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サイクル ロードレース コラム 2014年8月27日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第4ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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自転車界の長老アルフレド・マルティーニが、前日、93歳で天に召された。ファウスト・コッピとほぼ同時期にレースを転戦し、1950年ジロ・デ・イタリアではコブレ、バルタリに次ぐ総合3位に入った。1975年から1997年まではイタリア代表監督を務め、祖国に6つの世界タイトルをもたらした(2位6回、3位8回)。ブエルタのプロトンも、偉大なる先人に、静かに弔意を表した。

氷水をかぶりたくなるような暑さが、ブエルタを襲った。スタート直後に4選手が飛び出すと、あっさり逃げを開始した。第2ステージに続く2度目の挑戦となるハビエル・アラメンディアに、ヘルト・ユエアール、ジミー・アングルヴァン、セバスティアン・テュルゴーのはるか後方では、前日同様にオリカ・グリーンエッジがせっせとタイムコントロールに励んだ。2つの山越えを含むステージは「山に強いスプリンター、もしくはパンチャー向け」、つまりはマイヨ・ロホのマイケル・マシューズ向けと予想されていた。前半の平坦な道で、タイム差は最大5分までしか許さなかった。

ところがゴール前60km、突如として、総合本命たちの争いが勃発する。オリカ隊列を退けて、モヴィスターとティンコフ・サクソが猛然と引き始めたのだ。それまで2分あったタイム差は、ほんの2km先で、1分にまで縮まった。そこは、今ステージ最初の山場、3級峠の入り口だった。

エスケープの4人は山頂の先頭通過さえ果たせなかった。猛接近してきたメイン集団から、アメッツ・チュルーカが飛び出し、追い抜いていったせいだ。2012年ツール「ランテルヌ・ルージュ(=総合最下位)」アングルヴァンだけは、かろうじて粘った。2007年ツール「スーパー敢闘賞」のチュルーカと共に、1度目のフィニッシュラインを先頭で駆け抜けた。ただし、大逃げの挑戦はここまで。とてつもないバトルを繰り広げる強豪たちに、2人は非情にも飲み込まれていった。

3級峠からの下りでは、やはりモヴィスターやティンコフが、盛んに加速を繰り返した。一時はプロトンを切れ切れに引き裂いたほどだった。好戦的な走りを見せたのは、なにもこの2チームだけではない。2級峠への上りに突入すると、今度はスカイが6人がかりで隊列を組み上げ、得意の山岳列車を走らせたことも。

大物たちの睨み合いの隙を縫うように、ウィナー・アナコナがアタックを仕掛けた。アダム・イェーツとロメン・シカールが後を追った。メーン集団はあいかわらず、モヴィスターが引いていた。山頂を越ても、いまだアップダウンは続いていた。

そんな時だ。ゴール前25km、集団半ばから、大げさな助走でアレハンドロ・バルベルデが上がって行ったかと思うと……、そのまま前方へと飛び出した!第2ステージ終了後にまさかのマイヨ・ロホを獲得したかと思えば、第3ステージの落車後にあっさりジャージを手放した、そんなモヴィスターの総合リーダーの「片割れ」が、大胆な攻撃に打って出た。

「僕が前に出たことで、ライバルたちは少しナーバスになったはずだし、追走を仕掛けなければならなかったはずなんだ。いずれにせよ、逃げ切るのは難しいだろうと、分かっていた」(バルベルデ、チーム公式HPより)

バルベルデは先を行く3人と合流し、果敢にダウンヒルをこなした。一時は後方から30秒ほどのリードを奪った。過去8度のブエルタ参戦で優勝1回(2009年)、表彰台4回という大ベテランの逃げを、当然、ライバルたちは黙って見過せるわけもなかった。

目論見どおり、ティンコフ・サクソが追走作業に乗り出した。「総合狙いではない」と断言してブエルタにやってきたアルベルト・コンタドールのために。右頚骨の骨折からわずか43日しかたっていないけれど、「たとえ総合優勝は出来なくとも、だからといってタイムをわざと落として区間を狙いに行くような走り方など、僕には出来ない」(スタート前TVインタビューより)と強い信念を抱くチャンピオンのために……。

「アレハンドロのアタックには、特に驚かなかったんだ。きっと彼はアタックするに違いないって、実は予想していた。でも、たしかにちょっとクレイジーだったし、エネルギーも大いに費やしたよね」(コンタドール、個人リリースより)

ホアキン・ロドリゲス率いるカチューシャも黙って指をくわえてはいなかった。クリス・フルーム擁するスカイも仕事に加わった。大先輩が前方へ飛び出してくれたおかげで、モヴィスターの真の総合リーダーであるナイロ・キンタナは、静かに集団内でペダルを回しているだけでよかった。酷暑の中で、無駄に体力を使う必要もなかった。そしてゴール前9km、バルベルデは集団に回収された。総合リーダーたちのバトルも、ようやく収拾に向かった。

とたんにオリカ・グリーンエッジが主導権を取り戻し、マイヨ・ロホのマイケル・マシューズを前方へと押し戻した。ジョン・デゲンコルブを連れて、ジャイアント・シマノも隊列を組んだ。「山に強いスプリンター、もしくはパンチャー向け」ステージの終わりに相応しいフィニッシュへと、60人ほどの先頭集団は突き進んだ。前日はゴール前13kmでトライしたアダム・ハンセンが、この日はラスト1.8kmで加速してみたり、世界選手権タイムトライアル3連覇中のトニー・マルティンが「カンチェラーラ風」特攻を仕掛けようとしたり。ちょっぴりスパイスも効いていた。締めくくりは、スプリントだった。

「昨日のフィニッシュは、僕にはちょっと厳しすぎた。勝負に絡めなくて、ほんと、がっかりしたんだから」(デゲンコルブ、ゴール後インタビューより)

この日のデゲンコルブは、満面の笑みで、天に両手を突き上げた。2012年ブエルタで区間5勝を荒稼ぎしてから2年。「スペインの生活リズムが僕にはあってるんだ」なんていうドイツ人が、2014年大会もいよいよ勝利カウンターを回し始めた。ジャイアント・シマノにとっては、2011年に初めてブエルタに乗り込んできて以来、4年連続で区間勝利を上げたことになる(2011年マルセル・キッテル1勝、2012年デゲンコルブ5勝、2013年ワレン・バルギル2勝)。

「なによりまず、山の前から、チームが素晴らしい仕事をしてくれた。その後は僕を好ポジションに引き上げてくれて、アタックを潰しに行ってくれた。今回のゴールは、3年前、ブエルタ初出場時にも経験しているんだ。あの時は上りを上手くこなすことが出来なかった。でも今回は、何が待ち受けているか分かっていたし、……間違いなく3年前よりも実力は上がっているはずだからね」(デゲンコルブ、公式記者会見より)

赤ジャージのマシューズは、区間3位に滑り込んだ。「僕向きのコースだったから、今日も勝てたら嬉しかったんだけど」(チーム公式HPより)とは言うものの、ボーナスタイムを4秒手に入れて、総合首位の座をほんの少し堅固なものにした。そればかりか緑色のポイント賞ジャージも重ね着した。

総合系選手たちは、マシューズからそれぞれ仲良く4秒失ったけれど、直接的ライバルとの差に変化はなかった。ただユルゲン・ヴァンデンブロックだけは、8分以上もタイムを落とした。2014年ツール総合3位ティボー・ピノ、2014年パリ〜ニース総合覇者カルロスアルベルト・べタンクールに続いて、ツール総合4位経験者が早くも総合争いから脱落してしまった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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