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土砂降りの古賀志林道から、初夏の陽光が降り注ぐサヴォーナへ。レースに出られない暗い日々を終え、4月27日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで復帰を果たしたマイケル・ロジャースが、誇り高く勝利をつかみとった。ジャパンカップのときと同じように、フィニッシュラインへは、たった1人で姿を現した。
海からの蒸し暑い空気がプロトンを包み込んだ。3週間の長い大会の折り返し地点に、全長249kmという、今大会で2番目に長いステージへと走り出した。マリア・ローザのカデル・エヴァンスが「とんでもなかったね!」とビックリしたほど、スタート直後から猛烈な勢いで!
なにしろ、大会2度目の大逃げが決まるのではないか、とステージ前に噂されていたのだ。「チームから逃げ指示が出ていた」別府史之も積極的に動いた。15km地点前後では、他の3選手と共に、小さなエスケープ集団を作りかけた。その先も、序盤1時間の走行時速が49.8kmという、ひどく高速のアタック合戦は続いた。60km地点でようやく23選手が大きな集団を作った。しかし集団内が落ち着きを取り戻すことはなかった。前方ではさらなる加速競争が続き、後方ではひどい落車が相次いだ。23→14人に前集団は絞り込まれ、ついにはゴール前24km地点で、エスケープは全て終了に追い込まれてしまった。
つまり大方の予想や、逃げ出した選手たちの期待は、大きく裏切られた。最大の戦犯はアンドローニジョカットリだろうか。ゴールまで90kmで、突如として隊列を組み上げると、激しく追走へと乗り出したのだ。
「昨日もマルコ・バンディエーラが1日中前にいたように、ボクらのチームは、毎日、何かしらできることをトライしている。小さなイタリアチームにとって、ジロというのは、非常に大切なレースだから。今日は確かにエスケープ向きのステージだったのかもしれない。でもチームマネージャーのジャンニ・サヴィオは、攻撃的な走りを望んでいた。だからチームメートたちが、ボクのアタックに向けて、準備をしてくれた」(フランコ・ペッリツォッティ)
急速にスピードが上がったメインプロトン内で、ゴール前75km、大集団落車が発生した。いくつものジャージがアスファルトの上に散らばった。地面に落ちた犠牲者の中には、なにより、スティーブ・モラビートの姿があった。前日すでにヤニック・エイセンを落車リタイアで失っているBMCは、慌ててアンドローニジョカットリに減速を願い出た。逃げ集団に2選手を送り込み、総合3位ラファル・マイカのために落ち着いた1日を過ごしたいと考えていたティンコフ・サクソも、あれこれ説得を試みた。しかし、無駄だった。
「我々は、家来じゃない」。GMサヴィオはイタリアのTV生中継でこんな言葉を吐いた。マリア・ローザ記者会見でエヴァンスは、「自分は第6ステージの集団落車で止まらず、ライバルたちからタイム差を稼いだのに、今回は止まれと言う。矛盾はないのか?」と、地元イタリアの記者から追求された。
「あのときとは状況が違う。ゴールまでまだ80kmも残っていたし、逃げ集団との差は2分程度。まだ勝負がかかっていない状況で、少しスピードを緩めても何も影響が出るわけじゃないだろう?第6ステージは最終峠の麓で、真剣勝負の真っ最中だったんだから」(エヴァンス)
とにかく最後の2級峠「猫の鼻」では、エスケープグループの中から、青ジャージ姿のジュリアン・アレドンドが最後まで力を振り絞った。第8ステージの残り1.8kmで大逃げ勝利を逃した直後に、「2週目はポイント収集だけに集中、3週目の難関山岳で改めて区間勝利を狙いに行く」と宣言していたコロンビア人は、その言葉通り、山頂の1位通過にとことんこだわった。可能な限りの山岳ジャージポイントを積み重ねた(計24pt)。その直後にプロトンから飛び出してきた数人に追いつかれ(例のペッリツォッティ、アルベルト・ロサダ、そしてピエール・ローラン)、そのまた直後に、プロトンに飲み込まれていった。
これにてグルッポ・コンパット、集団はひとつに。そしてゴール前21km、フィニッシュラインへと誘う長い下り坂で。メインプロトンの中から、マイケル・ロジャースが飛び出した。これが、長く熾烈な戦いの後の、勝利へのアタックとなった。
「リベンジだった。あんなひどい目にあったけれど、それでも、ボクは選手を続けたいと願い続けてきた。最初の1週間は怒りだけだった。でも、怒っているだけじゃ、何も変えることなんか出来ないと思い直した。そこからは、ひたすら、トレーニングに打ち込んだんだ」(ロジャース)
2013年12月18日、ジャパンカップでの尿検体から、禁止薬物クレンブテロールの陽性反応が示された。UCI国際自転車競技連合より暫定の出場停止処分が下され、本人は大会直前に開催されたツアー・オブ・北京で、汚染肉を食べた可能性を主張した。さらに「使った金額は明かせないけれど」、身の潔白のためにあらゆる交渉を行った。そして4月23日、ついにUCIから発表が出された。レース出場のために訪れた中国で、汚染肉を摂取したことが、クレンブテロール陽性につながった可能性が高いこと。ロジャースへの罪はこれ以上は問わないこと。そしてジャパンカップの勝利は、正式に剥奪されてしまったまま――。
失った時間を、失った勝利を取り戻すように、ロジャースは渾身の力でペダルを漕いだ。2003年から3年連続でタイムトライアル世界チャンピオンに輝いてきたルーラーは、翌日の個人タイムトライアルなど考えずに、持てる力のありったけを注ぎ込んだ。後方のメインプロトンでは、ピンク色のジャージが先頭を引いた。いや、むしろ追走を抑えて、同じオーストラリアからやって来たかつてのチームメートに、花を持たせてくれたのかもしれない。34歳のジロ区間初勝利。イタリアンリヴィエラで、ロジャースは晴れた天を仰いだ。
エヴァンスを始めとする総合勢は、10秒遅れでゴールラインに飛び込んだ。シモン・ゲシェケがスプリントで区間2位、エンリーコ・バッタリンが3位に入り、つまりマリア・ローザのライバルたちがボーナスタイムを手にすることはなかった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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