人気ランキング
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
コラム&ブログ一覧
大会最後の日曜日、気持のよい青空がプロトンの頭上に広がっていた。地獄の山から下界へと帰還し、マドリード近郊までの長い長い移動を終えた144選手は、少々眠い目をこすりながら最後の109.6kmへと漕ぎ出した。41歳のグランツール覇者クリストファー・ホーナーの顔にも、けだるそうな、しかしほっとしたような笑みが浮かんでいた。
「昨日のニーバリは、このレースを勝つために、とてつもない死力を尽くしたね。ボクにとっては、庭をのんびり散歩しているような、そんなラクな状況じゃとてもなかったんだ。今回の優勝は、これまでのボクのキャリアの中で、間違いなく最も苦労して手にした勝利だ」(ホーナー)
長老に激しく挑みかかったヴィンチェンツォ・ニーバリや、アレハンドロ・バルベルデ、ホアキン・ロドリゲス、ニコラス・ロッシュ等々も、この日ばかりは武装を解いた。マドリード市内に入場するまでは、凱旋パレードさながら、ライバルと健闘を讃えあったり、アシストたちと笑いあったり。
またグランツール最終日特有の演出として、総合リーダーを擁するチームが(つまりレディオシャック・レオパード)、先頭で全長5.7kmのサーキットへと滑り込んだ。さらには「シーズン最後のグランツール」恒例の、別れの儀式も執り行われた。チーム総合首位のエウスカルテル・エウスカディ――たしかにチームの枠組み自体は残るけれど、おそらくチーム名も、オレンジ色がトレードマークのジャージも、変わってしまうのだろう――が、9人全員でトレインを組んで、第1回目のフィニッシュラインを静かに越えた。
そんな中、スプリンターチームだけは、まるでリラックスなどしていられるはずもなかった。だって結局のところ、今大会には山頂フィニッシュばかりが11も詰め込まれていて、スプリントはたったの1度しか行われなかったのだ。このままでは、3週間苦しめられた上に、ひどくフラストレーションを抱えたままスペインを立ち去らねばならない。幸いにもマドリードの周回コースは、Uターンゾーンこそ多いものの、完璧に平坦だ。だからパレード走行中から、すでに数チームが密かに激しい場所取りを始めていた。そして1回目のゴール通過と同時に、ハビエル・アラメンディアが矢のように飛び出していくと、間髪入れずに後方プロトン内でコントロール作業へと乗り出した。
第2ステージで初逃げを打ったアラメンディアは、最後の大逃げに、マドリードの表彰台乗りをかけていた。なにしろ第7・9・17ステージと3度も敢闘賞を授与され、ついには「2013年ブエルタの大会敢闘賞にふさわしい選手は誰?」というインターネット選挙にノミネートされたのだ。ライバルはフアンアントニオ・フレチャ(第10・16ステージ敢闘賞)とエゴイ・マルティネスデエステバン(第18ステージ敢闘賞)。後から合流したアレッサンドロ・ヴァノッティと共に、最終周回を告げる鐘が鳴らされるまで、西日差すスペインの首都を先頭で爆走し続けた。
おかげでアラメンディアは、43.7%のファンから支持を得た(ラスト1kmでアタックをかけたフレチャは38.3%、マルティネスは18%)。逃げはゴール前4kmで打ち切られてしまったけれど、待望の総合敢闘賞を手に入れた。メンバー総がかりで連日逃げを打ってきたカハルラル・セグロス RGAにとっては、大きなご褒美となった。
集団が1つになると、プロトン前方ではとてつもないバトルが繰り広げられた。すでにスタート地からピリピリムードだったスカイ プロサイクリングは、エドヴァルド・ボアッソンハーゲンのために6人で隊列を組んだ。5月以来1度も勝っていないタイラー・ファラーを、どうにかスランプから脱出させたいガーミン・シャープは、完走組5人で全力をあわせて、肉弾戦をも辞さない覚悟で先頭を奪い取った。やはり残り5人となったオリカ・グリーンエッジも、第5ステージで大会唯一のスプリント勝利を手にしただけでは決して飽き足らず、マイケル・マシューズのために仁義なきポジション合戦に飛び込んだ。ランプレ・メリダやアルゴス・シマノ、キャノンデールやコフィディスも猛然と流れに突っ込んで……。
「チームメートたちは『ブリリアント』だったよ。最終周回は予定通りに行ったわけじゃないけど、でも完璧な動きができた。残り4kmで、サイモン・クラークが、ボクと他の2人を好ポジションへと導いた。リー・ハワードが前を引き継いで、凄まじい仕事をしてくれた。最後はミッチェル・ドッカーが、ボクの側に残った。アルゴス列車がボクらの後ろに入り込もうとしてきたから、ミッチェルが奮闘してくれた。ラスト200mで、ボクは前から2番目につけた。そして、自分のスプリントを切ったのさ」(マシューズ)
オーストラリアの「ブリン」(キラキラ)が、たった2回のスプリントチャンスを独り占めした。初めてのグランツール参加で区間2勝をあげ、ポイント賞ジャージも2日間着用。22歳の現代っ子は、「本当に素敵な大会だった!」と歓喜の声を上げた。
間もなく42歳になる大ベテランは、3秒遅れの大集団で、驚きと喜びに満ちあふれた大会を締めくくった。真っ赤な自転車に乗って、いつも通りの脱力系ウイニングポーズで、フィニッシュラインを駆け抜けた。
「ボクはかれこれ20年近くプロ選手を続けてきた。この年月は、つまり、厳しい鍛錬を続けてきた時間を意味するんだ。毎年、勝利に対してモチベーションを抱いているし、できる限り最高の自転車選手であろうと努力している。キャリアを通して、これまで何度も、勝利や表彰台を経験してきた。全ての勝利がスペシャルだ。でも今日は、本当に素晴らしい日だよ。だって、まずはこのレベルまで到達しなきゃならないし、なおかつこれほどの幸運に恵まれなきゃならないんだ。健康を維持し、タイミング悪く落車してはならない。あらゆる要素が揃った時に、初めて、勝利を持ち帰ることができるものなのさ」(ホーナー)
史上最年長グランツールチャンピオンの両脇には、28歳ニーバリと、33歳バルベルデが並んだ。この春のジロを圧勝したニーバリは、「ホーナーはスペインに来る前に、ほとんどレースをしていないよね。つまりプロトンのほかの誰よりも、フレッシュな状態だったんだ」と驚愕の初優勝を分析する。ブエルタで6枚目の賞ジャージ(優勝1回、ポイント2回、複合3回)を手に入れた「エル・インバティド(無敵)」は、「グリーンジャージは、ボクが3週間通して安定した実力を発揮している証拠」と胸を張る。両者はこの後、すぐにイタリア・フィレンツェへ渡り、代表チームリーダーとしてアルカンシェルを狙う。
一方で、生まれたてほやほやのグランツール勝者は、自宅に帰り、3人の子どもたちと戦いの記憶を語り合うのだろう。その先の予定は、いまだに決まっていない。あと2シーズンは続けたい……と、あと1ヶ月もすればもう1つ年を取るホーナーは、さらりと語っているけれど。ともかく、「ディフェンディングチャンピオン」が1年後のスペイン一周に再び乗り込んでくるのだとしたら、待ち合わせは場所は、アンダルシアのカディッツだ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
Cycle*2024 UCI世界選手権大会 男子エリート ロードレース
9月29日 午後5:25〜
-
Cycle* J:COM presents 2024 ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
11月2日 午後2:30〜
-
10月12日 午後9:00〜
-
11月11日 午後7:00〜
-
【先行】Cycle*2024 宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
10月20日 午前8:55〜
-
10月10日 午後9:15〜
-
Cycle* UCIシクロクロス ワールドカップ 2024/25 第1戦 アントウェルペン(ベルギー)
11月24日 午後11:00〜
-
【限定】Cycle* ツール・ド・フランス2025 ルートプレゼンテーション
10月29日 午後6:55〜
J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!