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26.8kmの個人タイムトライアルコースの、正確に言えば19.3kmの山道が、2014年ジロ・デ・イタリアの真実を明らかにした。マリア・ローザのナイロ・キンタナが、正真正銘の王者であることを、完膚なきまでに証明してみせた。難関山岳ステージはあと1日残っているけれど……。
すでに脚には3週間の疲労が蓄積されていた。クロノ・スカラータ=登坂タイムトライアルは、全ての選手にとっての試練だった。特に完走目前のスプリンターたちにとっては、とにかく制限タイムが気が気ではなかったはずだ。ジロのTTステージの場合、区間優勝タイムの30%を超えると容赦なく失格が告げられる。つまり今回は19分21秒以上の遅れは厳禁で……、残念ながら、21分23秒遅れたケニー・デハースは、トリエステまであと2日に迫ったこの日、帰宅を命じられた。赤ジャージのナセル・ブアニは、14分18秒遅れで余裕のセーフ。また坂道の途中で立ち止まり、大胆にも彼女に結婚の申し込みをしたヨス・ファンエムデンは、11分56秒遅れでゆとりを持ってゴールした。もちろんプロポーズも成功させた!
序盤7km半がほぼ平坦で、そこから先はゴールまで8%近い勾配が続く。多くの総合リーダーたちは、前半はTT専用バイクでできるだけ時間を稼ぎ、山の始まりと同時にノーマルバイクに乗り換えるという手法をとった。総合トップ10圏内で、スタートからゴールまで一貫してノーマルバイクで走ったのは、前ステージ終了時点で8位ウィルコ・ケルデルマン、7位ライダー・ヘシェダル、3位ピエール・ローランの3人のみ。しかもケルデルマンはDHバーさえ取り付けていなかった。その対極にいたのが、全身ピンクのナイロ・キンタナだ。ゴーグル一体型ヘルメットに丈が長めのエアロシューズカバー。しかも自転車交換と共に……ヘルメットさえ交換するという早業さえ!
「バイクとヘルメットを交換したおかげで、本当に、安心して走ることができた。ノーマルヘルメットのほうが有効だと分かっていたからなんだ。だって軽いし、汗蒸れも少ない。しかも交換には、ほんの数秒しかかからない。なにより、そのための準備も万全に行ったからね」(キンタナ)
そんな風に心落ち着けて走ったキンタナは、第1中間ポイント=TTバイクで走ったゾーンは、首位通過のパトリック・グレッチュから38秒遅れでクリアした。総合争いのメンバーで最高タイムをたたき出したのは、1週間前のアップダウンタイムトライアルでぶっちぎりの優勝を果たした総合2位リゴベルト・ウランで22秒遅れ(キンタナへのリードは16秒)。ノーマルバイク組みはヘシェダルが首位より45秒遅れ、ローランが49秒遅れ、ケルデルマンが52秒遅れだから、自転車交換によるロスタイムがない分、決して悪くはない数字だった。ちなみにTTバイクで走り出した総合4位ファビオ・アールは、54秒遅れだった。
山道の途中の、第2中間ポイントまでくると、違いは徐々に大きくなっていく。ポッツォヴィーボがそれまでの首位通過者フランコ・ペッリツォッティの記録を21秒塗り替え、すぐ後には、アールがなんと……ポッツォヴィーボの記録を一気に52秒も塗り替えた!そこからさらに、最終走者のキンタナが8秒上回ることになる。ちなみに第1→第2計測地点の11.8kmだけを考慮すると、逆にアールがキンタナを8秒上回っている。また総合2位のウランも、ここまでは順調にリズムを刻んでいた。キンタナからの遅れは、いまだ15秒と小さかった。
さらに最終盤に入ると……長い単独走行の疲れと、平均勾配8.9%・最大14%の急坂とが、驚くほどの差を生み出した。もはや前半にどんな自転車に乗っていたのかなんて……、まるで関係なかったかのように。ヘシェダルはメカトラで「予定外の」自転車交換を余儀なくされ、3分後にスタートしたポッツォヴィーボに追い抜かれた。TTバイクでカーブを曲がりきれずにフェンスに激突した総合5位ラファル・マイカは、やはり後発のファビオ・アールにあっさりと先に行かれた。
アルベルト・コンタドールに憧れているという1990年生まれ23歳のアールは、スペイン人チャンピオンに似た軽いダンシングスタイル&高速ケイデンスで、絶えず加速を続けた。しかも、このモンテグラッパの山道は、下見などしなくても、隅々まで知り尽くしていた。アンダー時代から、幾度もこの山で勝負してきた。2010年のジロ・ベビーでは区間8位に入っている(勝者はカルロス・ベタンクール!)。さらにはジーノ・バルタリも勝ち取った伝統のワンデーレース、バッサーノ〜モンテ・グラッパで数回トップ5入りし、2011年には優勝をさらい取った。
「ここでユース時代に勝ったことがあるから、この山で好結果を出せて本当に嬉しい。1時間に渡って、ひたすら猛烈に走った。自分の能力を最大限に搾り出した」(アール)
疲れを悟られぬよう、なんとかごまかしながら走ったと言うけれど……、山頂では1時間05分54秒というぶっちぎりの暫定トップタイム。そこまでの首位タイム(ポッツォヴィーボ)を2分07秒も上回る、驚異的な記録だった。ただし、2つ目の区間優勝のチャンスは、同じ1990年生まれの、ほんの5ヶ月だけ先に生まれたキンタナに、あっさりと踏み潰されてしまうことになる。
最終走者の特権は、先行走者のタイム情報を常時チェックしながら走れること。ラスト3kmほどまでは、GPS衛星測位システム情報によれば、キンタナvsアールの区間の戦いはほぼ引き分けだった。ところが、マリア・ローザは、そこからが強かった。ダンシングスタイルでフィニッシュラインギリギリまで力を振り絞り、アールを17秒上回る1時間05分37秒で戦いを終えた。勾配の最も厳しい最終7.5kmを、アールが23分13秒で走ったのに対して、キンタナは23分04秒で駆け抜けた。ウランは23分54秒だった。
「本当に嬉しい。すごく見ごたえのある1日だったし、コースを走っている間中、本当に気分が良かった。なによりも、ファンたちがボクを応援してくれたのが、本当に嬉しかった。この区間で勝てたことは、ものすごく重要なこと。ステージ前には公言しなかったけれど、山岳TTはボクの得意分野だから、絶対に勝たなきゃならなかった」(キンタナ)
第16ステージの区間勝利は、残念ながら疑惑と議論にまみれてしまったけれど、今回は公明正大に手に入れた勝利だった。同時に、1分26秒遅れで区間3位に入ったウランとの総合タイム差を、3分07秒差にまで大きく開いた。魔の山ゾンコランを前に総合優勝にも王手をかけた。
ウランが心配すべきは、むしろ総合2位の座。アールが3分48秒差の総合3位に昇格し、つまりウランとの差は41秒に縮まった。しかもウランが「アールがアタックしてくるだろう。総合2位を守るために走る」と語る一方で、アスタナ勢は「2位にアタックし、総合リーダーにもアタックだ。果敢にトライして、ジロを勝ち取らなきゃ」と力強い発言をしている。またローランが1分57秒遅れで区間4位。タイムトライアルが極端に苦手なフレンチヒルクライマーは、人生最高のTTを実現させたが、表彰台からはわずか1日で陥落してしまった。表彰台復帰へは、1分38秒のギャップを埋めなくてはならない。好走ポッツォヴィーボは総合6位→5位へと1つアップ。やはり1990年生まれのマイカは、前日から胃痛に苦しめられているせいか、6位へと順位を落とした。
ところで、ウランが「2位保守」発言をしたのは、「ゾンコランはそれほどタイム差がつく山ではないから」とのことらしい。ちなみに2003年大会でのゾンコラン区間は、勝者ジルベルト・シモーニと2位のタイム差は34秒。2007年は位・2位が同時ゴールで3位は7秒遅れ。最もタイム差がついたのが2010年大会で、1分19秒差。イヴァン・バッソ率いるリクイガス(当時)が、ステージ中盤から恐ろしいほどの隊列を組んで、2位カデル・エヴァンス以下を粉々に蹴散らしたのだった。そして2011年大会は、現在はキンタナの山岳アシストを務めるイゴール・アントンが、33秒差で「地獄の門」を制している。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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