロッシュに対して、前日までの総合成績では前者5秒リード、後者は54秒遅れ。つまりロッシュにとって、邪魔者をはじき出す絶好の機会だった。
「まず、ポッツォヴィーボが罠にはまったことを知った。それから、ピノも遅れているとの情報を得た。チームメートたちが力を尽くしてくれた姿を、皆さんご覧になったと思う。ただ単にフィジカル能力の問題ではなくて、チーム力の勝利だった。みんながボクのために働いてくれて、こうして結果に導いてくれた。興奮モノだよね」(ロッシュ)
トザットは猛烈な牽引を続け、ファビアン・カンチェッラーラも先頭交替に加わった。ほとんど抵抗を見せなかったエスケープの2人は、ゴール前21kmで飲み込んだ。後方とのタイム差は、乱暴に広げて行った。
ゴール前10kmに突き立った短い激坂にさしかかると、アスタナやカチューシャも、ライバルの抜けがけを恐れて警戒態勢を敷いた。思い切って飛び出したディエゴ・ウリッシの小さなひらめきは、首尾よく第1プロトンに滑り込んだスプリンター勢に、下りで握りつぶされた。彼らは「小集団ゴール」の可能性へ必死にすがった。特にタイラー・ファラーのために、2011年パリ〜ルーベ覇者ヨハン・ヴァンスーメレンが力を惜しまなかった。
ルートマップに注意を喚起する「!」がびっしり書き込まれた最終盤の細道も、幸いにも人数が少なくなっていたおかげで、難なく通り抜けた。34人が、先を争うように、フラムルージュへと突進した。
「最後の1kmで、アタックを仕掛けるチャンスがあると、分かっていたんだ。風で集団は分断し、小さくなっていたし、最後の上りはゴールから遠すぎた。それに向かい風だったから、違いを生み出すのは難しかった。だから、最後の直線を待って、飛び出した。だってスプリンターも残っていたからね。ボクにとっての唯一のチャンスだった。後ろは決して振り向かなかった」(バウク・モレッマ)
800mでオランダ人が仕掛けた直後、一瞬、後続選手は顔を見合わせた。これが運命を分けた。慌てて他選手が追いかけ、追いつく前にスプリントを仕掛けるも、もはや「2011年ブエルタポイント賞」を捕らえることなど不可能だった。
向かい風の中で、26歳は満面の笑顔を見せた。やはり2011年にマイヨ・ロホを1日着用した経験があり(総合4位)、2013年ツールを総合6位で終えた実力者にとって、意外なことに、グランツール区間初優勝。2010年にツール・ド・ラヴニールを制したナイロ・キンタナや、2012年総合優勝ワレン・バルギル、2008年勝者ヤン・バークランツに、つまり今年次々と先を越されてしまったが……2007年「23歳以下のミニツール」覇者も、ようやく本物のエリートの仲間入りを果たした。
「ツールの後、ブエルタで総合争いに加わるのは難しいと分かっていた。もっとも、第1週目で、無理だと判断した。だからこそ、ステージを勝ちたかった。この前の金曜日にもエスケープを試みたけど、でも、勝ちにいけないと悟った日には、エネルギーを最大限に温存するよう気をつけなきゃなかった。全ての努力が、今日、実を結んだんだ」(モレッマ)
オールラウンダーの後ろで、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン、マキシミリアーノ・リチェーゼ、そしてファラーといったスプリント巧者は頭を垂れた。3人合わせて、今大会ステージトップ5に滑り込んだのは累計9回。またしても、勝利の女神はスプリンターを拒絶した。
フランス籍のワールドツアー所属2チームが必死で引っ張った後方集団は、ひどく饒舌に勝利の喜びを語るモレッマの1分31秒後に、ゴール地へとたどり着いた。ポッツォヴィーボは総合5位の座をロッシュに引き渡した。ピノは7位をかろうじて守ったが、8位陥落まで、9秒しか余裕はない。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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