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一世風靡中のコロンビアヒルクライマー勢が、区間でも、総合でも、上位2位を独占した。フランスチームが攻撃的に動いた。日本人選手の所属する2つのチームが大きな賭けを成功させた。インターナショナルな色を帯びたイタリア一周が、いよいよ最後の山岳連戦に突入した。
スタートと同時にアタック合戦が巻き起こった。なにしろ逃げ切り勝利の可能性は、この第18ステージと第20ステージの残り2回だけなのだ。今大会すでに幾度もロングエスケープにトライしてきた常連が、果敢に前方へと飛び出した。ティム・ウェレンスとトーマス・デヘント、アルベルト・ロサダ、フィリップ・ダイグナンは前日も逃げた。ダリオ・カタルドは第14・16ステージの2回の山頂フィニッシュで、「あわや」のところまで奮闘してきた。フランコ・ペッリツォッティは、チーム総がかりで猛攻を仕掛けたり(第11ステージ)、個人的に特攻をかけたり(第6ステージ)。なにより青いジャージ姿のジュリアン・アレドンドは、第8ステージでとてつもない大逃げを敢行して以来、常に攻撃的な走りを披露してきた。
「今ジロでの最大の目標は、ステージを勝つことだった。1週目にも逃げに乗ったけれど、ゴール前2kmで吸収されちゃった。今日はマリア・アッズーラを守るために、エスケープに乗ったんだ」(アレドンド)
さらに、2006年・2010年ジロ総合覇者のイヴァン・バッソさえも、逃げに加わった!かつては追走トレインを編隊する側だった大チャンピオンも、今や36歳。2日前の、凍えるような山の寒さで、総合タイムを一気に20分近くも失った。2014年ジロに、自らの軌跡を残すためには、大胆なエスケープに打って出るしかなかった。
前方集団は徐々に膨らみ、最終的に14人に落ち着いた。メイン集団には最大8分近いリードを許されて、極めて順調に先を急いだ。もちろんステージ途中の山頂では、アレドンドがポイント収集に精を出した。1級サン・ペッレグリーノと2級レデブスをそれぞれ先頭通過し、確実に山岳賞の首位固めを行った。
後ろのメイン集団では、ひたすらモヴィスター チームが制御を続けた。ステルヴィオからの抜け駆け高速ダウンヒル事件は、いまだにジロ一行のあちこちで燻っていた。かといって、ナイロ・キンタナからマリア・ローザを毟り取ろうという、大胆な試みは見られなかった。むしろ、この日の有力者たちは、ステージの大部分を保守的に走った。翌日の山岳登坂タイムトライアル、翌々日の魔の山ゾンコランに向けて、無理は禁物だった。
おかげで14人の逃げ集団は、十分な余裕を持って、ステージ優勝争奪戦へと漕ぎ出した。全長16.85kmの最終峠で、真っ先に仕掛けたのは、デヘントだった。
「今日はそもそもは、ウランのためにアタックしたんだ。先に逃げておいて、最終峠で彼をアシストする予定だった。でも、タイム差が大きく開いたから、自分のチャンスを取りに行ってもいいとのお許しが出た」(デヘント)
守備的な総合勢とは対照的に、大逃げ野郎たちは入れ代わり立ち代り攻撃を仕掛けた。独走力には定評のあるデヘントを、ペッリツォッティやダイグナンは猛烈に追いかけた。カタルドは3度目の正直を狙って、凄まじい加速を切った。バッソが歯を食いしばって渾身の一発を繰り出したこともあった。なにより2人のコロンビアン、アレドンドとファビオアンドレス・ドゥアルテが、驚異的な山の脚を見せつけた。そしてゴール前4km、アレドンドがついに単独先頭を奪った!
「このジロの期間中、難しい時もたくさんあった。途中棄権さえ考えたほどだよ。2日前のステルヴィオでは、このままじゃ最下位ゴールだ、なんて思ったさ。監督のヨス・ララサバルがチームカーに入れてくれて、ボクを温めてくれた。おかげで再スタートを切る勇気が湧いたんだ。今日は山の麓でアタックしようと思ったんだけど、ヨスから、『楽に行こうぜ、攻撃はまだだ』と声をかけられた。そして十分に上ってから、『今だ!』って。このアドバイスのおかげで、ボクは勝てたんだ。冷静で、我慢強くいるよう、ヨスが教えてくれた。そしてパーフェクトな1日の終わりがやってきた」(アレドンド)
当初は英国からビザ発給を拒否され、ジロ出場さえ危ぶまれた。ギリギリで滑り込んだ初めてのグランツールで、初めてのワールドツアー勝利に手が届いた。今季トレックファクトリーレーシングに合流してから通算3勝目。2012〜2013年のニッポ時代も含むと、プロ入り通算8勝目。標高1760mの頂で勝ち取った、キャリアで最高の栄光だった。山岳ジャージは早ければ第19ステージ終了後にも確定しそうだ。区間の2番目には、標高2500mを超える高地で生まれ育ったドゥアルテが入った。
おとなしくしていたメイン集団も、最終峠の接近と共に、徐々に騒がしくなっていった。総合4位の、いや、むしろ総合3位までわずか5秒に迫るピエール・ローランのために、チーム ユーロップカーが高速で集団を牽引し始めたからだ。今大会3度の落車に苦しめられた新城幸也も、最後の平坦パートを全力で引っ張った。その後は山岳アシストたちがバトンを受け取り、山の中腹で、2009年U23世界チャンピオンのロメン・シカールが強烈な加速を仕掛けた。リーダーのピエール・ローラン本人も、畳み掛けるように飛び出した。何度も、執拗に。
ほぼ毎回キンタナは、冷静に素早く反応した。1度だけは「あえて」追わずに、周りに仕事をうながしたこともあった。ローランに対して余裕の3分26秒差を有するマリア・ローザよりも、僅差で表彰台争いを繰り広げる5位ラファル・マイカ、6位ファビオ・アール、7位ドメニコ・ポッツォヴィーボが動くべきなのだ、と。最終的には、ローランに対して1分45秒リードを有する総合2位リゴベルト・ウランが、慌ててチームメートを追走に向かわせた。そのせいでローランは、大多数のライバルたちに追いつかれてしまった。……ただし、1人だけ例外がいた。総合3位のカデル・エヴァンスだ。2011年ツール・ド・フランス総合覇者の37歳は、同年ツール新人賞の攻撃に苦しめられ、そして千切れていった。
「ボクにとっては良い1日ではなかったね。タイムも失った。かなりのタイムだ。総合でも9位に落ちてしまった。でも、ジロはまだ終わっていない。明日からの2ステージで、まだまだ何かが起こる可能性がある」(エヴァンス)
こうしてローランは、エヴァンスから総合3位の座を奪い取った。ただしラスト400mでアールに飛び出されてしまったせいで、まだまだ余裕の表彰台確保というわけにはいかない。首位キンタナと2位ウランは変わらず1分41秒差、3位ローランが3分29秒差につけ、そのたった2秒後ろにはアール(4位)とマイカ(5位)が控えている。3分52秒差で、前日に比べてキンタナから3秒失い、3分52秒差の6位につける「博士」ポッツォヴィーボは、こんな風に戦況を分析する。
「キンタナはもはや無敵で、首位の座を脅かすことは無理。明日とあさっては、総合2位の座を巡って、激しい戦いが繰り広げられるだろうね」(ポッツォヴィーボ)
フィニッシュ地にやって来たF1レーサー、いや、むしろ来季に旗揚げされる(予定の)新チームオーナーのフェルナンド・アロンソに、表彰台で祝福されたキンタナは、もちろん「まだジロは終わってはいない」と強調する。
「まだ厳しい山岳ステージが2つ残っているし、トリエステのフィニッシュラインまでジロは終わらないんだ。明日のタイムトライアルはうまくやれると思う。タイムを失わずにマリア・ローザをキープすることができるだろう。ボクが好きなタイプのTTだ。激坂はボク向きだからね」(キンタナ)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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