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サイクル ロードレース コラム 2014年5月25日

ジロ・デ・イタリア2014 第14ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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黒い聖母を抱く山へ。なにより稀代の山岳王マルコ・パンターニが、1999年に、メカトラで足を止めながら、神がかり的な50人抜き優勝を果たした奇跡の山へ――。2014年は、オロパ聖堂の目の前で、エンリーコ・バッタリンが突如として姿を現すと、驚くライバルたちを尻目に勝利をさらい取った。はるか後方のリゴベルト・ウランは、ライバルたちから少しずつタイムを失ったけれど、それでも、カトリックの聖地でマリア・ローザの祝福を受けた。

もちろん、バッタリンは、どこからともなくやって来たわけではない。ゼロkm地点で逃げ出した7人の集団に、すでにバッタリンの姿はあった。それから最終的に出来上がった21人のエスケープ集団に乗って、順調にペダルをまわし続けた。メイン集団には9分半近いリードを奪った。逃げ切るには、十分なタイム差だった。

ニコラス・ロッシュが2級ビエルモンテの山頂間際で飛び出した時も、最終峠の直前でマヌエル・クインツィアートとアルバート・ティマーが仕掛けた時も、エドヴァルド・ボアッソンハーゲンが猛烈にタイム差を埋めにかかった。チーム スカイは逃げ集団に2人送り込んでいた。そして、もう1人のスカイ、ダリオ・カタルドが、BMCレーシングチームのキャプテンがメカトラで思いがけず単独先頭なったティマーを追い上げた。

ゴール前2km。勝負は4人に絞り込まれたかに思われた。大方の予想では、圧倒的に有利なのが、2012年ブエルタで超激坂を制したカタルド。メディアが話題性の勝利を期待したのは、イタリア語の文法的に言うと「パンターニの単数形」となるハリンソン・パンタノ。マルセル・キッテル病気リタイア後も、1勝を求めて奮闘を続けてきたチーム ジャイアント・シマノの列車要員ティマーは少々お疲れ気味で、22歳で初のグランツールを戦うヤン・ポランチは果たしてどれだけやれるのか……。

ところが!ゴール前700m、背後に黄緑色のジャージが見え隠れしたと思うと、猛烈に前方へと競りあがってきた。ラスト400mで、前をほぼ射程圏内にとらえた。そして修道院前の石畳で、もがくカタルドとパンタノを追い抜いた。昨ジロ第4ステージで「雨と追走」の果てに大集団スプリントを制したバッタリンが、今年は、標高1142mの高みで神がかり的な俊足を発揮した。プロコンチネンタルチームのバルディアーニ・チエセエフェにとっては、前日に続くエスケープでの区間2勝目となった。

「上りでは苦しんだ。最も勾配の厳しいゾーンでは、ついていけなくなった。ラスト500mはとにかくエンジン全開だったよ。カタルドとパンターニを追い越した後、ほんの一瞬だけ、一息ついた。だって2人に追いつくために、文字通り100%を尽くしたからね。幸いにもフィニッシュラインの直前30mで追い越せた。それから周りを見回したよ。自分が本当に勝ったのか、後ろから他の選手が追いかけて来ていないかを、確かめるためにね」(バッタリン)

はるか後方では、オメガファルマ・クイックステップが、ピンク色のリゴベルト・ウランを大切に守りながら淡々と集団制御に励んでいた。その単調なリズムを破るように、ゴール前55km、チーム ユーロップカーが戦いの口火を切った。2級ビエルモンテの峠道で、ピエール・ローランとビョルン・トゥーラウが、まるで2人乗り自転車タンデムのように足並み揃えて飛び出した!プロトン内で密かに機会をうかがっていた選手にも、攻撃の炎は燃え移った。数キロ後にはガーミン・シャープのタンデムが発射された。ネイサン・ハースの背中に張りついて、2012年ジロ覇者のライダー・ヘシェダルがアタックを打った。

その後に合流したローランとヘシェダルは、協調し合って、せっせと先を急いだ。さすがに逃げ集団は捕らえられなかったけれど、メイン集団から追いつかれることもなかった。おかげでローランは5分45秒差の総合12位から、5分09秒差の9位へジャンプアップ。ヘシェダルは16位から12位へと歩を進めた。

トレックファクトリーレーシングも、一気に攻撃を畳み掛けた。逃げ集団にはダニーロ・ホンドを送り込んだ。ゴール前70kmの1級アルペ・ノヴィエス峠では、別府史之が積極的に集団の前を引いた。ローラン&ヘシェダルの試みに呼応するように、リカルド・ツォイドルも前に飛び出した。そして最終峠に突入した瞬間から、青ジャージ姿のジュリアン・アレドンドが、ロベルト・キセロフスキーを従えて、メイン集団の牽引に取り掛かった。

「今日のチームオーダーは、とにかく1級峠で前を引いて、リカルドとロベルトのための準備をすること。逃げにも乗れたら乗るよう言われていたけれど、21人に行かれてしまったから……。だからその分、プロトン内で精一杯仕事をしよう、と頑張った」(別府史之)

コロンビア人アレドンドの猛加速が、メイン集団を一気に絞り込んだ。そしてマリア・ローザのコロンビア人リゴベルト・ウランが、集団内で少々控え目にしているのを見て取ると……、やはりコロンビア人のナイロ・キンタナとイタリア人ドメニコ・ポッツォヴィーボが動いた。AG2Rのアシスト2人に猛然と前を引かせた後、総合4位ポッツォヴィーボはついにアタックに転じた。6位キンタナもすぐに張り付いた。

山岳アシストのワウテル・ポエルスに引かれて、ウランも懸命に前を追った。しかし総合5位ウィルコ・ケルデルマンに飛び出され、7位ファビオ・アールと3位ラファル・マイカに突き放され、ゴール前の直線では2位カデル・エヴァンスに置き去りにされ……。まあ、つまりのところ、総合2位〜7位の選手から、ウランはことごとくタイムを失った。最少の損失が5秒(エヴァンス)、最大が25秒(キンタナ)。不幸中の幸いは、誰かの手にボーナスタイムが渡らなかったこと。マリア・ローザを32秒差で守りきったこと。

「エスケープが逃げ切ってくれて、本当に良かったよ。ボクは常にチームメートに囲まれて、調子よく走ることができたし、何の問題もなかった。すでにボクはグランツールを何度も走ってる。だから何が一番大切なのか、分かっているんだ。それは3週間安定した力を発揮すること。うん、確かに今日、ボクはタイムを失った。でも、それが何だって言うんだろう。ボクのすべきことは、マリア・ローザでレースの最後を迎えることであって、全部のステージで己の力を見せ付けることじゃない」(ウラン)

週末はチームリーダー、ローランのために仕事をしたい、と意気込んでいた新城幸也は、スタートから50km地点の集団落車に巻き込まれた。目の前の選手が地面に滑り落ち、慌ててブレーキをかけるも、前方に大きく放り出された。一回転して腰からアスファルトに叩きつけられた。

「前回(第1週目の落車)痛めたところと、まったく同じ場所です。しかも、前回よりも、ひどかった。腰が砕けた感じで、しばらく起き上がれなかったですから。脚の感覚がなくなって、どうやってペダルを回したらいいのか、それさえ分からなくなってしまった。もがくと骨の奥がキーンと痛い。走りながら、何度も止めようと思いましたよ……」(新城)

32分04秒遅れの最終グルペットで山頂にたどり着いた新城は、悔しさを隠しきれない。

「一週間たってようやく痛みが消えて来たのに、またこの落車から立ち直るのに一週間かかってしまう。こんなこと繰り返していたら、ジロが終わっちゃいます!」(新城)

翌15ステージを走れば、恵みの休養日がやって来る。なんとかしがみ付こう!……と、そんな風にマッサーに励まされながら、新城は山を下りていった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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