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総合順位表に小さな書き換えが行われた。逃げ切り優勝を決めたウィナー・アナコナが総合4位にジャンプアップし、ついにアタックに転じたアルベルト・コンタドールが、宿敵クリス・フルームから23秒を奪い取った。風の平坦路では上手く立ち回れなかったナイロ・キンタナも、雨の山岳で本領発揮し、マイヨ・ロホへと上り詰めた。
「最初から、総合タイムを縮める目的で、飛び出したんだ」(アナコナ、ゴール後インタビューより)
前回覇者クリス・ホーナーの山岳アシストとして、アナコナはブエルタに乗り込んだ。ところが、開幕前夜に、守るべき人がいなくなってしまって……。自由に動ける権利が、思いがけず手に入った。第4ステージでは、終盤でアタックを仕掛けた。この日は総合2分50秒遅れを取り戻すために、朝からエスケープに乗るつもりだった。
逃げたい選手は、ほかにも大量にいた。スタート直後から10人単位でアタックが相次いだ。高速な飛び出し合戦は30kmほど続き、ようやく、大きな塊がプロトンから切り離された。
大量31人の大型エスケープには、全22チーム中19チームが選手を送り込んだ。第3ステージ終了時から山岳ジャージを守り続けるリュイス・マスや、第7ステージに落車で逃げ切り勝利を逃したライダー・ヘシェダルの姿もあった。なにより総合リーダーを擁するモヴィスターからはハビエル・モレーノが滑り込んでいたし、スカイはダリオ・カタルドを、カチューシャはエドゥアルト・ヴォルガノフを、それぞれ前方に有していた。一方で乗り遅れたのはキャノンデール、エフデジ ポワン エフエール、そしてティンコフ・サクソ。コンタドールには、つまり、前方にアシストは1人もいなかった。
今大会初めての雨の中を、巨大な先頭集団は突き進んでいく。後方ではモヴィスターが、控えめにリズムを刻んでいた。最大10分ものリードを許され、アナコナは長らく「暫定マイヨ・ロホ」の座を守り続けた。ゴール前25kmでも、いまだタイム差は6分以上。ここからコロンビア産のヒルクライマーが、違いを見せた。2級峠への上り坂を利用して、まずは1度目の加速を仕掛けた。じりじりとライバルたちに回収されると、再度アタックを試みた。初のグランツールを戦うボブ・ユンゲルスと、モヴィスターの偵察役モレーノだけが付いてきた。さらに最終1級峠の登坂口に入ると、邪魔な2人もあっさりと追い払った。フィニッシュラインまで6km、アナコナは単独先頭に立った。
「Winner=ウィナー」という名前にちなんで、右腕に「勝者」というタトゥーを入れている26歳は、雨の山頂で本物の勝者となった。勾配の厳しい山道でもリズムを落とすことなく、2012年に始めたプロ人生で、初めての勝利を手に入れた。
「名前についてはよく聞かれる。父親は警察官で、ついでに自転車レースの熱狂的なファンなんだ。80年代の父のアイドルはペーター・ウィネン(Peter Winnen)とアンドルー・ハンプステン(Andrew Hampsten)。だから、僕の出生届を出す時に、この2つを合わせた名前をつけようと思ったんだね。でも綴りを間違えちゃった。そういうわけで僕の名はWinner Andrewになった。父親は英語を一言も話せないから、だから、僕に『勝者』と名付けたことさえ知らなかったんだよ」(アナコナ、大会公式リリースより)
少々残念だったのは、戦いが全て終わった時、アナコナのタイムは総合首位からわずか9秒足りなかったこと。それでも、2分50秒遅れの総合21位から、総合4位へと一気に順位を上げた。プロ初年度のブエルタでは、初めてのグランツールで総合19位に食い込む奮闘を見せた。その12月、トレーニング中に大落車し、踝を骨折。2013年8月までレースから遠ざかっていたが……。今年はツアー・オブ・ユタで、リーダーのホーナーに次ぐ総合3位に食い込む大躍進。当然ブエルタにも、野心を抱いて乗り込んできた。
「ホーナーの不在が、今日の僕には有利に働いた。おかげで自分の戦いができたんだから」「開幕時から、総合10位以内を狙っていた。でも第3ステージに、ちょっとしたミスで30秒失った。でも、今日、この遅れを取り戻せた。再び目標も追い求めることができる。今後はこの目標達成に向けて全力を尽くしたい」(アナコナ、大会公式リリースより)
はるか後方で抑え気味に走っていたメインプロトンの、速度を一気に引き上げたのはスカイだった。ゴール前25km、突如として、6人がメイン集団前方で隊列を組み上げた。
フルームを守るスカイボーイズは、ハイペースで山を上り続けた。たとえば今ジロ2位リゴベルト・ウランがトニー・マルティンを使ってアタックを仕掛け、前方集団から落ちてきたボーネンと加速を繰り返すと、アシストがすぐに穴を埋めた。たとえばティンコフ・サクソのアシスト勢を、コンタドールから引き剥がし、後方へと突き落とした。しかも、エスケープに乗っていたカタルドが、最終峠の入り口で待っていた。山岳巧者が加わったことによって、メイン集団に、よりいっそう厳しいテンポを強いた。
ただし、黒い山岳戦車は、フルームを発射するために走っていたわけではなかったようだ。リーダー本人に言わせると「タイムトライアルを控えて、現在位置をキープするため」(大会公式リリース)だった。本当のところは、高速で走ることによって、他選手にアタックの余地を与えないためだったのかもしれない。もしかしたら、前日落車したフルームが、絶好調ではないのかも……。
誰もが心の奥底に抱いていたこんな疑念が、確信に変わる時がやってきた。ダニエル・マーティンが軽く飛び出しを仕掛け、続いてカチューシャ3人組がスピードアップを試みる。するとフルームは後方に流され、集団のしっぽに必死にしがみついているではないか。だから、ゴールまで2kmを示すアーチの手前で、コンタドールは飛び出した!
「フルームが少し後方にいるのに気が付いた。だから、突き放せるかどうかトライしてみるべきだ、って思ったのさ」(コンタドール、大会公式リリースより)
グランツール5勝のチャンピオンのアタックに、誰もすぐには反応できなかった。しかし、キンタナが動き、ロドリゲスも後を追った。プリトにとって幸いだったのは、逃げ集団のヴォルガノフが、いまだ前に残っていたこと。最後の力を振り絞って、リーダーを引っ張り上げてくれたこと。おかげでフィニッシュラインぎりぎりで、ロドリゲスとキンタナはコンタドールに追いついた。3人仲良く、フルームから23秒を奪い取った。正確に言えば、キンタナとコンタドールは、フルームをさらに23秒突き放した。一方で前夜までフルームより25秒遅れだったロドリゲスは、つまり、2秒差に迫ることに成功したというわけ。
3人はバルベルデからも、23秒をさらい取った。チームメートのキンタナにとっては、マイヨ・ロホ姿の先輩がおとなしく後方に留まってくれたのは、非常に幸いだった。
「ナイロが前方に飛び出した後、僕はフルームの後輪に張り付いた。だってフルームを連れて、キンタナのところまで上がって行くわけにはいかないからね。だから、僕は、ただ背中に張り付いたていた」(バルベルデ、チーム公式HPより)
おかげで、24歳の若者は、思いがけず赤いジャージを譲り受けることになった。2014年ジロでは、第16ステージ、雪のステルヴィオ峠からの「賛否両論」アタックで、マリア・ローザを身にまとった。2014年ブエルタでは、早いタイミングで、マイヨ・ロホが転がり込んできた。
「今日はリーダー交代を予定していなかったんだ。僕は調子がよくて、ただコンタドールのアタックに反応したら、マイヨ・ロホが付いてきた。まだ大会は2週間残っている。最終日までジャージを守りたいけれど、まだこれから先は長い。タイムトライアルでは、フルームが本命だよ。でも総合争いに関しては、僕のナンバーワンライバルは、コンタドールだ」(キンタナ、大会公式リリースより)
そのコンタドールは、わずか3秒差で総合2位につける。ツール第10ステージの落車直後から、必死にリハビリを続けてきた大チャンピオンは、「いまだ全速力のリズムを維持できるだけの調子には至っていない」(個人リリースより)と振り返る。また、総合優勝への野望も、いまだ、はっきりとはむき出しにはしていない。
「脚の調子がどうであれ、この先もトライしなきゃならない。だけど僕は、ブエルタの総合争いに向けて、調整を積んできたわけじゃないんだ。一方で、このレースを勝つために、細部までしっかり準備してきた選手たちがいる。それに、もしかしたら、今日は、そういった選手たちは調子がよくなかったのかもしれないしね。とにかく、ブエルタは、まだ始まったばかりなんだ」(コンタドール、個人リリースより)
ブエルタは、まだ始まったばかりである上に、いまだ総合争いは混沌としている。総合3位には8秒差のバルベルデ、4位に9秒差のアナコナがつける。ラスト2kmで23秒失ったフルームは、総合では28秒差で5位に居座る。総合6位・30秒差のロドリゲスから以下は、たしかにキンタナからすでに1分以上離されている。しかし、翌日の休養日を終えると、第10ステージは個人タイムトライアル。36.7kmの独走競技は、山でタイムを失った一部の者たちにとって、希望を復活させるチャンスになる。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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