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マルコ・パンターニへ捧げる3つ目のステージが幕を閉じた。モンテ・カンピオーネ、いわゆるチャンピオンの山で、イタリアに新たなチャンピオンが誕生した。ファビオ・アール。サルデーニャ島生まれの23歳。パンターニがこの世から去った時は、いまだ本格的に自転車レースを始めてさえいなかった。
「他の誰とも比べることのできない凄い選手だ。今日も沿道にはたくさんのパンターニファンが詰め掛けていた。いまだにこうやって観客を呼び寄せることができるんだから、ものすごいことだよ」(アール)
奇妙なコースだった。約200kmの長い平坦ステージの終わりに、登坂距離19.35kmの1級山岳がひとつ。猛スピードのアタック合戦をかいくぐって、12選手がエスケープの切符を勝ち取った。2004年ジロ総合覇者ダミアーノ・クネゴや、2011年ブエルタから全てのグランツールに出場し続けているアダム・ハンセンが潜り込んだ集団は、フラットな道で、最高で10分程度のタイム差を手に入れた。
平地パートを3分の2ほどこなした後、突如として、後方プロトンの前に蛍光色の軍団が出張ってきた。ネーリソットーリ・イエローフルオの面々だ!同じようにプロコンチネンタルカテゴリーに属するバルディアーニ・チエセエフェの2連勝に刺激されたのか、それとも「大逃げ向き」第11ステージで猛烈な追走を敢行しエスケープを潰したアンドローニジョカットリに倣ったのか。監督のルーカ・シントに言わせると「総合16位マッテーオ・ラボッティーニのため」に、前集団に1人も送り込めなかったネーリソットーリは、とにかく逃げ集団を回収しようと必死で前を引いた。結局のところ、ラボッティーニは18位後退で終わるのだが。
チャンピオンの山へと突入する頃には、逃げ集団のアドバンテージは2分10分に小さくなっていた。山道で代わる代わるアタックとカウンターアタックを繰り返すも、誰一人として最後まで逃げを完遂することはできなかった。12人の中で真っ先に山頂へたどり着いたのはマルティンス・カルドソ。勝者から3分13秒遅れの18位だった。
山の始まりと共に、強豪たちの熾烈な戦いが勃発した。青い山岳ジャージのジュリアン・アレドンドなどは、道が上り始めた途端に、真っ先にアタックを仕掛けたほどだ。果たしてタイミングが早すぎただろうか?ちなみに16年前のパンターニは、ゴール前16kmで最初の加速を披露した。そこからパヴェル・トンコフと2人で、長い一騎打ちを繰り広げていく。一方のアレドンドは、逃げの残党を全て狩り尽くした後、ゴール前9kmで吸収されてしまうことになる……。ラスト10kmからは、今ジロ開幕の地アイルランド生まれのフィリップ・ダイグナンが、少しの間だけ先頭走行を許されたこともあった。
ゴールまで5kmを切ると、メインプロトンは一気に緊張感を増した。きっかけを作ったのは、またしてもピエール・ローラン!今大会すでに、幾度となく攻撃を繰り出して来たフレンチクライマーは、この日もウズウズする脚を抑えきれなかった。実はダイグナンに続いて前に行こうとした時は、ティンコフ・サクソに阻止された。4.8kmでの急襲は、マリア・ローザのリゴベルト・ウランに直接潰された。3度目の正直とばかりに、ラスト4.3kmでも飛び出しを仕掛けた。今度こそ決まったか、と思われた。
ダイグナンを捕らえ、先を急ぐローランの背後では、水色と黄色を基調としたジャージが少しずつスピードを上げていた。リーダーのパンターニは、あの日マリア・ローザを着ていたけれど、所属チームのメルカトーネ・ウノのジャージはやはり水色と黄色だったっけ……。2014年ジロでこの配色を使用しているのは、もちろんアスタナで、若きアールが猛烈に自己実現へと突進し始めているところだった。
「ゴール前3kmで、周りを見回した。他の選手よりも、自分がほんの少し強いように感じたんだ。だからアタックした。自分に何ができるのかを、知るために」(アール)
最初のアタックには、25歳でジロ新人賞を獲得したウランが張りついてきた。23歳でツールのマイヨ・ブランを着用したナイロ・キンタナも、少々ためらった後に、追いかけてきた。24歳でラルプデュエズを勝ち取ったローランと、U23でロード世界チャンピオンに君臨したファビオアンドレス・ドゥアルテとも合流した。2012年8月1日にプロ転向して以降、いまだ一度も勝ったことのないサルデーニャっ子は、こんな世界の強豪たちを振り切るために再度の加速を試みた。「何事も勉強」、「上達あるのみ」と。
「アタックしたはいいけれど、自分にどの程度エネルギーが残っているのか、まるで分からなかったんだよ。でも、とにかく、トライする必要があった。だってボクはこの大会に学びに来ているのだから。そして背後から誰もついて来ていないと知って、信じられない思いで一杯になった」(アール)
パンターニの思い出の山は、チームメートであり、第2のパパでもあるパオロ・ティラロンゴと共に、入念な下見を済ませていた。1998年当時28歳だった「イル・ピラータ」が、トンコフを突き放して、独走を始めたのは2.5km地点。アールはそこから400mほど上がった地点から、フィニッシュラインまでの勝利街道を走り始めた。
「今までのプロ生活で味わったことのない、新しい感覚を得た。夢が現実のものとなった。でも、だからといって、ボクは何も変わらない。1日1日を生きていく。この先のジロに関してもそうだし、将来に関しても。ただ地面に両脚をしっかりつけて生きていく」(アール)
年下に置き去りにされた4選手では、キンタナが仕掛け、ローランが呼応した。最後までマリア・ローザに付き合ったドゥアルテも、とうとうウランを置き去りにして先を急いだ。アールから21秒遅れでフィニッシュラインにたどり着き、キンタナは3位のボーナスタイム4秒もさらい取った。あえて自己のペースで走り続けた(と強調する)ウランは、アールから42秒、ライバル3人から21秒遅れて休養日前のステージを追えた。
「今日は日曜日だから、仕事はお休みの日じゃないの?(笑)だから仕事する代わりに、自転車ライドに出かけたのさ!アールのアタックは予想していなかった。あまりに強くてビックリしたよ。しばらくは彼についていけたけど、でも、ボクに脚がなかったね。もしかしたらタイムトライアルで力を使いすぎてしまったのかもしれない。昨日に比べたら調子は良くなっていたけれど、だからって最高の状態でもなかった。だから、無理せずに、マイペースで上るほうを選んだんだ」(ウラン)
ラファル・マイカとドメニコ・ポッツォヴィーボは、少々後れを取り、フラストレーションの溜まるステージとなった。カデル・エヴァンスにとってはひどい1日だった。若造たちの爆発的なパワーに、37歳大ベテランは上手くついていくことができなかった。アルから1分13秒を、ウランからは31秒を、キンタナからは51秒を失った。総合ではアールが7→4位(総合2分24秒差)、キンタナが6→5位(2分40秒差)、ローランが9→8位(4分47秒)と順調にランクアップ。また首位ウランは、確かに前述の3人からはタイムを失ったが、実のところ総合2位エヴァンス以下との差は32秒→1分03秒へと大きく開いた。
選手たちにとっては、嬉しい大会3回目の休養日がやって来る。第14ステージの落車で腰を痛めた新城幸也にとっても、恵みの休養日となる。
「仰向けでは痛いので、うつ伏せか横向きにしか眠れませんが……。でも、明日は、ゆっくり睡眠をとりたいですね。足りない分はお昼寝もして。前回の落車と違って、整骨師がすぐに治療をしてくれたので、やっぱり効果の早さを感じていますよ」(新城)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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