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サイクル ロードレース コラム 2014年9月6日

ブエルタ・ア・エスパーニャ2014 第13ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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広大な動物園の激坂を、ヒルクライマーもパンチャーも、スプリンターさえも、夢中でよじ登った。異種格闘技のようなバトルの果てに、ヒルクライマーのダニエル・ナバーロが、歓喜の時を迎えた。野生の動物たちは、自転車に乗った人間たちのせわしない戦いを横目に、いつも通りのゆったりとした午後を過ごした。

1ダース以上の選手が飛び出しを試みた。あっさり逃げが容認されたわけでもなかった。タイム差が1分にまで開いた直後、逃げに乗り遅れたユーロップカーが、改めて合流を試みたからだ。時速50km超えの追走劇は延々と続いた。40kmほど走った後に、ようやく、フランスの緑チームは作業を放棄した。

それでも、決して、静かな時間が戻ってきたわけではない。11人の逃げ集団に対して、メイン集団はわずか3分半ほどのリードしか与えなかった。ゴール地形は「上れるスプリンター向き」との前評判を信じて、高速のまま、プロトンはタイム差制御を続けた。特に第3ステージで、上りスプリントを制したマイケル・マシューズのために、オリカ・グリーンエッジが積極的に牽引役を引き受けた。

「第3ステージとおそらく同じような展開になるだろうと予想していた。もちろんリスクもあった。ただマイケルが第3ステージで勝利したことを受けて、可能性はある、と判断したんだ。フィニッシュへと続く上りの、勾配がずっときついことも把握していた」(監督ニール・ステフェンス、チーム公式HPより)

3つある峠の3番目、2級カラコル峠の上りで、エスケープは5人に絞り込まれた。アレクセイ・ルツェンコが加速を仕掛け、ルイスレオン・サンチェス、ダミアン・ゴーダン、ダミアーノ・クネゴ、ダニーロ・ウィスが反応した。山頂でのタイム差は約2分。37km先のフィニッシュへ向かって、5人は全力で下り始めた。一方のメイン集団は、ダウンヒルは、控え目に。オリカ隊列に代わって、指揮権を取ったティンコフ・サクソが、集団に「蓋」をしたせいだった。事故やライバルの飛び出しを避けるためというよりは、エスケープを吸収してしまわぬため。……集団がひとつになったあと、総合ライバルたちにまたしてもボーナスタイムをさらい取られてしまわぬように!

「ボーナスタイムが、総合戦いを大きく左右しないで欲しいものだ。だって、僕にとっては、決して有利なものではないから」(コンタドール、公式記者会見より)

おかげで一旦1分40秒まで縮んだタイム差は、ゴール前23kmで、再び2分16秒に広がった。ここで、我慢できなくなったのが、エフデジ ポワン エフエールだ。2014年ツール総合3位ティボー・ピノが2日前にリタイアし、この日には2013年アングリル区間覇者ケニー・エリッソンドが自転車を降り、フランスチームの頼れるリーダーはもはやブアニだけ。しかも前日ゴール直前に落車し、勝負にさえ絡めなかったスプリンター自身が、リベンジに燃えていた。4人の青ジャージは、威勢よく追走に乗り出した。

距離はあっという間に縮まった。ついにタイム差が45秒差になると、前方からルツェンコが最後の独走に打って出た。しかし、FDJが火をつけてしまったプロトンに、もはやこれ以上太刀打ちすることなど不可能だった。ラスト7.3km、ルチェンコの奮闘は終わりを告げた。

FDJ、オリカ、ロット・ベリソルはスプリンターのために。ガーミン・シャープ、カチューシャ、モヴィスターは、アルデンヌクラシックを制した脚を持つリーダーのために。キャノンデールやベリソル、スカイはヒルクライマーのために。ティンコフ・サクソは、マイヨ・ロホのコンタドールを守るために。様々な隊列が、様々な思惑のもとに組み上げられた。ゴール前3km、野生動物の園へと続く坂道へと、集団は高速で飛び込んだ。

並み居るワールドツアーチームを押しのけて、真っ先に飛び出したのが、コフィディスだった。ゴール前40kmですでに1度、ルイス・マテマルドネスが仕掛けていた。今回はクリストフ・ルメヴェルが、おとり役を務めた。穴を埋めるために、ライバルチームたちは、2度とも大いに脚を使わざるを得なかった。そして、ラスト2km、ついに仏プロコンチネンタルチームのリーダー本人が飛び出した。ダニエル・ナバーロだ!

スペイン産ヒルクライマーは、予想以上にひどい勾配の坂道を、1人で上り続けた。後方ではビッグネームが次々と追走を仕掛けてきた。ホアキン・ロドリゲス、アレハンドロ・バルベルデ、ダニエル・マーティン、クリス・フルーム……。しかし、元「強豪リーダーの山岳アシスト」を、誰一人としてとらえることは出来なかった。

「うん、僕はこれまで、強豪リーダーのためにたくさん働いてきたよね。エラス、ヴィノクロフ、クレーデン、ベロキ、コンタドール……」(ナバーロ、大会公式記者会見より)

ちなみに、過去7年間一緒のチームで走ってきたコンタドールは、元リーダーであり、友達でもある。2日前のステージでは、ゴール前4kmで単独アタックを仕掛けたナバーロを、そのコンタドールが吸収に向かう一幕も見られたが……。

「たしかに、アルベルトが追いかけてきたのには、ひどくがっかりした。でも、それについては、直接話をしたんだ。僕はステージ優勝が欲しかったし、彼はクリス・フルームを引き離したかった。僕らは別々のチームに所属していて、別の目標を抱えている。だから当然の話なんだよね。がっかりはしたけど、納得はしてる」(ナバーロ、大会公式記者会見より)

「ダニは素晴らしい選手だよ。昨日、彼に聞かれた。『どうしてあの日、上りで動き、捕まえたのか』って。もちろん、僕は総合ライバルたちを試したかったからなんだ、でも今日は状況が、まるで違った」(コンタドール、チーム公式リリースより)

この日の赤ジャージは友を追わなかった。むしろバルベルデの背中に張り付いて、状況を冷静に対処するだけだった。しかも、コンタドールにとって幸いだったのは、総合12位のナバーロを総合15位ダニエル・モレノが追いかけ、さらに総合14位ウィルコ・ケルデルマンが追いかけたこと。総合トップ10入りを目指す面々が争ってくれたおかげで、総合優勝を志す男たちは、誰一人として区間トップ3に滑り込めなかったこと。みんな仲良く、ナバーロから5秒遅れの集団で、1日を終えた。

「彼があれほどパワフルなアタックを、タイミング良く決められたことを、すごく嬉しく思うよ。ブエルタの区間優勝というのは、本当に大きなものだからね。それに、僕らにとっては、パーフェクトだった。ライバルたちにボーナスタイムを取られないよう、ずっと状況をコントロールしてきたからね」(コンタドール、チーム公式リリースより)

昨シーズンからコフィディスでリーダーとして新たな人生を歩み始めたナバーロは、31歳にして、生まれて初めてのグランツール勝利を手に入れた。ブエルタの大会スポンサーでもあるコフィディスにとっては、2011年ダヴィド・モンクティエ以来となる区間勝利だった。

「大きな勝利だよ。だって非常にレベルの高いレースで勝ち取った勝利だから。もしかしたら、史上かつてないほどハイレベルなブエルタで、手に入れた勝利だから!大いに満足しているし、誇らしくもある。この先の目標は、総合トップ10圏内でサンティアゴ・デ・コンポステーラにたどり着くこと」(ナバーロ、大会公式記者会見より)

ナバーロの総合順位は前日と変わらず12位のままだが、タイムに関しては、総合10位との差を35秒→20秒へと一気に縮めた。また総合トップ10圏内では、8位ウィナー・アナコナが15秒タイムを失った以外、タイムにも順位にも変動はなかった。

さて、気になる「上れるスプリンター」たちの結末は?マシューズは息も絶え絶えに、34秒遅れでフィニッシュラインへとたどり着いた。前日の勝者ジョン・デゲンコルブは、最初から勝負には加わらなかった。「僕にはちょっときつすぎた。ホント、もっとスプリントの機会が欲しいよ……」(大会公式リリース)と嘆くイェンス・デブシェールは、20秒遅れだった。

そして、ブアニは……、区間5位という驚異的な成績をたたき出した!つまりバルベルデの1つ後ろで、コンタドールやフルームよりも前でフィニッシュラインを越えたことになる。前日、落車のせいで取れなかった緑ジャージ用ポイントも、12pt手に入れた。

「アシストが1人もいなくなったから、とにかく、周りの選手に張り付いていくしかなかった。最後にもう一押しするための、あと1人が足りなかった。もちろん、チームのみんなは追走のために大いに働いてくれたから、最後まで残れなかったのは当然なんだ。たいした問題じゃないさ。また別の日に勝てばいいだけ。とにかく、これほど厳しい上りだとは、予測していなかった。15%の上りだろう?本当にきつかった。いやいや、でも、これはほんの短い上りだからね。僕はあくまでもスプリンター。職種を変える気はないさ」(ブアニ、ゴール後インタビューより)

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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