人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2014年6月1日

ジロ・デ・イタリア2014 第20ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

地獄の門を抜けると、天国が待っていた。3週間の激闘をかいくぐり、なによりゾンコランの激坂を極めて冷静上り切ったナイロ・キンタナが、コロンビア人として史上初めてのジロ・デ・イタリア総合優勝を「ほぼ」確定した。本物の祝福の時は、24時間後、トリエステにて訪れる。それでも、24歳の若者は、山の上で大きな感激に包まれた。

「表彰台に上ったとき、自然と涙が湧いてきた。本当に嬉しい。人生における大きな目標が、あと少しで叶うんだ。これほど美しい場所で、こんなに素晴らしいファンに囲まれて、総合優勝をつかんだのだから……。とにかく誇らしい。これで99パーセントは確定した。あとは明日の最終ステージを終えるだけ」(キンタナ)

強力なモヴィスター チームに支えられて、キンタナは最後の難関ステージも徹底的なコントロールに務めた。すでに総合2位以下には3分以上のタイム差をつけていたけれど、一切の妥協は見せなかった。スタート直後には19人の大集団を先に行かせた。タイム差を微妙に調整しつつ、最終峠ゾンコランの麓まで、ほんの少しずつ、じわじわと、あえてリードを開かせて行った。ボーナスタイムの可能性を潰し、前集団に滑り込んだ「先行アシスト隊」が大量に下りてくるのを阻止し……。

エスケープには総合2位リゴベルト・ウランのチームメートのピーター・シェリーを筆頭に、新城幸也(4位ピエール・ローラン)、アクセル・ドモン(5位ドメニコ・ポッツォヴィーボ)、ニコラス・ロッシュ&マイケル・ロジャース(6位ラファル・マイカ)が名を連ねた。AG2R・ラ・モンディアルのドモンはリーダーのことを考えつつ、チーム総合首位確保も重要な任務だった。シェリーは「ゾンコランに入ってからは、ウランが追いついてくるのを待った」と語り、新城幸也は少し早めに後方へと合流した。

一方でティンコフ・サクソは、「今日は2人が逃げに乗るように」と朝のミーティングで指示されていたという。その通り、2人が前に飛び出した。しかも世界選手権タイムトライアル3勝のロジャースと、ブエルタですでに2度のトップ10入りを果たしてきたロッシュが、先頭グループを積極的に牽引した。最終峠へ上り始める頃には、メイン集団に7分50秒の差をつけていた。

「かなりのアドバンテージをつけて、ゾンコランの麓にたどり着いた。そして、あの地点から、状況を上手くコントロールすることに務めたんだ」(ロジャース)

17人で上り始めた逃げ集団は、ヨーロッパ屈指の急勾配で、あっという間に小さくなって行った。そしてゴール前6km。フランコ・ペッリツォッティがアタックを打つと、マイケル・ロジャースとフランチェスコ・ボンジョルノだけが反応を見せた。さらには、2人の大ベテランを向こうに回し、今ジロで大ブレイク中の「1990年生まれ」ボンジョルノが渾身のカウンターアタック。ついにボンジョルノとロジャースは、2人きりになった。もちろん沿道では、10万を超える観客が、一騎打ちを熱い視線で見守っていた。

残念ながら、一部のファンは加熱しすぎた。そしてボンジョルノ=Bongiornoにとって、buon=良い、giorno=1日とはならなかった。ゴール前2.9km。観客の1人に背中を押され、バランスを崩し、ペダルから左足が外れた。立ち止まったのは、確かにほんのわずかな時間だったかもしれない。しかし、極度の集中力を突然断ち切られ、ボンジョルノは上手くリズムを取り戻せなかった。その上、ロジャースは何も気がつかぬまま、遠くへと走り去ってしまった。2度と追いつけないくらいに。

「苦々しい気分だよ。自分のカードを本気で切ることさえできないまま、全てが終わってしまった。あれほどの急勾配だと、走り出すこと自体が、ものすごく難しいんだ。悔しくて泣けてきた。でも、一体ボクに、これ以上なにができただろう?せめて今後の教訓にして欲しいね。ファンたちの応援は嬉しいけれど、でも、そこには、走っている選手たちへのリスペクトがあるべきだ」(ボンジョルノ)

1人になったロジャースも、執拗に付きまとってくるティフォジを、時には怒鳴りつける必要さえあった。幸いにも山頂まで2kmほどに迫ると、いまやゾンコラン名物ともなった山岳警察たちによる「人間バリケード」のおかげで、心静かにペダルを回すことができた。

「でも、後ろで何が起こっているのか、まるで分からなかったんだ。タイム差情報さえ、何も入ってこなかった。チームカーからの無線は一切途絶えた。だから山頂まで、タイムトライアルのつもりで上った。ただひたすら、あと○km、あと○mと、距離を刻むことだけに集中した。最後の100mになって、ようやく、自分の勝ちが確信できた」(ロジャース)

第11ステージでジロ区間初勝利を手にした34歳は、わずか10日後に2勝目を手に入れた。しかも、プロトン屈指のルーラーが、ジルベルト・シモーニ、イヴァン・バッソ、イゴール・アントンというピュアヒルクライマーに続く、第5代目のゾンコラン王者になったのだ!

「全ての勝利が美しい。でも、今日は、ゾンコランでの勝利だ。ジロの伝説的山だ!自転車選手なら誰でも、こんな伝説の山で勝つことを、夢見ているものさ」(ロジャース)

後方のメイン集団は、モヴィスターの堅固な守備に阻まれて、誰もがきっかけを見つけられずにいた。明らかな攻撃が見られたのは、全長167kmのステージで、わずか3度だけ。

1度目は、チーム ユーロップカーが仕掛けた。連日勇敢に戦ってきたフレンチチームは、ゴールまで残り50kmを切ると、アシスト勢が一丸となって集団牽引を始めた。そこからロメン・シカールが先行アタック。「ゾンコランはあまりに勾配が厳しすぎて、なかなかアタックは決まらないだろう。だから、仕掛けるなら、遠くから」と分析した、ローランのためだった。しかし、ポッツォヴィーボやマイカが相乗りしてきて、小さなためらいが発生した隙に、モヴィスター軍団に主導権を奪い返された。

2度目はゾンコランの山道に入った直後。総合10位のロベルト・キセロフスキーが、単独で飛び出しを試みた。しかし2011年にゾンコランを制し、現在はキンタナの山岳護衛隊長を務めるアントンが、すぐさま回収に向かった。

アントンの刻むリズムは、ひたすら厳しかった。カデル・エヴァンスやライダー・ヘシェダル、ウィルコ・ケルデルマンは、あっさりと千切れていった。その他のトップ10選手は何とかしがみ付いたが、誰もがアシストなしの孤軍奮闘を強いられていた。ただ1人、ウランを除いては。

そして3度目。ウランの忠実なる手下は、攻撃チャンスを逃さなかった。そこまで集団内でじっと待機していたセルジュ・パウエルスが、ゴール前5km前後でアントンが脇にそれた瞬間、、突如として猛スピードで引き始めた。勾配16%超えをものともせず、まるでスプリントを切るような勢いだった。もちろんウランを連れて前へ飛び出した。キンタナは苦もなくついてきた。途中でシェリーも合流し、オメガ3vsモヴィスター1という構図になっても、そんなことはまるで無問題であるかのようだった。

ファビオ・アール、ローラン、ポッツォヴィーボ、そしてマイカは、コロンビア組について行けなかった。ウランを2位の座から追い落とす、いや、総合優勝も狙う、と豪語していたアールも、表彰台入りの最後のチャンスにかけたローランも、これ以上はもはや何もできなかった。残りの坂道の大半は、若い3人に代わって、31歳のポッツォヴィーボが黙々と引っ張った。総合3位〜6位までの4人は、前日と変わらぬ順位のまま、第20ステージを終えた。

2014年ジロ・デ・イタリアの、最後の山道を、キンタナとウランは並んで走った。2012年ジロで新人賞、翌大会では総合2位に入ったウランは、新加入オメガファルマ・クイックステップに、チームが長年追い求めてきたグランツールの総合表彰台をもたらした。そして2013年ツール新人賞&&山岳賞&総合2位のキンタナは、コロンビア国民が待ち望んでいた、グランツール総合覇者の座を――。

「このマリア・ローザを、母国コロンビアに持ち帰ることができて、本当に誇らしいよ。かれこれ3年前から、あちこちで勝ち始めて、力を伸ばしてきた。去年ボクらコロンビア人は、ジロとツールで総合2位に入った。そして今年、さらにもう一段、ステップを上がることができた」(キンタナ)

ちなみに4色のジャージのうち、3色をコロンビアが独占した。ピンク(総合タイム)と白(新人)はもちろんキンタナで、青(山岳)はジュリアン・アレドンドで確定した。残す赤色ジャージの行方は……?フランス人ナセル・ブアニで決まり、と言いたいところだが、最終集団スプリントが終わるその瞬間まで、イタリア人ジャコモ・ニッツォーロにもわずかな可能性が残されている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ