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山岳バトルの間に挟み込まれた、スプリントステージ。大部分の選手たちは、ちょっとした休養日代わりに、ゆっくりと漕ぎ出すことを選んだ。マティアス・クリチェクが、たった1人で、スタート直後の3km地点から逃げ始めた。逃げ切り不可能なステージにあえて飛び出した勇者を、温かく見送りつつ、のんびりとペダルを回した。タイム差は最大9分まで開いた。
「今日は絶対に逃げようと決めていたけれど、まさか1人とはね!アタックをかけた後、誰かが追いかけてくるのを待った。でも誰も上がっては来なかった。ある時などは、道端に止まって、用を足した。追走を仕掛ける一団が見えてくるといいなぁ、と思いながらね。でも、何もなし。だから、先を続けた。ただひたすら、自分のリズムで。この先のステージのことを考えながら、全力は尽くさなかった。幻想も持たなかった」(クリチェク、大会公式リリースより)
全8周回で争われるサーキットコースの、その8周目に突入するまで、たった1人で先頭を走り続けた。そしてゴール前12kmで、静かに吸収されていった。結局のところ、8周目までは、何も起こらなかったのだ。極めてフラットな道で、プロトンは、夏の終わりのクリテリウム気分をゆったりと楽しんだだけだった。
ただ、途中2つの中間スプリントで、ナセル・ブアニだけは少々奮闘した。というのも、フレンチクライマーは、前ステージ終了時点で13ポイント差のポイント賞2位につけていた。しかも、この第12ステージこそが、今後の動向を決定付けるだろうと常々予言していた。ジャージ争いを続けるか、否か。完走を目指すか、否か……。しかもブエルタ閉幕から2週間後の世界選手権に向けて、ブアニは、フランス代表「プレ」メンバーに選ばれた。すなわち、今後の体調管理は極めて重要になる。
結局のところ、いずれもクリチェクに次ぐ2位通過を果たし、ブアニは2pt×2=4ポイントを懐に入れた。緑ジャージ首位ジョン・デゲンコルブに、この時点では9ポイント差に迫った。
最終周に入ると、総合上位選手を抱えるチームが、落車の危険を避けるためこぞって集団前方へと競りあがった。特にマイヨ・ロホのアルベルト・コンタドールは、ティンコフ・サクソのアシスト勢に命じて、強固な隊列を組みあげた。ゴール前12kmでクリチェクを飲み込み、「タイム救済ゾーン」のラスト3km圏内に突入し、ゴール前1.15km地点で今ステージ最後の90度カーブを曲がり終えるまで、しっかりと黄色いジャージがプロトンを牽引した。
つまり、ラスト1kmのアーチの下をくぐった直後に、ようやくスプリンターチームは主権を取り戻した。ロベルト・フェラーリとマキシミリアーノアリエル・リケーゼを擁するランプレ・メリダが、先頭ポジションをさらい取ると同時に、大人数が集団前方へと雪崩れ込んだ。そして、誰もが恐れていたことが、現実のものとなった。アンドレア・グアルディーニとマッテオ・ペルッキが絡み合い、それが集団落車を引き起こした。
難を逃れられたのは、先頭から約15人だけ。緑ジャージ姿のデゲンコルブは、アシストのラモン・シンケルダムに引かれて、立ち止まることなくフィニッシュラインまで突進した。最大のライバルと目されていたナセル・ブアニは、発射台ジョフレ・スープと共に地面に転がり落ちた。
「落車は見なかった。僕の背後で起こったことだから。何が起こったのかはわからないし、後ろを振り返る暇もなかった。振り返っていたら、それこそ転んでいたかもしれないからね。僕はひたすら、チームメートの動きだけに集中し続けた。他の選手には目をくれず、自分のスプリントだけに集中した」(デゲンコルブ、大会公式リリースより)
スプリントに絡めなかったブアニの代わりに、2007年ツールマイヨ・ヴェールのトム・ボーネンと、現在3年連続マイヨ・ヴェール獲得中のペーター・サガンがデゲンコルブに襲い掛かった。しかし、ドイツ人に抵抗することは、まるで不可能だった。デゲンコルブは今大会3勝目をほぼさらりと奪い取った。2012年第5ステージと同じ周回コースで、2年前同様に両手を天に突き上げて!ちなみに、2014年サッカーワールドカップを圧勝したドイツは(前夜は親善試合でアルゼンチンに負けてしまったけれど)、2014年グランツール区間13勝目を計上した。これはイタリアと並ぶ首位タイの記録である(ドイツはジロ2勝・ツール7勝・ブエルタ4勝、イタリアはジロ6勝・ツール5勝、ブエルタ2勝)。
「次のスプリント機会である水曜日までに、脚の調子がさらに良くなっているよう願うよ。僕はこの大会で、どうしても勝ちたいん。だってブエルタは大きなレースだし、世界選手権に向けて最適な準備となる。世界選手権でなにかとてつもないことを成し遂げたいなら、脚の調子をもっと上げていかなきゃならない」(デゲンコルブ、大会公式リリースより)
……ちなみに、2011年ブエルタ以来、実に3年ぶりにグランツールを戦っているトム・ボーネンは、2009年ブエルタ第5ステージ以来となる区間2位に食い込んだ!!石畳クラシックに集中するために、そもそも集団スプリント自体を敬遠している33歳だが、脚は好調の様子。2005年にスペイン・マドリードで世界チャンピオンに上り詰め、この先のスペイン・ポンフェラーダでの虹色争奪戦に向けて、いまだにスプリント力が衰えていないことを証明してみせた。
「今大会、初めてスプリントしてみたよ。またこうして、スプリントに混ざってみるというのは、良いもんだね。でも、正直に言えば、ハッピーではないね。だって、勝ちたかったから」(ボーネン、チーム公式リリースより)
ブアニは全190人中182位でゴール。ポイントは再び、首位デゲンコルブから34ポイント差に引き離された。ピュアスプリンターが狙えるステージは、残すは1回のみ。逆転緑ジャージへの道は、少々厳しくなってきた。
総合争いの選手たちは、みな落車による分断にははまったものの、何ひとつ失わずに1日を終えた。つまり、どこも体を痛めることもなかったし、タイムも落とすことはなかった(ゴール前3km以内で落車やメカトラブルなどのアクシデントが発生した場合、アクシデント時に所属していたグループと同じゴールタイムが与えられる)。アルベルト・コンタドールがマイヨ・ロホを静かに守り、それを20秒差でアレハンドロ・バルベルデ、1分08秒差でリゴベルト・ウラン、1分20秒差でクリス・フルーム、1分35秒差でホアキン・ロドリゲスが追いかける。
「この先の4日間は、ひどくハードで、とても重要なステージが待ち受けている。明日も鍵となるステージが待っている。集中して、警戒して、臨まなければならない。最終盤は特に。明日は忙しい1日になると思うよ。最後まで、用心深く走らなければならないだろうね」(コンタドール、チーム公式リリースより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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