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大まかに見れば、移動ステージだった。序盤に逃げ集団が出来上がり、アレッサンドロ・デマルキが独走勝利をもぎ取った。総合上位選手は揃って集団ゴールを果たし、順位の変動はなかった。ただし、細部を見れば、あちこちでドラマがあった。その大部分が「落車」であり、小さなタイム収集もあり……。
開幕からちょうど1週間。ついに、逃げ切りに最適な1日が、やってきた。コース設定はちょっとだけ、スプリンターにとって難しかった。前夜に熾烈なバトルを繰り広げた総合ライダーは、少しほっとする時間が欲しかった。だから、スタート直後から、多くの選手が逃げを試みた。30kmほど走って、3級峠へ差し掛かった頃、ようやく4選手がエスケープの権利をもぎ取った。ライダー・ヘシェダル、ヨハン・チョップ、ユベール・デュポン、アレッサンドロ・デマルキは、そのまま最大8分のリードをつけて、順調に先を急いだ。
大きなタイム差の理由は、山に入る前に、プロトンで落車が発生したせいでもあった。特に、巻き込まれたのがクリス・フルームだったのだから、なおさらだ。2013年ツール総合覇者は、一時は1分半ほども集団から離された。スカイボーイズの懸命な働きで、山道の途中で、無事に集団へ追いついた。
「フルームが落車だと聞かされた。だから、逃げを追ってはいたけれど、100%の力では走らなかった。フルームを突き放そうとは考えなかった」(アレハンドロ・バルベルデ、チーム公式HPより)
「前でスピードを上げようとする選手なんかいなかった。集団に再合流してくれるよう願っていたんだ。だって静かな1日を過ごしたかったから」(アルベルト・コンタドール、個人公式リリースより)
ちなみにコンタドールは、「フルームはメカトラブルにあった」と信じていたようだ。実際はもちろん、ドーフィネ1回、ツール3回、ブエルタ開幕2日前に1回に次ぐ、3ヶ月で6回目の落車だった。レーシングパンツの右側上部の、小さな破れ目からは、痛々しい擦り傷が顔を出していた。
「体は問題ない。たしかに、またしても不運に襲われてしまった、というような気分にはなったさ。でも、なにより大切なのは、僕の調子が良いこと。たいした怪我もなく、切り抜けられたこと。こうして、また1日を終えることが出来て、良かったよ」(フルーム、チーム公式HPより)
前日マイヨ・ロホを取り戻したモヴィスターは、フルームが集団復帰してからも、ただ淡々と隊列を走らせた。おかげで4選手のリードは、ゴールまで50kmに近づいても、いまだ6分も残っていた。トレックファクトリーレーシングとランプレ・メリダが慌てて追走を試みたが、すでに遅すぎた。ゴール前20kmで、タイム差は4分。逃げ切り勝利は、ほぼ確定事項となった。
2012年ジロ・デ・イタリア総合覇者ヘシェダルと、2014年ツール・ド・フランスのスーパー敢闘賞デマルキ。2人の大きなエンジン役が滑り込んでいたのもまた、エスケープの運命を大きく決定付けた。特に2日連続でタイムを失い、総合では7分49秒遅れとなったヘシェダルは、逃げ切り勝利だけでなく、少しでもタイムを取り戻したいと願っていた。だから先頭牽引を積極的に引き受けていた。
「エスケープが上手くいったのは、ひとえに僕とヘシェダルのおかげだ。僕ら2人は、チョップやデュポンよりも、たくさん働いた。僕ら2人のどちらかが勝つだろう、って確信してたほどだよ」(デマルキ、大会公式リリースより)
しかし、「ヘシェダルは、残念だったね」と、デマルキに言わせる事態が起こる。ゴール前14kmだった。左へと緩やかにカーブする下り坂で、青いジャージは地面に滑り落ちた。しかも、すぐに立ち上がりながら横倒しになった自転車に手を伸ばした、その瞬間、TVカメラマンを乗せたオートバイが自転車の上を横切って……。
「どうして転んでしまったのか分からない。エスケープに乗って、曲がりくねった道や街中を、1日中やりこなしてきた。前を走るデマルキとは十分な距離があった。走行スピードも同じだった。ストレスもなかった。一致団結して、ずっと一緒に走ってきた……。デマルキの後ろを走っていただけなのに、突然、僕のタイヤが滑った。どの程度の速度で走っていたのか分からないけれど、そのまま頭から落ちて……。がっかりしてる。力を尽くしてきたし、勝てるチャンスがあった。フラストレーションでいっぱいだよ」(ヘシェダル、大会公式リリースより)
急に2人きりになったデマルキとデュポンは、後ろを何度も振り返った。しかし、逃げの仲間が戻ってこないことを知ると、再び前を向いて走り始めた。ちょうどそこは、フィニッシュまで緩やかに続く、長い上り坂の始まりでもあった。そして、2013年クリテリウム・デュ・ドーフィネでリズール山頂を制したデマルキが、2010年ジロ・デ・イタリアでトナーレ山頂を勝ち取ったチョップを置き去りにして、独走を始めた。
6月のドーフィネでは3度逃げたが、山岳ジャージで満足するしかなかった。7月のツールでは、難関山岳ステージを中心に5度のロングエスケープを打ったが、敢闘賞以上の名誉はつかめなかった。とうとう、苦労が真に報われる日が、やって来た。
「どれほどアタックをかけたのか、思い出せないくらいだよ!もしかしたら、ここまでは、勝つための何かが僕にかけていたのかもしれない。でもきっと、初めてのブエルタ出場でついに区間勝利をあげる、というのが僕の運命だったのさ。満足してる。今日は全てがパーフェクトに進んだ」(デマルキ、大会公式リリースより)
初めてのグランツール勝利であり、プロ4年目にして2つ目の勝利だった。所属チームのキャノンデールにとっては、シーズン初めてのグランツール区間勝利だった。……2005年にロベルト・アマディオが立ち上げたこのイタリアのチームは、残念ながら、今シーズン限りで解散する。スポンサーのキャノンデールは、ヘシェダルのいるガーミンへと移り、デマルキは来季からはBMCで走る。
「BMCと契約したおかげで、落ち着いた気持ちで走ることができている。チームが変わっても、僕の仕事は変わらないだろう。リーダーのために働き、チームのために働く。そのために、僕はお給料をもらってるんだから」(デマルキ、大会公式リリースより)
背後では、再び立ち上がったヘシェダルが、チョップとデュポンを引き連れて猛烈に走り続けた。デマルキを捕らえることは不可能でも、少しでもメインプロトンからタイム差を稼いでおきたかった。区間勝者から1分34秒遅れでフィニッシュラインにたどり着いたカナダ人は、しかし、単に総合タイムを46秒縮めただけだった(総合7分13秒遅れ)。
メインプロトンは、モヴィスターの隊列に引かれて、静かに突き進んだ。ただゴールラインのほんの数百メートル手前で、ダニエル・マーティンがはじけるように飛び出すと、状況は一変した。フィリップ・ジルベールが後を追い、落車したフルームも加速し……!ほかの選手たちも慌てて駆け上がったが、小さな分断が出来た。2日前は中間ポイントのボーナスタイムで2秒を掠め取った英国人が、分断のおかげで新たに2秒を貯金した。つまりバルベルデには総合20秒差に、ナイロ・キンタナには5秒差に、コンタドールには2秒差に詰め寄った。総合順位には一切変動はなかった。
また、パニックの渦の中で、総合9位のワレン・バルギルが落車。激しく頭から落ちた後、歩いてフィニッシュラインを越えた。上りゴールではあったものの、「山頂」ゴールではなかったため、「ラスト3kmのタイム救済ルール」が適応された。
最初から最後まで、落車の多い1日だった。緑ジャージのジョン・デゲンコルブも、傷ついた体でステージを越えた。朝には完全体198人だったプロトンも、夕暮れ時には少し小さくなっていた。大会1週間目のこの日、3選手が戦線を離れた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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