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サイクル ロードレース コラム 2014年8月25日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第2ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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この春、悪天候続きのイタリアで開花したナセル・ブアニが、残暑厳しいスペインでも、たくましきスプリントの足を見せ付けた。ジロでは赤いポイント賞ジャージを最終日まで守りきり、この日はさっそく緑のポイント賞ジャージを身にまとった。赤い総合リーダージャージは、チームメートから、アレハンドロ・バルベルデが引き継いだ。

22チーム・198選手が全員揃って走り出した直後に、青玉の争いは決した。あっさり飛び出した6選手の中から、グランツール初出場ネイサン・ハースが、10.2km地点の3級峠を先頭通過。大会最初の、そして今ステージ唯一の峠で3ポイントを懐に入れると、ゴール後に山岳ジャージを着用する権利を手に入れた。しかも、目標達成すると、ハースはそのまま逃げ集団から静かに脱落していった。

「チームはダニエル・マーティンとライダー・ヘシェダルで、総合上位を狙ってる。横風が吹いていたから、僕にとっては、リーダーの側で走るほうがずっと大切だった。初めてのグランツールで初めての賞ジャージ。誇らしいけれど、でも、明日は守りには行かない」(ハース、大会公式リリースより)

山岳ポイント獲得争いに敗れたクリスティアン・ズバラーリもまた、ハースとともに後方帰還を選んだ。つまり先を続けたのは4選手。ハビエル・アラメンディア、レイナールド・イョンスファンレンスブルク、この日が26歳の誕生日だったロマン・アルディ、そして背番号1番ヴァレリオ・コンティ!

ゼッケン1とは本来、ディフェンディング・チャンピオンに与えられるもの。ところが昨大会覇者の42歳クリス・ホーナーは、大会前日に出場キャンセルを余儀なくされた。気管支炎の治療により、コルチゾル値がMPCC(信頼できる自転車競技のためのムーブメント)の規定を下回ったとして、チームが決断を下したのだ。そこで金曜日に急遽呼び出され、空席に入れられたのが、この21歳コンティだ。

つまりホーナーのちょうど半分しか生きていないネオプロが、生まれて初めてのグランツールの初めてのラインステージで、ゼッケン1を背負ってエスケープに乗って……。

「監督からそうするように言われたから、やっただけ」(コンティ、大会公式リリースより)

今ブエルタで2番目に若い1993年生まれの若者は(最年少は1994年生まれのメルハバ・クドゥス)、しかも、複合賞の白いジャージさえ身にまとった。3大ツールでブエルタにしか存在しない複合賞とは、総合順位・ポイント賞順位・山岳賞順位の、総計の最も少ない選手を称える賞である。3級峠を3位通過していたコンティは、2度の中間ポイントでも2位&1位通過してポイント賞10位に食い込み、もちろん総合では89位に入り、198人で構成されるプロトンの中で「唯一」複合賞ランキングに該当する選手となった。

「ナンバーワンゼッケンを背中につけてはいるけれど、僕はクリス・ホーナーのような偉大なるチャンピオンじゃない。それに、ブエルタで総合優勝することだって、きっとないだろう。少なくとも、今年はない。僕はまだ21歳。3週間走り切りたいけれど、自分の肉体がどうなってしまうのかさえ分からないんだ」(コンティ、大会公式リリースより)

後方では、マイヨ・ロホを守るモヴィスターが、きっちりとコントロールを続けた。4人には最大5分ほどのリードしか与えず、もちろん最後の中間ポイント(ゴール前41.9km)までは前方で泳がせ、ライバルたちにボーナスタイム収集のチャンスを与えなかった。ラスト30kmでは35秒差に詰め寄るも、早すぎる吸収は禁物、とばかりにゴール前18kmまで合流のタイミングを待った。

そこから先は、総合リーダーを抱えるあらゆるチームが、集団前方へ競りあがった。スプリンター向けステージだというのに、スプリンターチームが少々控えめだったのは、ちょうど同じ頃、数多くのスプリンターがファッテンフォル・サイクラシックスを戦っていたせいかかもしれない。ドイツのハンブルクでは、カチューシャトレインがアレクサンドル・コロブネフをスプリント勝利に導いた。一方でスペインでのカチューシャトレインは、ホアキン・ロドリゲスのために作られた。海風による分断や落車を恐れて、クリス・フルーム擁するスカイも、アルベルト・コンタドールを守るティンコフ・サクソも、みな前方で隊列を組んだ。

ラスト3km=タイム救済措置が発動するゾーンに入ると、ようやくスプリンターチームが前に出てきた。ボーナスタイム次第ではマイヨ・ロホの可能性もあるペーター・サガンを連れて、キャノンデールが前に並んだ。エフデジやジャイアント・シマノも上がってきた。中でも上手い連携を見せたのが、エフデジだった。ラスト1.5kmにある3つの90度カーブを、しっかり先頭ポジションでクリアした。

前夜に続いてエアロスーツを着込んだブアニは――前日のチームタイムトライアルではケニー・エリッソンドを親鳥のように保護しつづけたブアニは――、この日はひたすらムリロ・フィッシャーの背中にぴたりと張り付いた。それから、最終直線でジョフレ・スープが追いついてくると、今度はそちらに乗り移る。

「フィッシャーはものすごい牽引をして、後続を引きちぎってくれた。あまりに速すぎたものだから、僕は『ジョフレが追いつけるよう減速してくれ』って叫んだほどさ。ジョフレが追いついてきたら、すぐに後ろに入った。そしてライン手前200mで、僕自身が、全てを出し切った」(ブアニ、ゴール後インタビューより)

軽い上り坂フィニッシュの、ラスト150mで先頭に立つと、フレンチスプリンターは一瞬であらゆるライバルを置き去りにした。リーダーがゴールラインを横切るはるか前に、アシストが後方でガッツポーズするほど、圧倒的な差をつけての勝利だった。

「ゴール手前10mで振り返ったんだけど、デゲンコルブさえ僕の後ろにいたなんて知らなかった!こんなに簡単に勝てるなんて、ちょっとびっくりしる。だってグランツールのスプリントっていうのは、ほかのスプリントと違うものだから」(ブアニ、ゴール後インタビューより)

2014年ジロでは、2連勝マルセル・キッテルが病気リタイアした第4ステージに、嬉しい初勝利を収めた。このブエルタでは、一発目のスプリントから、最強スプリンターの座に君臨した。

「出来るだけ早く、1勝目を挙げたかった。チームメートたちのプレッシャーを、できるだけ早く取り除いてあげたかったから。この目標は達成できた。次の目標は、2勝目を挙げること。緑ジャージは、もちろん、守っていくつもり。中間スプリントだって集めていく。大会が進むにつれて、ジャージ獲得が、『目標』になっていくのかもしれないね。ただ今現在は、ポイント賞にだけ執着するつもりはない」(ブアニ、大会公式記者会見より)

ブアニの背後では、サガンはゴール前300mほどで脚を緩め、ボーナスタイム戦線には加わらなかった。むしろアレハンドロ・バルベルデの方が区間上位(21位)に食い込む奮闘を見せて、ヨナタン・カストロビエホから赤いリーダージャージを譲り受けた。2年前は3日目で首位交代したが、今年は2日目で、早くも、である。

「『不要なアクシデントを避けたいなら、前方で走り、スプリントすること』っていうセオリーに従ったまで。ジャージを守るかどうか?うーん……、とりあえずホテルに帰って、チームのみんなと話し合わなきゃならないね」(バルベルデ、ゴール後インタビューより)

ブエルタのリーダージャージなら、過去23日間着用した経験がある。2009年には総合優勝も果たしているバルベルデだが、今回はどうも、予想外に早くジャージを手に入れてしまったようだ。歯切れの悪いコメントが続く。

「リーダージャージを着るというのは、いつだって興奮するよ。でも、今こうして僕がジャージを着ているのは、ただ分断を避けようとチームの先頭を走っていたからなんだ。本当ならチームのほかの誰かに、ジャージを着て欲しかった。チームバスに戻ったら、みんなから言われたよ。『どうしてここに戻ってきたの。君が総合リーダーなんだぜ!』って」(バルベルデ、大会公式リリースより)

ツール・ド・フランスでは、第2ステージでマイヨ・ジョーヌを手に入れたヴィンチェンツォ・ニーバリが、ただ1日を除いて、最終日までリーダージャージを守り続けた。バルベルデの場合は、状況はまるで違う。タイム差ゼロの総合2位に、チームメートのナイロ・キンタナが控えている。ボーナスタイムも存在する。なによりライバルの顔ぶれが、はるかに濃厚だ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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