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雲が再び頭上に戻ってきた。リベンジを誓う選手たちが、こぞって飛び出した。
前日はゴール前13kmまで逃げ続けたが、単なる敢闘賞に終わったアレッサンドロ・デマルキ。その直後にメイン集団から抜け出したが、マイヨ・ジョーヌに付き離されたラファル・マイカ。第10ステージのレ・プランシュ・デ・ベルフィーユで、やはりイタリア王者に残り1kmで振り切られ、前夜には虎の子のマイヨ・ア・ポワさえ奪われたホアキン・ロドリゲス。さらには、あらゆる手を尽くしたけれど、どうしても勝てなかったペーター・サガンさえも、エスケープにもぐりこんだ。ただしグリーン街道はぶっちぎり首位。第10ステージに続く、2度目の難関山岳ステージ「ポイント収集」大逃げを試みた!
ステージは「プリト」のゼロkmアタックで始まった。16km地点で17人の先頭集団が出来上がった。予想通りに中間スプリントはサガンが(20pt。ポイント賞2位ブライアン・コカールとは170pt差に広がった)、1級ロタレはロドリゲスが(10pt)手に入れた。続くツールの伝説的峠、イゾアールでも、残された11人の暗黙の了解のもと、ロドリゲスが先頭通過を果たした(25pt)。ツール創始者を記念するアンリ・デグランジュ賞=5000ユーロも、ポケットへとしまい込んだ。
ロタレ山頂では4分45秒あったタイム差が、イゾアール山頂では2分50秒に縮まっていた。というのは、後方のメイン集団が、イゾアールで早くも激しい争いを始めてしまったから。ステージ序盤はアスタナが静かな制御を続けていた。すでにマイヨ・ジョーヌを「ほぼ」確定させたニーバリは、なんの危険もおよばさないエスケープ集団を邪魔するつもりはなかったし、3分37秒以上も離れたライバルたちを苦しめるために1日中高速テンポを刻む必要性も感じていなかった。むしろ、積極的に行くべきは、総合表彰台当確線上にいる選手たちや、総合トップ10入りを狙う者たちなのだ。
だから、山道ではチーム ネットアップ・エンドゥーラが牽引を続けた。前日だけで総合19→10位と大きく向上したレオポルド・ケーニッヒを、さらに上へと押し上げたいと願って(幸いなことに、8位へと成績を上げた)。山頂間際に差し掛かると、アージェードゥゼール・ラ・モンディアルが特攻を仕掛けた。新人賞ジャージの総合3位ロメン・バルデと、総合6位ジャンクリストフ・ペローを連れて、山岳アシストのミカエル・シェレルが猛烈な牽引。そのまま下りへと突っ込んだ。
23歳のバルデは前夜、勇敢な走りで表彰台の3段目に上がったばかり。しかも総合4位のティボー・ピノとは、たったの16秒差でしかない。1つ年上のヒルクライマーを、どうにかしてねじ伏せねばならない。一方で37歳の遅咲き(プロ入りが32歳と遅かったせいだ)も、前日は順位を1つ上げた。しかし決して、自らのパフォーマンスには、満足していなかった。
「暑さで体中が悲鳴を上げていた。ペダルが上手く回せず、太ももは痙攣した。出来る限りのことはやった。とりあえず生き延びた、そういう感じだよ」(ペロー、前日のゴール後インタビューより)
幸いにもこの日は気温が下り、ペローもいつもの調子を回復した。前日の悔しさを晴らすかのように、ダウンヒルを果敢に先導した。下りは大の得意分野。北京五輪で銀メダルに輝いた元マウンテンバイク選手は、後輩バルデを背負って、見事なハンドル捌きを披露した。
「ピノが高速ダウンヒルをあまり得意としてないことを知っていたから。逆にヒルクライムには強い。だから、チャンスが訪れたら、どんな場所でもアタックしなきゃならなかった」(ペロー、ゴール後インタビューより)
30kmもの長い下りの最中には、エスケープ組からクリストフ・リブロンも戻って来て、ダブルリーダーの企てに力を貸した。イゾアール峠の裏側に入り、月面世界のような「カス・デゼルト」を脇目もふらず駆け抜けて、あらゆるライバルをまとめて後方に吹き飛ばした。――ただし、ニーバリを除いて!さすが現役ナンバーワンダウンヒラーと呼ばれる男。影のようにペローの背中にピタリと張り付いた。しかも超ハイスピードで下りながら、路上の小さな障害物を軽々と飛び越えるという、驚くべき器用さも披露した。
「でも、ボクだって上手く下れるんだ、って証明できたと思う。決して臆病者なんかじゃないってことをね」(ピノ、ゴールTVインタビューより)
バラバラになったメイン集団は、下りが終わると、一旦、ひとつになった。
ツール初登場リズールの道が上り始めると、またしてもAG2Rがテンポを上げた。ここではルクセンブルク人ベン・ガスタウアーが、フランス人リーダーのために全力を尽くした。ユーロップカーのフランス人、ピエール・ローランが数度の加速を試みたり、エフデジ ポワン エフエールがピノを牽引したり。しかし、またしても、ニーバリが……、ラスト4kmのアーチをくぐった瞬間、思い切り加速を切った。今度はペローが影のように、ニーバリの背中にピタリと張り付いた。
「ライバルたちからタイム差を奪おうと考えていた。特にアレハンドロ・バルベルデとの差をもっと開きたかった。マイカに追いつこうとして、飛び出したわけじゃないんだよ」(ニーバリ、公式記者会見より)
そう、最終峠では、再びマイカが先頭を走っていたのである。11人に小さくなったエスケープ集団の、麓でのリードは1分程度だった。真っ先にアタックを仕掛けたのはデマルキで、2日連続の敢闘賞「赤ゼッケン」でアルプスを抜け出すことになった。ロドリゲスは単身でマイカの追走を試みた。しかし、やはり結局のところは、山岳ジャージを回収できただけに過ぎなかった。しかも、ポイントだけ見れば、マイカと同点88ptで並んでいる。ただ「超級を1位通過した数」で上回ったおかげで(ロドリゲス1回、マイカ0回)、ロドリゲスが赤玉模様に再び染まった。
「今日の目標はとにかく逃げに乗って、出来る限り大量の山岳ポイントを収集することだった。チャンスがあれば、区間勝利だって狙っていた。最終峠はもちろん、全力で、山頂フィニッシュ勝利を取りに行ったよ。でも、決してボク向きの上りではなかった。ピレネーの山々のほうが、ボクの脚質に向いている。だから来週は、ジャージに向けて、区間勝利に向けて、さらに戦っていく」(ロドリゲス、ゴール後TVインタビューより)
リベンジを半分果たして、ロドリゲスには笑顔が戻った。リベンジを完全に果たして、拳を握り締めたのはマイカだった。ラスト8.5kmでひとり飛び立つと、後ろから激しく追い上げてくる人影を、24秒差で振り切った。24時間前に覚えた激しい怒りを、勝利へのモチベーションに昇華させた。3週間前に急にツールメンバーとして召集され、不本意ながらもジロ−ツールと連戦した意味を、ようやく見つけ出した。2011年2月にプロ入りして以来、初めて手にした勝利だった。
なにより、絶対的リーダー、アルベルト・コンタドールの落車リタイアで失意に暮れたチームに、明るい話題をもたらした。
「この勝利は全チームメートとアルベルトに捧げたい。だってボクら全員が、ひどく辛い時期を過ごしてきたから。でも今日、ボクたちは決して諦めやしないんだ、と証明できた」(マイカ、チームリリースより)
ニーバリはペローと最後まで運命を共にし、2位で区間を締めくくった。お望み通り、バルベルデを新たに1分突き放した(総合では4分37秒差の2位)。バルデとピノは競り合いながら、区間勝者から50秒差、ニーバリから26秒差でフィニッシュラインを越えた。総合3位が総合4位の動向から決して目をはなさず、あらゆる動きに反応し続けた結果だった。
「ボクは背後でひたすらコントロールするだけだった。自分に言い聞かせたんだ。絶対に離されはしないぞ、って。昨日よりも上手くピノに張りつけたと思うよ」(バルデ、ミックスゾーンインタビューより)
「ほぼパーフェクトな結果だよ。予想以上の出来だった。だって表彰台に乗りたいなら、ロメンだけじゃなく、ティージェイ・ヴァンガーデレンやバルベルデ、ペローとのタイム差も大切になってくるからね」(ピノ、ゴール地インタビューより)
その総合5位ヴァンガーデレンは2人から4秒遅れでゴールした。6位ペローの(ニーバリに対する)タイム損失はわずか2秒だったが、7位バウク・モレマは2分16秒も落とした。ただし、この上位7人までは、タイム差に多少の変動はあったものの、総合順位は変わらず。一方で8番目だったユルゲン・ヴァンデンブロックは、11位に降格。9番目ルイ・コスタは13位へ。ピエール・ローランが、代わりに13位→10位へとアップした。総合トップ10圏内にフランス人が4人、チーム総合首位がフランスチームのアージェードゥゼール。
ちなみに、第13ステージに小さないざこざを起こしたピノとバルベルデは、スペイン人側からの謝罪で一旦落ち着いたかのように思われていた。今年からモヴィスター入りした「元アージェードゥーゼール」のジョン・ガドレに、仲介役を頼み、朝のスタート地で両者は和解した。ところが、2人の間に、再び問題が発生した。今回怒っているのはバルベルデ。ピノの車輪がバルベルデの自転車にぶつかり、ディレーラーが壊れてしまったとのこと。つまり速度変更が不可能となり、それでタイムをロスした……ということのようである。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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