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スタートと同時に、マーティン・チャリンギが飛び出した。前日すでに213kmも逃げた「青ジャージ」は、この日も再び、前方で長く辛い時を過ごすことに決めたようだ。つまり前日と同じようなシナリオで、大会2つ目の平坦ステージは始まった。
「ボクのような選手にとって、グランツールで何かチャンスを手に入れようと思ったら、エスケープに乗るしか方法はないんだ。そしてジャージが着たかったら、昨日と今日、2日間しか機会はなかった。だから、ね」(チャリンギ)
チャリンギの冒険に、ヨンデル・ゴドイ、ミゲール・ルビアーノ、ヘルト・ドックス、ジョルジョ・チェッキネルの4人が乗り込んだ。リードは6分近く奪った。コース上に2つ待ち構えていた4級峠は、前日同様にいずれもチャリンギが先頭で通過した。山岳ジャージは自力で確保した。頭の上では、雨雲が、ところどころで意地悪をしてきた。オリカ・グリーンエッジが率いるメインプロトンは、淡々とペダルをまわし続けた。
第2ステージと明らかに違っていたこと。それは前日はマリア・ローザを来て「保護されるポジション」で走っていたスヴェイン・タフトが、この日はいつもの役割に戻っていたこと。疲れ知らずの37歳は、集団の先頭に陣取って、逃げ集団とのタイム差コントロールを行った。ゴール前90kmで一旦は2分差にまで縮めたが、タイミングが早すぎたと悟るや、少々足取りを緩めもした。再び4分ほどにまで差を開き、しばらくは前方の5人を泳がせておいた。
北アイルランドに別れを告げて、アイルランド共和国へと入国した一行には、比較的静かだった前日とは打って変わって、幾度か大きな集団落車が襲い掛かった。ゴール前60kmの落車では、ミケーレ・スカルポーニを含むアスタナ数選手と一緒に、黒い雨具に身を包んだ新マリア・ローザ、マイケル・マシューズも地面へと落ちた。ラスト35km地点では大きな将棋倒しが起こり、集団の4分の1ほどが軽く脚止めを喰らったことも。
スプリンターチームとして真っ先に引き始めたのは、FDJ ポワン エフエールだった。この日の朝に「今季限りでチームを移籍する。7チームから打診が来ている。予想年俸は150万ユーロ……」なんていうニュースで話題をさらったナセル・ブアニのために、アシスト陣は忠実な仕事を行った。ところが落車が相次ぎ、プロトン全体がナーバスな雰囲気に包まれると、総合系リーダーを抱えるチームが集団の制御権を欲しがった。アスタナやオメガファルマ・クイックステップ、BMCレーシングチームにティンコフ・サクソ等々が、こぞって危険回避のために集団前方へと詰め掛けた。アイルランド希望の星ニコラス・ロッシュ擁するティンコフが、風を利用して、小さな分断の試みを見せたことさえあったが……。
不穏な動きはすぐに収拾した。むしろ長い湾岸道路で、強い向かい風の中、ジリジリとしか前に進めなくなった。おかげで、すでに180km近くも逃げてきた5人は、わずか15秒差ほどに追い詰められていたというのに、そこからさらに5kmほど「フーガ」距離を伸ばすことになった。なにやら真綿で首を絞めるような、そんな奇妙な追いかけっこは、ゴール前7.3kmでようやく終止符が打たれた。
ゴール前5.5km、90度カーブで風向きが変わったのが合図だった。ジャイアント・シマノが加速を切り、キャノンデールが主導権を競り合った。橋や中央分離帯が待ち構えた危険な市街地コースで、2本の列車が走らせた。右端にはマルセル・キッテル擁するオランダチームが、左端にはエリア・ヴィヴィアーニ率いるイタリアチームが。スカイやFDJも負けじと上がってきた。ところが「ラスト1.3kmで、トム・フェーレルスの背中を見失ってしまった」キッテルの赤ジャージは、徐々に後退して行った。一方で緑のジャージは、ラスト900mの直角カーブへと3人先頭で飛び込んだ。ゴール前300mの「シケイン」へは、ベン・スウィフトを連れたエドヴァルド・ボアッソンハーゲンが真っ先に突っ込んだ――。
最終ストレートでは、ヴィヴィアーニとスウィフトの一騎打ちが、華々しく行われた。大会の祖国イタリアの若手と、北アイルランド=イギリス開幕を祝いたい英国の俊足が、勝利へ向かって邁進した。スウィフトが優勢か、と思われた。……その時だ。
後方から、赤い影が、とてつもない勢いで前方へと迫ってきた。驚異的なスピードで2人を追い抜くと、フィニッシュラインでハンドルを投げた。マルセル・キッテルが、区間2連勝を手に入れた。やり方こそ違ったものの、前日と同じ結果を、引っ張り寄せた。
「絶対に諦めちゃだめだ、と考えた。幸いにも、ブアニの背後に滑り込むことが出来た。ゴール前300mに近づいても、まだ、好ポジションにたどり着けなかった。でも、できる限りの力を振り絞って、スプリントに打って出た。あれはもはやスプリントじゃなくて、アタックに近かったね。ものすごくエネルギーを使った。だから、ゴール後、地面に倒れこんでしまったのさ」(キッテル)
この日の朝、目が覚めたときに、「もしも今日勝てたら……素敵な誕生日になるのに」と考えたというキッテルは、力づくで最高に素敵な26歳のバースデーを演出したわけだ!それにしても、初日にタフトがマリア・ローザ、3日目にはキッテルが区間勝利と、表彰台のスプマンテで誕生日を祝う選手が続いている。ちなみに、ここからジロの最終日まで、誕生日を控えているのは9選手。ただしホアキン・ロドリゲスは休養日(12日)に35歳になるから、実質、誕生日優勝のチャンスがあるのはフーガーランド(13日)、スタムスナイデル(15日)、ボアッソンハーゲン(17日)、コロブレッリ(17日)、ファンバーレ(21日)、ペトロフ(25日)、フェーディ(29日)、ヴュイエルモーズ(6月1日)の面々である。
落車で体力を消耗したマシューズは、「無理にスプリントに絡まず、ジャージを守ることだけを考え」て、16位ゴールでマリア・ローザを守り切った。その後ろでは、ほんの小さな分断が発生し、キッテルと同タイムゴールが認められたのは上位33選手だけだった。総合表彰台を狙えそうな選手の中で、分断を逃れたのはスカルポーニとラファル・マイカの2人だけ。両選手は、つまり、ライバルたちから11秒を奪い取ったことになる。
一行はアイルランド島へ別れを告げて、南イタリアへ。初夏の太陽と青い海、そして1度目の休養日が、選手たちを待っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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